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2011.07.04

高・超高磁場MRI vs 中・低磁場MRI

120344096634616414293世界的に見て日本のMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置の国内保有台数は抜きん出ている。少し前のデータであるが、CTとMRIを合わせた人口比保有台数は、人口100万人あたり日本が「96.1台」で、米国の「34.3台」やドイツの「16.3台」を大きく上回っている。

これは日本の医療が「国民皆保険制度」で、MRI検査を受けた場合も自己負担額が低く抑えられていて、検査を受けやすいという点と、脳神経外科医や神経放射線科医の人口に対する数も世界的にトップクラスで、MRIを有効に利用できる環境が整っていることもあるだろう。

高額医療機器の普及が医療費の抑制に反しているという論調もある。一理あるところもあるが、ではあなたの愛する家族が何か病気が疑われたら、すぐにMRIなどで詳しく調べてもらいたいと思いませんか。
米国などは、MRI検査はなかなか敷居が高く、患者が「心配だからMRIで調べてもらいたい」などといって病院を受診することはまずありません。

日本の脳ドックのように、心配だから全額自己負担で何万円かかってもいいから調べてほしいというシステムは米国にないようです。保険料を支払ってかけている医療保険から支払われるため、MRI検査が必要という証明がなければ保険会社はMRIを許可しません。

1992~94年に米国留学中に、ピッツバーグ大学で有名な教授による聴神経腫瘍の手術を見ましたが、その患者の術前検査を見てびっくり。3ヶ月くらい前に別の施設で行われたMRIだけしか資料袋に入っていませんでした。レジデントに聞いて二度びっくり。米国では、良性腫瘍にMRIを頻回に撮ることは保険会社が許可しないので、3ヶ月前のMRIだけで手術に臨むのは普通だというのです。

「日本なら術直前に検査をする。神経と腫瘍の関係などをみるためにもっと詳しい検査も追加する。数ヶ月の間に急に大きくなっていたり、変化していたらどうするんだ。なぜ直前に検査しないんだ?」と聞いたら、
「頭を開けて見てみればわかるのだから不要だ」
という答えでした。

要するに、MRI検査料が高い、検査依頼が多くて機械の台数が日本より少ないので検査を制限しないと医療が滞る、ということのようでした。

MRIの保有台数が多すぎるんじゃないか、と疑う人もいる日本ではどうかというと、地元の総合病院で脳外科を受診した患者さんがMRI検査を希望すると、緊急性のない予約患者は3週間後だといわれた、とか、整形外科で椎間板ヘルニアを疑った患者さんがMRIは1ヶ月後といわれて不安になったというのが現状です。

必要とする検査の頻度から考えると、むしろまだ「足りない」、けっして「保有台数が多すぎる」ことなどないというのが実情なのです。

現在の日本の医療制度では診療報酬(要するに医療による収入)は点数制度です。
MRIの場合は、「1.5テスラ以上の危機による場合1,330点」、「それ以外の場合1,000点」となっています。

拙クリニックのMRIは日本のメーカーH社製の永久磁石式オープンMRIでその静磁場強度は、永久磁石型機種中最大の0.4テスラです。つまり上記の点数制では「それ以外(1.5テスラ未満)」の機械ですので、一回の検査で得られる収入は1,000点。

患者さんの立場からいうと、1割負担の高齢者などが窓口で支払う金額はたったの「1000円」です。3割負担の現役世代でも「3000円」でMRIが受けられるのです。
米国やドイツではこんな低料金は考えられません。こんな収入では病院の経営が成り立ちません。
なにせMRI装置は、安いものでも1億円以上、高いものでは5億円ぐらいするのですから、元を取るだけではなく8〜10年後に新機種に買い替えるための資金や、人件費、ランニングコスト、メインテナンス料などを考えたら、とてもこの「診療報酬」ではやっていけないというところです。

実際は、これに加えて、月一回に限り「コンピュータ断層診断料」という名目で450点が加算されますし、新患なら初診料その他を加えることになります。

〜〜〜〜〜〜〜
さて、前置きが大変長くなりすぎましたが、タイトルの話に戻ります。
現在全国に普及しているMRIのうち、1.5T以上の機種を「高磁場装置」と呼び、最近普及し始めてきた3.0Tや4.0Tなどの装置を「超高磁場装置」と呼びます。日本海総合病院にも新病棟&救命救急センター&ヘリポート増築に伴い、3.0Tの超高磁場装置が導入されました。

噂では、納入実勢価格でも3億円(定価?は5億?)を超えているとのこと。
もう一台、私が勤務していたH16年に開院後10年ぶりに新機種に買い替えた1.5Tの「高磁場」MRIがあります。現在の保険診療制度では、3.0Tでも1.5TでもどちらもMRI検査料は1,330点(=病院の収入は1検査あたり13,300円ということ)です。

買い替える前の1.0T(だったと記憶している)の初代のMRIはその画質もちょっとひどいものでした。当時としてはもちろん最新鋭だった訳ですが、H5〜6年当時、つまり今から15,6年前の機種の性能や画質がどんなものだったかは、15,6年前のテレビを持っている方ならよく理解できるはずです。MRI装置はデジタル機器の一種なので、テレビや携帯電話(特に付属するカメラ)の進歩、進化と同じような状況を呈しています。

H13年にくも膜下出血で倒れた横浜に住む実母が、脳外科専門医が3人もいる大きな病院で、CTでくも膜下出血を見逃され、念のためと撮ったMRI(MRA)で脳動脈瘤が描出されなかった(実際はどちらの検査にも画質はひどいけれど所見はあった!)という経験をしたbalaineですが、さらに遡ること8年くらい前に導入されたMRIならば、H5年(1993年)当時の性能ということで、そんなショッキングな事実も我慢というか受け入れざるを得ないことだったのです。

日本海総合病院で5年前に購入した1.5Tの高磁場装置と、昨年導入された3.0Tの超高磁場装置の検査料が同じというのもいかがなものかと思いますが、3年前に導入した拙クリニックの0.4T、すなわち「中・低磁場」装置と呼ばれるMRIも一律に「それ以外」の「1,000点」ということに納得しかねる気持ちを抑え、「しょうがない」という諦めの心境です。

10年前に買ったクラウンロイヤルサルーンと今年買ったカローラを比較したら、どちらが安全性や燃費や居住性などの機能を総合して上でしょうか?

10年前に買ったデジタル一眼レフカメラと、今年買ったカメラ付き携帯電話のどちらの画質や機能が上でしょうか。

当然ながら、現在の最新鋭機種も7,8年もたつともはや「古い遅れた」機種になってしまいます。デジタル機器の宿命です。


そして、ようやくここからが本題です!(前振り長過ぎ!!!)

拙クリニックの「それ以外」に分類される0.4TのMRIで撮像したMRAをMacとOsiriXでデジタル画像処理、ようするに3次元血管撮影を行ったものが優れていることを、今週東京で行われる第20回日本脳ドック学会で発表して来ようと思っています。

「うちのMRIは「それ以外」だけどこんなに綺麗なんですよ」ということはもちろんありますが、balaineが学会で提起したい問題があるのです。

現代の医療は、標準化、均てん化が求められており、施設間や医師間の能力や機能にばらつきがないようガイドラインが策定されることが多くなっています。かかった病院や診てもらった医者によって、患者さんに不利益が生じないようにというのが主たる目的であり、医療の発展のために大学の教授らを中心にその道のトップクラスの人たちが頭脳を寄せ合って作っているものです。ですからそれなりの価値はもちろんあります。

しかし!
最新の日本脳ドック学会策定による「脳ドックのガイドライン2008」の40ページには、MRIによる脳の血管撮影であるMRAについて「磁場強度の差など装置により描出能に違いがあることは前提として認識しておくべきである」と記載されています。
すなわち磁場強度の低い機種では描出能が低いぞ(と直接的表現は避けていますが)、と言っているようなものです。

2009年に出た「脳卒中治療ガイドライン」の233ページには、『未破裂脳動脈瘤の診断とスクリーニング』の項で、「未破裂脳動脈瘤の診断のスクリーニングにはMagnetic Resonance Angiography(MRA)(0.5T以 上 )による診断」が推奨される、と書いてあります。

2011年6月に発行されたばかりの日本医師会雑誌 第140号・特別号(1)「生涯教育シリーズ80」『画像診断update 検査の組み立てから診断まで」のS60ページ「2 未破裂脳動脈瘤」のところには、「MRIの磁場強度は1.5tesla(T)以上が、推奨される」と書いてあります。さらに隣のS61ページには、「MRA, 3D-CTAともに装置、撮像方法、読影医などの条件が十分揃えば3mm以上の動脈瘤は検出可能である。3T MRAでは、2mm程度の動脈瘤の確定診断も可能である。」と記載されています。

この3つの文献をそのまま理解すると、拙クリニックの0.4T装置ではきれいなMRAを撮れる保証はなく、検査として推奨できない、とさえ言われているような気になってしまいます(ひがみかな、、、)。

これらのガイドラインや文献の根拠になった元の論文を見てみると、その発行年は2000年などと書かれています。つまり今から10年以上前、H13年より前に存在した機種による研究結果がベースになっているのですから、これは「時代遅れ」の情報と言わざるを得ません。

そして現在の0.4T装置で撮像したMRAのMIP像はこちら。
RticpcanmipMIP(maximum intensity projection)法は、ほとんどの施設で採用しているであろう、MRAを3次元画像再構成する際の手法です。
SN比の高い高・超高磁場装置で撮像したMRAならば、これよりもっと綺麗に見えることが期待されます。実際、1.5T装置では単純に考えると0.4Tの磁場の4倍の強度があり得られる情報、SN比も4倍美しいと考えられます。実際に作られる画像のピクセル解像度は、0.4T装置の「0.625mm」に対し、1.5T装置では「0.3125mm」と表示されます。

単純に考えれば、1.5T装置ならば0.4mm(400μ)より太い血管は写るが、0.4T装置では0.7mm(700μ)より太くなければ写らない、という風に言い換えられるでしょう。しかし、臨床で問題になる未破裂脳動脈瘤などは、2mm以上の大きさのものであり、そう考えると理論的には0.4T装置の解像度で何ら問題ないことになります。

そして、、、極めつけ。
Rticpcan1Rtipcan2これは、上の白黒の写真(MIP像)と同じ患者さんのMRAをOsiriXを使って3次元処理したもの。
こういう手法をVR(volume rendering)法といい、さらにそれに光を当てて陰影をつけたような、より深みのある3次元処理を行ったものです。
そして、右の内頸動脈・後交通動脈分岐部に発見された小さな未破裂脳動脈瘤の大きさは約2mm。立体なので測定する場所によっては1.9mmとか1.6mmというようなサイズ。
0.4Tの「中・低磁場装置」でこれだけ鮮明に美しく描出することができるのです。

しかもこの画像は実物はモニター上で自由に回転、拡大が可能な、ほぼ「動画」と言っても良い画像であり、上の白黒の一般のMRI装置で作り出されるMIPの擬似3次元MRAと呼ぶべき位相をずらした回転像とは、その鮮明さ、見やすさ、周囲との関係の把握度など比較にならないものだと思っています。

要するに、機器本体の値段も安く、保険診療点数の検査料も低く抑えられ、ガイドラインなどでも1.5T以上の高磁場MRI装置より「劣る」ような表現をされている中・低磁場装置でも、ちゃんとした医師(きれな画像を作ろう!という意欲のある医師ということ)が優れたアプリケーション(この場合はOsiriX)を用いれば、非常に美しく実用的な3次元画像が得られるということ、そういう点で中・低磁場装置の高・超高磁場装置に対する「非劣性」が示されたことを学会で主張してきたいと思っています。

あと3日でこのプレゼンテーションを完成させなければいけません。
ここ1週間ほど(依頼原稿提出後)、半分寝ながら半分起きながら夜を徹して作成してきたプレゼンはもうすぐ完成というところまできています。より魅力的で説得力の高いものにブラッシュアップする段階です。
しかし7/6(水)には、酒田で第4回庄内脳神経疾患治療研究会を他の世話人の方々と一緒に主催することになっており、特別講演をしていただく大学の精神科の准教授K先生と同級生のbalaineが座長を務めさせていただく予定。

仕事というのは、忙しいときにはどんどん固まって集まってくるものだ、ということは昔から知ってはいましたが、充実しすぎてきます(苦笑)。

(最後におまけ)
それじゃ、5億円もするような超高磁場装置は要らないのか?といわれればそんなことはもちろんありません。用途、目的が違います。
たとえばfunctional MRIとかfiber trackingなどのような、『機能画像』を綺麗に撮ろうと思えば、SN比が高く撮像時間が短くて済む、静磁場強度の強力な「超高磁場MRI」が必須です。こういう特殊な撮像は0.4Tでは足下にも及びません、というか実質的に不可能なものです。
実感がわかないほど高額な検査機器が世の中に必要なのは、そういう特殊で高度な検査を行ってなんとか患者さんを良くしよう、守ろうという医師の善良な心からおこっていると私は信じております。

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コメント

すごく興味深いお話でした
私は先日都立病院で突発性難聴の際、MRIを受けたのですが、それでひっかかってしまって、今脳外科に診ていただいています
画像を見ている先生が「うーん」と言った時点でフラグが立ったかな、と思いましたが、その後先生が「この機械は古いから、新しい方で撮りなおして」と言われました
この病院には1.5Tが3台あるのですが、古いものは年内に買い換えるそうです
今度は4.0にするのでしょうか、税金だから値段は問題になりません
画像は内頚動脈のカーブするところが白く写っていないのでした
「50才で危険因子は無いので、機械の問題か、先天的なものか」ということで
「お手軽だから、エコーもやりましょう」
ということで予約を入れました
狭窄してたら何%かを見る為ですよね
ネットのせいでちょこっと知ってるぞ、という患者は一番嫌でしょうね
耳鼻科の先生には側副血行と言われましたが
脳外の診断は少し違うようです
こういう時は一般的には不安になるもんなんでしょうか?
なんだか、生きるってめんどくさいですね

投稿: ハッピーのママ | 2013.08.08 09:12

ハッピーのママさん、2年以上も前の記事にコメント、ありがとうございました。
現在、MRIの検査料は「3.0T以上」「1.5T以上3.0T未満」「それ以下」という3段階料金体系に変わっています。
さて、「内頚動脈のカーブするところが白く写っていない」というお話ですが、実際の画像を見てみないことには正確なコメントは出来ないのですが、そこは「内頚動脈のサイフォン部」と呼ばれるヘアピン状にカーブしている部分ではないかと推察します。
MRIで血管を見るMRAというのは、血液の流れ(動き)を画像化するため造影剤がいりません。その代わり、装置でかける磁場の方向と血流の方向が相対するような部位は映りが悪く、まるで血管が欠けて見えたり、狭窄して見えることがあるのです。脳血管撮影や3dCTAなど造影剤を使ってX線の透過度を画像にする血管の画像を見慣れている脳外科医にとっては、MRAで映りの悪い部分の解釈を誤ってしまう人が少なくない(端的に言えば、MRIによる血管撮影の本質を理解していない)という事実があります。これは私自身が脳外科医で、開業して自分でMRI装置を持つまでは本当に理解していなかったからこそ言えることです。
以前の私だったら、ハッピーのママさんのMRAを診断した医師の様なことを言ったかもしれません。
写りの悪いカーブしているところが内頚動脈のサイフォン部だったら、それはMRAの限界であって、3.0Tの装置でも写りが悪いことに代わりはありません。

投稿: balaine | 2013.08.08 15:41

大事な時間を割いてくださって
専門的なアドバイスありがとうございました
突発性難聴の時にすごいめまいで入院したので
それで「一応」ということもあったのかな
とも思っています
でもステロイド点滴ですっかり治ったのだから、耳鼻科の病気でOKですよね

投稿: ハッピーのママ | 2013.08.08 21:53

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