今、自分に出来る事を考える
balaineは、中学校と高校を仙台で卒業しています(中3になる時に、高松から仙台に転校)。
あ、と予備校も仙台出身です(苦笑)。
被災して本当に困っている人からは情報が来ていない可能性が高いですが、中学同級生のMLや知人や仙台フィルにいる友人などの情報、それから私が入っているいくつかのMLや脳外科関連の情報網から知り得た話から私なりの考えを書こうと思います(書く事で自分の頭を整理するのが目的です)。
仙台市は大方電気は復旧し、水道は3月末を目標に復旧中。未だに多くの市民が給水生活です。
ガスは被害が大きく、また爆発や火災などを懸念してか、全面的にストップしており、復旧は6月末の見込みという事です。ガソリンも、徐々に全国各地から運ばれて来ていますがまだまだ不足しているそうです。特に被害の大きい地域、津波に襲われた地域程、ライフラインは寸断されたまま、ガソリンや灯油は届かず底をつくという状況のようです。
ガソリンはあるところにはある(高速道路のSAなど)のですが、市街地のGSはほとんどだめ。緊急車両、災害支援目的の車両を優先して給油が行われたりしており、そのためには公的な認定書が必要ですが、「公的病院の医療支援チーム」であれば病院の身分証明書だけでも大丈夫だそうです。
それ以外の一般の人は、被災地以外でも、今は極力ガソリンの使用を控えること、あるのに給油する様な群集心理での給油は止める事、可能な限り節電し、移動は徒歩や自転車などの地球エネルギーを使わない手段を選ぶ事です。
医療関係では、やはり被害の大きい地域程大変で、自身が被災者である医師や看護師が交替要員もない中、不休で懸命に働いているとの事。また、医薬品が不足していて、特に物資の回って来ない沿岸部の病院や避難所で困っているそうです。
うちの近所にも息子さんの家を頼って、仙台から一時避難された方がいるのですが、1週間分しか薬を持って来なかったため足りなくなるという事で拙クリニックを受診された方がいらっしゃいました。一包化されて袋に入っているし、お薬手帳もないので、何をどのくらい飲んでいるかご本人はわかりません。
薬局に持って行って、薬の番号などで調べかつ本人から話を聞いて処方内容を決めて処方しました(仙台の薬局は電話をしても応答がありませんでした。被災されて休業しているのでしょう)。
「ありがとうございました」「たすかりました」
と何度も頭を下げられましたが、そんな事する必要ないですよ、といいながら申し訳ない気持ちになりました。
薬にもやはり軽重があり、1日でも1回でも欠かすと大きな問題があるのはてんかん患者さんの服用する「抗てんかん薬」、糖尿病患者さんの使う「インシュリン製剤」や「経口糖尿病薬」です。これらは「我慢」したり、「控えめに使って」セーブするようなものではありません。その人に必要な量を定時に継続して使う必要のある薬なので、1日はおろか半日でも欠かす事の出来ない薬剤です。
てんかんの有病率は約1%ですので、30万人弱が避難生活をしている現状で、抗てんかん薬を必要としている患者さんだけで3000人以上いる可能性があります。その他に、避難生活はしていなくても交通の問題でかかりつけの病院や医院に行けないとか、かかりつけの病院そのものがダメージを受けて診療していないなど、もっと広範囲、もっと多くの患者さんが困っている可能性があります。
次に不整脈や心臓病の薬、これも1日欠かすと問題が生じうる大切な薬でしょう。
高齢者に治療を受けている人が多い高血圧や高コレステロール血症の薬などは、数日飲まないからと言って急にドウコウということは通常はありません。ただ、震災のショック、避難生活のストレスなどで通常よりも血圧が高くなっている怖れがあり、脳卒中や心筋梗塞などの発生が増える事が懸念されます。
今、各方面の努力で、上記を含めて全国から様々な薬剤が供給され、ボランティアの医療スタッフが現地を回り、診療の手伝いをし、薬を配布しているそうですが、すべての被災地域にまんべんなく行っているかというと、交通手段などの面で問題があるようです。
なんとか自分も救援活動の手伝いを、という尊い志でヴォランティアを希望される方もたくさんいるようですが、支援救援活動に行こうという方は『完全自己完結型』で行くか、自治体や医療チームの様な組織に属して団体行動をするか、冷静に判断して行動して欲しいというのが現地の要望のようです。
思いあまって手伝いに来たは良いが、ボランティアのための食料や水などは用意されていません。被災者にすらまんべんなく配布されていない物を、ヴォランティア活動に来たのだからといって優先的に貰える訳がありません。
中には、手伝いに来たが帰りのガソリンがないのでなんとかしてくれ、とか、ヴォランティアで来たので現地の地図をくれ、とか、何をやったらいいかわからないので指示をくれ、とか単独行動故にチームで援助活動をしている人達や現地の自治体に迷惑をかけている人もいるそうです。
献血も全国で盛んになったようですが、巨大地震発生から10日が経つ現在、緊急に輸血が必要な被災被害者は少ないと想像されます。震災直後は、外傷、緊急手術で全血輸血の必要な方もたくさんいたでしょうが、時間が経った今、一部を除いては無傷か軽症で生き残った人と亡くなった人に二分化されています。災害医療のトリアージでは、タッグの色は「緑」(軽症)か「黒」(死亡)という状態で、最も困っているのは、上記慢性疾患の必要な医薬品ということです。
輸血も、まったく不要な訳ではないのですが、全血保存で21日、濃厚赤血球で42日、濃厚血小板で4日という使用期限があり、大量に輸血用血液が被災地に送られても使わない物は廃棄するしか無くなります。成分献血で血漿や血小板を分離した場合は、これを材料に血液製剤を作れば物によっては1〜2年の保存が利くので有用ですが、震災被害者を援助する目的で献血に殺到しても今すぐに必要な分は足りているというニュースもありました。
阪神淡路大震災では、発生から1〜2ヶ月経って血液が不足したそうですので、被災の状況が違う今回でも4月中旬から5月にかけて、同じ様なことが起こる可能性があります。
献血は、一回行うと次までに間隔をあける必要がありますので、むしろ次に必要とされる時に備えて、「献血を!」という呼びかけがあったら速やかに駆け参じるというのが、現在被災地域以外に住む我々の取るべき行動の様な気がします。
今後、中長期的にはやはり義援金などのお金が必要でしょう。
さらに、宮城、岩手、福島などで生産されている商品、特に壊滅的な打撃を受ける前に出荷されている米や保存の効く海産物など被災地の商品があればそれを優先して購入する事で、自分も助かり被災地も支援できることになるかもしれません。
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連休で、お彼岸で、「春分の日」の今日も、ガソリン使用を控えるため出かける時は徒歩か自転車です。
節電のため、テレビも点けていませんが、このパソコン使用も電気を使っていますね(そんなに大量ではありませんが)。
ガソリンは売っていなくても、電池は売り切れていても、近くではオハギも草だんごも売っていました。お彼岸に、被災者の将来を想い、亡くなられた方のご冥福を静かに祈ります。
余計なエネルギーを使わずに、人に迷惑をかけずに、今の自分がしっかり生きることを考えると、休診の今日は読書をするか、フルートを吹く事かなと思います。
買ったまままだ目を通していない本や、毎月届いても横に積んどくだけの医学専門雑誌などを整理しながら読んで有効な時間を過ごしましょう。
ああ、もう午後になっていました。
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コメント
お久しぶりです。内陸部のM'Crow(まっくろ)です。
開業医のbalaineさんにお願いです。
「そこにいてください」
"具合の悪くなったときに、balaine先生がそこにいる。"だけでも、患者は気が楽になります。
現在脳梗塞の後遺症で右半身不随の母が糖尿でずーっと罹っていた開業医は数年前海外へボランティアへ行ってしまいました。その後へ別の医者は来ましたが、元の医者がベテラン看護師をもつれて海外へ行ってしまったので、少ないスタッフ→加重労働→スタッフの退職・・・と悪循環だったようです。朝早く予約票を取れなかった患者は何時間も待っての診察。母はずっと通っているからとそこに行っていました。通院自体がストレスにもなっていたかもです。(母の脳梗塞発病自体は別の複数要因が有りますが・・・)
だから、開業医の皆様へお願いです。今通っている患者を見捨てないでください。
大病院の医者がころころ変わるのは解っています。そのために何人もの医者が居るのですから。その中からやりくりして大災害の時はお手伝い、お願いします。
でも、開業されているお医者さんは、患者がずーっと通っていて、"自分の身体を知っていてくれるお医者さん"なのです。
どうか、どうか、balaineさん。お医者さんとしてこの事態を歯がゆく思っていらっしゃいますでしょうが、酒田にいて、患者さんを診てください。そして、事業主としてスタッフがちゃんと通勤できるように気を配ってください。
(うちの両親が通っている介護施設はディサービスが震災以来ずーっとお休みです。暖房用燃料と送迎用&スタッフ通勤用ガソリンが入手困難なためです。ハイ、うちの両親も10日以上お風呂に入っていません。洗髪と体拭きはしてますが。)
ガソリンをけちって雪降り以外は自転車で田圃道を買い物に行っている M'Crowでした。
投稿: M'Crow | 2011.03.22 00:12
M'Crowさんのコメントに同感です。
balaine先生のクリニックに通院されている患者さん達も
同じ気持ちでいらっしゃることかと思います。
主治医の先生が其処にいらっしゃる、それだけで患者は
安心できるものです。
主治医の先生とお会いしてくるだけでも患者は
安心して帰ってこれます。
投稿: ボリジ | 2011.03.22 11:29
M'Crowさん、ありがとうございます。実際にこの連休を利用して、自分の車で被災地に支援物資を届けたりという活動をしている医師仲間を知っているものですから、「俺はここで何もしなくていいのだろうか、、、」と自問自答悩んでいる事は事実です。
縁有って酒田で開業すると決めた時から、酒田を中心とする地域の方々に信頼され安心を与えられる仕事をしようと考えています。思いだけで実践出来ない事も多々有るのですが。
燃料不足はどこも大変ですね。
被災地は報道されていない孤立した地域にもっと大変なところがあるようですから、あと1週間程度で回復する期待があるそうですから、我々は「我慢」「忍耐」「今ある幸せに感謝」で行くしかありません。
投稿: balaine | 2011.03.22 17:03
ボリジさん、ありがとうございます。
「会うだけで安心して帰って来れる」ような医師になりたいものです。まだまだ人間が未熟なので。。。(苦笑)
義援金詐欺とか、募金活動を恐喝してお金を巻き上げたとか、灯油泥棒とか、いろいろ嫌な話もあるようですが、ちゃんとお天道様が見ているはずです。
ただ、こういう大規模自然災害というのは、無垢な赤子や罪もない子供や年寄りにも均一に振りかかり、無慈悲にその命を奪ってしまうというのがやるせないですね。自然とはそういうものだと割り切るしかないのでしょう。
医師として何も出来ずにいる自分の無力感を感じながら、精一杯地元の患者さんの診療を続けたいと思います。
投稿: balaine | 2011.03.22 17:09