被災地に必要な医療、ほか
巨大地震から一週間が経ちました。
3/11の大震災直後から医療活動は行われています。
阪神淡路大震災の反省からD-MATという組織が全国の災害拠点病院に作られ、今回の大震災に際して全国から170を超えるD-MATがすぐに被災地に入り活動してきました。
発生から1週間を過ぎて、災害直後の大緊急の外傷を中心とする被災者の救難治療から、普段からある慢性的疾病の「いつもの治療」の継続に治療のフェイズがシフトしてきているそうです。
もちろんまだまだ重症患者さんや入院治療の必要方はたくさんいらっしゃると思いますが、D-MATが大活躍する時期を過ぎて来たということだそうです。
ドクターヘリで岩手、宮城、福島の機能している災害拠点病院、さらに青森、秋田、山形、新潟などの災害拠点病院に患者が転送され、酒田の日本海総合病院を含む各地の病院で入院治療を受けていると聞きます。また災害を受けていない地域の病院まで救急車で患者さんを搬送して治療が行われていると聞きます。
しかし、発生している被災者の数に比べてまだまだ医薬品、入院治療を行うベッドの数が不足しているそうです。
報道に寄る断片的な情報と、災害地で活動する仲間の部分的な情報から考えると、今最も必要とされる医療活動は「検死をする者」。そして慢性疾患(高血圧、糖尿病、心臓病などなど)の内服薬と聞きます。特に検死は亡くなられた方のご遺体を検案して死亡診断(検案)書を書く必要があるため、一人の医師で1日に30人がいいところなのだそうです。地元の大学病院などから多数の医師が応援に駆けつけているそうですが、ご遺体が1万を超える数なのでなかなか大変とのこと。
これまで26年間の医師としての活動の中で、人の死はたくさん見てきました。100通を超える死体検案書を書いて来たと思います。しかし1日に30件の異常屍体=傷害死を視るなど経験のないことです。
東北地方だけで10000件を超える検死は、それだけを行う医師の数が延べで300人以上400人近く必要だと言うことになります。岩手、宮城、福島にはそれぞれ岩手医大、東北大、福島県立医大があり、それぞれ10名ずつ検視の応援に行ったとして、検死だけにかかる日数は最低でも300人/30=10日間ということになります。
一人の医師が1時間で検死をして診断書を書くのに、どんなに頑張っても3、4人が限度でしょうから、1日8〜9時間不休で働いて30人という計算になります。一カ所で出来るとは限らず、移動にも時間がかかるでしょうから、もっともっとかかるということになりそうです。
隣県である山形からも既に応援に行っていると聞きます。
倍の60人の検死医がいるとしても、検視だけで1週間かかるということになってしまいます。
おまえはそこで座して何をしているんだ、というご批判があるかもしれません。
私自身、医師として、日々の診療を行いながら「何か自分に出来る事はないのか」と自問自答しています。拙クリニックに通院されている慢性期の落ちついた患者さんを1日に30人前後診療し、頭痛やしびれやめまいなどの新患を多くても5、6名診て、自分に今出来る事を精一杯やってはいますが、被災地の映像を見たり、医療現場の状況を耳にすると何か後ろめたい気持ちになってしまいます。
開業医という職業は、個人事業主でもありますから、通常の診療を行わずにどこかに出かければ(それが災害救援でも学会参加でも観光旅行でも)、その間は収入がない訳です。事業主として雇用している職員の給与を支払う必要がありますし、パート職の数名は私が休診すると収入が無くなるのでスタッフに対する責任もあります。
まして、開業してようやく3年が過ぎた、ぺーぺーの新米開業医では、返済する負債、家賃、リース料が莫大で、毎日毎日働き続けてこれらを返し支払う必要があります。
被災現場で不眠不休で、患者さんのためにまさに身を削って働く医師や看護師などの医療職の方々には頭が下がります。直接お手伝いできない事を申し訳なく思います。
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現在、プロ野球が予定通り開催するかどうかでもめているようですが、来週23日からの春の甲子園大会の開催が決まったそうです。
被災地である東北代表の宮城の東北高校、青森の光星学院、21世紀枠の秋田大館鳳鳴高校。それぞれ被災し大会直前でも練習も出来ていない状況と聞きます。
東北高校の選手は避難場所での給水ボランティアなどの救援活動をおこなっていたそうですし、今の状況で野球の事に集中するのは無理でしょう。大会前に山形に移動して調整し山形空港から空路甲子園入りすると聞いています。
短い期間でうまく調整して頑張って欲しいものです。
東北代表の3校と茨城代表水城には一つでも多く戦って、闘志あふれるプレーを被災地の方々に見せて欲しいと思います。
皮肉な事に被災地の代表である光星学院と水城は初戦でぶつかってしまうとの事。
なんとも非情な事ですが、試合ですからどちらかが勝ち、どちらかが負けることになります。それでも彼らの頑張る姿は被災地の人々に希望を届けることだろうと思います。
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コメント
この1週間は長かったですね.
新潟大学医学部・歯学部も大勢の先生方を被災地に派遣しています.
昨日,東北大医学部の音楽療法の教授からメールが届きました.病院も被害を受けていて,修理には時間がかかりそうです.青葉山の工学部・理学部に至っては,全館立ち入り禁止だそうです.授業開始は4月下旬を予定しているとのこと.
先生が後ろめたさを感じることなどないですよ.人間はそれぞれ社会的な役割を持ち,社会に貢献しながら生きています.追加貢献は,それを犠牲にしないで,余力の中で行うべきです.余力が多ければたくさんすればよく,少なければその範囲内で精一杯努力すればいいだけです.必ずしも量だけではないと思います.
当然お分かりとは思いますが,真面目な先生の背中を押してみたくなりました(^_^)
投稿: MrBach1954 | 2011.03.19 13:11
MrBach1954さん、背中を押されて私はどこへ向かうのでしょうねぇ。(^^;;;;;
仙台フィルは6月まで全面的に公演活動自粛だそうです。被災地のオケですから仕方ないのでしょうが。
私たちは私達にできる仕事と活動を続けるのみですね。
投稿: balaine | 2011.03.19 17:46