新日本フィル酒田公演
一昨日の夜は何をしていたのか、思い出せないような慌ただしい、雑事の多い日が続いています。
そんな中、昨晩は新日本フィルハーモニー交響楽団の酒田公演があり行って来ました。
H16年に現在の酒田市民会館「希望ホール」が出来て、最初の登場したプロオケは小澤征爾指揮新日本フィルでした。
『酒田希望音楽祭』実行委員会という組織が出来て、それから5年間は新日本フィルが酒田公演をするということになり、これまで小澤さんが2回、アルミンクが1回、小林研一郎さんが1回指揮者として登場。それぞれに個性のある、熱い演奏を聴かせて下さいました。
そして今回はマエストロ井上道義。
つい先日、「題名のない音楽会」で、ジャズとのセッションではその江戸っ子の、祭りの血が騒いだような指揮(?)を披露していました。
そしてピアニストに後藤泉さん。
いまや売れっ子で若手の実力派ピアニスト。ウィーンフィルの面々との室内楽シリーズなどもたくさんされている。
今回は、ベートーベンのピアノ協奏曲4番。
私個人の印象としては、5つあるベートーベンのピアノ協奏曲の中でもっとも難しいと思う。表現力を要求されるレベルが高い。個人的には「3番」が一番好きだし、5番「皇帝」はもちろん素晴らしい。1番、2番も素敵な曲である。バックハウスとルドルフ・ゼルキンのベートーベンピアノ協奏曲全集を持っている。
「4番」の特徴はいろいろあるが、何と言っても冒頭。オケは静かにたたずみ、ピアノだけが一人弱奏で演奏を始める。それにオケが応え、徐々に広がりを見せる。
この冒頭のピアノ独奏で全曲が決まってしまうと言っても過言でない。プロのピアニストでもそうとう緊張すると思われる。(事実、終演後の会で、泉さん自身が「終わってほっとした」というような感想を漏らされた。もちろん演奏がうまくいったという安堵感あっての話)
今回、希望ホールの2階バルコニー席でピアノ協奏曲を初めて聴いた。
ピアノ協奏曲の場合、1階席の真ん中後ろか2階席前列あたりがいいのかもしれない。コンサートグランドには大きな蓋があるので、それによってある程度、音に「指向性」が出るのだと思う。昨年、石井理恵さんとチャイコのPコンをやった時には、ステージにいるオケにはピアノ音が聞こえなくて困った。その分、客席には良く響いているのだと思う(昨年の定期のアンケートで「ピアノ協奏曲をこんなに美しい音で、こんなに迫力のある音で聴いたのは初めて」というような感想もあった)。
終演後に他の人が言っている程のピアノの迫力とか音の透明感が、2階バルコニーには伝わらなかった。20分の休憩の後、交響曲。同じ「4番」でも「ブラ4」。
平成17年の酒フィル定期でも取り上げた名曲。4楽章にフルートの「大ソロ」と呼ばれる部分が有名。
その「大ソロ」を吹いたのは、この4月に副首席から首席フルート奏者になった荒川洋さん。
昨年、拙クリニックのサロン・コンサートの記念すべき第1回に出演頂きました(「サロン・コンサート第1回報告」を参照)。いろいろな縁から彼のような素敵な音楽家と知り合いになれて幸せな事でした。
「ブラ4」の出だしは、プロでも簡単ではありません。
ブラームスの溜め息のような、鬱々とした嘆きのような、諦観のように始まります。井上道義さんの指揮は、「おっとっと〜」と思うくらい、ゆったり、ゆっくり、じわ〜んと始まりました。
バキバキとした部分、舞曲的な部分、マーチ的に思う部分、コラールなど、変幻自在、そしてメリハリの利いた演奏が進みます。NJPの弦は、まさに「一糸乱れぬ」と称しても良いまとまり感があり、音程の安定感、特にバイオリンでも低弦部を演奏する時の重厚さ、チェロ、ビオラ、コントラバスの中〜低音部の厚みは素晴らしいものでした。
管楽器群も、ピッチの安定感は抜群で、ホルンやファゴットの弦楽合奏との解け合った色合いなどは見事なものでした。フルート、オーボエは、荒川洋さんに古部賢一さんと若手イケメンの実力者が管楽器の真ん中に座り、その後ろに座るクラリネット、ファゴットも実力者ぞろいでまったく安心してアンサンブルを堪能できました。トランペットは恐い楽器で、1、2カ所、ちょっとキツい発音が感じられることがありましたが、目立つ楽器の宿命でしょう。トロンボーンの4楽章のコラールも美しかったのですが、「希望ホール」の響きに慣れていないせいか、なんとなく手探り感が感じられたのは私の思い過ごしだったでしょうか。
そして、件の4楽章の「大ソロ」。
荒川さんもやはり「希望ホール」の響きには慣れていないので、客席でどう聴こえるのかがわからない感じ。美しく切ない音楽ながら、出だしからやや音量が大きめな印象。もう少し、p気味に始まっても良かったかな〜と思います。
でも、素晴らしい演奏でした。酒フィルの練習では「代吹き」でここを吹いたことはありますが、練習なのに緊張して唇が震えました。本番は私はセカンドだったので人前できちんと吹いた事はありません。荒川さんの「大ソロ」を聴いていて、なんだかジワッと涙が出そうになってしまいました。
「ああ〜っ、、、ブラームス、、、」
という感じでした。
そして、フィナーレを迎えます。
感激しました。大拍手、ブラボーの声も飛びます。拍手は鳴り止みません。
赤い御ベベを着た稚児が二人、ゆっくりステージへ。マエストロとコンマスに花束贈呈。
拍手は鳴り続けます。
マエストロが拍手を制し、「ありがとうございます。うちのチェロは「失業」しないでやってます!」と映画『おくりびと』にちなんだ発言。そして「チェロといえば、この曲、「これ」をやります!」と言って始めたアンコールは、なんとなんと
ブラームスの交響曲第3番第3楽章(抜粋)。
「ブラ4」の後に「ブラ3」が聴けるとは、驚きでありとても嬉しく、切ない旋律なのに聴きながら自分の顔が笑顔になっているのがよく分かりました。
〜〜〜〜〜
終演後、実行委員会主催のレセプションが開かれたが、それとは別に後藤泉さんと荒川洋さんにゆかりのある人が集まる小さな宴会が催され、私も誘われて出席した。
後藤泉さんのお母様は、なんと酒田市の出身で、お母様を含む三姉妹にピアノを教えた先生の奥様(先生は新潟大学教育学部で音楽を指導されていた故人)、その先生の長女で現在酒田市内でピアノを教えておられるK先生(小生もよく存じている)も出席。しかも、三姉妹のご主人が全て参加(それぞれ酒田、千葉の柏、埼玉から)。
レセプションから遅れて、後藤泉さんと荒川洋さんが参加され日付が変わるまで楽しく会食。いろいろ話が弾んで楽しい会だった。
後藤泉さんと荒川洋さんが、同じ年生まれ、同じ干支という発見があったり、写真のように後藤さんからはプログラム、荒川さんからは昨年暮れに出された「フレンチ・コンポーザーズ」という大人気のCDにサインを頂いた。荒川さんは学生時代から作曲をしていて(パイパーズ5月号の特集記事にも出ています、パイパーズ「バックナンバー」参照)、フルートの曲などがOp.50になったということで、ギターとフルートの難しそうな楽譜を作曲者本人からサイン付きで頂くという光栄に浴した。
「酒田を愛する会会長」である、後藤泉さんのお母さんのお姉さんのご主人(つまり伯父さん)のKさんとは、拙クリニックに設置してあるピアノを改造したI楽器のT氏とともに、庄内藩酒井家の幕末のことや本間様の事、松山藩の砲術隊(先日の酒田まつりでも号砲を鳴らした)が米沢の砲術隊と縁のある事などなどいろいろお話しして楽しかった。
新日本フィルの酒田公演は、いつも演奏会を堪能した後に、必ず荒川さんを中心にこういう楽しい交流があるのが嬉しい。今年は、残念ながら平日のコンサートだったため、「サロンコンサート」に出演をお願い出来なかったけれど、4年前に庄内国際ギターフェスティバルのプレコンサートで庄内に来たこともある、ギターのマーティン・フォーゲルさんと荒川さんのデュオを「ジョンダーノ・ホール」でやってみたいという話は魅力的だった。あのホールは、きっとギターとかチェンバロとかハープという「撥弦楽器」に合っていると思うのだ。
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コメント
昨日の演奏会 扉係として聴かせていただきました♪ レセプションにも参加し荒川さんの楽しいお話を聞きました。演奏者としてはもとより、お人柄も素晴らしい人であることを改めて認識いたしました。勝手ながら、ジョンダーノホールでもまたお願いしますと希望を申し述べさせていただきました。
楽団のマネージャーさんも気さくな人でした。音楽をしている人はみんな素晴らしい人なんだなぁ~と思いました。ちなみに楽団員でオーディションで合格しても9か月間は見習いなのだそうです。最終的には、改めて楽団員さんからの合格をいただかないと正式な採用にはならない厳しい楽団であるとのことでした・・・・・。
マエストロの井上さんは、お客さんの質もいいとおしゃっていました。ゲネプロでは中学2年生の生徒たちを飽きさせない様に、ユーモラスを交えた会話をしたりと神の様な対応が印象的でした。
来年も希望音楽祭が開催され、正に希望と勇気を与えてもらいたいな~と思いました!
投稿: KEN | 2009.06.10 18:15
KENさん、コメントありがとうございます。
レセプションの模様など教えて頂きありがとうございました。会が盛り上がって、なかなか後藤泉さんを放して下さらなかったのでしょうね。JS先生と後藤さん、荒川さんが別席に登場されたのは10時半を回って午後11時近かったのではないかと思います。
才能のある人というのは、人間としても魅力的ですね。
投稿: balaine | 2009.06.11 04:03