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2009.05.14

人間的な生活

月曜日の式典記念チャリティコンサートの軽い興奮を残したまま、火曜の朝から通常の診療体制。
昔だったら結構無理が利いたはずが何だか疲れている。

たとえば、市中病院勤務の時代なら、月曜の朝から普通に働き、夜20時頃一旦帰宅するも、22時頃急患で呼ばれ、入院させて安定させ家族に説明して帰宅すると深夜の1時過ぎで、それからベッドに入るも朝の4時頃病棟患者さんの急変で叩き起こされ、駆けつけて処置をするも残念ながら死亡され早朝5時半頃病院から死亡退院のお見送り。少しでも休もうと、また病院近くの官舎に戻って2時間程仮眠して、8時半にはICUから回診を始め、病棟を急いで回って昨晩入院させた急患の脳血管撮影を行い、脳動脈瘤を発見して、午後から緊急手術。手術場が混んでいるため午後4時まで入室できないので、その間に昼食を摂り、たまっている診断書や介護保険主治医意見書などを書き、もう一度ICUの患者の状態を確認して新しい指示を出し、午後4時から手術場に入り、麻酔がかかるのが午後5時近く、執刀開始が5時半頃になり、それから破裂脳動脈瘤の根治手術を9時半頃までかかって行い、終わってほっとする間もなく、患者をICUに移送してそこで状態を安定させ、患者家族に説明を終えると午後11時を回っていて、それからパンかなにかを口にして(昼食以来、11時間振りくらいの水分と食事)、まだたまっている書類を整理して深夜0時頃帰宅。
翌日は、学会出張で東京へ。。。

などという生活は、それほど稀な事ではなかった。
大学医学部勤務の時には、多忙な中で学会発表の準備を夜を徹して(つまり徹夜ですね)行い、朝6時半頃完成、朝の検討会に出て、その後、学会発表の医局内での練習会(教授以下、医局員の前で発表と同じ事を行う)をして、教授のダメだしなどに従い、修正点をチェックしてから、まずは日中に業務(外来や病棟)を行い、手術のある日は手術に入り、それらの仕事が落ち着いてから、学会発表の修正点を直し、ようやく自宅に帰って、翌日は大阪に学会出張。。。

こんな生活もしていた。疲れはしても、ちょっとした時間を見つけてはどこでも眠れる特技を身につけ、ぐっすり寝て休息を取るとか、東京出張の新幹線の中でとにかく寝て疲れを取るとか、そういう感じだった。
人間、楽な状態には直ぐ慣れてしまうもので、開業医となってからは、夜中の呼び出し、緊急手術、死亡退院の見送りなどは無く、極めて人間的生活を送れていると思う。
「救急医療の崩壊」とか「病院勤務医師の減少」などのニュースを見ると、正直心が痛むところもあるのだが、勤務医を辞めて開業するに至った理由の(小さいけれど)一つには、これ以上激務を続ける事への懸念があった事は事実である。苦しむ患者さんのために一生懸命働くのは医師としての使命感であり、「自分の仕事」をきちんと果たした結果、患者さんや家族から感謝されるのは医者冥利であった。しかし、どんなに頑張っても給与は増えるどころか減らされ、時間外手当は事務の方で勝手に削り(記載した時間、働いていない事にしていた節がある、県などの予算が決まっているため苦肉の策であったから、医師の誰もが公的には文句は言わなかった)、一日17時間働くとか緊急呼び出しや長時間手術などの時間外勤務を含めると週に70時間とか、時間外勤務だけで多い月には150時間を超え、時に200時間近くなるなど、全くもって「労働基準法」など無視の世界で長年働いてきた。さらにモンスターペイシェントおよびその家族も増えてきて、頑張っているのに評価され無いどころかけなされたり、それが患者だけではなく病院上層部からも医師側を非難するような声があがったりするまでになって、とても耐え難い状態があったことは事実である。

今は、働く時間をほぼ自分でコントロールできる。
今週の月曜日のように、学会出張(+チャリティコンサート出演)のため「休診」にして自分の働く時間を自分で制御できる立場になっている(その代わり、休診=無収入であるが)。かなり精神的にこちらも参るような精神状態の患者さんの相手をじっくりしたり、たくさんお話しする必要のある患者さんが続くと、診療患者数は多くなくてもぐったり疲れるが、そういう診療を目指して開業したのである。世の中にはまだ、「無診察診療」に近い事をやっている医師もまだいるようである。患者さんに聞くと、A医院を受診しても医師と話をする時間はほとんどないとか、B医院では「変わりがなければいつものお薬を」という感じで、不眠症やうつ状態を治療しているのに医師と患者が顔を合わせる時間のない診療を行っているところもあるようである。いくら流行っていて患者さんがたくさん来るからと言って、そんなことでいいのか!と言いたくはなるが、おそらくそういう医師からはそれでいいと思う患者さん以外は少しずつ離れて行くだろう。拙クリニックではまだ患者数が多くないので受診した全員の患者さんとお話をしている。再診時に話を聞くのに時間がかかりそうな患者さんは、なるべく午後のすいている時間帯に予約をいれるようにしているが、最近は午前中少し混み合ってきて、予約枠の患者さんでも30分以上、下手すると1時間近くお待たせしてしまう事があり大変気になっている。
開業する際に、準予約制にして、患者さんを30分以上待たせない、という事を一つの目標としたのだが、早くもそれが守られない状況になっている。何か工夫して改善しないと行けない。
予約の無い新患の場合、1時間以上お待たせする事態も時々出てきてしまっている。それでも日本海総合病院を受診して3〜4時間待たされる、その上、当日のMRIはできず、予約して再度検査に来るという状況よりはずっとましであるが、初めて受診したその日に、受付して1時間から遅くて2時間以内には診察も検査(MRI含む)も終わり、診断をつけてきちんと説明し必要に応じて投薬治療を指導するまでを実現したいと思っていた当初の考えから少し外れてきているようで反省しなければならない。

なんだか、疲れと勤務体制の事を書いていたら、今の診療状況の反省になってしまった。

Cd「人間的な生活」を送る上で、時間的な余裕はもちろん大事だが、忙しい中に、疲れている時に、やはり音楽は体と心を癒してくれる。家内のチェンバロにかかれたラテン語(今まで何度もここで紹介しました)のように
『音楽は よろこびの 友  悲しみの 薬』
ということである。
月曜に共演した須藤千晴さんのCD。
彼女は美人なのが逆に欠点かもしれない。美しいが故に誤解されるかもしれないと言う事。
表面上、「クール・ビューティ」なのであるが、彼女の演奏をじっくり聴いてみると、可憐な女の子の音楽ではない。むしろ骨太な、構成のしっかりした、音楽が聴こえる。基本的な技術を磨き上げてその上に華美な事をできるだけ避け、楽譜を研究し尽くしている。
このディスクは、ショパンは余り好きではない、という人にもお勧めする。何も知らずにこのディスクを聴いた人は、日本人の、若い、美しい、女性が弾いているとはまず思わないと思う。ドイツ人の、音楽大学の教授か、准教授クラスの、目立たないけれど確固たる音楽を作る人の演奏を想像するのではないかと思う。

私はショパンは好きで、「プレリュード」はルビンシュタインやアルへリッチやポリーニなどの素晴らしいピアニストのレコードやCDを持っており、昔は随分聴き込んだものだった。今回、須藤千晴さんのショパンとスクリャービンの演奏を聴いて、私は何か「こころが落ち着く」ような感触を得た。この演奏は、お世辞抜きに好きである。


もう一つ。
人間的な生活と言えば、美味しい食べ物はかかせない。
Photo連休前に行ったはずだから、ちょっと前になるが、最上川を超えた「川南」の錦町にあるインドカレーのお店「シタ」。
以前にもレポートしたが、インド出身のご夫婦とバングラデシュ(?)の従業員がやっている。御主人は酒田に来る前、東京のインド料理の店で働いていたので、本格的な事この上なし。日本語はまだ怪しい。
Photo_2ディナーのカップル用セットは、タンドリーチキンとチキンのカバブが一人に一つずつついて、カレーは何種類下の中から2つ選べる。辛さも好みでお願い出来る。「中辛で」と言ったら、「カライノ、ダイジョブ?」と御主人に言われた。
特大のナンは焼きたてなので手でちぎるのもアツアツ。サフランライスもナンもいくらでもお代わりできるし、残ったらお持ち帰りできる。本格的なのに庶民的な価格なので家族連れやカップルでいつも混んでいる。
こういう美味しいものを食べる時が、一番人間的な生活の幸せを感じるのかもしれない。
単なる、食いしん坊か。。。。(^^;;;

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コメント

お久しぶりです。病院勤務医の生の勤務実態がよ-く解って参考になりました。
それに較べて、この20年自分が街の会計士としてどれだけ楽をしてきたか!ちょっと反省してしまいました。患者の待ち時間それでも少ないですね!当日MRIなんて、こちらでもやる処ないみたいですよ。もうお互いに年ですからご自愛ください。

投稿: Kaiyoumaru | 2009.05.16 11:40

Kaiyoumaruさん、医師には医師の、会計士には会計士の、別の苦労がありますね。
病院勤務医が大変なばかりではありません。最近では勤務医も病院の経営を強く意識する事を要求されますが、まあ、自分の仕事さえしていれば給与はもらえる訳で、病院がつぶれる事もない訳ではありませんが、一般企業よりは安定しているでしょう。
一方、開業医は、自分の働き=収入と直結する喜びもある代わり、医院倒産、廃業などの危機に常に曝されています。
まだまだ頑張らなくてはなりません。
それにしても、お互い身体が資本ですからお大事に!

投稿: balaine | 2009.05.17 10:09

勝手に拝見してスミマセン。読んでいて勉強になったので足跡残します。
お体は大切にして下さいね。

投稿: CareBear | 2009.05.20 00:11

CareBear様、コメントありがとうございます。
政府の財政制度等審議会で、救急医療の崩壊などを心配して「病院勤務医」に重点的に医療費を配分するため「開業医」の診療報酬を引き下げるというとんでもない意見書が出されるそうです。
病院勤務医に医療費を配分するというのは大切です。これまで、改訂の度に「下げて」来た方針が間違っているだけです。それを今度は「開業医」を下げて、、、というのは、要するに「医療費削減ありき」という方策です。
開業医の平均年収は勤務医の平均年収より多いのは事実です。しかし、それは「平均」です。
日本人サラリーマンの平均収入が500万円ちかいわけですが、それは1000万以上もらっている人がいるからであって、多くのサラリーマンは500万円以下の収入であるはずです。
開業医も同じで、自由診療(美容整形)などで億を稼ぐ様な高額所得者がいるから平均が高いのであって、開業医だって借金を返すのに精一杯の人も多いのです。病院勤務医よりも年収の低い開業医もたくさんいるのです。

医療費削減を第1にする方策、政策はそろそろ止めにして頂かないと(もっと他に削るべきところがたくさんあります)、日本医師会やそこに所属しない医師でも「政権交代」を期待すると思います。
身体を大切にするのは二の次になってしまいそうです。

投稿: balaine | 2009.05.20 03:10

御返事ありがとうございます。

現実は厳しいのですね…。弱者に優しい医師を志している者はどうしたらよいのでしょうか。
『BlackJack』は小さな子供達にも夢を与えている漫画でしたが…。もう終わってしまいましたが『ゴッドハンド輝』も子供達には未知の可能性を教えてくれたのではないかと。本題とだいぶ離れてしまいましたね。スミマセン。

主張したい事が多過ぎて、まとまりませんでした。

命あっての…ですから!
情報提供ありがとうございました。

投稿: CareBear | 2009.05.21 12:11

CareBear様、黒澤明の影響か、「赤ひげ」医者を望む一般人の声を良く聞きます。
「赤ひげ」は、確かに貧しい人からは医療費を取らず、神様の様な人に思えますが、金持ちや穫れるところから「たんまり」取っていたのです。そうでなければ自分が餓死してしまいます。
「自由診療」の時代だから可能だった事です。
「赤ひげ」医者を望むならば、すべて自由診療にすればいいのです。その代わり、例えば脳卒中で入院手術となると米国のように1000万、2000万という医療費がかかるのです(生命、医療保険でまかなえる人はいいのですが)。だから昔は大病をすれば、貧しい者は田畑を売るか、娘を売るか、諦めて死ぬしかなかったのです。
医療に、特に高度な医療に金をかけないというのは、良いお寿司屋さんに行ってスーパーのすし弁当程度の対価で済まそうとするようなものです。
医療費削減は、結局自分に帰って来て、損をするのは国民なのですが、理解されていないと危惧しています。

投稿: balaine | 2009.05.22 00:52

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