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2009.04.01

薬物乱用頭痛のこと

4月になりました。今年も4分の一、終わったんですね。早いものです。

さて、久しぶりの「医療ネタ」です。
拙クリニックの院長ブログ先日書いた記事とかぶるのですが、なぜか最近タイトルの通り「薬物乱用頭痛」の患者さんを多く診るのでこちらにも「啓蒙」を兼ねて書いてみたいと思います。

頭痛に詳しい方は当然ご存知の疾患ですが、実は医者でもこの病名を知らない人はたくさんいます。よって患者さんが知らないのは当然です。
国際頭痛分類に従うと、「薬物乱用頭痛」で多いのは「鎮痛剤乱用頭痛」ですが、片頭痛の治療薬でありNSAIDSなどの鎮痛剤ではないトリプタン製剤やエルゴタミン製剤の乱用による頭痛もはいります。英語では総称してMOH=Medication Overuse HeadacheとかMedication (Drug) induced headacheと表されます。

その定義というか特徴として、
1)頭痛は1ヵ月に 15 日以上存在する。(よって、2日に1回「以上」のペースで鎮痛剤などを服用している)
2)その状態が、3ヶ月以上持続している

特に、一般的なNSAIDSと総称される鎮痛剤(いわゆる痛み止めで、医師が処方する薬か市販の薬かは問わない)を1ヶ月に15日以上服用する。
片頭痛治療薬といわれるトリプタン製剤やエルゴタミン製剤を月に10日以上服用する。この中には、市販薬に多いタイプの鎮痛剤とカフェイン(片頭痛に効果があるとされる)の「合剤」を連用しているものも含まれます。
その他に、単一の頭痛薬内服に限らず、複数の組み合わせ、特にエルゴタミン、トリプタン、鎮痛薬、オピオイド(麻薬性鎮痛薬)などを2種類、3種類と組み合わせて、合計で月に15日以上の頻度で服用しているものも含まれます。

なぜこのような状態が起こるのかというと、要するに痛み止めの使い過ぎによって、脳内の痛み調整系が異常を来たし痛みに対する閾値が低下してしまうのです。つまりちょっとのことで凄く痛くなり、痛みに対して敏感、または過剰に反応する状態に陥っているものです。
本来は、普通の片頭痛患者さんであったはずなのですが、痛みに対して鎮痛剤を使用しているうちに、その使用頻度が多くなってしまい、「ちょっと痛いとすぐ薬を飲む」「薬を飲まないといつも痛い」「頭痛に対する恐怖、不安のために痛み止めを毎日のように服用する」という状態になって、痛み止めの効きが悪くなり、効果の持続時間が短くなります。すると更に痛み止めを飲む量、回数が増えるという悪循環に陥るものです。

治療には、まず「原因薬物」を特定し、それを中止する事が大切です。
つまり「頭痛薬が引き起こした頭痛」なのですから、その頭痛薬を止める事が大切なのです。しかし、頭痛があるのに頭痛薬を止めたら頭痛が治りません。ただ単純に「痛み止めを飲むのをやめなさい」と言うだけでは患者さんはその指示を守れないと思います。

頭痛の治療経験の豊富な医師(必ずしも脳外科医でなくても良い、頭痛診療に時間と情熱をかけている医師を探す事です)を受診して、薬物乱用頭痛なのかどうかの判断を仰ぎ、原因薬物を特定する事から治療は始まります。そして、急に痛み止めを止めるといっても無理な場合もあるので、患者さんによっては服薬量を減らす事から始める必要があるでしょう(中止する事が原則です)。
鎮痛剤を止めたり、減らすと頭痛が治らない訳ですから、これは他の薬物で「コントロール」する必要があります。片頭痛発作の特効薬と考えられるトリプタン製剤を試していない人はこれを中心に服用しながら、鎮痛剤を減らし、場合によっては精神安定剤、抗うつ薬、抗てんかん薬などを併用して治療します。これらの薬が、痛み刺激に対する閾値の低下した(つまり痛みに異常に過敏になった)脳の過剰興奮性を抑えて、正常に戻す働きが期待されます。

こういった治療を最低でも1ヶ月は続ける必要があります。すぐに「効果がない」とか「かわりない」といって治療を諦めたり、医師を変えたりするのは得策ではありません。また鎮痛剤を断薬すると3日以内に「離脱性頭痛」が出現し1週間近く酷い頭痛が続いたりします。ここでめげないで痛み止めを飲まない、という状態を継続するとMOHは治ってきます。
重症の場合は、入院の上、治療を要することもあるくらいです。

こんな医療ネタを久しぶりにブログに書いているのは、今週、月火水の3日間だけで、明らかに「薬物乱用頭痛」MOHと考えられる患者さんが毎日一人以上受診されているからです。しかも、他医からの紹介ではなく、他のお医者さんで頭痛の治療を永らく受けて来て、最近頭痛が治らないという事で拙クリニックに来られています。
連日のように「薬物乱用頭痛」の患者さんがいらっしゃると、説明だけでもかなりの時間がかかります。まず、どういう状態なのか、なぜそうなったのか、どうすれば治るのか、そのために患者さんはどうすればいいのか、その根拠を説明します。頭痛のガイドブックを渡します。そして、次に頭痛が起きた時に、どんな頭痛がどこに起きたのか、どの薬(通常はトリプタン製剤を第一選択にします)を服用したらその頭痛がどうなったのか、治まったのか、変わらないのか、弱まったが持続するのか、吐き気はどうなのか、寝込むのか、、、などなど細かく知る必要があります。

先日いらした「薬物乱用性頭痛」の患者さんは医師から「片頭痛」という診断を受けていて、偏頭痛発作特効薬のトリプタン製剤と一般的なNSAIDSである鎮痛剤の処方を受けていました。しかも、NSAIDSはほぼ毎日3錠服用し、トリプタン製剤も週に5錠くらいは使っているということ。更に、この状態が1年以上、2年近く継続しているという事でした。
驚くとともに少し呆れました。
患者さんは、医師が処方するのでそのまま漫然と鎮痛剤とトリプタン製剤を大量長期にわたって使用し続けているのですが、それで治ると説明を受けているのです。しかし、痛み止めは殆ど効かなくなっており、朝起きたときから頭痛があり、ズキンズキンという拍動性の痛みもあれば、ギュ〜と締め付けられる様な痛みもあれば、重苦しい感じもあれば、だらだらと痛い感じもあるという状態で、全く「教科書的」に典型的なMOHの状態でした。
幸い、片頭痛、頭痛持ちの患者さんは一般的には理論派で、きちんと説明すれば理解の早い方が多いので、早速「薬物乱用」を止める事、そのために片頭痛予防薬と考えられる薬や鎮痛剤以外で頭痛を和らげると考えられるお薬も処方し治療を開始しました。頑張って治して行って頂きたいと思っています。

おそらく私の「院長ブログ」よりは、こちらのプライベート・ブログのほうが閲覧してくださる方が多い様なので、こちらにこのMOHの事を書いて頭痛患者さんや頭痛を診ている医師の注意を喚起し啓蒙するという意味も持っております。
 

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コメント

おはようございます!

実弟にも今日の記事を読んでいただきます。
ありがとうございます。職場の頭痛持ちの人にも教えます。

4月2日早いです。桜も楽しみ^^

投稿: KEN | 2009.04.02 06:57

薬の飲み過ぎは怖いんですね~。私は肩こりからく頭痛(多分)で月2回くらいは頭痛薬飲みます。肩から首にかけて張ってきて、これは頭まで来るなあ、と感じたら飲んでしまいます。頭痛を起こしてしまってからだと、薬を飲んでもすぐには効かないこともあるからですが、早過ぎですか?
以前友人が、自分は鎮痛剤を常用してるから、麻酔が効きにくいと言ってましたが、そういうことってあるんでしょうか?

投稿: librarian | 2009.04.02 10:01

KENさん、もっけです!
一人一人の治療はもちろん大事ですが、広く啓蒙する事が大切だと思います。正常の人が鎮痛剤を誤って使わない事が大切だと思います。

投稿: balaine | 2009.04.02 12:02

librarianさん、
月に2回くらいの鎮痛剤服用ならば問題ならないと思います。薬は、胃と腸を通ってから効きますので、どんなに早くても効果が出るまで20~30分かかります。早めに服用する事は問題ないと思います。
大事な事は、肩こり、首筋の張り、凝りを起こさない、起こしにくくすることです。適度の運動、体操などが大切です。マッサージなども効果があると思います。
お薬を飲む前に「体操」を!

投稿: balaine | 2009.04.02 12:04

薬物乱用頭痛、鎮痛剤乱用頭痛の言葉に耳を傾けて下さる
医療関係者の方もいますが、麻薬の乱用と勘違いされることが多い
です。なかには初めて聞いたと、いろいろ調べてくれた方もいました。
とにかく痛いから鎮痛剤を飲む、それが頭痛の原因になるはずがないという考えの方が多く、そんな病名など無いと
まで言われ苦労します。
安易に処方してくれますし悪循環に陥ってしまうんですよね!
何より飲み続けてきたことで、効きにくい、効いたかと思うとまた・・・
お蔭様で最近は鎮痛剤の量も減り我慢できず服用しても
なんとなく以前より効き目があるような感覚が戻ったような気がしてます。

投稿: ボリジ | 2009.04.08 14:55

ボリジさん、痛み止めの服用はどんどん減らして下さいね!頑張って。
頭痛の権威のお一人、間中先生のサイトのここ↓をご覧ください。
http://homepage2.nifty.com/uoh/zutsuu/230moh.htm#%8D%91%8D%DB%93%AA%92%C9%95%AA%97%DE%91%E62%94%C5%82%C9%82%A8%82%AF%82%E9%8AT%94O

投稿: balaine | 2009.04.09 04:01

こんばんは、クモ膜下の予後を調べてて先生のサイトにゆきあたりました。実は主人が昨年クモ膜下で倒れ水頭症を併発しました、その後VPシャントをして半年ほど経ちますが、いまだに首が痛く頭痛もするようです、首が痛いときは何も出来ず横になってます。鎮痛剤も頂いてて前はそれを服用して治ってました、その後お腹がチクチクするというので胃腸科で内視鏡で検査をすると十二指腸潰瘍の軽い状態と言われ入院し薬を服用していたのですが、その時首の痛いときに脳外でいただいた鎮痛剤(ロクサニン入)を飲むとその後すぐ吐いて血圧が170にもあがり意識も悪くなり点滴をうけました、翌日、脳外を受診し主治医にそのことを話し薬が悪かったのかどうか相談したのですが、これは内科の問題で脳のほうの問題ではないと、取り合っていただけませんでした。その後は主人は首が痛くても頭痛がしても怖くてその薬は飲めず、じっと横になって耐えています、実際どのようにすれば良いのでしょうか?やはり時間とともに少しずつよくなっていくのでしょうか?教えてください。

投稿: とも | 2009.05.14 21:26

ともさん、コメントありがとうございます。
このブログのコメント欄は医療相談用ではございませんので、どうしても相談したい場合はこのページの左側の方にある「メールを送信」からメールをお送りください。
一般論から言いますと、胃潰瘍、十二指腸潰瘍のある方にNSAIDSなどの鎮痛剤を使用する事は「禁忌」となっています。逆に、NSAIDSの使い過ぎは胃潰瘍の原因となりますので注意が必要です。
シャントと首の痛みは関係がありそうですが、これはやはり手術を担当した医師に相談すべき事だと思います。

投稿: balaine | 2009.05.15 17:51

身近な知人がヒドイ頭痛持ちですが、間違いなく薬物乱用頭痛です。
この言葉の存在も伝えました。

事情あって保険がなく病院に行く事が出来ず薬ばかり飲んで体調不良な知人…
精神的にも追い詰められ悪化の一途を辿る知人が心配でなりません。

心配なのに他に話せる所もなく半分愚痴ですがすみません(u_u)
今日[薬物乱用頭痛]という言葉をTVで知り携帯で検索してココに居るのですが、こうしてブログを拝見出来た事に感謝いたします。

投稿: ユマナ | 2009.09.06 12:30

ユマナさん、事情で健康保険証がない人でも、自治体の関係部署に問い合わせれば「短期保険証」というのが発行される場合がありますから問い合わせてみてはどうでしょうか。
薬局で痛み止めを購入し続けるお金があるなら、なんとかなるのではないかと思います。
「薬物乱用頭痛」から抜け出さずに過ごしていくのは人生を半分捨てている様なものだと思いますよ。

投稿: balaine | 2009.09.06 13:53

お返事有り難うございます
最後の一文は正にその通りだと…涙が出てしまいました(p_q)

偏頭痛から始まり精神的にも侵され、掛け持ちの仕事や新しい職場を探す気力さえなくなり金銭的に追い込まれの悪循環…
時々聞く『もぅ疲れたよ』の言葉に涙が出ます

短期保険証の件
有り難うございます
話してみますね(u_u*)

それから…こちらの内容をかいつまんで私のブログにUPさせて頂いても宜しいでしょうか…

投稿: ユマナ | 2009.09.06 16:07

ユマナさん、ブログの紹介、どうぞよろしくお願いします。
こちら↓も是非お願いします。http://kurokinc.at.webry.info/200903/article_6.html

投稿: balaine | 2009.09.07 01:01

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