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2009.03.16

介護保険サービスのこと

昨日、日曜の午後1時半から5時15分過ぎまで、正式名称「介護認定審査会委員及び認定調査員新規研修」という長い名前の「研修」に行って参りました。

3時間半に渡り、分厚い資料のあっちのページ、こっちのページと指示に従って慌ただしく行き来しながらの研修会。参加したのは庄内地区全域(遊佐、酒田、庄内町、三川町、鶴岡)の医師に、介護福祉関係の看護師、ケアマネージャー、役人(介護福祉関係の市、町の担当職員)、ざっと100名強。
事前に場所と時間の連絡はあったものの「介護認定審査会に初めて参加する医師への説明会かな?」と気軽に出かけて行った私は、まず駐車場がいっぱいなので隣の藤島中学に駐車して来て下さいという段階から面食らいました。役人的な受付、日程説明に続いて、トイレ休憩以外はまったく「おもてなし」はなし、飲み物もなし。休憩は2回合わせて15分。
「日曜の午後に人を呼び出しておいて、研修と言う名の強制的な説明会、、、まったく!」という印象しか残りません。医師として25年、特に神経系、脳神経外科を専門にしてきた人間です。「介護認定調査委員」(医師ではない人)を対象に、「上肢の麻痺の見方は座った状態であげさせて顎のラインまで届くかどうかで診て下さい」と言うようなあまり医学的とは言えない説明を延々と聞かされて辟易しながら我慢して座っていたという感じです。「調査委員」(非医師)と「審査会委員」(医師)は別々に研修を行うべきでしょう。
挙げ句には、「認定調査委員」(公務員ではないが市町村から介護認定の訪問調査の委託を受けている)も個人情報の守秘義務を始め、違反した場合は「公務員に科せられる罰則が適用される」という話まで「大事な事ですが、、、」と説明を受けた。
地方公務員法で、「1年以下の懲役又は3万円以下の罰金」と規定されているらしい。

自分からこの仕事を「やりたいです」と手を上げた覚えはない。介護保険サービスは市町村が保険者となって行うものなのだから、どちらかというと市町村の職員が全て行うべき公的サービスなのだが、医療の専門家がいないので地区医師会を頼んで病院勤務医や開業医が「代行」している仕事という認識でいる。その「代行」を「依頼」されている立場の者達に対して「公務員法で罰せられますよ」という話は、「注意して下さいね」という気持ちからなのだろうが「何かおかしくない?」という反感を抱かせた。
広い会場に顔見知りの医師もチラホラいるのだが、開業わずか1年で審査会委員に任命されて研修を受けているなんて私だけだった。一番新しいところで開業3年目の医師もいたが、開業して10年近く経つ先生や、病院勤務20年というようなベテラン医師も多かった。

介護保険のサービスを受けている一般市民の方々は、介護認定がこのような医師達のボランティア的活動に寄って支えられている事はあまりご存知ないだろう。私の場合、地区医師会長の名前で介護認定審査会に参加できる希望日程などを調査された上で、通常の平日夕方からでは診療に差し支えると困るので、「半ドン」にしている木曜の午後6時半からの会議を希望し、そこに出席することになっている。つまり介護認定審査会委員を続けるこれから2年の間(平成23年の3月一杯まで)、およそ2週に1回の割で木曜の夕方を空けておかなければならず、どこかに遊びに行ったりも出来なくなる訳です。
そういう役人、看護師、介護職、医師達の働きがあって介護保険サービスが維持されていると言う事をどのくらいの一般市民がご存知であろうか。
「要支援1、2、要介護1、2、3、4、5」というあの段階を決めて、それに応じて介護サービス(物理的、経済的、精神的な公的支援)が行われるのだが、これは元来は「医療費抑制政策」によって確立したもの。高齢化社会において、膨らみ続ける医療費。破産に向かっていく保険者(国民健康保険とか社会保険の支払い基金)。これを解決する一つの方法として、医療保険とは別に「介護保険料」を被保険者(つまり一般市民)から徴収し、介護サービスが必要となった人(一般には病人)に対して、医療とは別の社会福祉サービスとして、保険者を市町村などの地方自治体として(というより国としては地方自治体に押し付けて?)、国の予算等に関する統計上「医療費」には組み込まれない金の動きを「介護保険」という形に換えた物と言い換える事もできる物です。つまり病気の人を治療するのにかかる医療費とは別枠で、高齢故に身体の弱っている人、または慢性の疾病を抱えた故何らかの介助、介護が必要な人を「医療費」ではなく「介護保険」でカバーする事によって、見かけ上国の総医療費を抑制している形になる訳です。
「介護保険サービス」は、弱者を救済し広く公平に公的な医療福祉サービスを享受できると言う面では良い制度だと思いますが、要するに一般市民から税金を獲った上で更に介護保険料という形でお金を徴収することで、医療保険料(国保や社保の保険金)とは別建てで行っているサービスなのです。
そのサービスを実施する根幹となるのが「介護認定」で、その認定審査は医師に行わせる(というか医師でなければ出来ない)のですが、その役目に一般開業医を「使っている」という形になると思います。これは当然の義務なのか。おそらく推薦指名された時点でお断りする事は出来るのだと思います。医師会長名で届いた書類には「委員として推薦致しました」と書かれています。推薦を辞退することはできるのだと思います。しかし、地区医師会に所属する医師が順番で回って来たら義務としてこなしている仕事をあえて断る特別な理由もないのでお受けした事になっている訳です。

今後、益々高齢化社会が加速し、あと6年後の2015年には団塊の世代が「前期高齢者」になり、全人口の25%が高齢者ということになります。山形県はそれを上回る28.6%が高齢者となると予測されており、『介護保険サービス』の重要性は更に増す事になります。
高齢者が増え、医療費が嵩む中で、「介護保険サービス」によって見かけ上の医療費を抑制し、病院、診療所以外の施設での医療を含む社会福祉サービスを提供するというものですから、今後「介護認定調査」も「主治医意見書」も増加し、それを元に判定会議を行う認定調査委員会の頻度も件数も増大すると予測され、医師が病院や診療所で働く以外の仕事も益々増えるのでしょう。
今でも「医療崩壊」を食い止めるために、病院勤務医の負担を少しでも軽減し医師の病院離れを防ぐために地区医師会会員の診療所開業医が「病院の宿直」や「当直」を分担するということを始めている地区医師会もあります。病院勤務医の労働環境が悪いから、待遇が悪いから、病院での宿直や当直を続けたくないから勤務医を辞めて開業したのが本音だと言う医師も少なくないのに(私も開業理由の一つになります)、その医師達に病院宿直を手伝わせるというのはいかがなものかと思います。
要するにhuman resourceとして医師の絶対数が少ないのです。
厚労省が言うように医師の数は足りているなどということは現場の感覚ではありません。人口と医師数を単純に割ったり掛けたりして計算して出している「医師数」と、実際に働いている、働ける医師の数、医師の能力には開きがあるのです。そして、ますます仕事ができる医師に負担が増す傾向にあります。やはり医師の絶対数を増やさなければなりません。開業医が病院を手伝ったり、開業医が介護保険サービスの判定会議を手伝ったりというのは本来求められている形ではありません。

その医師の専門が何か、これまでの経験はどうか、その仕事を依頼し任せるのに適任な能力を持つのか、それを判断した上での「手伝い」、すなわち社会的に必然の要請があるならば私はそれを否定するものではありません。医師ならば誰でも、どこでも、何でも、、、という今の体制に不満があるのです。
(話が膨らみすぎたので今日はこの辺にしておきます)

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コメント

こんにちは♪

昨年暮れに山形に行ったとき、先生のブログを思い出して庄司屋さんの天ザル?を食べてきました。情報ありがとうございました。とても美味しかったです♪

ところで介護保険の現在までの余剰金は4700億円余りあるそうですね。なのに介護に携わってくれている人達にも、介護を受ける人達にもレベルの低い対応をするよう手配しているようですね。
保険料をどんどん余らせて、数字的には残っているようですが、もしかしたら既に使い込まれているのかもしれません。
私たちに見えない財布の中身ですから、怪しいものです。

ちなみに自賠責保険の余剰金は1兆3000億円以上計上されているようですが、その内の約6000億円が政府の一般会計に繰り入れられたままだそうですね。この会計報告が金融庁のHPにありますが、ジックリ見極めないと解らないようわざとしているのか、必要な項目が抜けていたりしているのです。
おそらく誰も正さなければ、正規の使い方はなされず、うやむやで終わってしまうのではないかと・・・

介護保険も不足と言いながら、実はなるべく使わせない方向で貯め込まれているところをみると不安になります。
必要なところに余すところなく本来の使い方をしても、介護保険は成り立つのではないでしょうか?
先生方をはじめ、係わる人たちがボランティアである必要などどこにもないですよね!
交通費や日当は出たのでしょうか?
お茶も出ないとは!町内会役員の会合でもお茶は付き物ですよ!呆れますね・・・

投稿: sato | 2009.03.16 22:39

satoさん、ありがとうございます。
「余剰金」、、、本当に「余剰」しているなら、きちんと使って欲しいですね。ただ、現状から将来を予測すると、今いくら余っていてもすぐに足らなくなる事が考えられます。介護保険料や税金をさらに上げざるを得なくなる事態は、あと数年で来ると思います。

日曜の「研修」の時、交通費や日当など出ておりません。まったく何もありません。私の家から藤島の会場まで往復1時間以上かかります。ガソリン代だけで4〜500円かかると思います。でも、150人近い人に、たとえば5,000円ずつ出せばそれだけで75万円ですからね。そんなお金は予算に組まれていないでしょう。「研修なんだからただで集めればいいんだ」というのが役人側の考えだと思います。
「介護認定審査会」もボランティアですよ。

投稿: balaine | 2009.03.17 08:55

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