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2009.03.06

3大B

音楽の世界で「3大B」といえば、バッハ、ベートーベン、ブラームスとドイツの生んだ3大作曲家のことを指すことになっている。
3月4日(水)、すでに2日前の話になってしまいましたが、酒田市民会館希望ホール「大ホール」で、ドイツ在住の佐藤七菜子さんのピアノリサイタルが開かれたので聴いてきました。
Zu1029_2東京生まれの佐藤さん。そのお母様が酒田出身で、お祖母さんが酒田で闘病中だったため、留学先のドイツからお見舞いに来たついでに折角の機会だからと、希望ホールの「小ホール」でリサイタルを開いたのが2年前の3月。私はその当時は山形市に住んでいたのでこの演奏会を聴くことが出来なかったけれど、知り合いなどの口コミで「小ホール」に用意した座席は一杯、溢れた人は後方で立ち見、通路に座って熱心に聴いたという話を聞きました。素晴らしいコンサートだったという感想も聞きました。

実は、今年の3月上旬にまた留学先のドイツから酒田に来るので、『ジョンダーノ・ホール』ででもリサイタル開けないでしょうかね、と知人から打診されたのは確か1月末頃。佐藤七菜子さんは直接存じ上げない訳ですが、素晴らしいピアニストとの事で、こちらとしては喜んで!ただうちの狭いホール、元G7を改造したピアノでいいのか?という気持ちがありました。スケジュールが合うようならホールの使用料はもちろん「タダ」でいいですよとお返事しておきました。
その後、結局「希望ホール「大ホール」」でのリサイタルが決まったと,その知人から連絡がありまもなくチラシ(写真)を頂きました。わずか70人で超満員の「ジョンダーノ・ホール」から満席1200超の「大ホール」へと、こりゃまた凄い格差だなぁと思いながら、そんなホールで演奏する様な方を面識もないのに条件の良くないところに無理にお招きしなくてよかったかな、と少しほっとした様なでも間近で聴きたかったようにも思いました。

3/4の夜、仕事を終えてあたふたと直行で市役所駐車場へ。なんと「満車」との看板が。そこで裏の希望ホール駐車場へ。平日の夜のあまり有名ではない若手ピアニストのコンサートで駐車場が埋まるなんて凄いな〜と思いながら会場へ。受付でも人が並んでいます。やはりワンコイン=500円ということが大きいのでしょうか。それとも私が知らないだけでよほど凄いピアノ弾きなのでしょうか。。。

19:00のコンサート開始時刻を少し過ぎて佐藤さんがステージに登場。
広い大ホールのステージ真ん中に、昨年の酒フィル定期で石井理恵さんが「チャイコのPコン」でガンガン鳴らしたシュタインウェイのフルコンが「ポツン」という感じに置いてあります。観客は6割ほど入っているのでしょうか。有名人でもなく、前宣伝もなく、平日の夜の一人リサイタルとしては「良く入ったな〜」と思います。

プログラムは、
1)J.S.Bach:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 BWV1004より「シャコンヌ」ニ短調
2)L.v.Beethoven:ピアノソナタ第31番 変イ長調 作品110
3)J. Brahms:幻想曲集 作品116
と冒頭に書いた「3大B」です。

演奏を聴く前から「また凄いプログラムを組んだものだな〜」と感じていた。ベートーベンのピアノソナタは別として、平日の夜に聴いても心うきうきとなるようなプログラムではない。どちらかと言えば、重く暗い印象の曲目。ピアノ弾きにしてみれば、そのテクニークと音楽性を正面から問うて来る様なある意味挑戦的とも言える選曲と言えるのではなかろうか。よほどの自信家と思われても仕方のない選曲とも考えられる。いや自信がなければ、自分に縁の地とはいえ希望ホール「大ホール」でのソロリサイタルをいきなりやるだろうか。

演奏は、(すべての譜面を知っている訳ではないのである意味「印象」に過ぎないが)楽譜に忠実に、派手なパフォーマンス的なところの一切ない、無駄をそぎ落とした様な演奏だった。ピアノの音は美しく、時折ホールの響き(残響)とペダリングがかみ合っていないかな?という部分も感じたけれど、重みのある、抑制の利いた音色と演奏スタイルだった。現在ドイツ国家演奏家過程で研鑽中とのことであるが、すでにある程度完成された音楽家であり、まだ模索しながらも自分の演奏スタイルというものを持っていらっしゃるのではないかと感じた。逆に言えば、素人受けしない、面白みの少ないパフォーマンスだっととも感じられる。クラシック音楽に、素人受けするパフォーマンス(見てくれだけのことではなく)が必要なのかと言われれば、それは考え方次第であろう。佐藤七菜子さんの演奏は、いかにも「ドイツ」という感じで、おそらく今ついている「先生」の影響が強いのだろうが、とにかく堅実、持ちうる技術を確実に鍵盤上でコントロールして譜面に忠実に作曲家の書いた音楽を「再現」するという演奏家の立場にこだわったもののように感じられた。つまり「玄人受け」する演奏だったろう。
そのためか、観客の反応としては熱狂的なものはまったくなく、おそらくお母様やお祖母様の関係者など一部熱心な観客を除けば拍手も好意的ではあるが醒めた感じのものが多かったように感じた。かくいう私も、その演奏技術の高さと抑制の利いた無駄の少ない演奏に感心しながらも、心弾む様な盛り上がりに欠けた感じを少し残念に感じていた。

いや、そもそも、この3曲をプログラムに選んだ段階から「心弾む様な盛り上がり」はあまり期待出来ない訳である。大バッハの「シャコンヌ」は元はヴァイオリン曲だがピアノでもよく演奏される。ギターでも演奏される。でもこの曲はやはりヴァイオリンの曲で、これをピアノで演奏する意義が私にはまだ理解出来ない。クラシック音楽の原典、常に目指すべき高みとして存在する大バッハ。その中でも燦然と輝くこの「シャコンヌ」に音楽家が挑戦する意義は理解出来る。オケ版もあり、あの斎藤秀雄の薫陶を受けたサイトウキネンが演奏するのも理解出来る。しかし、どんなに凄い名手が弾いても、ピアノでこの曲の持つ魅力を引き出せるのかというと私の頭には「???」が出る。以前、響ホールで浜松国際ピアノコンクールで優勝した男性ピアニストのリサイタルを聴いた時にもこの「シャコンヌ」の演奏があったが、それ以外の曲が魅力的だったのにどうもこの曲だけは「下手」に聴こえてしまうのだった。原曲と違う楽器で演奏を試みるというなら、まだフルートでバッハの「チェロ組曲」を演奏するなら理解出来る。バボちゃんのホルンで奏でるチェロ組曲はこの上なく美しいが。。。
ヴァイオリンの「シャコンヌ」をピアノで、というのは未だによく分からない。おそらく私の音楽的素養の低さ故なのかもしれないが、単純に「面白い」と感じられないのである。

というわけで、佐藤さんの技術とか音楽のレベルという前に、曲のレベルの高さと言うか敷居の高さに気持ちがやや萎えながら、否定的に聴かないように、演奏を肯定的に捉えるように自分の心に語りかけながら聴くのに疲れた演奏会だった。
ちなみに熱狂的ではないが温かい観客の拍手に応えて、アンコールは2曲。ここでピアノの横に用意してあったマイクが初めて使われた。コンサートの最初から置いてあったのだが、彼女は一切MCなしでピアニストとして演奏を終え、アンコールに入る前に短い挨拶。いわく「日本語がおかしくなってしまい噛んでしまいそう。あまりしゃべるのは得意ではない。今日はありがとうございました。」こんな感じであったがこういうところにも佐藤さんの性格を垣間みる感じ(決して否定的な意味ではなく)がした。目立ちたがり屋、山形内陸弁で言うところの「あがすげたがり」の正反対の、質実で素直で、でもどこか危うげな印象があった。
1曲目はショパンのノクターン嬰ハ短調「遺作」。あの「戦場のピアニスト」でも有名な曲。彼女のショパンは、これまた楽譜に忠実なテンポルバートの少ない演奏だった。ベタな関西系のノリの様ないかにもショパン!という演奏よりはずっと好感が持て、演奏者の性格が現れる様な素直な演奏だったように思うが、どうも「熱さ」とか「哀感」などを感じにくい印象だった。
2曲目のアンコールは、ブラームスの何だったかな?素敵な曲でした。

誤解されないように最後に書いておくが、素晴らしい技術を持った素晴らしいピアニストであることは間違いない。演奏解釈も、私的感情を抑えて譜面を忠実に理解し再現しようとしていることがよく理解出来、持っている凄さをさりげなく出してしまう音楽家だと思う。ミーハーな観客の多い日本より、音楽をよく理解しているドイツではきっと高い評価を得られているはずである。ベルフィル団員を始め、彼女の事を信頼し共演している世界的な音楽家も少なくないとお聞きしている。
素人受けしないのは、選曲のせいと、その淡々とした、敢えて言うなら若い女性にありがちな浮ついた感じのない、どちらかというと一見老成した様な響きのせいだったのだろうか。彼女の演奏は、今度ベーゼンドルファーで、もう少しこじんまりとした響きのぼやけない部屋で聴いてみたいものである。
今回の彼女のリサイタルは、現在ドイツで学んでいることの「研究発表」的な演奏と考えればそれなりに納得出来るが、それならばワンコインなどと言わず無料で良かったのではないか?(どうせ500円では収益が上がる訳ではないのだから)。1円でもお金を取るならミーハーな客も居る事を考えてプログラムを構成してもいいのではないかと思う。この考え方は間違っているだろうか?

しかし、それにしてもやはり3大Bは大きな存在である。

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コメント

興味深く記事を読ませて頂きました。
近かったらぜひとも聴きに行きたかったプログラムです。
へそまがりかもしれないけど、もはやショパンやら何やらではあまりわくわくはしないのです。
でもシャコンヌ、31番とくればわくわくしないわけにはいきません(笑)
ほぼ間違いなくバッハ=ブゾーニ シャコンヌだと思いますが、わたしはこれはバッハととらえる以上にブゾーニのピアノ作品と考えます。
こんなにピアノの可能性を追求した作品もめずらしいのではないかと思いますし、心から愛してやまない曲です。
というより、私にとっては、ヴァイオリンの原曲ではなく、ブゾーニ編曲のこの曲がシャコンヌであり、多分自分の一生の中で、命を燃やせる最高の曲です。この手であの音を出したら完全にしびれますぜ(笑)
偶然ですが、今日のコチラ(鍵盤)の記事に、シャコンヌの表紙画像があります♪(* ̄ー ̄)v

投稿: かおる | 2009.03.06 21:13

当日またもや出張となり日帰りで神奈川方面に行っていました。トホホホ・・・。聴けなかったです。残念。

本日は「おくりびと」祝賀会に参加させていただきました。地元の関係者の会ですが盛大に行われました。私は第九のエキストラ高倉健として参加していた関係で、お声をかけていただき出席しました。

監督さん、モッくんさんのビデオレターもあり、リップサービスとはいえ酒田をほめていました。食・人・環境、、、、都会には絶対にないものが心を引き付けるのでしょうね。

先日の出張、先週の家族小旅行での上京を通じても、やっぱりさがだいど思ったけ~。

ちなみに先週は長谷寺、鎌倉大仏、鶴岡八幡宮に行って来ました。こちらは、心を洗われて来ました!

投稿: KEN | 2009.03.06 21:51

おお!かおる亭様、
あなた様にこのような事を言われては私は何も返す言葉はなく、、、
やはり「シャコンヌ」はベーゼンドルファーですよね〜。
いえ、私は、ピアノならバックハウスがベーゼンドルファーで弾くベートーベンのピアノソナタが好きな人なのですが。
うちの「ベーゼン風」中古G7改造ピアノでかおる亭様に「シャコンヌ」を弾いて頂きたいです。

なんだろ、こないだのコンサート、単に私の体調が悪かっただけという気もします(前日などは何年かぶりに嘔吐までしましたので、、、)。

やはり本物のピアノ弾きとかピアノ音楽愛好家ならば、垂涎のプログラムって事ですよね。。。

投稿: balaine | 2009.03.07 02:38

KENさん、監督は富山県から何か賞をいただくようですね。酒田や庄内をこれだけ世界的に有名にして頂いたのですから、滝田監督、小山さん、モックン以下、皆さんに山形県としても何か贈るべきでは?
もらいっぱなしではかっこわるいんではないでしょうか。

投稿: balaine | 2009.03.07 02:40

balaine先生

わたしも同感です。取り急ぎ、希望ホールにお迎えし酒フィルと第九を歌う会で歓喜の歌を贈りたいですね。でも多忙ですからね。

♪ 蛇足ですがモックンはS県に居る私の従妹
の高校の先輩だとか。O市民賞をもらったそうです。

やはり「もらいびと」だけではいけませんね。

投稿: KEN | 2009.03.07 13:28

KENさん、
もっくんも山崎さんも滝田監督も6〜7月には酒田にいなかったはずですので、おそらく「岩ガキ」は食べておられないでしょう。孟宋汁は「ひでさん」がご馳走したと言っていたので、やはり「岩ガキ」と冬の「寒ダラ汁」をご馳走したいですね。
そうそう、脚本の小山薫堂氏は4月から山形市の芸工大の学科長ですね。凄い事です。学生も盛り上がるでしょう!

投稿: balaine | 2009.03.07 19:09

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