第194回ということは、あと6回で記念すべき第200回です。
今年の秋、11/21、22の2日に渡り、山形テルサで行われます。
なんと、飯森音楽監督以外に、創立名誉指揮者の村川千秋さん、名誉指揮者の黒岩英臣氏、正指揮者の工藤俊幸さんと、一公演を4人の指揮者が振るのです。これは見逃す訳にはいきません。
しかし、個人的には酒田フィルの定期演奏会を指導指揮してくださっている井崎正浩さんが音楽監督を務めるハンガリーのソルノク響がソルノクの合唱団とともに総勢200数十名で来日し、ちょうど11/21に遊佐公演、11/22に酒田公演が重なってしまっています。ソルノク響は、平成18年1月に酒田フィルがハンガリーまで出かけて行って一緒に演奏をし(私のショパンのPコンでの1番フルートデビュー)、同年3月にはソルノク響の選抜メンバーが来日して、遊佐、そして酒田で酒田フィルと共演し(「コンサート大成功!」を参照ください)、東京でも豊島公会堂(「第三種接近遭遇!」を参照ください)でコンサートがありました。
こういう御縁があるので、どちらを優先させるか大変悩みどころです。
山響の「第200回」はこの時限りですからね〜。しかも村川先生が山響を振るなんて、何年ぶりなんだろう。
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さて、話をタイトルに戻しましょう。
1/17,18の2日間公演で演奏されたのは、ブルックナー作曲交響曲第5番のみ。
これを聴くために午前10時半少し前に酒田を出てお昼頃山形到着。
久しぶりに「ペペロンチーノ」でパスタを食べようと思って行ったら、「寒河江に移転しました」という張り紙が。。。グヮ〜〜ン!
南原町かな?近くにあるパスタを出すお店「ガトー・フレーズ」に変更して昼食。
急いで山形テルサへ向かいます。
コンサートの開演は午後2時なのでまだ1時間以上ありますが、なぜ急いでいたかというと、山響首席フルート奏者の足達先生に午後1時からレッスンを受ける約束をしてあったのです。
先日、真室川中央公民館での『ピーターとオオカミ』を聴いた時に、さすが完璧な「小鳥」を演奏された足達先生に直接ご指導を頂くチャンスをもらったので1分でも遅れる訳にはいきません。12:45頃山形テルサに到着。楽団員が出入りする裏口から私だけ入れてもらいバックステージの空いている部屋へ。
マンツーマンでレッスン開始(断っておきますがプロに30~40分程個人レッスンを受けるのですから当然「有料」です)。
毎日練習して来ているとは言っても、私の実力ではまだ「小鳥」らしく羽ばたくどころか、生まれたて、卵の殻を破ってようやくヨチヨチ歩き出した程度。先生の前で緊張しながら、難しいと思う部分、運指の疑問などを質問しながら指導頂きました。この曲は通して20分程度でそれほど長くはなく、活躍するフルートだって吹きっぱなしではないので、小鳥の部分を全部くっつけて演奏すると10~15分程度です。その中に、なんとなんと「替え指」を6カ所も教えて頂きました。32分音符の連続を「バタバタ」演奏しても音がクリアではなく綺麗に聴こえないのですが、「替え指」を使うとその音そのものはちょっと芯のない情けない音になったとしても、高速パッセージの中ではずいぶんとクリアに聴こえるのです。教えてもらったその場で「替え指」による効果が実感出来ました。後はこれをもっとクリアで高速に演奏出来るように練習するのみです。
中には「替え指」の使いようもなく、ただ頑張ってさらうしかないところもあるのですが、3月1日の酒フィルファミリーコンサートまでのあと6週間でなんとかなりそうな気がしてきました。「ヨチヨチ」歩きの雛から、羽が伸びてちゃんと木の枝に飛んだり出来るように頑張りたいと思います。
...
バックステージからは外に出ないでそのまま山形テルサの観客席のほうへ。
チケットモギリを通らなかったので、一旦受付に戻りチケットを見せてプログラムを受け取ります。
80分近い曲の間に休憩はないのでまずはトイレへ。館内放送でも繰り返し「途中休憩はございません」と案内していました。
音楽監督飯森さんのプレトークは13:50少し前にスタート。
たっぷりとお話しされましたが、プログラムにも書いてある「ブルックナー休止」とか「ブルックナーユニゾン」とかブルックナーに特徴的なことも解説されました。アーノンクールの解説の事(モーツァルトのレクイエムに大きく影響されている事など)や、ブルックナーは元々父の代から教会のオルガン奏者だったので、作曲にもオルガンを使ったのか、「バ〜〜ン」と鳴った後、協会の中で音が響いて減衰して行く時間が長いため、交響曲でもオケがtuttiでグヮ〜ンと鳴った後に、GP=全員休止の部分がたびたび出てくるということや、この曲は長く80分はかかるので皆さん、トイレは大丈夫ですか?とかそのようなお話でした。
前日1/17のコンサートも聴いて2日続けて来ているという熱心な山響FCのメンバーにお聴きすると、17日の夜のコンサートも満席ではなく空席が見られたという事ですが、マチネの18日は更に空席が目立ち、最前列3列は全部空いている状態、1階も後方の左右は結構空いていて、ざっと見渡して8割は入っていない感じでした。山形テルサで8割未満ということは650名いかない観客数。これでは酒田フィル定期の観客数よりもずっと少ない訳です。なんと勿体ない事か、、、と思いました。
山形の聴衆にはブルックナーは目玉にならないのでしょうか。私なら山響がブルックナーをやる限り万難を排して駆けつけたいと思います。いつもの定期演奏会なら、序曲、協奏曲+メインの交響曲というバラエティがあるのと、魅力的なソリストがいるという事も集客力に影響するのでしょう。今回、ブルックナー1曲で勝負なのでソリストもいない訳です。
(narkejpさんからTBを頂いています。そちらの演奏会レポートの方が的確で、しかも詩的な表現が散りばめられ、あの日の演奏がイメージしやすいと存じます。どうぞこの記事の下の方にあるTBをご覧ください)v(^^
始まりました。
変ロ長調の第1楽章。コントラバス4本(エキストラ一人)で主題をピッチカートで奏します。
それに呼応するように、高弦群が出てきます。一瞬の全休止(ブルックナー休止!)の後、弦と木管でマルカートに第2主題(?)を奏します。金管もffで続きます。
最初からマエストロ飯森も気合い十分。鬼気迫る表情で棒を振り、オケも迫力十分に付いて行きます。
第3主題も登場し、盛り上がったり、静かになったり、激しかったり、柔らかかったりしながらズンズンと第1楽章を進んで行くのですが、目標地点が見えない様な、これからどこに行くのだろう、、、という感じで音楽が続いて行きます。
なんと第1楽章だけで20分以上。511小節、練習番号で「Z」という気の遠くなりそうな長大な音楽がようやく終わります。
飯森さん、一度指揮台から降りて、丁寧にハンカチで顔や首筋の汗を拭います。
コンミスの犬伏さんが立って、再度チューニング。オーボエのA=442Hzに弦、そして管が再度合わせます。管は中に貯まった水分の掃除など、楽章間の間(ま)にしては長い休憩。クラのMさん、急いでリードを交換しています。信頼していたリードも2日間の公演でへたって来ていたのでしょう。
第2楽章はニ短調。
2/2拍子なのですが、始まりは弦のピッチカートによる3連符。2拍に6つはいるので、まるで6/8拍子の様な飯森さんのタクト。そこにオーボエが本来の2/2拍子(つまり4/4拍子と同じ拍数)で入って来ます。オーボエのS嬢、低いDの音がスムーズに出なかったように聴こえました。別にアラ探しをしに聴きに行っている訳ではないのですが、弦のピッチカートの中でオーボエ1本だけソロで出てくるのでちょっと目立ってしまいました。とても物悲しく切なくなる様な、しかしどこかに諦観というか超越したものを感じさせるようなメロディを美しく演奏されていました。
リード楽器はこういう長大な曲は大変だと思います。当日のゲネプロ、前日のゲネプロと本番、そしてその前2、3日の総合リハーサル。さらにそれまでの個人練習。相当な数の「調子の良いリード」を作って準備しておかなければなりません。クラリネットもファゴットも大変ですが、やはりダブルリードで出番も多いオーボエは、オケの中心に座るだけあってリードの準備、選択だけでも相当気を使うと思います。楽章間でリードを交換したくなる事もあるのではないでしょうか。結局、選択したリードがちょっとはずれだったのではないかと。。。
やはり20分くらいかかって第2楽章が終わります。
第3楽章。ニ短調、3/4拍子。
軽快なリズム、第2楽章の3連符を倍速にした感じに木管がメロディを奏でます。1番ホルンには結構プレッシャーのかかるソロ(しかも弱奏)が大事な所で入ります。ステージで演奏するのはかなり緊張して難しそうですが、Yさんは美しい響きでクリアしていきました。
時間は長いのか短いのかここまで来るとよく分からなくなって来ました。
3楽章が終わった段階で最初からすでに1時間経っています。
飯森さん、また指揮台から降りて汗を拭いています。犬伏さんがまた立ってもう1回チューニングです。1曲の演奏に3回もチューニングするなんてブルックナーとマーラーくらいでしょうか。。。
第4楽章。変ロ長調、2/2拍子。
第1楽章がまた始まったのかと思うような低弦のピッチカート。そこに唐突にクラリネットが邪魔する様に入ります。「え?間違ったの?」と思う位、唐突です。そして第4楽章の主題をクラリネットが奏でます。
「みんな、そうじゃないんだ!こうだよ!」
と言わんばかりです。ところが弦のトレモロが入って、振り返るような、回想するような、懐かしむようなおかしな雰囲気。そこに第2楽章と同じオーボエのメロディが入ります。今度はクラリネット2本で再度テーマを奏でます。
「だから!こうなんだよ!」
するとようやく低弦が、つづいてビオラが、そしてヴァイオリンがクラリネットの奏でたテーマを美しく奏でながら、弦だけのフーガに入ります。木管、そして金管も加わり、少し複雑な展開を見せた後に、いかにもブルックナーらしい主題が現れ、管と弦が絡みあいながら展開します。
それが一段落(が長いのだが)ついたと思った所で、ホルンを含む金管群のコラール。「ブル4」程のインパクトはないのですが、天上からの神の言葉のような、または神を賛美するような美しい響き。
これで終わるのかな、と思ったらまた戻った感じになり、そして金管のコラール、そしてフィナーレ(この辺りまで来ると記憶がかなり怪しくなりました、コンサート後のインタビューで飯森さんが「4楽章を一部割愛するような版もあるけれど一切カットせず、繰り返しもきっちりやって演奏した」と解説されていた)。
観客席から観ていても、いや〜金管群、頑張ってる!あ〜弦もトレモロ、気合いで弾き切っている、スゴいな〜、、、という気持ちになります。美しい音楽はそうなのですが、なんだか山響の団員さんの頑張りに感情移入してしまいそうになり、音楽を忘れそうになってしまいました。
そしてフィニッシュ!
飯森さんの手が止まり、一瞬の間があって「ブラボー」の声と大拍手。
拍手はしばらく鳴り続け、飯森さん2回目のカーテンコールではまずホルンのYさん、そしてホルン隊(特に3番ホルンも活躍しました)、続いてティンパニを立たせます。
この曲を通して、一番活躍したのはティンパニだったような気がします。pppのトレモロからfffの爆発まで非常にコントロールされて、「曲全体を作っているのは俺だ!」という感じでした。
続いて、トランペットのIさん。2日続けてこの80分の曲を吹き切るのは大変だと思います。トランペットの3人にもブラボーです。
続いてバストロンボーンとチューバの2人が飯森さんの指名により立ち上がって大拍手を浴びます。トロンボーン隊も良く頑張りました!私は見逃したのですが、曲が終わった瞬間、トロンボーンのNさんが小さくガッツポーズをされたそうです。そしてティンパニのHさんと目を見つめ合ってお互いを讃え合っていた様に見えたとは、私の隣で観ていた家内の感想です。
その後、オーボエ、ファゴット、クラリネット、フルートと木管群が指名されて立ち上がり観客の盛大な拍手を受けました。最後に弦5部、tuttiで拍手を浴びます。
すべてのパートが大変な曲ですが、体力的に一番疲れるのは弦ではないかと思います。とにかく「ブルックナー開始」に特徴的な弦のトレモロが多いのです。
こんな素晴らしいコンサートが日曜に、しかも久しぶりに晴れ渡った天気のよい午後に満席にならないなんてどうしてなんだろう?!と思いました。
終演後のロビー交流会で、インタビューに答えて飯森さんが「山響の規模でブルックナーに取り組んで行く事には意味があると思う」というような事を仰っていました。通常はもっと弦の数の多い14型とかで演奏されるのですが、今日の山響は10型。コントラバスが4本でした。
でも金管の素晴らしさ、音の透明感と柔らかいハーモニー。まるで樹氷原の早朝の蔵王をイメージするような曲でもありました。オーストリアやドイツ南部(アルプスに近い地域)は、山形に近い、それよりももっと寒さの厳しい冬を経験する場所で、その澄んだ空気感、透明な太陽の光の感じと言うのは、空気の濁った、人混みの多い東京などの都会のオケでは表現できないのかもしれません。
山響だからこそ、空気の美しい、冬の厳しい鮮烈な寒さの山を間近に控えた田舎の山形だからこそ、そこに住むオケの団員だからこそ表現できる音楽なのかも知れません(そういえば、南米のオケとか中東、東南アジアのオケがブルックナー、、、というのはイメージ的にも想像できません)。
まあ、個人的な思い入れの多い、小学生的感想文みたいになってしまいましたが、とにかく酒田から往復いろいろいれて4時間弱かけてたった1曲を聴きに行った訳ですが、とても満足できる演奏会でした。交流会終了後、すぐに車に乗り、高速道路と月山道を飛ばして酒田に戻ったのは午後5時半頃でした。
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自宅に戻って着替えるのももどかしく、すぐに楽譜と笛を出して教わったばかりの替え指の確認と替え指を使った高速パッセージの練習をしたことは付け加えておかなければなりません。山響のブルックナーが素晴らしかったのは本当なのですが、その音楽に酔いながらも私の心の中にはプロコフィエフの『ピーターとオオカミ』の「小鳥」が入っていて、教えて頂いた奏法などが邪念と言えば邪念になってしまったような印象もあります。
5月の連休明けに予定されている,山響CDシリーズの「ブルックナー5番」を楽しみにします。4ヶ月後に心静かに集中してCDを聴いて初めてこの日の演奏会の素晴らしさが実感出来るのかもしれません。
P.S. 音楽評論家の東条碩夫さんのブログに1/18の演奏会がレポートされています。「まことに驚異的な演奏であった」と評されています。我が事のように嬉しくなりますね!
「東条碩夫のコンサート日記」をご覧ください。
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