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2008.12.04

新型インフルエンザのこと(やや長文)

年の瀬も押し迫ってきましたが、まだインフルエンザ蔓延のニュースは入っていないようです。
県内の医師会会員任意参加のMLでは、どこそこでインフルエンザA型陽性の患者がでた、とか、どこそこの人はB型だったというようなsporadicな情報はあるようです。

乾燥しやすい冬、これからインフルエンザウィルスが猛威を奮うのでしょうか?今年は例年と違う株のウィルスが発生すると予測されており、特に気管支疾患を持つ子供さんと高齢の方は12月中に予防接種を済ませておいた方がいいと考えられます。(予防接種には、「かからないで済む」というような予防効果はありませんが、かかった場合に軽く済む事が期待され、高齢者の死亡率を減らすと予測されています)

さて、表題の「新型」インフルエンザ。
先日の庄内医師集談会でも中心の話題はこれでした。保健所や病院の感染症対策担当者、そして東北大学の細菌学教授などの講演もあり、結構勉強になりました。
巷ではまだあまり話題になっていないようです。「新型」というのと、「今年のウィルスの株が例年と違う」というのとは別の話です。この場合、「新型」=「鳥インフルエンザ」です。
現在、地球上に存在し、人間に感染する通常の(新型でない)インフルエンザも元はと言えば鴨などの水鳥を自然宿主とするウィルスが突然変異を起こしてヒトに移ったものです。ですから、一番最初はその時点では「新型」だったのです。

ウィルスも生命体である以上、自己を守り種族を守って存続し続けようとします。それは人間と同じ事です。インフルエンザウィルスが存続し続けるためには、地球上の生命体に広く感染して蔓延しその子孫を作る(ウィルスの場合は「複製」という作業)事が必須な訳で、元は水鳥などを主な住処にしていたのですが人間を対象に変えて、自分の姿も少しずつ変え(変異)て何世紀にも渡って地球上に存在しているものです。

「新型」=鳥インフルエンザは、現時点では人への感染報告はまだ多くはないのですが、インドネシアではある家族に感染し家族8名中7名が死亡したという報告がありました。WHO(世界保健機構)の発表では、今のところ全世界で鳥インフルエンザによる死者は201名に達しているとの事ですが、原因が鳥インフルエンザだと確認出来ない死亡例も含めればもっともっと多いはずです。
死亡例が報告されているのは、インドネシアのほかアゼルバイジャン、カンボジア、中国、エジプト、イラク、ラオス、ナイジェリア、タイ、トルコ、ベトナムと中東から東南アジアが中心になっています。

日本は大丈夫なのでしょうか?
大丈夫という保証はなく、厚生労働省も「日本にも新型インフルエンザはやってくる」という考えのようです。厚生労働省:感染症に関する情報をご覧ください。
その他にはこんなのもあります。「新型インフルエンザ情報室」という名のブログです。

ウィルス学的に言えば、何十年周期で必ず世界的に広く蔓延するような突然変異が起こっており、これまでに有名なところでは1918年の「スペインかぜ」やその亜系である1957年の「アジアかぜ」、1968年の「香港かぜ」などがあります。(ウィルス学なんて、今回、約30年前に大学で仙台ウィルスの権威であった細菌学教授の本間先生に学んで以来と言っていいくらいに勉強しました)
今回話題になっている「鳥インフルエンザ」は、実際に人への感染とそれによる死亡が確認報告されている訳で、これが全世界に流行しないという保証はどこにもない訳ですから、「流行する恐れがある」と考えて対応し対策を整えるべきという考え方で専門科や政府機関は動いています。

たとえば、1918年のスペイン風邪では、世界中で4000万人、日本国内だけで39万人もの死者を出しています。それと同じ様な事が、現在心配されている「新型インフルエンザ」で起こる危険性は誰にも否定出来ない訳です。
ただ、90年前の抗生物質もないような、衛生環境も現代の様に整っていない時代とは違うとの考え方もあります。ウィルスに抗生物質は効かないのですが、インフルエンザに罹患して高熱で寝込む事によって体力が低下し、通常では感染源にならない様な常在菌(この場合はウィルスではなく細菌)が元で肺炎を起こした場合、抗生物質は有効です。現にスペイン風邪では合併罹患した細菌性肺炎によって多くの人が命を落としたと言われており、現代の医療体制ではスペイン風邪の様な大量の死者は出ないだろうという楽観的な見方もあります。

現在厚生労働省の試算では、「新型インフルエンザ」が日本で蔓延した場合、約2500万人に感染すると想定されています。スペイン風邪やアジア風邪の時のデータに基づいて計算すると、日本国内で50万人(17~64万人)の死者が出るという計算がなされています。
日本の人口のおよそ100分の一が住む山形県に置き換えると、山形県内で25万人が感染し5000人が死亡するという計算です。県内人口の4分の1が住む庄内地方に置き換えると、およそ6~7万人が感染し1200~1300人が死亡するという、恐ろしい計算なのです。

なぜこのように死者が多くなる危険性があるのかというと、一つは鳥インフルエンザが鳥にとっては低病原性(感染してもあまり深刻な事態にならない)ものであっても人にとっては「高病原性」(感染したら高率に病気を起こす)可能性が考えられている事と、新しいウィルスに対して人類はまだ免疫を持っていないため、罹患したら高率に発病し強い症状を呈して死亡する確率が高いという事によります。
元々は「新型インフルエンザ」であった「スペイン風邪」などは最初の1、2年で蔓延して多くの死者を出しましたが、罹患して生き残った人にはそのウィルスに対する抗体が体の中に作られ、次に罹患しても強い症状を呈さずに済む様になったのです(その時点で既に「新型」ではなく、通常の流行性インフルエンザウィルス)。今騒がれている「新型インフルエンザ」も、万一今シーズンや来シーズンに世界中に蔓延したとしても、2、3年過ぎれば人類にはその免疫が出来上がると考えられています。

ですから、蔓延し始めた最初の年が大変なのです。その対策が必要な訳です。
大量の患者が発生し病院や診療所に押し掛けて来たらどうなるでしょうか?病院、診療所の機能が麻痺します。新型インフルエンザではない他の病気の患者さんに感染します。既に病気を持っている人の中には免疫力の低下している人が多いので、高率に症状を呈し死亡する危険性があります。そうならないようになんらかの対策、対応が必要です。

行政、保健所、病院、診療所などではどのような対策を立てているかを簡単に説明します。
・まず、現在のインフルエンザ予防接種の様にワクチンはないのか?というと、「ありません」。まだ人類に広く完成していない、現時点では「鳥インフルエンザ」なのでそのウィルスに感染した人の血液などを元に培養してワクチンを作る事はまだ不可能なのです。
・現在の一般的なインフルエンザワクチンは効かないのでしょうか?答えは「効かないと思います」です。同じインフルエンザウィルスであっても、突然変異して出来る形の違うものなので、既に流行したウィルスを元に作ったワクチンが有効とはまず考えられません。
・世界的な流行をどこかで停められないのか?というと、「停められる可能性はほとんどない」です。
現代の様に世界的に人や物が流通する時代に、鎖国する訳にも行きませんし、空港を閉鎖したり海外渡航を禁止する事はできないでしょう。発病、死者が確認されている上記の様な国から帰国する人を制限する訳にも、現時点ではいきません。
・日本国内で蔓延し始めたらどうするのでしょうか?
蔓延が確認される前に、可能な限り蔓延を阻止しなければなりません。そのために現在出来る事は、「新型インフルエンザに罹患したと疑われる人を他の人に可能な限り接触させない」という対策が必要です。どうやったらできるのでしょうか?
実は、症状(発熱や咳など)では他のインフルエンザやいわゆる感冒と見分けることが出来ません。ですから、発熱した人はすべて同じに扱う必要があります。そこで登場するのが「発熱外来」です。
つまり「熱がある」という症状で病院に来た人は「すべて」一般の患者さんとは別の導線で別の場所に移動させて、別の場所で診察を行います。現在、全国の主たる病院や医師会や保健所などで「発熱外来」の対応は計画されていて、シミュレーションを行っているところもあります。
「ドライブスルー外来」と言って、マクドナルドのドライブスルーのように、発熱した患者さんは自家用車で来てもらい(この場合は公共交通機関の使用を避ける)、車から降りずに別のルートでドライブスルーの様に車に乗った患者のところに医師や看護師が近づいて診療を行うという方式も考えられています。1日に数名ならいいでしょうが、何十人も来たらどうするのでしょう。自家用車を持たない人が多い都会ではどうするのでしょう。冬の戸外は厳寒の東北や北海道ではどうするのでしょう。
そして、これらの対応は新型インフルエンザの感染力からすれば焼け石に水的(無駄ではないが無駄に近い?)なものでしょう。結局、広く蔓延し始め、「発熱外来」には100人単位の人が押し寄せてくる様になるでしょう。とても病院や診療所では対応出来なくなります。
どうするのか?
・病院が最初にする事は「発熱外来」の閉鎖です。すでに発熱外来で診察して、重症の人は入院治療(これも病棟を別にする)を行っている段階ですが、これ以上受け入れる事は物理的に不可能になります。通常の病院の機能が麻痺するからです。脳卒中や心筋梗塞や切迫流産や最近話題になった脳出血の妊婦などをまったく受け入れられなくなってしまいます。通常の病院機能を麻痺させずに残すためには、発熱した人、「新型インフルエンザ」の疑いがある人は病院に来られては困ります。
どうするのでしょうか?発熱した人は自宅待機。外に出るな、病院に来るな、という対応になります。
更に、増加した入院感染患者は病院から別の場所に移し(いわゆる「隔離」です)、他者に蔓延させない対応をとる必要がでてきます。
・自宅に待機した発熱患者さんは治療が受けられないのでしょうか。
病院や診療所に来れない人を見捨てる訳には行かないので、症状を電話などで聞いて疑わしい人にはタミフルなどのインフルエンザ治療薬(治療薬に関しては、体内でのウィルス複製増殖を抑える働きは同じなので、現在のインフルエンザ治療薬も「新型」に効くと考えられています)を何らかの方法で届けるという方策が考えられています。
でも、それをどうやって、誰が、という具体的な対応策はまだ出来ていません。
そういう事態(パンデミック、感染蔓延状態)になったら、あらゆる手だてもほとんど無効になってしまう恐れがあります。そうなった場合には、重症で死亡する人は死亡する、免疫力が強く体力のある人は生き残る、そういった自然界の掟の様な事態になると想像されます。
日本人のうち、50万人が死亡(庄内地方在住者のうち1200名が死亡)して、人類に免疫が成立し「新型」ではなくなって新しくワクチンが生成され、予防接種が広く行われて感染の蔓延が防がれる様になるということが、これまでの歴史を繰り返す様に起こるのでしょう。

以上が、「新型インフルエンザ」に対する現時点での厚労省や保健所や医療機関の対応と考え方です。一般人に何か出来ることはないのでしょうか?
相手がウィルスなので、確実な対応策はないと思います。
一般のインフルエンザと同じ様に、外出から帰ったら手を洗う、うがいをする、人ごみに出かける場合がマスクをする、部屋の湿度を上げる(60%以上が良いと言われています)、などでしょうか。「新型インフルエンザ」に対する対策としては、海外渡航、特に東南アジアへの渡航を控える、最近東南アジアから来た人と接触を避ける(これも問題を醸しかねませんが)、野鳥特に水鳥との接触を避ける、などでしょうか?
そういう理由もあって、最上川スワンパークに毎年飛来する10000羽近い白鳥への餌付けは今年は禁止されました。情報では、飛来数はけっして減ってはおらず、私がブログに写真で乗せている様に庄内の多くの田んぼで落ち穂拾いをする白鳥の集団が例年と同じ様に見られます。

どんなに医学が進んでも、人類にとって「感染症」、細菌、ウィルスはいつまでも敵です。医学の発達と抗生物質の開発によって減少したとはいえ、日本人の死因の第4位は「肺炎」です。
地球とか宇宙と言った規模で考えた場合、増え続ける人口を抑制し、地球環境を保護するためには「新型インフルエンザ」による大量の死亡者によって人類の増加が抑えられる事は必要なのかもしれません。同じ様な意味では、戦争(人が人を殺す)も「必要悪」(まさか!)なのかも、などと今回の問題を機に考えてしまいました。

皆さんは、まず、手洗い、うがい、マスク、部屋の湿度などでインフルエンザ感染を真に「予防」し、予防接種で罹患しても重症化しない様な対策をお取りください。
お大事に!

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コメント

インフルエンザの情報、ありがとうございました。「かからないぞ」との意識も加えて対策をとりたいと思います。

さて、3日付の経済新聞・文化欄に「本番強い脳外科医オケ~激務で合わない練習時間、年2回の学会で集中力~」と題して埼玉医大の病院長さんの記事が掲載されておりました♪

よろしければ、新聞を確保しておりますので差し上げます。

もしかしたら、音楽はインフルエンザ予防になるかも・・・・・・・(失礼しました)

投稿: KEN | 2008.12.05 01:33

KENさん、どうもっす!
あ、その「脳外科オケ」は私も所属しているものです。今年は参加していませんが、昨年まで年に2回の演奏と合宿にずっと参加していました。
埼玉医大のM教授からも新聞に出ると言う連絡は頂いていたのでした。よろしければその新聞頂きたいと思いますのでよろしくお願いします。

投稿: balaine | 2008.12.05 08:30

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