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2008.11.22

MRI、その後

私は開業するにあたって脳外科医としてどうしても画像診断、特にMRIは必要だと考えました。
ただ、MRIという医療機器は、一時に比べれば機種も増え価格も下がったとはいえ、定価ベースで言えば一台1億円から数億円という値段の代物です。
長く大学病院に勤務し蓄えのない貧乏医師としては個人事業の展開や借金返済を考えれば、診療の目玉にはなりますがリスクは大変大きい。どんなに一般的値引き交渉をしても(公立病院ではないので「入札」などは必要なく個別の交渉が可能)限界はあります。現在、日本で主に使われているMRIを製造販売する会社は、G社、P社、S社、T社、H社といったところが主流だと思います。大学付属病院や大病院では、超伝導MRIでも1.5T(=テスラ)から3.0~4.0Tという高磁場超伝導MRIがどんどん導入されつつあり、画像の分解能や種々のオプションによる脳機能解析などに力を発揮する素晴らしいMRIがどんどん発売されています。そういう高機能のMRIは、値引き交渉をしたとしても2億円前後する上に、液体窒素と電気代などのランニングコストがべらぼうに高く、年間数百万〜数千万円というコストなのです。

Mridemot2revどうせ高額な機器を導入するならば、なるべく妥協はしたくない、でも値段は安い方がよい。ランニングコストも低い方がいい。
そうすると、どうしても常伝導型のMRIになります。ランニングコストの面からは、コイル型よりは永久磁石式がいい。0.2Tよりは0.3Tが、0.3Tよりは0.4T(現状ではこれが最も高磁場の常伝導型のパワー)ということになり、拙医院にはH社の0.4Tオープン型全身用MRIを導入する事にしました。(写真は、拙医院の0.4TオープンMRIで撮像した脳のT2強調反転画像)

価格交渉の末、最終的に機種を決定したのはちょうど1年くらい前になります。
常伝導永久磁石式のMRIの場合、設置して電源を入れて安定した磁場が得られる様になるまでに数週間から1ヶ月かかるということで、3/3の開院の1ヶ月以上前に設置する必要がありました。2月末には正常に稼働している状態を得るためには、遅くても1月末に設置完了の必要があります。MRIは、電気屋さんに行って「これ、ください」というような買い物ではないので、注文を受けてから作るという状況の様で、納品に2,3ヶ月はかかるということでした。昨年の9月末か10月初めにはほぼ決定して、更に価格交渉や保守点検の条件についてなど細かい点を詰めて、11月には決定していた訳です。
その過程において大変お世話になった方がいます。

H社の東京本社で部長職を務めているそのI氏は、実は私と高校の同級生で、一緒にブラスバンド部に所属し、彼はホルンを吹いていました。本業は合唱で(私も本業はテニス部でした)、私の2年のときの担任であったT先生の指導する合唱部でも頑張っていたようです。私と同じ大学の工学部を卒業してH社に就職し、主にレントゲン撮影装置の開発に携わり、現在は電子カルテや医療情報を扱う部門で活躍しているようです。連絡を取ったら、多忙の中スケジュールを調整して酒田に飛んで来てくれました。
10年くらい前に、出身高校で毎年夏に開催している全体同窓会の幹事役が我々の学年になった時、私も初めて仙台のホテルで開催されたその会に出席しました。「大言海」の著者大槻文彦作詞の校歌や応援団に強制的に覚えさせられた凱歌などを久しぶりに歌いました。その席で、I氏と再会していなければ、彼がH社に勤務している事など知りませんでした。高校卒業後31年降り、全体同窓会後数年ぶりに連絡を取ったのです。
Photo_9(写真はI氏が先日久しぶりに酒田に来てくれたときのお土産、「ダロワイヨ」のマカロン!)
I氏は、価格交渉などを含めあらゆる面でいろいろ骨を折ってくれたそうです(高校の同級生が開業するから何とかお願いする、とH社の相談役にまで直接掛け合ったと聞きました)。


それでも、現金で購入するお金は持っていないし、医院の建築、土地建物を含めて家賃、その他の必要物品の購入などにかかる莫大な借金から考えて、MRIは「リース」でということになりました。このリース代だけで毎月100万円以上勝手に出て行く状況ですので、それなりに稼がないとやって行けません。「MRI貧乏」にならないためには、最低でもMRIの元を取れる数の検査が必要で、毎月およそ100件近いMRI検査を行う必要があります。1日あたり平均4~5件と言う事になりますが、今のところはぎりぎりどうにか、、、という感じです(日によってばらつきが多い)。
幸い開業して半年を過ぎた頃から、あそこはMRIのある医院らしい、行ったらすぐにMRIを撮ってもらえるらしい、という事が少しは広まって来たようです。来週末にある庄内地区の医師の集談会で、開院以来のMRI撮像症例についてまとめてみる予定です。
An324b今までに、髄膜腫、聴神経腫瘍、破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血、未破裂脳動脈瘤、慢性硬膜下血腫、急性期脳梗塞、くも膜嚢胞、ラトケ嚢胞、その他多くの脳疾患の確定診断が付けられ、必要に応じて大学病院、地元の総合病院の脳外科、神経内科などに紹介し治療をお願いしました。未破裂脳動脈瘤の症例の中で2名は、血管内治療を行える設備とスタッフを揃えた施設に紹介しGDCによるコイル塞栓術を行ってもらいました。

ということで、なんとかMRIもそこそこ順調に稼働しています。望むらくはもう少し、1日平均6~7件のMRI検査が行えれば借金返済や家賃支払いに苦しまなくても済むのですが、、、(苦笑)。

先日I氏が酒田に来てくれた際には、彼の交際費(?)で一緒に食事をしました。これまで3回、今回が4回目の来酒でしたが、漸く『ル・ポットフー』に連れていく事が出来ました。

Photo_10Photo_11左:前菜「ひらめのカルパッチョ、いくら添えとサラダ」、右:スズキのポワレ菜の花添え
飲み物は、先日この店のソムリエに勧められて初めて口にして気に入った、上山の竹田ワイナリーのスパークリングワイン「ドメーヌ・タケダ ブリュット」。
Photo_12Photo_13左:メインの山形牛のステーキ、レアミディアムで頂きました。
右:デザート、グラスの中はジンとライムのシャーベット。季節のフルートの中にはしっかり「庄内柿」が入っています。
職業柄海外出張も多く、奥さんとともに国際レベルの合唱団に属していてパリ公演などにも行っているI氏にも満足して頂けたようです。
(著者註:こういう食事をした翌日などは自宅では質素に納豆ご飯とおかず一品ぐらいで過ごしています、なにせ高額借金を抱えた身ですから)

ほんの5年くらい前までは開業するなんてこれっぽっちも考えたことはありませんでした。
患者さんが最後の砦として頼りにしている前線の市中病院に勤務し忙しく身を削って働いているのに、「患者中心の医療」の名の下に厳しい労働環境で我慢して働いている脳外科医に対して、県も、病院の中枢にいる人達も、事務も、冷たい対応でした。さらに働いた分の労働対価として当然請求していいはずの「時間外労働」の手当も県の予算が減らされた結果、事務の方で勝手に削ってきました。医師への世間の風当たりは強くなり、特に医師や病院を悪者にして一般大衆を味方につけ改革の先導者気取りのマスコミには叩かれ続け、医師として苦しむ患者さんのために自分の自由にできる個人的な時間や趣味の時間を削り夜中も休日も正月も働いているのになんだか空しい、悲しい気持ちにさせられモチベーションが下がってきました。50才を目前にして、ずっと市中病院や大学病院で忙しく身を削って働く事に疑問を感じ始め、そこに音楽、特にアマオケへの開眼が加わり、医師をやりながら自由な時間を作るためには開業するしかないと結論し今年開院しました。
最近でも二階経産相に、今度は麻生総理までも、医師を愚弄するような発言をなさいました。マスコミに作られた、「医者=金持ち」「病院=医療事故隠蔽」「医療=安全で完璧なのが当たり前」というような極端な考え方が、この国のトップの脳まで支配しているようです。単なる無知ではなく、「洗脳」されているとしか思えない発言が続きます。

自分が倒れたお終いという、個人事業主として世間の荒波を乗り越えて行くために、自分の知識と経験を生かすべく、そして専門性を特に活かすためにも、超高額医療機器であるMRIを導入してようやく船出したばかりです。その船出に際し、上記I氏を始め、多くの人から助けられました。高校の同級生がたまたまH社にいたというのも何かの縁と感じます。
これから5年、10年後の事を意識しながら、MRIを撮って行きたいと考えています。

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今日のオマケ
Cyoukai1122ここ数日、天気は荒れています。寒い。雪もちらつき、風は吹き、時折激しい雨。そして夜中の雷鳴。
ついに昨日冬タイヤにしました。
そして、今日、重たい曇り空の中、ちょっとだけ晴れ間が除いた瞬間の鳥海山。
頂上には厚い雲がかかっています。
積雪は中腹を下り、3〜4合目辺りまで降りてきているようです。

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コメント

いつのまにか開業しておられたのですね。お元気そうで、何よりです。

掲示しておられるMRIは0.4Tと思えないぐらい綺麗な画像だと思います。普通の1.5Tと比べて、何ら遜色ないですね。

これからも時々コメントさせてください。

投稿: ナオタカ | 2009.01.24 22:33

ナオタカさん、コメントありがとうございます。
えっと〜、、、申し訳ありませんが「ナオタカ」さんではどなたなのか思い出せないのですが。。。
認知症、、、かな?(笑)

うちの装備で一番優れているのは、MacOS X + OsiriXによるPACSで、3d-MRAはMRI装置付属のソフトに比べて、格段に美しく説得力に溢れた画像が得られます(血管には赤いグラデーションをつけて、3次元表示し、マウスでクルクルウ回して天球上どこからでも眺める事ができる事が出来ます。この3d-MRAを得るのに要する時間はおよそ2秒(!)ですよ。現在地球上で最強のパソコンと言える、MacProにグラフィックボードを2枚載せていますし、ディスプレイは30"シネマディスプレイを使っています。

おそらく山形県内の脳外科のある施設で、拙クリニック程協力なPACSを装備しているところはないと思います。

投稿: balaine | 2009.01.25 19:22

すみません。

半ば公共の場であるコメント欄なので、新しくハンドルネームを作りました。

リアルでは、何度か先生とお話させてもらっている GIN メンバーの1人です。特にMRを使った3次元画像の有用性を熱く語り合いました。

先生の語録で覚えているところは・・・
「ノンラプは絶対に無理しちゃ駄目です。ひいて正解だったと思います」
「醤油つけすぎたら、塩分過剰になっちゃいますよ」

そして、学会場で
「フケたように見えますか・・・私も年ですから」

今になってみれば、先生が1番苦労されていた頃だったんだな、と納得いたします。その節は失礼いたしました。

このページにある「メールを送信」を使って、メールをお送りさせていただきます。

投稿: ナオタカ | 2009.01.26 10:03

ナオタカさん、コメントとメールありがとうございます。
「GINメンバー」、、、懐かしい。。。(遠い目、笑)

@onhってどこかな〜?と思っていましたが、大阪医療センターでしたか。ご夫婦でのご活躍、時折目に致します。
医療政策では九州の某元帝大の教授が凄い事を書いてくれちゃって物議を醸していますが、本当に「精神論」ではやって行けない状況だという事を、政治家や医療政策携わる「理論家」がわかっていないから医療崩壊がどんどん加速するだと思っています。
私は個人事業を軌道に乗せるのに四苦八苦ですけど。。。でもプライベートタイムは充実しております。
私の「語録」なんて。。。
先生、本当に頭のいい人なんだな〜。。。

投稿: balaine | 2009.01.26 11:03

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