失言する大臣が相次いでいます。
人間だから、失敗、失言はあり得る事なので、まあその辺は大目に見るとして、今回の二階経産相の失言には見過ごせない部分があるのでコメントしたいと思いました。(どうしても長文になってしまいます)(^^;;;
まず、二階大臣の発言とそれを撤回する内容をニュースソースから次にピックアップします。
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東京都内で脳内出血の妊婦が相次いで救急搬送を拒否された問題で、二階俊博経済産業相が「医者のモラルの問題」と発言したことから、医師などの団体から抗議が相次いだ。二階経産相は13日、謝罪した上で発言を撤回した。
発言は10日、二階経産相が舛添要一厚生労働相とともに、病院の情報伝達システム開発を両省で強力して行うことを表明した際に飛び出した。
二階経産相は搬送拒否の問題に触れ、「医者のモラルの問題だ。相当の決意を持ってなったのだろうから、忙しいだの、人が足りないだのということは言い訳に過ぎない」と、発言した。
これに対し、全国医師連盟が「産科救急の問題は、基本的に人員や施設の不足に起因」とした上で、「発言でモチベーションが下がり、さらに離職する産科医が増える」と抗議声明を発表。他にも2つの市民団体から抗議の声が挙がった。
13日の参院厚労委員会でも足立信也議員(民主)が発言の真意を質問したところ、二階経産相は「発言が医療に携わるみなさまに誤解を与えたことをおわび申し上げ、発言を撤回する」という回答を寄せた。
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実際にどういう発言をしたかというと、
「政治の立場で申し上げるなら、何よりも医者のモラルの問題だと思いますよ。相当の決意を持って(医者に)なったのだろうから、忙しいだの、人が足りないだのというのは言い訳にすぎない」
と言ったらしい。
これを昨日聞いた私も憤慨しましたが、「また馬鹿な大臣が無責任なことを言ったのか、、、」と考えて無視しようと思っていました。しかし、再度ニュースを読み直して、これは一言ブログに書いておかないと、と思い直したものです。
確かに、医療職に携わる者の中には、怠惰な人もいるかもしれませんし、緊急患者を「忙しい」などの理由で断ることもあるかもしれません。でもそういう状況はどんな職業にでもある訳で、大方の医師は緊急の現場で精一杯働いています。
こんな事を書くと、誤解を招いたり、怒りを覚える方もいらっしゃるかもしれませんが敢えて書かせて頂きます。
医師になる人間は、その資質として決して「頭がいい」とか「勉強ができる」という事は最優先のものではない事は確かです。でもある程度以上の、学習能力、学び続ける事への努力を厭わない者であることは大切です。医療情報、技術は日進月歩で進んで行きます。
医師という仕事は、社会的地位や立場とか収入という面からみた場合、比較的安定して高い(実際に年収がそれほど多くないとしても)ものであるからか、理系の大学受験では常に最難関コースです。勉強ができるから医学部を、という考え方はおかしいと思いますが、医学部を目指す高校生など受験生が高い学力を備えていることはある程度必然のものです。
私が医学部を目指していた昭和50年代、医学部受験はすべての受験の領域で常に最難関でした。希望する東北大学に、地元仙台の予備校でトップクラスの成績を収めながらも失敗して、山形大学に入学したのですが、その当時、山形大学医学部の偏差値は東大の理科一類、二類よりも上でした。つまり理系の大学の中で、山形大学の医学部より難関なのは他大学の医学部しかありませんでした。
英語と日本史が得意で数学と物理が苦手だった「純粋文系」的な私は、医学部に進んで医師になる事しか考えていませんでしたが、物は試しと私立文系コースの全国統一模擬試験を受けてみたことがありました。上智大の英語学科や慶応大学英文科は「合格確実」でした。東大文一ぐらいなら受けたら合格できたかもしれません(あくまで仮定で妄想です)。
日本の政治や経済を動かしているのは、未だに東大文一を中心とする官僚養成コース出身者です。その政治家や官僚が上手くシステムを作れずに問題の起きている、「医療崩壊」「救急医療問題」を政治家から「医師のモラルの問題」と非難されるのは屈辱的ですらあると感じるのです。
かなり前ですが、お隣韓国では全国の医師が「ストライキ」をしたことがあります。といっても、医師としての責任はあるので、救急医療と緊急手術だけは通常通りに行い、その他は「スト」ということを数日間やったことがあったそうです。
日本でもかなり前から「医者がストライキでもしないと、医師の重要性は本当に理解してもらえないのではないか?」という議論があります。しかし、真面目な日本の医師はそういう声が上がるたびに、「現場には困った患者さんがいるのだから医師がストライキなどしてはいけない」と抑えて来たのだと思います。そのあげく、医師には「労働基準法」など適用されないような厳しい労働環境が「常識」となり、それは医師として当たり前の事、医師としての仕事として耐えて来たという状況が続いている訳です。
専攻する診療科、勤務する病院の規模や設備などによっても違いはありますが、たとえば私が市中病院や大学病院に脳外科医として勤務していた時の事を考えるとこうです。
一日の労働時間は、通常短くて10時間、長い場合は17,8時間。これは当直とか救急の出番ではなく、ただ一日中、ICU、病棟、外来、急患そして手術をしていた場合の事です。これに家に帰った後の夜中の電話連絡、食事をしていても風呂に入っていても患者急変や救急患者での呼び出しがあります。土曜も日曜も入院患者さんを診察しに病院に出かけます。大学で准教授をしていた時も日曜でも働いていました。
「そういう仕事」だからです。
一般人の一日の通常の勤務時間が8時間だとするならば、上記私の勤務状況では「時間外労働」は毎日最低で2時間、多ければ10時間(1日ですよ!)、それに加えて緊急呼び出しや土日の出勤があるので、1週間の「時間外労働」は軽く30時間を超えて、一月に「時間外労働」だけで150時間を超える事も珍しくありませんでした。そして、この時間外労働に対する対価は大学の教官の時はほぼ「0」。市中病院勤務医の時で、自治体の予算などによってカットされるため多くても30~40万円でした。月額の給料を時間で割ると、「まるでコンビニ店員の時給並み」と自嘲していたものです。
こういう状況で仕事をしている専門職(医師は特殊技能を持つプロです)に「モラルの問題」という言葉を投げかけるのは、無知というだけではすまないと思います。
文系受験を目指せば東大や早慶など日本のトップクラスの大学に入学出来る頭脳を持っていたはずの高校生が医師になりたいために医学部に進んだ、その将来が中央大学出身の一代議士けん国務大臣から「医師のモラル」と非難される始末。
これでは全国の医師が憤慨するのも当たり前です。
一言で言えば、「おい、馬鹿にするのもいい加減にしろ!」です。
太平洋戦争時代の「精神論」と変わりがない発言です。つまり『欲しがりません、勝つまでは』と大差ない考え方です。
戦争そのものが間違っていますが、太平洋戦争の敗北は精神力の問題ではなく資源と兵站線の大きな差が戦争の勝敗に結びついたのです。
救急医療の領域で大事な事は、きちんとしたシステムの構築、救急の現場で働く医師や看護師を補給する兵站線の整備です。これまで長い間、耐える医師の精神力で乗り越えて来た問題が崩壊し始めた事にようやく世間が気づき始めたのです。
大野病院事件や今回の大臣失言などが、我慢の限界に来ている現場の医師の撤退(勤務医辞職と個人開業、立ち去り型サボタージュ)を後押ししていることを政治家や官僚はまだ本当に気づいてはいないのではないかと思います。
一度、全国の勤務医師がストライキしたほうがいいのではないかと考えてしまいます。
長々と書きましたが、これは単なる「愚痴」ではないと思っています。
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