庄内に暮らす喜び
山形県の中でも庄内地方は、その地理的な事を除けば天の恵みの多い土地です。
庄内には平成17年までの間に3回の病院勤務移動でつごう4年半暮らし、昨年5月に「骨を埋める」覚悟で移住してから1年5ヶ月が経ちました。
地理的にも、特に恵まれていない訳ではないのですが、東京や大阪などの大都市周辺の様な文化や娯楽はどうしても少なくなります。車での移動を考えた場合、県庁所在地の山形市までは1時間半、隣県の県庁所在地としては秋田市まで2時間弱、新潟市まで3時間、仙台市まではルートによって2時間半〜3時間ということで、どこも「いまいち遠い」という感覚があります。
ただ、最近注目されている映画のロケ地としても、「食の都庄内」としても魅力溢れる土地であり、ここに暮らす喜びはたくさん感じています。
鶴岡市出身の藤沢周平原作の映画作品を始め、ここ数年の間に庄内で撮影された映画、庄内に関わる映画は非常に多く、映画館で見る際にも大変思い入れは深くなります。9/16封切りの『おくりびと』は、映画館への観客動員数が、日本国内で東京に次いで庄内(実質は三川町の三川イオンシネマしかありません)で全国で第2位なのだそうです。
庄内空港ビルのHPの中に、昨日紹介した「山居倉庫前のライブカメラ」の他に庄内の映画情報をまとめた非常に良く出来たサイトがあります。こちら↓をご覧ください。
「庄内の四季と映画」
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先日、10/19にサロン・コンサート第3回のピアノリサイタルをしてくださった石井理恵さんを、本番前の限られた時間にお連れした(お連れしたかった)のは、酒田駅前東急インの中にある老舗『ル・ポットフー』。言わずと知れた銘店であり、このブログでも佐藤久一さんんことやお店の事も何度も紹介している。
日曜のお昼、ランチで頂いたコースは、お肉かお魚を選ぶもので、前菜プレート、主菜、パン、コーヒー(または紅茶)、デザートで1500円程度。石井さんとS夫人はメインに「庄内豚のロースと」を選択。私とS氏は写真の「舌ビラメのムニエル」。
舌平目は「ドーバーソール」が有名であるが、これは地物と思う。「べろうお」とか「ぞうりうお」などと呼ばれることもあるそうです。本格的なドーバーソールのような舌平目に比べると、魚体が大きい割には身が薄めで弾力に乏しい感じがしました。ムニエルもバターがやや焦げ目というか、それがこの料理の狙いだったかもしれません。『ル・ポットフー』の有名料理は「カスベのポシェ(=庄内沖のエイのソテー、焦がしバターがけ)」ですから。。。
実はピッツバーグに住んでいた時にイタリア人経営の魚屋で本物のドーバーソールがそんなに高くない値段で売っていたので、シャレで買って自分でムニエルを見よう見まねで作ってみたことがあったのですが、それがたまたまと〜〜っても美味しくて、15年経ってもあの味覚はまだ私の原始的記憶の中にしっかり残っているのです。
デザートは、カシスのシャーベットにラズベリー、ブラックベリー、そしてラ・フランスと庄内柿の小さなスライスが添えてあって、ものすごく美味で爽やかでした。コーヒーも美味しく、お代わりが出来るところもいいですね。
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木曜日は、前日の記事で触れた「頭痛に関する勉強会」の準備があったので、午後休診日にあわせた週一通いのスポーツクラブもお休みにして、夜のこともあるので(下記に続く)昼はさっぱりしたものにしようと、お蕎麦にしました。
クリニック近くの「めだか」はやっていましたし、ここのお蕎麦は美味しいので候補になったのですが、以前振られた(行ったらお蕎麦が切れていた)お店にしました。
それは、山居倉庫前の新井田川を挟んだところにある『川辺の館』にある蕎麦屋さん。ここは新井田川で舟遊びが出来る屋形船「みづき」のお店でもあります。行ってみるとお客は「0」。おじさんがどこからともなく現れてきて、蕎麦を注文するといきなり粉をコネ鉢でこね始めました。うちたて、ゆでたての「2たて」を食べられるのは嬉しいのですが、待たされるのかとちょっと不安。ところが非常に手早く写真の一人前板蕎麦は10分くらいで出て来たように思います。
1〜2番粉でうったと思われる太め、固めの麺。都風の洗練されたお蕎麦を出す日吉町の「田毎」に比べると、山形の内陸の田舎蕎麦風です。メニューなどが書いてある板に「佐藤長三郎そば」と書いてありました。酒田から47号線を新庄方面に行くと白糸の滝ドライブインを過ぎてちょっとしてからだったかな?高屋という地区の右手に「佐藤長三郎そば」という小さなお店が現れます。以前から気になっていました。さらに新庄方面に進むと戸沢村の古口にも「佐藤長三郎そば」という店があります。気になっていたのですがまだ入った事がなく、その事を店主に問うと、なんとなんと古口の本店と高屋の分店をやっているそのひと本人でした。奥さんの事情などで普段は酒田にいて、「酒田湊観光汽船」という会社を立ち上げて屋形船をやりながら蕎麦屋もやっているとのこと。そのため、古口本店は今は閉めていて、高屋分店は人に任せているとの事でした。前から気になっていた「佐藤長三郎そば」の本物を酒田で食べられるとは思いもよりませんでした。しかも、内陸の田舎風そば、ゴツゴツとした感じで美味しい。といっても、天童の水車蕎麦ほど固くはなく、村山の銘店「あらきそば」に近い感じでした。田舎風蕎麦が好みの方にはここは一押しですね。
家内は「麦きり」を注文。庄内では小麦粉の麺は「うどん」と呼ばず、お蕎麦のように食べるのが普通で、それを「麦きり」と呼びます。少し前にブログでも触れた鶴岡の超有名店「寝覚め屋半兵衛」のふわっとやわらかくて、でも腰のあるやさしい麦きりに近い感じ。蕎麦と交互に食べ比べると、その噛み応えや喉越し、風味の違いが楽しいです。
お蕎麦と麦切りを美味しく頂きながらメニューを見ていたら「いけないもの」を見てしまいました。それが写真の「玉こん」と「みたらしだんご」です。
玉こんにゃくは、山形の名物ですが、山形市の県庁近く、千歳山のふもとにある「千歳山玉こんにゃく」が有名ですし美味しい。その他蔵王のお釜や蔵王温泉他、県内観光地はどこに行ってもたいてい食べられます。ここの玉コンはちょっと濃いめの味付け。ギリッと醤油のしょっぱさが感じられます。おそらく伝統的な作り方であるスルメを煮汁に入れていると思われる風味はしっかりして、庄内人向け(?)の濃いめ、しょっぱ目な味付け。
みたらし団子は、これまた注文してから練って団子を作りそれから香ばしく焼いてタレ?をかけて出してくれました。これは絶品です!本当に旨い!練りたての団子という感じでやや柔らかめ。秋田生まれの家内は、「団子というよりも秋田の本格的なきりたんぽを思い出させる優しい味」と評していました。餅米?の風味がしっかり生きているのです。焼き方もやや焦げ目なところが旨い!一本100円です。お近くの方は是非ここの「みたらし」、一度は食べてみて下さい。「お蕎麦」も「麦きり」も美味しいです。
ただ山居倉庫あたりに来た観光客がちらちら見ながら横を通って、本間家旧本邸方面へぞろぞろ歩いて行くだけで、店の存在もあまり知られず(「川辺の館」というのは有名なのですが)、お蕎麦やさんとしては認知されていないと店主は嘆いていました。ここのお蕎麦屋さんも存続してもらえるよう、通わなくては。。。(笑)
「佐藤長三郎そば」のHPは「こちら」です。
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木曜日の勉強会の後は、主催者の招待でまた(!)『ル・ポットフー』。
これが分かっていたから昼は「軽く」と考えて、上記のような始末。。。
(前菜のお皿の写真は撮り忘れたようです、、、)
前菜は「ひらめのカルパッチョ」。美味しい!
飲み物に、佐藤久一さん以来交流がある上山のタケダワイナリーのシャンパンを頂きました。ここのシャンパン『キュベ・ヨシコ』は自分で買って飲んだことがあります。日本で初めて(?)、伝統的なフランスシャンパーニュ地方のシャンパン製造法に乗っ取って作られたスパークリングワインと聞いたことがあります。爽やかで優しい味がするシャンパンなのですが、通称「ドンペリ」と呼ばれる有名なシャンパンに比べてしまうとどこか物足りなさを感じていました。
ところが、今日頂いたのは『キュベ・ヨシコ』の「セコンド」というようなものとのこと。まだ町にそれほど出回っていない新しいものだと言う事でした。写真を撮り忘れたので、ネットから。
「1997ドメイヌ・タケダ・ブリュット」をご覧ください。「キュベ・ヨシコ」が「物足りない」と感じたのは単に私の昔の記憶なのですが、この「ブリュット」は酸味が強くパンチがあってでも爽やかで美味しかった!シャルドネ種100%のはずですが、どこか「青りんご」の風味を感じさせる、酸味と口腔を心地よく刺激する強さを持った新しいシャンパンです。まだ若い木から穫れたぶどうだけを使って新たに作ったものだそうです。私は好きですね。
「キュベ・ヨシコ」は←こちら。ワインは穫れた年によってものが違うので、私が以前飲んだのは「ヴィンテージ」物ではなかったのでしょう。いつか「10年シュール・リー」を頂いてみたいものです。泡立ちが3日持つなんてどんなスパークリングワインなのでしょう。。。
今日のスープは「ひらつめガニ」。「渡りガニ」とも呼ばれる蟹で地物です。かにみそもスープに練り込んであるようで、濃厚でコクがあって口当たりが甘い。美味です。
ディナーのコースはお魚とお肉が出ます。
魚は「スズキ」君。これも地物でしょう。さっぱりとした白身魚をローストしてバターでソテーした野菜が添えてあります。
メインのもう一皿は山形牛。私はレアミディアムくらいであまり火を通さないように頼みました。美味しいのですが、お酒に弱い私は、ここまでにシャンパンと白ワインで結構酔ってしまい(前日の睡眠不足もたたり)、「やわらかいな〜」「表面の焼き具合がいいな〜」というのは覚えていますが味のレポートはできません。m(_)m
デザートは、写真のように美しく、美味しく。。。え〜、、、美味しさでぼ〜っとして(酔っぱらって)、庄内柿以外はよく覚えてません。たしかブドウシャーベットにケーキが2種類、そしてフルーツの小スライスでした。(^^;;;
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またまた「グルメ・レポート」になってしまいました。
映画のこと、食の文化、さらに私の場合は酒田フィルなどの音楽活動と庄内に住む幸せを感じる事はたくさんあるのですが、昨日の診療でもその幸せを感じることがありました。
以前の記事にも書いた、私が執刀したくも膜下出血の女性。玄関前で意識を失って倒れたのを年老いた(目も見えず耳も弱くなっていた)愛犬が近所に知らせに行って助けを呼んだという、まるでテレビ番組になりそうな「本当のお話」の人です。
「True Story(感動)」を参照ください。
現在は一月に1回、血圧を中心にした管理程度。一人暮らしで車の運転もしないので、近所の人と一緒に車で来たり、酒田に住む妹さんのご主人に車で送り迎えしてもらったり、足がないときはバスを乗り継いで一生懸命通って下さる。車で行っても30分はかかるので、バスを乗り継いだりすると場合によっては片道1時間かかってしまうらしい。
その人が、「先生が酒田にいてくれて幸せだ」「私は先生から新しい命をもらったと思ってる」「H17年にくも膜下出血で倒れて、あの時一回死んで、その後の人生は新しい命を先生から頂いたと思って生きている」などとおっしゃって下さいました。
医者冥利、脳外科冥利です。
たまたま私がN病院にいて、たまたまその患者さんに愛犬がいて、賢い愛犬に導かれた近所の人が見つけてくれて、たまたま出血が致死的ではなくて(ハント分類でグレード3だったはず)、たまたま手術がうまく行って、その後の経過が運良く良好だっただけです。
患者さんの首には右側にうっすらと傷跡があります。確か、右の内頸動脈ー眼動脈分岐部の破裂脳動脈瘤だったので、開頭に先立ち頚部内頸動脈を確保するため頚部で総頚、内頚動脈部を露出して血管テープをかけておき、万が一クリッピング前に動脈瘤が破裂した場合にproximal control(破れた動脈瘤よりも心臓側(=proximal)で血管を絞められるようにする)ができるようにしておいた、その傷跡です。眼動脈は視神経の下に潜って眼窩方向に走って行くため、そこに出来る動脈瘤は大抵の場合、親動脈である内頸動脈を動脈瘤よりも心臓側で一次遮断することが困難です。視神経の入って行く視神経管の入り口である前床突起という骨を顕微鏡下に先端径1mmのダイヤモンドドリルで削って、動脈瘤にアプローチしやすくはしたのですが、やはり頭蓋内でのproximal controlは出来ない状況。
緊張しながら動脈瘤にチタンクリップをかけました。幸い処置中に破裂しなかったため、頚部で確保した内頸動脈を絞める必要は無く、結果的には頚部の処置は「無駄」に終わったのです。首の傷跡は手術が成功した「勲章」のようなものと思います。100%の確率で術中破裂が無いのであれば頚部の処置は必要なかったものです。無駄な傷をつけてしまったという思いはありますが、同時に万全の事をやって成功させた、という記憶を呼び起こします。
外科医というのは、大変だった手術というのは結構頭の中にその映像が残っているものです。この方の動脈瘤の形やクリップをかけたときの状況も、完全ではありませんが記憶にあります。医者冥利に尽きる嬉しい言葉を頂きながら、私の頭の中は患者さんの動脈瘤とクリップが思い浮かんでいました。(笑)
その他にも、N病院の脳外科医に患者さんの目の前で電話をして紹介する話をした時に、「開業医さんでこんなにすぐに密接な連絡が取れる先生がいてくれて、酒田に住んで安心だ」というような感想を頂いたこともあります。N病院の脳外科医が私の医局の後輩(医局長や講師をしていた頃に入局して来た人が3名)で、私がN病院で働いていたということで、医師もナースも知り合いが多いということが活きています。
こういったことも私自身、庄内に暮らす喜び、になるのです。。。
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