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2008.09.15

「美味いんだな、、、困った事に、、、」

9/13(土)、映画『おくりびと』の封切りの日に観て来ました。
これからご覧になる予定の方のためになるべく「ネタバレ」にならないように注意して書くつもりですが、予備知識なしでご覧になりたい方は読まない事をお勧めします。

監督の滝田さんも、脚本の小山薫堂さんも山形や庄内には縁のない方のはず(売れっ子放送作家の小山氏は2009年度から山形市にある東北芸術工科大学(通称「芸工大」)の学科長に就任するらしいが、「おくりびと」の脚本を執筆したのは確か2006年であり、その時点で山形で仕事をすると言う発想はなかったはず)だが、まるで「庄内に捧げるオマージュ」のような映画でした。
酒田に、庄内に住む者にとって特別な作品ですね。

私の大好きな鳥海山(最近は余り写真出していませんが、例えば「この記事」をご覧ください)、白鳥、酒田をはじめとする多くの庄内ロケ、山形交響楽団、音楽監督の飯森範親氏、酒田の第九を歌う会のメンバー(地元のアマチュア合唱団の人々)、山響FCの面々(観客役のエキストラ)、そして愛する酒フィル。
この映画作品の本質と関係のない部分もありますが、やはり山形の、庄内の景色、特に鳥海山や月山の風景、そして冬の「地吹雪」は内容や主人公の心の動きを描出する上でも大事な役割を果たしています。

映画の中身は、「納棺士」という聞き慣れない、特殊な仕事の話が中心ですが、笑いあり、涙あり、感動ありで、2時間があっという間でした。人の死を見つめる中で、主人公のモックンこと本木雅弘と味のある演技の山崎努とのやりとりには大変考えさせられました。
「死とは何か?」とか「生とはなんぞや?」というような議論をする訳ではなく、仕事として人の死体を扱いながら自分は「生物(いきもの)を食べて生きている」という点を観客に問いかけるようなシーンがたくさんありました。
故伊丹十三監督の「タンポポ」という映画を強く思い起こさせるシーンがたくさんありました。フライドチキンにかぶりつきまくるシーンなどは、観客から笑いも洩れましたが私は「タンポポ」に出て来た数多くの「食べることにこだわる」配役をいろいろ思い出していました。
山崎努が、ふぐの白子を食べながら「美味いんだな、、、困った事に、、、」といったその言葉は、「食いしん坊」である私の心に響きました。「死にたくなけりゃ喰うしかない。どうせ喰うなら美味い方がいい!」というのです。

ああ!そういえば映画『タンポポ』で、主役のタンポポ(宮本信子)に旨いラーメンの作り方を教える役も山崎努でした。生きている人間は食べる、生きている人間は死んだ人間を悼む、関わった人間は死体(遺体)の周りで様々な感情を持つ、といった当たり前のことを映画のスクリーンで突きつけられ、感動しただけではなくたくさん考えさせられることがありました。

開業医となった今、人の死に立ち会う機会はめっきり減りました。
大学病院や市中病院の脳外科医として働いていた時には、交通外傷の緊急患者さん(DOAも多かった)、重症脳卒中で手術も出来ない人、手術はしたが結果が芳しくない人、脳幹梗塞で何度もの危機を乗り越え気管切開をしたままだが意識は清明でリハビリを始めていた方の深夜の急変、、いろいろな人の死を思い出します。医師として数多くの人の臨終に立ち会い、死を看取って来ました。不幸にして亡くなられた方はご家族や葬祭業者さんが車で自宅に連れて帰ります。その際、病棟からストレッチャーに載せて死亡退院の方が出て行かれるところまで見送ります。夜中でも、休日でも、自分が脳外科の当番であれば、死を看取り宣告し死亡診断書を書いて最後のお別れをするのは、医師としての仕事でありまた儀式でもありますが、亡くなられた方に対する医療者としての「礼」です。時間帯によっては、病棟婦長(看護師長)、担当看護師、医師など2,3名から多い時には5,6名で死亡退院口まで送りますが、私は患者さん(すでにご遺体ですが)のストレッチャーを必ず引くなり、押すなりして自分の手で運びました。そして車に載せる時も葬祭業者さんがご遺体を載せるのを手伝い、車が去って行くのを頭を下げて見送りました。かっこいいことを言うようで恥ずかしいのですが、たとえ人間の手ではどうしようもない状態の人であっても、自分には助けられなかったという事実から目をそらさず黙祷を捧げ少しでも力のある医師になるよう努力する事を誓っていました。
職業柄、人の死に直面する事は少なくなかったので、患者さんが亡くなる度にいちいち強いショックを受けたりはしませんでした(すぐに次の仕事がある訳ですから)し、死体を恐いとか穢らわしいなどと思った事は一度もありませんでした。しかし、この映画を観て、一般の方にとっては「肉親の死」は特別な事であり、他人の死は「無関係」で忌み嫌い避けたい事である普通の感覚を見せられて、自分は「人の死」に対しては一般の方とは違った経験をし違った感覚を持っている事を気づかされました。

その上で、この映画をもう一度思い出してみると、ありきたりな表現かもしれませんが人の死を通して人の生を描いている作品だと思いました。脚本が良く出来ていて、庄内のロケを中心とする映像が美しく、モントリオール国際映画祭でグランプリを取ったのも当然という映画だと思います。

是非是非、映画「おくりびと」、ご覧ください!
エンドロールに、数多くの出演者の中に混じって飯森範親氏、山形交響楽団とともに「合唱指導 関矢 順」(いままでこのブログで何度も書いている歌のS先生のこと)、そして「酒田フィルハーモニー管弦楽団」と出ているのを見逃さないでくださいね!

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コメント

こんばんは。

実は先生の観ていた時に、私も観ておりました。仕事が終わって駆け付た時間が18時過ぎで、前列から4列までが空いています・・ということで4列目の真ん中に娘といました。

先生が入って来る所を座席から確認しておりましたが、挨拶出来ずに失礼いたしました。ティンパニーのIKさんともお会いしました。スクリーンの中でも^^ 

内容的にも良い映画でした。酒田、山響、我々(笑)がなかったら、この様な素晴らしい内容には仕上がっていなかったと思います。今週は出張があるので、来週にもまた観に行こうと考えています。

上映前に寄った本屋さんで「おくりびと」の文庫版小説を目にして購入した、米粒エキストラKENの投稿でした♪ ありがとうございます。

投稿: KEN | 2008.09.16 00:54

KENさん、そうだったんですか〜(^^)
IKさんも合唱でしっかり映っていましたが、KENさんも豆粒なんてことはなくしっかり確認いたしましたよ!
こんな経験、一生に一度ですよね。良かったですね。
「納棺夫日記」は、映画とは大分趣が違いましたね。舞台も富山か福井だったような。。。
なぜ小山薫堂さんと滝田監督が庄内を舞台に選んだんでしょう。
それにしてもモックンの庄内弁、なかなかいがったのぉ。おいより、うめっけもんのぉ。じょんだの〜。たいしたもんだのぉ。

投稿: balaine | 2008.09.16 20:09

トラックバックをありがとうございました。私も、老父の死去の際に、主治医の先生と担当の看護師さんが、夜更けにもかかわらず見送っていただいたのが、たいへんありがたく感じました。厳粛な気分になりました。翌朝、来ていただいた和尚さんは世俗の香りでしたが(^o^)/

投稿: narkejp | 2009.02.03 21:13

narkejpさん、こちらの方へのコメントありがとうございます。
和尚さんて、なんであんなに「世俗」の匂いの強い人が多いのでしょうね。あえて「凡人」「普通の人」と見せる事で宗教臭さを払拭する狙いなのでしょうか。
ちょっと「有り難味」が減少するように感じちゃいますよね。

私が勤務医時代の事を少し思い出していました。
最後に棺を車に乗せてお別れする時、こちらとしては「死亡」=医療の敗北も感じているのですが、ご家族からは「感謝」=医療の限界を理解した上での納得、を示されてこちらが感激することもありました。

投稿: balaine | 2009.02.04 08:59

balaineさま。トラックバックありがとうございました。
記事を拝見し、さまざまな形で「おくりびと」としての仕事をなさっている方がいらっしゃるのだということを改めて…。
でも、それもきっと取り組み方次第なのですよね。偶然にも映画を観た翌日に、まさにその行事があったものですから…はい、いろいろと思うところがありました。

投稿: きし | 2009.02.07 23:49

きしさん、コメントありがとうございます。
「人の死」というのは、決して他人事ではありませんが、普段は頭の隅っこに追いやっているか、忘れているものです。災害や事故も他人事ではなく、いつ自分に降り掛かるか分かりませんものね。
私は人生の折り返しの年を随分前に過ぎて、最近は「自分の死」というものを時々意識しながら仕事をしたり趣味を楽しんだりしています。
「あと何年、こうやっていられるかな〜」
という感じです。ただ、最終的には神様が決める事というか、人智を超えたものだと思います。今の日本人はあまりにも「宗教観」が希薄で、天を怖れぬ振る舞いの人が多すぎます。そういう点にまで踏み込んだ作品だともっと感動的だったかな、、、

投稿: balaine | 2009.02.08 12:43

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