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2008.05.14

小沢征爾指揮新日本フィルを聴く

5/12(月)、希望ホールには往復はがきの抽選に当たったプレミアムチケットを手にした(または当たった人から譲ってもらった?)人たちがあふれ、大ホールは満席。
さすが小沢征爾さん。もちろん有名ということはあるし、普段はウィーンで活躍されているのだから、国内ではなかなかお目にかかれないという事もあり、SS席は12,000円。山響の4000円に比べて3倍の値段の価値が本当にあるのか?とも思うが、山響が残念ながら7割くらいの入りだったのだから、だれも12000円を高いとは思わないのでしょう(私も思いません)。

席も抽選で決まっているので選べず、私にしては珍しく1階席の前方。前から5番目の上手ブロック。
メインの「悲愴」はコントラバスやビオラが活躍するので、マエストロが上手側を向いて指揮をする姿が観れるだろうと予想し、始まる前から軽度の興奮状態。

これで小沢征爾指揮は3回目ですがいつも期待通りの演奏をしてくださいます。
今回も事前に体調不良との噂。終演後の打ち上げにも出席されないと聞き及んでいたので少し心配していましたが、元気に登場。
でも体は痩せていて、肌はやや生気がない感じ。それもそのはず、昨年煩った帯状疱疹の痛みがあり、ひどいと一人で歩く事もままならないらしい。ステージ袖では激痛に顔を歪めるような事もあったとのこと。でもひとたびステージに出るや、ニコニコと満面の笑顔で渾身の指揮。さすがというか、だからこそというか、息子さんも役者さんですが、本人こそ「役者」だと思います。

1曲目はモーツァルトのディヴェルティメント。
よく耳にする曲です。弦のみの小編成の演奏ですが、衝撃を受けました。これまで生で聴いたディヴェルティメントの中で文句なしに一番美しい演奏でした。
コンマスは、新日の「葉加瀬太郎」と呼んでいいでしょう、風貌がそっくりな崔(チェイ)文洙さん。モーツァルトの演奏でもかなりの体のアクションが入ります。
一番感動したのは、コントラバスの柔らかい音。そして合奏全体の凄く繊細なpp。演奏のダイナミクスの幅が広く、活き活きとしていて緻密で、これぞモーツァルト!と言う感じ。目をつぶればウィーンのコンツェルトハウスかムジークフェラインで聴いているような錯覚を覚えるとまで書くと言い過ぎでしょうか。いえ、それくらい素晴らしい演奏でした。

2曲目は、モーツァルトのオーボエ協奏曲。この曲の事は先日書きました。
ソリストは新日の首席オーボエ奏者、荒川さんと二人イケメンが並ぶ、片方の古部賢一さん。
そのオーボエは音色、テクニックともにさすがです。なによりアーティキュレーション、アゴーギグの付け方が素晴らしい。そして、バロック時代を受け継ぐモーツァルト時代の音楽を強く意識したと思われる、装飾やカデンツァの奏法。バロック好き、ジャズ好きの家内は隣でツボにはまって大興奮。私も古部さんの演奏に合わせ自然に体が揺れました。
フルートではニ長調となるこの協奏曲。オーボエの原曲では微妙に譜面が違うようで、私がフルート譜で覚えている音の動きとは違う部分が結構ありました。プロオケをバックにいつかはニ長調協奏曲を吹いてみたいものです。。。(考えるのは自由ですよね)

休憩は予定より長く20分以上。やはいマエストロの体調が悪そう。
3曲目、いよいよ『悲愴』。チャイコフスキー作曲交響曲第6番です。
少なくともフルートの1番の楽譜はすべて私の頭の中に入っています。昨年の4月から12月初めまで7ヶ月以上練習して、定期演奏会で吹いた曲です。定期のメインで初めてトップを吹かせてもらった曲です。完璧に頭に入っています。
ですから、フルートトップの荒川洋さんと一緒に吹いていました。もちろん心の中で、ですが。
小澤さんの指揮は、本当に素晴らしい。
「指揮はdriveではなく、carryだ」というカラヤンの言葉を弟子としても受け継いでいるそうですが、私にはdriveしている様に見えました。小澤さんの体から出てくる音楽の魂に団員の心が反応して、熱く燃えるのです。fffffの部分などは、すべての弦楽器(だいたい第1Vnで8プルト=16人という大編成)の弓から火が噴いているような感じで、弓と弦の摩擦で生じるやや焦げたような匂いまで感じられるような大熱演。「新日の葉加瀬太郎」のソロコンマスは、椅子から落ちるかと言うくらいのアクションで、ほとんどジミヘン弾き(のだめに登場した瑛太の演じたバイオリニストの様)。
クラのpppppは本当にかすかに聞こえる程度の音量。受け継ぐバスクラがそこまで音量を落とせず可哀想、と言うくらいのpppppでした。
2楽章の舞踏、3楽章の行進、と素晴らしい音楽が続きます。

懸念していた事は現実になりました。
あの熱演を聴かされれば3楽章が終わった途端、拍手をしたくなる気持ちはわからないではありません。しかし、もう少し曲を勉強してほしいな。結構な数の人が3楽章が終わった途端、拍手をしてしまいました。楽章間の拍手はしてはいけない訳ではありません。禁じられている訳ではありません。
ただ、『悲愴』の場合、4楽章はattaccaで始まります。すくなくともマエストロ小澤はアタッカで演奏します。それは、今年始めのベルフィルを振った「カラヤン生誕100年記念演奏会」での『悲愴』でもそうでした。拍手は音楽の緊張を断ってしまいます。できれば拍手はしてほしくなかったですが、酒田の聴衆(酒田以外から来た人もたくさんいたようですが)はそこまでの知識はなかったようです。
すこしがっかりしました。
小澤さんの指揮で、激しい3楽章が終わって、間髪入れずに4楽章のうねりに入る、その緊張感が失われました。息を呑むような、体が凍り付くような、緊張感を味わいたかったですね。

でも4楽章の演奏を聴いていて、そんな残念は直ぐに忘れ去り音楽に没頭しました。聴いていて、さすが小澤さん、ウィーンで、世界のクラシックシーンを牽引する重要な音楽家として活躍する日本人、それに応える力量を持つ新日本フィル、、、などとボーッと考えていたら胸が熱くなってきました。
最後、コントラバスが2パートに分かれてarcoで重たい足を引きずる様にディミニュエンドしていきながら、ピチカートで心臓の鼓動が弱くなって停まって行く、そして消えいる様に死を迎える、その間、小澤さんはコントラバスの方に向きながら、手と表情とそして体全体でその様を表現しておられました。
最後の一音が聞こえなくなり、小澤さんが手を降ろさず、ゆっくり手を下げて、、、、
今度は誰も拍手しません。音楽の余韻にうちひしがれて、体が動かなくなってしまったようです。拍手のタイミングを計りかねていたのかもしれません。
パラパラと拍手、少しずつ拍手、ようやく皆拍手。。。小澤さんは直ぐには聴衆の方を向かず、団員をねぎらいます。各パートリーダーに握手を求め、ようやく観衆の方に向き直ったところで「大拍手」。
ようやく聴衆も4楽章の「死」から復活したかの様に拍手拍手。中には感激のあまりか泣いている人もいました。やっぱり小沢征爾は凄い指揮者です。
新日本フィルも凄いです。もしかすると今日本で一番凄いオケかもしれません。新日本フィルの前では、残念ながら山響も仙フィルもまだまだかな、と思います。目指すところが違うのですから何も比べる必要はありませんが、音楽的な力の差を感じます。


終演後、荒川さんと約束していたのですが、クラのトップを吹いた重松希巳江さんもご一緒に「打ち上げ」に向かいました。ロビーで待っていたら、日曜日にフルートクリニックを受けて中学生や高校生が「ここで待っていれば荒川さんに会えますか?」とまたハートのお目目で必死に聞いてきます。まもなく登場した荒川さんは引っ張りだこでサインを求められたり、一緒に写真に収まったり。そんな中、マエストロ小澤が懸命に笑顔を作りながら希望ホール3階で行われた実行委員会主催の懇親会に出席するため(体調不良で出ないと言っていたのをおして)目の前を通られました。事情を知らないファンが取り囲み握手を求めたりしていましたが、私は遠巻きに眺めてその痩せられたお姿をやや悲しく、でも素晴らしい音楽を聴かせてくださった事に感謝の気持ちでおりました。係の人がようやくファンを制して通り過ぎて行かれたのでホッとしました。

「打ち上げ」には、ホルンパートの吉永さんら3名にチェロの方も1名加わり、新日の楽団員6名に我々は8名で楽しく飲みました。最後は「酒の後はラーメン」と酒田のラーメンを夜遅くまで出してくれる「鶴岡屋」に行き、名残惜しくお別れしたのは0時を回っておりました。

今日、荒川さんからメールを頂きました。感謝の気持ちとともに「また学生さん達に会いに行きたいと思います」と書かれていました。
酒田希望音楽祭が新日本フィルを毎年呼ぶというプランは5年の約束なので、一応今年で終わりです。でも可能なら来年も、再来年も毎年来てほしいと思います。マエストロ小澤は毎年が無理だとしても3年に1回くらいいらしていただけないでしょうか。音楽監督のクリスチャン・アルミンクで十分ですし、昨年の様に「炎のコバケン」でももちろんOKです。
「希望ホール」といういいホールを持ったおかげで、山形県内で一番恵まれた環境にあるのが酒田だと思います。山響に仙台フィルに新日本フィル、そして酒フィル(?!)まで聴けるのですから。(笑)

ーーー
おまけ
「ジョンダーノホール」での演奏。
荒川さんの演奏を勝手に公開する訳には行きませんので、チェンバロのあわせ練習のために私が代理で吹いた演奏をアップしています。
JS Bach ロ短調ソナタ BWV1030 1楽章
は←こちら。
JS Bach ロ短調ソナタ BWV1030 2楽章
は←こちら。

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コメント

酒田ではお世話になりました。
しかし細部まで渡った解説が素晴らしいですね。

思わぬ形で小澤公演が終わり、ちょっと拍子抜けしていますが、酒田がとても思い出のコンサートになりました。

これからも益々のジョルダーノホールと希望ホールの発展をお祈りしております。


投稿: あらかわ | 2008.05.23 00:48

あらかわさん、
拙文にコメントを頂きありがとうございます。勝手な感想を書き連ねた読み苦しいもので申し訳ありません。一応、言い訳としては、ブログを続ける為にはゆっくり推敲する暇も余裕もないので書きっぱなしという感じなんです。
5/11, 12の2つのコンサートの興奮の余韻はまだ残っています。リハビリ室は、あらかわさんの笛の音の魂とそれに感動した人達の心が残っている感じを受けます。こういう事を繰り返しているうちに、本当にいいホールになって、プロの音楽家から「あそこで演奏したい」なんて言われる様になったら、、、ちょっとおバカな夢ですが。
個人的には、弦楽器(ソロとか四重奏くらいの小編成)にとても響きが合うのではないかと思っています。
また、いつか演奏に入らして下さいね!

投稿: balaine | 2008.05.23 01:12

balaine先生、いつもお世話になっております。 あらかわ先生、とても素敵な演奏をありがとうございました♪

今、朝日新聞のHPを見たら小澤征爾さんが腰の治療に専念するために1ヶ月間休養する旨の記事が出ておりました。

早期のご回復をお祈りいたします。酒田での演奏会も相当無理をされていたのでしょうね。頭が下がります。

あらかわ先生のジュンダーノホールでの演奏会をまた楽しみにしております。

人生にも色々な輪がありますが、音楽を通じた輪に改めて感謝して、本日の投稿を締めくくらさせていただきます。ありがとうございます!

投稿: けんちゃん | 2008.05.24 00:22

けんちゃんさん、「帯状疱疹後神経痛」の場合、1ヶ月やそこらの休養では治るものではないのです。
その激痛、苦痛はなった人しかわからないようです。
足になった人は「こんな足など、もいでくれ!」という人までいます。ヘルペスウィルスが神経を変性してしまい、触覚(やわらかい、冷たい)が痛みに変わってしまうのです。
痛み止めはほとんど効きません。精神安定剤、抗うつ薬、抗てんかん薬などを投与します。あとは、私がやっていたような「脊髄硬膜外電気刺激療法」と言う方法もありますが、スパッと治る方法は今のところないのが実状です。
マエストロの痛みが少しでも和らぐよう、お祈りするしかありません。

投稿: balaine | 2008.05.24 10:50

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