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2008.04.07

いまだかつてないコンサート(今日も長文)

4/6(日)、新潟市の白山にある「りゅーとぴあ」にそのコンサートを聴くために出かけました。
片道約160km。一部高速道路もあるのですがたっぷり3時間かかります。
午前中に出かけ、新潟でお昼ご飯と言う予定。向かったのは、「とんかつ政ちゃん」。
福井から新潟にかけて、「ソースカツ丼」という文化があります。新潟市中心部、古町にある「とんかつ太郎」の事は昨年の9月のブログで書きました。
「新潟、タレかつ、そしてチェンバロ」をご覧ください。「政ちゃん」に行くのは、実は25,6年ぶりのはずです。医学部の学生時代、私は硬式テニス部に所属していて、東北地区(含む新潟)各大学医学部と定期戦をやっていました。新潟大学医学部テニス部とも毎年行ったり来たりで試合をしていたので、2年に1回は新潟に遠征していました。その時に、新潟出身の同級生おすすめの店としてみんなで「とんかつ政ちゃん」に行って、20代前半の男子としてはガツガツとかつ丼を食べた訳です。
その同級生が今新潟市内で整形外科の開業をしていて、新潟に行くのでメールでそんな懐かしい話をしたところ、同じ店がちょっと品よく変わってほとんど同じ場所にあると言う事を聞いたのです。しかも、今やチェーン店を5、6軒持つ有名店になっているようです。

PhotoPhoto_2写真左は「政ちゃん」の「並かつセット」(セットにはサラダとデザートがつく)。右は「三枚かつ」のどんぶり。トンカツのどんぶりはこの他に「特製」(ご飯の中でカツが2段重ねになっているらしい)と女性または小食の人向けの「ミニかつ丼」があります。
「三枚かつ」はその名の通りロースかつが3枚載っています。それだけ。キャベツもなし。もちろん、普通のかつ丼のように卵でとじたりタマネギや三つ葉が載ったりしていません。「並」は、大きさに多少の不揃いはあるもののロースかつが5枚載っていました。揚げたてのカツをちょっと甘めのタレにつけ、ご飯にもタレが少し回しかけてあります。

美味しいかつ丼を食べて気分は高揚。気温も上がっていたので汗をかきました。
コンサートの開演は16時。まだまだ時間があるので、新潟港の「朱鷺メッセ」の31階展望台(無料)に行ってみました。
Photo_3Photo_4左の写真は、日本海を臨み水平線の所にぼんやりと佐渡島の島影が見えます。写真の中の右寄り上方、海沿いにちょっと高い建物がいくつか建っているのが確か新潟大学医学部歯学部および附属病院です。
その近くの海岸近くで某国による拉致が行われたのです。横田めぐみさんは今から31年も前の昭和52年に学校からの帰り道にこの近くで拉致されてしまったのです。とてもいいお天気でのどかな日和、日本海も冬の荒々しいグレイの姿を消して、穏やかな青い海です。そんな風景を眺めながら忘れてはならないあの事件、未解決の拉致事件の事を考えました。
右側の写真は、信濃川に沿って発達した新潟市街地。手前から2番目の橋が有名な「万代橋」。4番目の橋のすぐ右側に本日の目的地である「りゅーとぴあ」があります。
Photo_5まだ時間があったので会場そばの白山神社にお参りし、少し咲き始めた白山公園の桜を愛でました。酒田よりはやはり開花が早いですね。
そうこうしているうちに15時を回ったので、会場へ。「りゅーとぴあ」の本名(?)は新潟市民芸術文化会館というのですが、その名前の由来は、新潟の代名詞「柳都」と「ユートピア(理想郷)」を結びつけて考えられたのだそうです。昨年10周年を迎えたばかりの比較的新しい、ゴージャス!と呼びたくなる複合施設です。昨年9月の家内のチェンバロ発表会は小さな部屋(と言っても軽く100名は入る)でしたが、今回は初めて「大ホール」に入ります。
Photo_6「場内での写真撮影は固くお断りします」と言われたのですが、開演前だからいいでしょ、と会場係のおねいさん達の目を盗んで隠し撮り(?)です。ワインヤード型のおもしろい座席配置で、私が座ったCブロックは、2階席ながら正面でステージからもそう遠くはなく「S席」でした。
パイプオルガンの前に「で〜〜ん!」とでっかいスクリーンがつり下げられており、ステージ後方下手側にイギリス国旗、上手側にフランス国旗が掲げられていました。これが本日の「いまだかつてない?」コンサートの仕掛けの一部なのでした。

 16時少し前、楽団員がステージに上がって来ます。というか、そのかなり前、およそ20分程前からヴィオラ奏者が一人、続いてファゴット奏者が一人、ステージ上で練習を始めていました。さらに10分位前には、今回はるばる新潟まで3時間かけてやって来た目的の一つである、フルートの高木綾子さんがトップの座席に座って練習を始めてしまいました。さらにオーボエのお兄さん(セカンド)、クラなど木管楽器奏者がかなり前から入っていたのです。オーボエトップの古部さんも早々と着席です。高木綾子さんは今夜の演目の一つである「ベト7(しち)」(関西では「べーしち」というらしい)のフルートの有名な目立つフレーズを少し小さめな音で練習されていましたが、響きの良いホールなので2階席までバンバン届いていました。(笑)
 16時ちょうど、N響首席オーボエ奏者にして、「オーケストラ楽器別人間学」などの多数の著作を持つ文筆家であり、指揮者でもある「もぎぎ」こと茂木大輔さんの登場です。実はプログラムを見て私は軽いショックを受けていたのでありますが、「もぎぎ」は私より2才も年「下」だったのです。演奏に入る前にマイクでMCです。今日のコンサートの趣向、目的などを説明してくださいます。その時点でほぼ満員の、やや緊張気味にこれから始まる演奏に身構えていた観客は少し柔らかい気分になります。
一昨日のブログに引用記載したように、今回の演目は1814年2月にベートーヴェン自身の指揮で交響曲第8番を「初演」した時のプログラムの再現を試みたものです。前年に発表した交響曲第7番(べとしち)が大成功を収めたため、頻繁にアンコール公演があり、この第8番初演の「前座」になんと「べとしち」を持って来たのです。

当時の交響曲演奏会は、今よりももっとずっとくだけていて、演奏の最中におしゃべりをしたり飲食したりは当たり前、お気に入りの旋律が出てくると演奏中にもかかわらず拍手をしたり口笛をならしたりしたのだそうです。楽章間の拍手は、現代の交響曲演奏会では「御法度」のように考えられています。4楽章を通してひとつの作品を演奏するその間に拍手が入ると、指揮者もオケも緊張感が崩れてしまう(観客の拍手を無視して演奏する訳にも行かないでしょうし、客席を向いて拍手に応えない訳にはいかないでしょうから)というのがそのいい訳です。しかし、当時は楽章間の拍手は当たり前。拍手が多ければ、今演奏したばかりの楽章をすぐにアンコールする、という事もあったようです。
「もぎぎ」は文献でお調べになったのでしょう。「8番初演」のその日の「7番」では、あの美しい旋律の第2楽章終了が万雷の拍手が沸き、すぐに2楽章がもう一度演奏されたのだそうです。MCで茂木氏は「今日の演奏が良かったら2楽章終了後に拍手をしてください。拍手が多ければアンコールするかもしれません。」と言って「べとしち」は始まりました。序奏部分は遅めに感じました。フルートとオーボエに引っ張られて「たったらん、たったらん」というあの「べとしち」独特のリズムが刻まれていきます。写真にみえるパイプオルガン前の巨大スクリーンには、「もぎぎ」作と思われる曲の解説などが演奏の進行とともに映写されます。「第1主題はかくかくしかじか」「これが第2主題でかくかくしかじか、、、」と言う感じです。とてもいい試みです。「べとしち」を良く知っていても(酒フィルで定期演奏会で3年半前にやりました)とても勉強になります。

2楽章は素晴らしい。観客は素直で大拍手。立ち上がってBravo!を叫んでいる方もいました。指揮者「もぎぎ」はヴィオラ首席の飛澤氏に「もう1回、いい?」とお願いするような仕草(演技)を入れ、2楽章のアンコールが始まりました。するとスクリーンに「第2楽章、アンコール」の文字。思わず会場は爆笑です。結局、2楽章全部は演奏せず途中で終えて、3楽章、4楽章と続きました。こんな調子で演奏の最中ず〜っとスクリーンに解説が出て来ます。「のだめ」で有名になってしまった歓喜の4楽章が終わったら凄い拍手。もぎぎも奏者を立たせて讃えます。まるで、本日のメインの演奏が終わりこれで今日はおしまいと言っても良い位。ところがこれが本日の演目4つのうちのまだ一つ目なのです。

ちょっと興奮が静まった所に2曲目。
曲は、3重唱曲「おののけ、不敬な者ども」作品116。
生まれて初めて聴きました。指揮者の「もぎぎ」もこの演奏は聴いた事がなかったし、普通のCDには入っていないので通常聴いたことのある人はいないのだと言っていました。演奏する前に聴いておかない訳にはいくまい、と「ベートーヴェン全作品集」というCDを買ったのだそうです。この3重唱曲が聴ける上に、おまけとしてその他のベートーヴェンの全作品演奏が付いてくるととぼけた事を言っておられました。ソプラノ、テノール、バスの3重唱をオーケストラが支える、歌劇形式です。内容は「昼のメロドラマ」的などうでもいいような話。当時のウィーン音楽界の中心人物であったサリエリを作曲の師にしていたベートーヴェンが、オペラの作曲法の宿題として作ったものらしいということでした。
先日、オペラ「ラ・ボエーム」で素晴らしい歌手達の歌声を聞いたばかりだったためか、それとも会場が歌にはあまり向かない響きなのか、お三方の歌声は正面2階の私の席にはあまり響いて来なかったように感じました。曲もあまり面白くない。滅多に演奏されない曲を生まれて初めて生で聴く、という意味以外にあまり価値は感じませんでした(ベー様、もぎぎ様、ご免なさい)。


15分の休憩の後、3曲目が初演再現の「第8番」です。
「運命」の5番、「田園」の6番、「べとしち」の7番、そして「歓喜の歌、第九」の9番という巨人達の間にひっそりたたずむ可憐な乙女の様な8番。名曲です。快活でユーモア溢れる作品を再現するオケは非常にレベルが高い「もぎぎオケ」です。それもそのはず、コンマスはN響ヴァイオリニストの永峰高志氏。フォアシュピーラに磯絵里子さん。先日オペラで我々のオケのゲストコンマスを務めてくださった神谷未穂さんの従姉妹にして「Duo Prima」というVnデュオの相棒です。その神谷未穂さんはセカンドヴァイオリンのトップ1プル(トップは都響セカンド首席の遠藤香奈子さん)に座っています。チェロトップは藤村俊介氏、ビオラは先ほども名前を出しましたが飛澤浩人氏、コントラバスは市川雅典氏、ティンパニは久保昌一氏と主要なところはほとんどN響メンバーで固めてあります。フルートトップは高木綾子氏ですし、オーボエトップは古部賢一氏(新日本フィル首席)と有名どころを招集しているのは「もぎぎ」の人徳でしょう。
交響曲第8番は、確かにアマオケでも取り上げる所は少ないかも知れません。とても面白くていい曲なのですけど。終楽章のコーダ、スクリーンには「コーダのコーダ」との解説。それまで曲の中に仕掛けられた様々な工夫を一気に解き放つかの様な、シンプルな音の繰り返し。これでもか、と「チャン、チャン、チャン、チャン」と続いて続いてついに終わります。

 メインの8番が終わって、拍手をしながら「ああいいコンサートだったな〜」となるところが、これで3曲目。まだ次があります。そしてこれも生の演奏を聴く事は滅多にない(私は生まれて初めて)「戦争交響曲(ウェリントンの勝利)」です。
「もぎぎ」が『舞台上で華やかな進軍や大砲が再現する一大絵巻「戦争交響曲」』と表現した様に、上の写真に見えるスクリーンとイギリス、フランス両国国旗がここで大きな仕事をします。この交響曲は、戦争でウィーンから多くの貴族が逃げ出してしまいパトロンの不足する苦しい経済状況の中、仲間と共謀してウェリントン卿を讃える曲を引っさげてイギリスに渡って金を稼ごうという目論みで作られたもののようです。フランス軍に勝ったイギリスを讃美するため、というよりも、実はご機嫌をとることで、一儲けをたくらんだメルツェルという今風にいえばプロデューサーから依頼を受け、この曲の創作にあたったのです。
当時、オーストリアはフランスと10年間も戦争を続けていました。国内は疲弊し経済的にも精神的にも打撃をこうむりました。そんなさなかオーストリアの同盟国イギリスが有名なウェリントン将軍の指揮によりスペインで勝利を勝ち取ります。オーストリア中がその勝利を喜びました。そこで、メルツェルが作った音楽をベートーヴェンが編曲して「ウェリントンの勝利~戦争交響曲」ができあがったというわけです。編成は大がかりで、メイン・オーケストラの左右にイギリス軍、フランス軍役の軍楽隊として大砲(中太鼓)、銃(ガラガラ)、信号ラッパ(トランペット)、そして軍楽隊の小太鼓が登場します。中太鼓による大砲の音は迫力で「ド、ドーン」「ダ、ダ〜ン」「ドンド、ドーン」「ダダ、ダーン」と左右から鳴り響き、ステージ後ろのスクリーンに現れた戦争シーンの中で鳴っているようです。この曲の為だけに、舞台下手の奥でイギリス軍の小太鼓を叩き、上手の奥でフランス軍の小太鼓を叩くという演出。軍楽隊のパーカッションとラッパの人は曲の進行と共に舞台裏で演奏したり、舞台上に現れたり、進軍ラッパを吹いた後は、オケのトランペット席に移動して4人のトランペット奏者として活躍したりと動きも頻繁です。途中でイギリス国歌「God save our Queen」が流れたり、フランスの敗北を現す様にフランス進軍の曲が短調になったりと芸が細かいというか、ここまで媚びるか?!という曲です。後ろの国旗が悲しくも映えます。しかもスクリーンでは、イギリスの進軍を観客が讃える様に「拍手、敬礼」という指示が出され、フランス軍の進軍に対しては「ブーイング、拍手?」という指示が出ます。当時の聴衆の反応を再現する為の指示のようですが、当日の観客はほとんどが「もぎぎ」の指示に素直にしたがっていました。(素晴らしい!「もぎぎ」の指導力?)

現実問題として、その初演はメルツェルの狙い通り大当たりだったようです。ウィーン市民はフランス軍に対する恨みを晴らす爽快な音楽として大歓迎。演奏会も何度も繰り返し開催され、メルツェルもベートーヴェンも大儲け。今で言うミリオンセラーでしょう。
貧困にあえぎ、音楽界からつまはじきにされつつあったベートーヴェンの名声はこの「戦争交響曲」がきっかけで絶頂期を迎え、広く世に知られることになったのだそうです。後の世に名曲と賛美され、「のだめ」ではテーマ曲にすらなってクラシックに疎い人でも耳にする機会の多くなった「ベトしち」。そのヒットのきっかけが、実は「べー様の駄作」と言われるこの「戦争交響曲」だったことは今や忘れ去られた事実で、今回のまさに「いまだかつてない」コンサートはその初演をほぼ忠実に再現した、歴史的意味の深い、クラシックファンとして楽しい経験となる演奏でした。


4/6(日)夜の神谷未穂さんのブログ(「ヴァイオリニスト未穂のダイアリー」をどうぞ)にも高木綾子さんのブログ(「高木綾子の<*フルート& Diary*>」をどうぞ)にも、新潟の演奏会が終わって東京に戻る新幹線の中で読んだ「もぎぎ」の新刊『拍手のルール』のことが取り上げられていました。お二人とも、新幹線の中でのプチ・打ち上げ(要するにお酒)が写っているのはご愛嬌ですね。
2_24/10発売のこの『拍手のルール』は当日会場で先行販売され、終演後茂木氏のサイン会もありました。私はせっかく片道3時間、往復6時間もかけて酒田からやって来たのですから、と楽屋を訪ねて神谷さんにご挨拶。驚いて頂けたようです。(超が付く美人の神谷さんと我々の差が少しでも小さくなる様に写真は小さめです、、、笑)
2楽屋では美しい高木姉妹にもお会い出来ましたし、神谷さんには持参した色紙(写真、3/16のオペラ出演者、音楽監督の三枝さんからミミ役の大貫裕子さん、指揮者の中橋健太郎佐衛門さんなどのサイン)に「コンミス神谷さん」のサインを加えて頂きました。(左下の方、バイオリンの形も入っています)。
幸せな気分いっぱいになりました。

終演が18:30とたっぷり2時間半のコンサート。
楽屋に伺ってホワイエに戻ったら「もぎぎ」のサイン会の最後の方。並んでサインもゲットしました。
Photo_2Photo_3その時点で19時を過ぎていたため、私の医学部の同級生(最初に書いた開業整形外科医)の実兄がやっている新潟でも有名なお鮨屋さん「寿司清」に寄って食事をして帰りました。私が握りの「日本海」、家内はちらしの「佐渡」を頂いて満足。
それから酒田まで約160km。自宅に帰ったのは22時半を回っていました。
ちょっと疲れましたが楽しい一日、なによりも凄いコンサートでした。v(^^)

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コメント

セカンドトップは、東京都響首席の方でしたよね?
神谷さん贔屓はわかりますが、正しく書き直してください。

投稿: もしもし | 2008.04.08 23:21

もしもしさん、コメントありがとうございます。
あ、別に「贔屓」で書いた訳ではありません。セカンドの1プルトの事を書いたつもりでした。セカンド首席は遠藤香奈子さんでしたね。ご指摘ありがとうございました。

投稿: balaine | 2008.04.09 01:53

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