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2008.02.22

MRI検査講習

脳神経外科医を志して24年。
医学部の学生の頃から、X線CTはありましたが、MRI(ちょっと前はNMR-CTと呼ばれていたんです)は私が医師になってから世の中に出現した器械です。山形県内に最初にMRIを導入したのは山形市と米沢市の「私立」病院で、昭和61, 2年頃だったと思います。当時のMRIの画質は、陰で「MRIシンチ」(シンチグラムは、RI=ラジオアイソトープを使った放射線検査で、ボワ〜ンとした不鮮明な画像が特徴)と揶揄した位酷いものでした。20年以上前の事。世の中に携帯電話もデジカメもない時代だったのですからやむをえないでしょう。「公立」ではなくなぜ「私立」だったのかというと、20年前でも「?億円」という高額な検査機器で、公立病院ではすぐには買えない高価なものだったのです。

同じ「断層撮影」といってもCTのように頭の中に出血や腫瘍が見えるだけではなく、血管や神経(当時は太い神経で視神経位)が見えたり、いろんな角度に輪切りが出来るなど、画期的な画像診断で、脳の研究者、特に脳外科医は飛びついたものでした。CT以前の脳外科は、脳卒中で倒れた患者さんが「出血」なのか「梗塞」なのかもわからず、脳血管撮影で脳の血管が圧迫されて倒れた状態を見て「出血だ!」と考え頭を開いて手術してみたらどこにも出血はなく、脳梗塞でやられた脳がむくんで腫れていたという状態だったのですが、世の中にX線CTが出現し(日本国内に普及し始めたのは昭和50年代前半)、脳外科医は衝撃を受けました。
頭を開かなくても脳の中が見える!なんと素晴らしい器械だ!これで脳の病気は治せる!

しかし、人間の身体はそんなに簡単なものではありませんでした。見えるから、診断がついたから治る、と言う程単純ではありませんでした。そして、顕微鏡手術の進歩、脳内視鏡の出現、手術中の脳波・誘発電位などの電気生理学の発達などなどにより、脳の研究、手術もどんどん進んできました。そうなると、ただ脳の中が見えるだけではつまらない、脳の神経も見たい、脳の血管と脳の関係も見たい、脳の中の細胞の集まった部分と神経線維の集まった部分の境界をはっきり見たい、・・・を見たい、XXXを見たい、とどんどん欲求が高まって行きました。そこに登場したMRIは全世界の脳外科医を虜にしました。そして、MRI自体もどんどん進化して行きました。

「MRIシンチ」と揶揄されていたボワ〜ンとした画像も、今や言語中枢、運動中枢など脳細胞が活動している部分と休んでいる部分の違いが見えたり、運動中枢の脳細胞から脊髄に至る神経繊維だけが見えたり、本当に素晴らしい進化を遂げて更に進化しています。
脳外科医として開業する上で、いろいろな診療形態を考えました。しかし、やはりMRIは欲しい。これは偽らざる気持ちでした。高校で一緒に音楽をやった仲間がMRIを作っている大企業の「お偉いさん」になっていて、MRI導入について相談に乗ってくれました。検査能力の高い「超伝導MRI」は本体が数億円と非常に高価な上に、液体ヘリウムで常に超伝導現象を起こす為のランニング・コストも年間数百万円と嵩むため、一開業医の小診療所ではなかなか持つ事が出来ません。
永久磁石を用いたMRIでも本体価格は安くても3,4000万円で高いものは6,7000万円からします。導入は本当に「清水の舞台から飛び降りる」という感じでした。

そして、今日、初めてクリニックのMRIを自分で使ってみました。
1月末に設置されて、この寒い冬の中で24時間暖房をつけっぱなしにして部屋を暖めて磁石の温度を上げ、先週から画像調整に入り、そして今日の使用となりました。
被検者をベッドに寝かせ(あ、余計な事ですが、bedを「ベット」と記載する間違いをテレビでよく
見かけては一人憤慨しています)、頭部を固定し位置を調整しガントリーの中に誘導し、MRIコンソールのコンピュータを操作し、MRI撮像を行いました。
T1強調像、T2強調像、FLAIR画像の3種を撮るだけなら8~10分程で終わります。MRA(MRIを使った血管撮影)では更に10~12分くらいかかります。まだまだ使い始めたばかりで慣れませんが、患者さんのベッドへ誘導、設置、検査がスムーズに行けば、短い検査なら20分、長くても35~40分位で終わりそうです。
検査結果をMRIコンソール画面で見て、MRAのvolume renderingをおこない、これを3次元にクルクル回転させたりするのはワクワクします。DICOM dataをMacで構築したPACSに転送して、思いのままにズームアップしたりダウンしたり、コントラストを変えたり、3次元画像にしたり、くるくる回転したり、2種類並べて同時に動かしたり、、、
まるで「おもちゃ」を買い与えられた子供の様に遊んでしまいました。

Mri2MRI検査という医療器械の使い方の講習というと、なんだかこ難しい、面倒くさい、特殊な勉強の様に思うかも知れません。でもちょっと複雑なパソコンに触っている様なものなんです。しかも人間の頭の中を自在に調べる人の役に立つ器械であり、脳外科医にとっては「憧れ」の検査機器でもあり、私にとっては「遊び道具」のようなもののようです。
技師さんと一緒に操作を学びましたが、検査だけしていればいいのであれば自分がやりたいと思うくらいです。楽しく、嬉しい、というのが今日の感想でした。v(^^)
そういう想いが、この「くじら」にもつまっているつもりです。
(でも、現実は、いろいろな面談、打ち合わせ、道具の準備、資金調達、支払い、スタッフの採用、研修などなどの雑用が一杯で頭が疲れます)

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コメント

先日はありがとうございましたm(__)m某公立にMRI導入されて間もない頃、ほんと直ぐに検査を受けた記憶があります。今では当時からすれば独特の音も低くなっているのでしょうか?検査中眠れることが自慢f^_^;それと「ベッド」と「ベット」\^o^/スッキリ。連日横たわって不思議に思っていたことの一つ。きっとベットとblogにも…読み返してみなくては!

投稿: ボリジ | 2008.02.23 02:28

MRIと出会った?のはいつからだろうと考えました。
10年以上前だというのは分かってますが…
そう、ただベッドに横になってるだけでも、
段々変化してきたのが分かります。
最初は地下鉄工事みたいな音がしてました
まっ、それでも寝てましたけど

友達は閉所恐怖症で、あのトンネルの中には入れない!と言ってましたが、そのトンネル?の様子も変わってきました。
どうにもこうにも具合が悪くなったH14、最新MRIのあるあの病院に行きなさいと、他科の主治医は指示してくれました。
MRIには親しみ?を感じます。
それでも、海綿静脈洞内は、イメージが沸かず、
何度も、今も頭蓋骨模型で補足説明してもらいます。
鯨を眺めながら、深い青の静かな海で寝れたらキモチ良さそう

投稿: リスペクト | 2008.02.23 11:58

ボリジさん、調子どうですか?
リスペクトさん、ありがとうございます。
今日も一日MRI講習でした。技術者と技師と私の3人で、脳と頸椎と頸部動脈MRAの撮りっこしてました。
私の頭、結構脳が萎縮して(?)側脳室が大きかった。でも記憶に関する海馬領域は大丈夫!それからだい4、5、6頸椎に頚椎症と軽度の椎間板脱出、軽度の後縦靭帯骨化症を認めショックを受けております。姿勢よくしなきゃ、、、
でもMRIもMRAも0.4Tなのに綺麗ですよ。技術革新に驚きです。さらに高性能PACSにはH社の技術者も感嘆の声を上げていました。3次元で赤い色を付けた脳の血管が、クルクルッとか〜るく回せるんです。
MRI特有のあの音『ガンガンガン」とか「ギギギギギ」とか「ゴトッ、ゴトッ」という音も、しますけどカイワが成立するくらいの騒音で昔に比べるとかなり静かです。高いだけのことはありました!v(^^)

投稿: balaine | 2008.02.23 16:58

MRIがどのように発達してきたかを知ることができ、なるほどなあと思いました。
MRIは、たいへんありがたい器械だと感じています。
7年ほど前、内科でも、その先生から紹介された神経科でも原因が分からなかった症状が、整形外科のMRIで一発で頸椎症と分かり、即入院・手術となりました。
その症状は、手指に力が入らずコンセントからプラグが抜けないとか、足が上がらなくて階段を上れないとか、体の様々な部分の感覚がない(触れているのにそう感じない)・・・などでした。
不安で家庭の医学を見て、頸椎症なんて思いもよらないから、症状が似ている糖尿病(健康診断の数値は大丈夫だったんですけど)かと思ってみたり、それだと病院行きたくないなあと思ってみたり。
早く病院行けばよかったのに、自覚症状が出てから一年ぐらいして、周りから「それはおかしいから病院へ行け」と言われて行ったら上記のようなことでしたので、MRI様々でした。
いえ、お医者様々なんですが、本当は。
もう少し遅かったら、歩けなくなるところだったそうです。
おかげさまで今は、元気に働かせていただいております。


器械もすごいですが、お医者さんをはじめとして看護師さんや検査技師さんなど、医療に従事されている方々には、本当に頭が下がります。
balainさんも、御身大切になさって、地域の方々の救世主であり続けてください。

長くなってしまいました。乱文お許しください。

投稿: えがお | 2008.02.24 11:30

先程のコメントで、うっかりお名前の最後にeをつけ忘れてしまいました。
たいへん失礼いたしました。

投稿: えがお | 2008.02.24 11:35

えがおさん、そうですか。それは大変でしたね。
私の頸椎も歪んでいますが、今のところは神経症状は何も出ていないので、無症候性の頚椎症ということになります。
病気というものは、なかなかタイミング診てもらうが難しいですね。大した事もないのにすぐに病院に来る人もいますが、多くは「なんでこんなになるまで、、、」と医師側が思う程遅く来院されます。でも基本は「病気の軽いうちに」、できれば「病気になる前に」治療を開始する事が大切なんですね。

投稿: balaine | 2008.02.25 00:57

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受信: 2008.02.24 11:37

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