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2007.12.03

何十億もする楽器

昨日は、酒田フィルハーモニー管弦楽団の第35回定期演奏会でした。

酒フィルの前身にあたる合奏団が結成されて40年を経過しているそうです。活動の盛んなアマオケの場合、定期演奏会を年に2回、3回とやっているところもあり、レギュラーコンサートとして既に100回を越える定期演奏会をやっている楽団もあります。
酒フィルの場合は、定期演奏会は毎年11~12月頃に1回、ファミリーコンサートと銘打ったもう少し気楽な感じのコンサートを春(2~3月)に1回というのが主な活動で、それに依頼演奏会(小学校の式典、大学の入学式、市民芸術祭開会式など)が入るくらいです。
全国にアマチュアオーケストラというのはたくさんありますが、酒フィルの場合、不文律というのか、農繁期(4, 5月から10月、苗の準備、田植え、メロンなどの果物栽培、畑、そして稲刈り)にはコンサートを避けて来た歴史があります。主要メンバーの中に農業従事者、関連事業者がいることは大きく影響していると思います。
私のような職業の場合は、特にこのシーズンが駄目という事はなく、お盆でも正月でも演奏しろと言われればいつでもOK!という感じなのですが、「団」として集団行動をする場合には、酒フィルには「季節」がとても重要な訳です。

そう言った訳で創設以降40年を経過していても、定期演奏会はまだ35回。なので草創期からいるメンバーでも、まだ演奏した事がないという「名曲」がたくさんあるのです。
一方、昨日のメインであるチャイコフスキー作曲交響曲第6番「悲愴」などのように、定期演奏会で既にやった曲を繰り返してしまうこともある訳です(人数、構成などが大きく関わります)。アマオケとして、たとえばショスタコをやりたいとか、「春祭」をやりたいとか希望しても、団員の数、楽器の構成、使用する楽器(たとえばハープにグロッケンシュピール、チェレスタなどという一般アマオケにはあまりよく見ないことの多い楽器)などで制限があります。自分たちの身の丈に合った(演奏の実力と所有楽器、楽団員数)曲を選択する傾向にあるのは仕方のないところもあります。草創期からのメンバーでこれまでの演奏記録を見て「まだ、こんだけしかやってねぇんだのぉ」という感想を漏らした人もいます。

昨日のコンサートは、団員に与えられたノルマを含め売れ行きの悪いチケット販売状況から懸念された様に、昨年を下回る観客数でした。公式発表では696名と聞きました。希望ホールは満席が1287なので6割を切っているわけです。料金は一律2000円の自由席なのですが、「音響が良い」という評判の2階、3階席はかえって7割以上の埋まり具合に見え、1階席は50%行ってるかどうかという感じに見えました。
Photo_2お客さんの数に関係なく演奏は真剣に熱く行いました。
最初に、今年5月に50代の若さで亡くなられた酒フィルの元事務局長であったM氏を追悼するため、モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」が演奏されました。影アナにより「本演奏に対しての拍手はご遠慮願います」ということで、静かに音楽が捧げられました。(写真はリハ風景)

Photo_4そしてプログラムの1曲目、ベートーベンの「エグモント序曲」。昨日のリハーサルまで、まだまだ和音も音色もまとまりも課題だらけだったのですが、直前GPで急に仕上がって来て、本番では結構いい出来だったのではないかと思います。腕に覚えのあるエキストラが、秋田(秋田市、湯沢市、仁賀保市など)、新潟、山形市と参加して下さった事も大きいですが、本番に向けてスロースターターの庄内人がぐぐっと力を発揮したと言えるでしょう。セカンドフルート&ピッコロを担当しました(写真はピッコロの席から撮影)が、最後の4小節の前までず〜っとドキドキでした。N響オーボエ奏者の茂木大輔さんがそのご本に、そこまでのオーケストラ全員の盛り上がりと凄い努力の演奏を、「最後の「ピロリ」で一人で持って行ってしまう」美味しい楽器ピッコロ、と紹介している様に、確かに最後にピッコロの第3レジスター(フルートの実音ではその1オクターブ上)の「ドレミファ」の5回だけは「おいしい」です。でも逆に言うと、この一見何でもない「ドレミファ」をしくじったら、恥ずかしいで済むレベルの話ではなくなります。2度と演奏会に出たくなくなるのではないかと想像してしまう程の重圧でした。
開演3分前まで、控え室に一人残ってこの部分を、pやfで吹いたり、ゆっくり吹いたりリズムを変えたりしながら「おさらい」しまくっていました。御陰さまで、何とかミスなく、クリアに吹けたのではないかと思っています。
Vnプログラム2曲めは、指揮者のエヴァルト・ダーネルさんの「弾き振り」でモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」です。その時代の編成ということで、団員は半分以上「降り番」。第1ヴァイオリン6人、第2ヴァイオリン5人、ビオラ5人、チェロ4人、コントラバス2人の弦5部にホルンとオーボエが2名ずつの小編成です。ダーネルさんのVn.は、一言で言うと「エレガント」です。(写真はVn協奏曲GP中、1階席から撮影)
柔らかく、甘く、美しく、透明感のある響きを奏でていました。私は、3階席後方(ホールの一番上後ろ)で聴きましたが、繊細なppもクリアに聴こえてきました。希望ホールは、1287席のどこに座っても響きに大きな差の生じない素晴らしい音響設計がされています。大編成、大音量になると、ちょっと音の粒立ちやイントネーションが不明瞭になりがちな部分がありますが、とにかく良い響きです。
ダーネルさんの演奏が素晴らしい事はもちろん、少数精鋭の酒フィルメンバーも美しい音色で頑張っていました。

我々がこれだけの演奏が出来るのは、「希望ホール」という素晴らしいコンサートホールの御陰です。「希望ホール」の案内
残響時間1.9秒というデータ上のことだけではなく、ホールの隅々にまで音が行き渡り、しかもエコーやハウリングの少ない美しい響きを奏でてくれます。
そう、値段を付けるならば「何十億円」という金額になる素晴らしい楽器が我々を包んでくれているのです。遊佐の公民館や鶴岡の市民会館や山形の県民会館で演奏したら、昨日のようなパフォーマンスは出来ないのではないかと思われます。

Photoこの素晴らしい「楽器」を頭上に頂いて、3曲目はいよいよメインの「悲愴」。フルートトップを担当させてもらいました。指揮者のダーネルさんから11/30, 12/1, 12/2と本番が近づくにつれ練習時とは違う指示が飛ぶので少々戸惑いました。「インテンポ」で3連符を揺らさないで、と言われていた、第1楽章中間部の始まりのModeratoのフルートソロの部分。前日に、「もっとクレッシェンドして」「もっともっとコントラストが付く様に」と言われ、fでもないところをmfからfくらいの感じで吹きました。当日のGP時には、「もっとアッチェラレンドして!」と言われ、最初に指導された「スピードを変えず、譜面通りに、急がず、遅れず、クレッシェンドもpからmfくらいで」と考えて練習していたものを、「アッチェラレンドして、クレッシェンドをもっともっと強調して、アクセントをつけて」ということになりました。指示された通りに吹きたいと思っても、普段そういう風に練習していなかったのですぐにはうまく出来ません。
しまいには、マエストロから「あなたとわたしにはチャイコフスキーが『クレッシェンド』と書いたのはわかるけれど、それでは聴衆には届かない、聴衆にはチャイコフスキーの意図が伝わらない、respect Tchaikovsky!」と言われる始末でした。これも直前まで控え室で「コソ練」して本番に臨みました。ドキドキものでしたし、思った通りに吹けた訳ではありませんが、まずまずいい音が出せたのではないかな、と思いました。舞踏の第2楽章は、通常良く聴く演奏よりかなり速い演奏ですが、荒が目立たないという利点、ノリで演奏し切ってしまうという点は、我々の実力をよく理解されたダーネルさんの作戦の一つではないかと思いました。第3楽章は、「コンパでジュースはだ・め〜!」とか「さっちゃんのとうさんはだ・れ〜?」と言われる、マーチ的な部分。チャイコフスキーの生涯の中でも輝かしい栄光の時代を反映したものと言われています。ここも結構速い。最後は、オケ全体が一塊になってガ〜〜ン!っと熱い火の玉のような演奏だったと思います。熱演、というのでしょうか。いい演奏だったかどうかは今はまだ冷静には判断できませんが、凄い演奏であった事は確かです。
第4楽章にアタッカで入ろうとしたのですが、やはり拍手が少し聴かれました。ダーネルさんは意に介せず4楽章を振り始め、悲愴の悲愴たる所以の悲しい音楽が会場を満たします。フルートは低音で小さめに、しかし決して弱くなく呻きます。グァ〜ンという感じで全体が盛り上がった後、タムタム(どら)の音で「昇天」し、天国のコラールが鳴り響き、次第に楽器が少なくなって、最後はコントラバスだけになって、消えて行きます(ちなみに、「悲愴」の第1楽章、最初の音もコントラバスから始まります)。

ダーネルさんがタクトを降ろしても、拍手がありません。演奏に感動したのか、どうしたらいいのかかわらないのか、まだ続きがあると思っているのか、本当に誰も拍手してくれないのではないかとすら思いました。指揮者のダーネルさんが、指揮台の上で我々の方を向いて、「おまえたち、よくやったよ!いい演奏だった!」という表情をして、拍手をしてくれ、観客からもつられる様に拍手が出た感じでした。知人の中には、私の携帯に「数年前の○○フィル(註:東京のプロオケ)の酒田公演よりもいい演奏だったと思う」という褒め言葉を下さった方もいました。来年できるであろうDVDが楽しみです。
数回のカーテンコール、ダーネルさんへの花束贈呈の間、拍手は鳴り止まず、アンコール。
ドヴォジャークの「スラブ舞曲第2番」です。ダーネルさんはスロヴァキア人。スラブ民族です。
重苦しい、悲痛な「悲愴」で「死」を奏でた後、スラブ民族特有のリズム感で柔らかくエレガントなダンスのお時間。観客の皆さんはどう感じて下さったでしょうか。「悲愴」のまま、終わって帰途につくのと、「スラブ舞曲」で舞踏的リズムを身体に刻んで帰途につかれるのではだいぶ感じが違うものと想像します。

こうして、無事(?)、定期演奏会は終わりました。
Kibouhall1それにしても、酒フィルは酒田市民会館「希望ホール」に、庄内町「響ホール」という素晴らしいホールで演奏する機会に恵まれています。もしかすると、田舎の弱小なアマオケの中ではもっとも恵まれた環境にあるのかも知れません。音楽ホールという、何十億もする素晴らしい「楽器」とともに演奏する幸せをあらためて強く感じた一日でした。

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コメント

演奏会、お疲れ様でした。
指揮者のその都度出される要求に応え、演奏する。
うーん、大変そう・・・。
応えることで、より音楽を楽しめて、レベルアップ!と、頑張れるのかな。
苦労して得たものほど、目的以上のものを得て、身に付くのでしょうか。

音響を優先して設計、建設されるホール。なかなか出来ないことですから、よくぞ実行した!と、感謝したくなります。
いつか、希望ホール、響ホールでの演奏を聴いてみたいです。

体調と時間を整えて、いざ!

投稿: ふなゆすり | 2007.12.04 17:24

音響では福島市の音楽堂も有名ですね。高木綾子さんも確か一枚そこでCDの録音をしていたはず。
演奏終了後の1、2、3次会とダーネルさんに付き合い(?)、何故指示をいろいろ変えて行ったのか聞いてみました。予想通りの答えでした。「私の出した指示に対してオーケストラから帰ってきた音を聞いて、それで更に考えて指示を変えて行った」とのこと。最初は、お互い手の内や実力がわからなかったので、「譜面通り!」ということから始まった訳です。ということはこちらの力をある程度認めて下さったという風に理解(自惚れ?)も出来るので、嬉しいお答えでした。
でも今の私の心境は、「ホッとした」というのと「もっとうまくなりたい」です。
「いざ!」、、、そうですね、3/16にオペラ『ラ・ボエーム』があります。指定席は12/2から売り出していますよ。

投稿: balaine | 2007.12.04 18:31

お疲れさまでした!!!
ソロきれいでした(*´艸`)
ピッコロかなりよかったです(`・ω・´)
次も聴きに行きますので頑張って下さい☆*.゜
いつか金色のフルートを見せてください(・∀・)アヒャ



ブログの代わりみたいな感じなんですが中学のときの友達とやってるHPです↓
http://81.xmbs.jp/TOTORO/
PCでもみれるハズです(o´∀`;o)a
あんまり更新していませんが..

投稿: ハチ | 2007.12.05 01:22

ハチさん、ありがとう。金のフルート、いつでもお見せしますよ。でも希望ホール1個で金のフルートが多分1000本は買えるんですよ。ストラディバリのVnだって、多分10挺以上買えます。
「日記」みました。何かコメントしようと思ったけど、女子高生の世界に踏み込む勇気がありませんでした。(^^;;;

投稿: balaine | 2007.12.05 11:29

ありがとうございます!!!
嬉しいです(∩´∀`)ワーィ
ストラは3億くらいしますから30億ですか?
たかっっ!!!

いやいや..コメントして下さい(´∀`)
くだらないことしか書いていませんが(o´∀`;o)a

投稿: ハチ | 2007.12.05 12:45

演奏会おつかれさまでした。昨日新しいパソコンを購入して、balaine さんのブログに初めてコメントします。以前のパソコンでこのブログにアクセスするとフリーズしまくっていたので、やっと何の障害もなく読める事になりました。これからよろしくお願いします。ダーネルさん?はもの凄くいい指揮者だったみたいですね。毎日要求する音楽が進化していくということでしょうか?前の練習で要求した事が出来るようになったので本当にやりたかった音楽的解釈を要求したのでしょう。balaineさん達酒田フィルのメンバーの頑張りのたまものです。

定期演奏会の演目選びは色々なことがあって、主にお金の話だったり、エキストラの手配だったりが問題になります。しかしアマチュア音楽家の特権をいかし色々な演目にチャレンジしていってください。いや我々も日々チャレンジですが。

ただ大きい曲だけをやっているとオーケストラの音が荒れてくるようです。古典ものなどが出来る編成のオーケストラが一番幸せのような気がします。

これからも活動応援しています。今日は、山形響は南陽市で明日のコンサートのリハです。

投稿: らびお | 2007.12.08 11:43

酒田中央高校でチェロをやってる者です。友達から聞いた話ですけど、家、富士見小学校の近くに住んでるらしいですね私も近くに住んでるんですもしかしたらご近所かもしれないですね

投稿: いちご | 2007.12.08 15:20

らびおさん、いらっしゃいませ!
JAO酒田大会の影響で指揮者選定が遅れたため、ダーネルさんの本番での予定を確保するのが精一杯で、本番直前2日以外は、たった1回の「指揮者練習」だったんです。酒フィルが成長したというよりは、「だめだめ」だったのが「だめ」くらいになって、直前に「まあまあ」になったのかなぁと思っています。もちろん課題は山積みで本番もいろいろ傷だらけの演奏ではありましたが、心のこもった演奏が出来たと思っています。

投稿: balaine | 2007.12.09 23:46

いちごさん、こんにちは。コメントありがとう。
このブログは、全国から一日平均150名以上の方から290前後のアクセスがあります。
個人が特定されしかもその生活に関わるような情報は、個人的にメールでご連絡をお願いします。別に責めている訳ではありません。つい気軽に書いたのでしょうが、問題になる場合もあることを考えた方が良いと思いますよ。
学校名や住所が特定されるような書き方は避けた方が懸命です。
ハチさんと共に練習頑張ってね!

投稿: balaine | 2007.12.09 23:52

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