12/14(金)は米沢の「伝国の杜」ホール、12/15(土)は山形県民会館、そして昨日12/16(日)は酒田市民会館「希望ホール」と3日間同じプログラムで、山形交響楽団の演奏会が行われた。
山響のHPによれば、12/14は「米沢演奏会」として「その他の演奏会」に分類され、12/15は「第185回定期演奏会」に分類されている。そして昨日の酒田公演は、庄内公演の「第6回酒田定期」になっている。これは、平成16年に新しい市民会館が落成し次の年の平成17年から酒田公演が庄内定期になったからである。音響では県民会館よりも良くないと思われる鶴岡の文化会館での庄内定期は今年で5シーズン目なので、次のH20年3月15日(土)(オペラ「ラ・ボエーム」の前日)で第10回になる。
指揮は、山響音楽監督飯森範親氏を「のりちか」と呼び捨てにし、自ら「親友」という、サッチーこと藤岡幸夫氏。日本では音大を出ていない(慶応の文学部卒、しかも中等部から慶応だったそうで本物の「Keio Boy」である)が、話が前後するけれどコンサート後の交流会ではみずから「小学校2年生の時から指揮者になりたかった。誰よりも指揮者になりたいと思ったのは早かった。」とおっしゃっていた。
年の上では藤岡さんが飯森さんよりも2,3才上のはずだが、指揮者としてのデビューは飯森さんが22,3才に対して藤岡さんは33,4才と遅かったとおっしゃっていたが、プロフィールをみると20代後半から指揮はしているようで、「日本デビュー」の事を言いたかったのかもしれない。経歴の上では、飯森さんがヴォルフガング・サヴァリッシュの弟子であったのに対し、藤岡さんはサー・ゲオルグ・ショルティの弟子であったというところも後の二人の指揮者としての違いに影響を与えているはずである。
演奏は基本的に同じですが、12/15の県民会館でのプログラムの内容や的確な感想は、こちらを参照下さい→「電網郊外散歩道」第185回山形交響楽団定期演奏会を聴く
指揮:藤岡幸夫、マリンバ:三村奈々恵
1)エルガー;セレナード ホ短調作品20
2)黛 敏郎;シロフォンのためのコンチェルティーノ
ー 休憩 ー
3)ショスタコーヴィチ;バレエ組曲第1番
4)ショスタコーヴィチ;交響曲第9番変ホ短調作品70
日曜のためか、17:45開場、18:30開演と少し早めの時間。考えてみれば、山響団員はコンサート終了後、車やバス(山響専用)で山形市まで帰らなければならず、20:30に出ても着くのは22:30頃になる可能性がある(しかも昨日は日中は雪だった)。
18:20過ぎから、ステージに藤岡さんが登場し「プレ・トーク」が始まった。飯森さんの熱烈なファン(特に女性)や追っかけが多い事は知られているが、サッチー、もとい藤岡さんにも熱烈なファンがいるそうである。トークをする姿を拝見してもその事は納得できる。渋い二枚目俳優のようなお顔、スタイルが良くて足が長い、そして低音で渋くちょっとニヒルな感じを漂わせながらもはきはきした大きな声で優しい笑顔で話される。
「指揮者同士はたいてい仲が悪いと良く言われるんだけど、僕とノリチカは本当に仲がいいんです。」「お昼に酒田の美味しいお鮨屋さんに連れて行ってもらってね、満足です。」というようなことや、「今日初めてこちらに来てね、噂には聞いていたけど、素晴らしいホールですね。日本でも有数なホールだと思います。」と地元客の心をつかむお世辞が半分にしても嬉しい事をおっしゃいます。
「メインのショスタコーヴィチの9番は、本当に命をかけた曲なんです。」「山響の団員には、観客席にスターリンがいると思って演奏して下さい、と言ってあるんです。」とのこと。およそ10分にわたるお話でした。
1曲目は、弦5部のみの構成。今回は、マリンバの迫力を間近で味わいたいという事で1階席の前方7列目に陣取りました。一番前の列には、酒フィル団指揮者のYさんとVnのY氏夫人、3列目にはVaのMさん、我々の2列後ろには夫婦でVc奏者のYさん家族が座っています。
曲が始まった瞬間に陶酔しました。なんと甘い美しい弦の調べ。ああ、山響はここまでになったのか、と「ガタ響」と揶揄された20年以上前を知っているだけに思いました。それと同時に、酒フィルとの違い(プロとアマですから比較する事自体が山響団員に失礼ではありますが)をあまりにも明瞭に突きつけられます。私は管楽器奏者ですから勝手な言い分かもしれませんが、オーケストラの基本はやはり弦楽器。そして4プルト、5プルトいる奏者が一つになって同じ音を奏でる難しさと美しさをあらためて思い知らされました。酒フィルの弦楽器にも名手はたくさんいます。彼らの名誉のためにもあえて書きますが、プロを目指しても良かった(またはプロだった人)もいます。ただ、例えば第1ヴァイオリンというグループとして、曲によって6~12人位の集団で演奏する訳ですが、その技術や経験の幅が余りにも広く、ひとつのまとまった「音」として聴こえて来ないことが少なくありません。定期演奏会直前にエキストラが加わると、フルートの席から見て右の方(第1,第2ヴァイオリンの後ろの方)から美しい音色が聴こえて来て、弦楽の塊としての音が「変わる」ということを良く経験します。本来、コンマス(コンミス)から4、5プルトの奏者までそれほどの技量の差はなく高い精度を持った演奏が出来なければ、作曲者が意図している演奏はできないと思います。しかし、それをアマチュアオケ、特に人口の少ない地方小都市のアマオケに求めるのは無理というものでしょう。
いや、本当なら、アマチュアと言えど、全楽団員が高い志と希望を持って練習に勤しみ、時には仕事やプライベートを少々ないがしろにしてでも練習して自らの演奏技術や音色を高め、それを持って「管弦楽団」としてのパファーマンスをもっと上げる様に一人一人が努力すべきです。しかし、アマチュアの悲しさ、一人一人の団員は音楽を愛する心は共通でも「志」とか「想い」ということになると皆違います。簡単に言うと演奏活動に対する「温度差」ということになります。だからといって、練習にあまり来ない人や上手に弾けない人を本番の舞台に上げないとか参加させないなどという余裕がある団ではありません(都会のアマオケや学生オケなどでは、熾烈な乗り番争いや激しい競争があるやに聞きます)。
話が大変ずれてしまいましたが((^^;;;poripori)、とにかく弦5部全てのパートが美しいまとまりのある響き、切ない程のppや胸に迫るcrescendoを聴かせてくれました。美しくて目を閉じて聴き惚れましたが、「希望ホール」の響きの良さが山響の弦の美しさをさらに際立たせてくれていることが感じられました。県民会館や鶴岡の文化会館ではこの響きは得られないだろうと思います。たとえが適切かどうかわかりませんが、素晴らしいお料理が、適当な皿に載せられ事務机の上に置かれているのではなく、作家物の器に綺麗に盛りつけられ美しい花などの飾りと共に料亭のお座敷で頂いているような感じでした。料理自体は同じなのですが、それを味わう環境も設定も違うと別の料理の様に感じたり、美味しさが一層引き立つという事があると思います。先日(12/3)のブログ記事でも書いた様に「希望ホール」自体が何十億円もする「楽器」そのものであり、お料理の「食器」にあたるものかと感じました。ずっと目を瞑って聴いていると寝てしまいそうだったので団員を観察しながら音楽に酔いました。
コンミスは犬伏さん。目の前、そして会場のあちこちにいる酒フィル団員に気付いてすこし微笑まれた様に思いました(犬伏さんは、酒フィルの弦のトレーナーをされています)。山形弦楽四重奏団のVn.中島さんがセコバイの1プルに、Vc.の茂木さんがチェロの1プルに、Va.の倉田さんがヴィオラの3プルアウトに座っています。直前情報(「らびおがゆく」倉田さんのブログ)で、腰さらに肩を悪くしたということで心配していましたが、右腕よりも体全体を使うようなボーイングでカバーして頑張っておられたようでした。演奏そのものは何の問題もなかったようですがご本人は結構辛かったようです。
おや!あの顔は、、、プログラムのメンバー名を確かめて納得。1st Vn.の4プルのインに客演特別首席コンサートマスターの高木和弘さんの奥さんが乗っています。旦那さんが出ないステージにも乗るんだな〜と思うと共に、山響にこうやって新しい風、力が加わって更にパワーアップする事を願うものです。
藤岡さんはエルガーの曲についてプレトークで、女性の事、奥さんの事、最近になってようやくエルガーの様な夫婦愛について少しは理解できる様になった事などを話していました。
2曲目。マリンバの三村さん登場。
三村さんとは国立音大で同学年(学科が違う)と言っていた合唱のS先生の息子さん、MSさんが1列目、目の前に座って聴いています。(笑)
マリンバは、今年5月に名月荘で、ハープの早川りさ子さんのサロンコンサートを聴いた際に、りさ子さんとN響仲間のパーカッション竹島さんの演奏を間近で聴きました。特に低音の場合、普通の木琴と違って反響、増幅用の管があるためまるでパイプオルガンのような倍音の多い響きが聴かれます。ボワボワボワ〜〜ンとかブルブルブル〜ンという感じで、耳で聞くというより身体でbody sonicに感じるという音です。これが「希望ホール」の音響と相まって素晴らしい音です。その技術はもちろん高い音楽性で聴衆を魅了します。曲は初めて聴きましたが、黛敏郎らしく日本的で随所に民謡や村祭りを思わせる旋律やリズムがちりばめられた美しいものでした。目の前の演奏は迫力十分で、あっと言う間に終わった感じがします。万雷の拍手に2回程カーテンコールをされた後、先ほどの赤いマレットのバチ2本ではなく、白いマレットのバチを4本手に登場され、アンコールです。自分が好きで尊敬するというエンリコ・モリコーニの映画音楽から1曲(曲名を忘れましたので、判明したら後で書きます)。広い希望ホールに、三村さんの奏でるマリンバだけが響きます。時にバチの音が鳴ります。pppでも豊かに鳴り、fffでは息を停めてしまう程の迫力。プロの演奏会でも滅多に涙を流す程は感激しないという家内も、ウルっとを通り越して涙を浮かべていました。
マリンバというのは打楽器なんだ、と演奏している三村さんを見ていて再認識。細身で長身のスタイル抜群の美女ですが、演奏中は肩や二の腕の筋肉がぐぐっと盛り上がっていますし、繊細なp~ppでは肘を固定して腕の動きは押さえつつ、前腕の筋肉にギュッと力が入って指でガシッと握りしめたマレットを柔らかな手首の動きで絶妙にコントロールします。1曲演奏するだけでかなり体力も使いそうです。そう言えば、太めのホルン奏者やチューバ奏者などは珍しくありませんが、パーカッションで肥満の人は見ません。体育系というかラテン系というか、とにかく立ち仕事で体全体を使う演奏です。
三村奈々恵オフィシャルサイト三村さんのHPです。
NANAELOGこちらは三村さんご自身のブログです。どうぞ参照して下さい。
前記narkejpさんの12/15のコンサートレポートでは「銀色がかった白のロングドレス」だったようですが、昨晩は左半分が白で右半分が赤という大胆な切り返しでウェスト部分をまるでチョゴリのように高い位置で絞ったような優雅なロングドレスをお召しでした。演奏中、右に左に動きますし、体全体を使うのに影響の少ない、そうですね言ってみれば社交ダンスでも着られるようなドレスでした。知的できりっとしたお顔と力強く時に繊細な演奏にピッタリでした。
休憩を挟んで、3曲目。楽しいバレエ音楽。藤岡さんは、指揮台の上でピョ〜ンと飛び跳ねます。指揮者と楽団員の間に微笑みが交わされながらの「楽しい音楽の時間」です。この言葉で思い出す、「のだめカンタービレ」(先日のブログ記事で新春のスペシャル番組の事を書きました)で、主人公の一人千秋真一がパリ(だと思った?)で受けた指揮者コンクールに参加していたもう一人の日本人指揮者片平(この役はアリtoキリギリスの石井正則さんだそうですが)が、指揮中にピョ〜〜ンと飛び跳ねるシーンを思い出してしまいました。最後はギャロップで終わったのですが、聴衆はこの曲を聴くのが初めての人ばかりだったらしく(私も初めて)、終わってもすぐに拍手が出ません。元気に明るくバ〜ン!と終わったのでこういう場合はすぐ拍手をしてもいいのですが、お行儀の良い酒田の観客は「あ、終わったんだの」と確認するまで拍手が出来なかったようです。
4曲目は、本日のメイン(?)、と言っても交響曲で20数分しかない、ショスタコの9番。ファゴットに高橋あけみさんが加わり、フルートも3本になります。ショスタコーヴィチが、スターリン及びソビエト連邦礼賛時代に、「9番」としてベートーベンの『合唱付き』に並び称される壮大な曲を当局から期待されていた事を見事に裏切って、最後の5楽章で効果的に使われるタンバリンでスターリンの横っ面を引っ叩くような事までやってのける、軽妙で皮肉な曲想です。ピッコロの竹谷さんが大活躍。演奏する立場から見れば、美味しいけれど難しくて大変そう。さすがにピッチにも寸分の狂いもなく、他の楽器と調和しながら難しいアルペジオなど超速いパッセージを吹いています。4楽章のファゴットの高橋さんのソロも白眉でした。ただ、曲としては、ショスタコーヴィチを良く知りもしないのに大胆に言わせて頂ければ、随所に面白い部分があるのに全体としてはつまらない曲に聴こえてしまいます。演奏する立場から考えても、ショスタコの5番などは是非演奏したい!と思いますが、この9番は「そうですねぇ、機会があれば一度位はやってみてもいいかな、、、」という生意気な感想になってしまいます。スターリンの前で命をかけたドゥミトリィ君には申し訳ないですが、ショスタコの音楽はまだ私には理解できません(頭が固いのか心が固いのか、両方かも、、、)。
面白い音楽だな、とか、ピッコロ凄いな、とか感じながら私はこの短い曲の途中で2回程意識を失う程睡魔に襲われてしまいました(前日に19〜21時までオペラの練習でその後指揮者、演出家を交えて懇親の席で23:30頃まで飲み、当日も10〜16時までびっしり練習で、脳が疲れたと感じていました)。心と身体の疲れもあったでしょうが、演奏は素晴らしいのに私の心をつかんで揺さぶるようなものが感じられなかったのです。それこそがショスタコーヴィチの狙いだったのかもしれません。
この曲も初めての聴衆がほとんどだったようで、演奏が終わってもすぐには拍手が出ません。藤岡さんが身体の動きを緩めてからようやく拍手。1回目のカーテンコールで、真っ先に立たされたのはファゴットの高橋さん、続いてピッコロの竹谷さん、二人の女性木管楽器奏者でした。トランペットやトロンボーン、ホルン、オーボエ、フルートも素晴らしく、それぞれ藤岡さんの指名で立って観客の拍手を浴びていました。
おそらく藤岡さんの考えがたくさん反映された(やるならショスタコはやりたい、と言ってあった、と仰っていました)意欲的なプログラムで、この組み合わせ(エルガー、黛、ショスタコ)の演奏会は日本でも珍しいのではないでしょうか。黛敏郎が知られていないであろう海外ではおそらく絶対に聴かれる事のない音楽の組み合わせだったと思います。
満ち足りた気分や、深い想いを抱いて幸せな気持ちで帰路につく演奏会と違って、満足したのだけどなんかちょっと物足りない感じ。有名ないいお鮨屋さんで美味い握りを食べてお腹は満ち足りたのに、なんだかトロとマグロの赤身とウニと玉を注文せず、バイ貝とサヨリと新子(コハダ)とのどぐろだけ食べたという感じがしました。
そうそう、山響の演奏会で恒例になった終演後の「交流会」。音楽監督飯森さんの方針だと思いますが、アンコールはしない、その代わり終演後にロビーで指揮者やソリストとファンの交流会をするという形が採られています。
なかなかいい写真が撮れませんでしたが、合唱指導者S先生がインタビュアになって私服で登場した藤岡さんと三村さんにインタビュー。二人共スタイルが良くてカッコ良く、上下黒でシックでスタイリッシュに決めていらっしゃいました。なんというのでしょうか、韓流スターというよりは香港映画スターが二人現れたようでした。本当にクラシック音楽を知らない人に、「映画スター」ですと紹介すれば、そのままキャーキャー言われそうな雰囲気でした。
藤岡さんが小学2年からずっと指揮者を目指しながら、高2で彼女が初めて出来て、オフコースが好きだった彼女の影響を受けて「だって「音楽はベートーベンだ!」とか言えないでしょう」と言っていた人間臭いお話や、でも夢を追い続けてかなえたことなどをお話しして下さいました。現在関西フィルの首席指揮者である、藤岡さんの事は藤岡幸夫オフィシャルサイトを参照ください。しかし、藤岡幸夫オフィシャル「ファン」サイトには、ご本人からのメッセージが掲載されています。山形市での定期演奏会の事も既に書かれていますね。
ということで、長大な、とりとめのない感想文になってしまいましたが、山響が凄かった事、三村さんが素晴らしかった事、藤岡さんがかっこよくて素敵だった事、そしてやはり「希望ホール」がお世辞抜きで素晴らしいホールであることを感じました。ここで年に数回演奏するチャンスを頂ける我々酒フィルは恵まれているなあとあらためて思いました。
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