学会総会最終日
10/2(火)から本日10/5(金)まで、都内某所(と隠すまでもないが)で第66回(社)日本脳神経外科学会総会が開かれていた。
今はインターネットに接続できないホテルの方が少ない位の時代である。10/2に宿泊した高輪東武ホテルは全室高速インターネット無料接続で部屋代も安かったのだが、本日泊まっている学会会場であり明日の「市民公開講座」会場でもあるグランドプリンスホテル新高輪は接続は出来るが24時間使用料1000円をとるし、部屋代もちょいと高い。
目の前なんだから10/2と同じ高輪東武にすれば良かったな〜。
でも明日は7:45集合なので少しでも近い方が楽だと思って、GPH新高輪にしてしまった。
これから、明日の「市民公開講座」での脳外科オケ演奏のリハが夜の9時まである。8/25,6に合宿をしているのだが、それを合わせても、全体合奏の練習はわずか6,7時間である。私は、地元高校の演奏会にトラで出た(ブラ2をやったやつ)ため、今年は三島合宿に参加できず。10/2の2時間と今日の3時間だけ。明日の演奏会の演目は、今日初めて合わせるものもある。
今日一番の楽しみは、指揮者である早川先生のお嬢さん早川りさ子さんの参加である。
6/7のブログ記事「名月荘ムーンライトコンサート」で書いた、N響ハープ奏者早川りさ子さんと共演するという幸せに恵まれた。チャイコフスキーの「白鳥の湖」から5曲を選択して演奏するのであるが、特に"Pas d'Action"では、私はピッコロなのでtacetなので、間近でりさ子さんのハープのあのカデンツァをじっくり聴く事ができるという超贅沢な状況になっている。
写真、撮れるかな〜。
早川りさ子さんは、この「脳外科オケ」での演奏が終わったら仙台に向かわれるとの事。「せんくら」出演のためである。「せんくら」のりさ子さんの出演については、
「仙台クラシックフェスティバル」早川りさ子
をご覧ください。
学会の方は、広い会場、ポスター発表や機器展示の会場も含めると10カ所以上に別れているため、とても全部などは見て回れない。プログラムとにらめっこで「ここは!」という会場に行く訳だが、総会なので皆練れた発表で聞き応えはあるのだが、よくよく聞いていると内容的にそれほど目新しかったり、「ほう〜?」と感心するようなものはなかなかない。どこかで聞いた、既に発表された内容に更に数が増えたとか方法をちょっと変えたというものも少なくない。
初日のメイン会場午前中一杯を使って「てんかん」について9名の国内外のトップクラスの脳外科医の講演が会ったが、これは世界やアジアのてんかん外科の歴史や、新しい治療法や様々な角度からの話が聞けてとても勉強になった。私は、たまたま日本脳神経外科学会同時通訳団員として、この「てんかん」のセッションを他に2名の英語の達者の先生方と担当したので、映像的にも音響的にも恵まれた環境で全て発表を真面目に聞けた(会場で聞いていると、ついウトウトしたり、プログラムを眺めて「午後はどこの部屋に行こうか」などと考えていると、講演を聞き漏らしたりしがちなのだが、通訳を担当していると必死に聞くのである)。
今日の午後のメインの会場では「最先端画像診断法」に関する3時間近いセッションであったが、どの発表も工夫が凝らされていて脳外科領域の画像診断が日々進歩していることを実感できた。特に、現在一般に使用されている最も高度な(よって最も高価な)CT装置である64列面撮影法CT(実勢価格で2億円くらいするはず)をずっと飛び越えて、その4台分の力を持つ256列のMDCTの画像が提示され、その威力をまざまざと見せつけられた。単純に4倍(=8億円)と言う風にはならないであろうが、まだ開発中であるにしてもとにかく高価な医療機器であることは間違いない。
私の医院に導入予定の、永久磁石を用いた「オープンMRI」だって静磁場の力は「超伝導MRI」に比べれば劣るものの、オープンならではの利点に加え発達したコンピュータ技術の恩恵で、10年前の超伝導MRIに負けるとも劣らない美しい画像が撮像できるし、ワークステーションンの発達で高速な3次元処理と画像再構成が可能となっている。このように、高額な医療機器の発達とそれを更に発展させようとする現場医師の情熱などによって、15年前では考えられない様な身体の隅々の美しい画像がほとんど痛みを伴わずに行えるようになっている。
これは、患者さんにとっては凄い事なのである。昔は、「試験開腹」とか「試験開頭」という術式が正式にあった(今でもあることはある)。外からポンポンしても聴診器あててもX線写真とっても「よくわからない」から「とりあえず開けて確かめてみましょう」という手術である。
今や、発達したCTやMRIのおかげで「何が何だかわからないけど異常がありそうだから開けてみましょうか」などということは、滅多にないはずである(人間、自然界のことだから、わからないということはまだまだたくさんあるけれど)。そして、その画像がどんどん高度に進歩して、美しく、高速で、正確になって行っているのである。それにもかかわらず、医療費の高騰を抑制するという国の施策のために、CTやMRIの検査料(=保険点数)は下げられ、更に細分化して安くされ、同じ月に2回以上検査すれば2回目は6割ぐらいの料金にしなくてはならず、その道で10年、20年研鑽を積んでいる「神経放射線医」や「脳外科医」が一生懸命に検査をして読影しても、その技術料は請求できず、わずかに一人の患者さんについて月に1回に限り「コンピュータ診断料」というものが請求できるという現状(複雑な検査だと一人に1時間くらいかけ、それを読影しレポートを書くのにまた1時間くらいかけたり、より多くの専門家が集まって合同検討会を開いたりしているのだが、「月に1回」しか請求できない)。
医療は基本的にはボランティア的活動であるべきだが、公立病院にも経営効率化や赤字解消を政府、自治体が強いている現状では、病院も個人医師も「稼ぐ」(=損をしない)ことを意識して診療をしなければならない。
2億円の器械を8年くらいで減価償却される間にどの位の検査を行ってどの位元が取れると思いますか?なかなか大変なものです。政府の方針ではさらに医療費を抑制するために高額な医療をもっと削って行く方針があるように聞き及びます。前から何度も書いているように、無駄は排除し過剰は抑制しなければなりませんが、必要な高度医療や先進医療を抑制するような事があっては行けないと思います。
以前、うちの医局に留学していたバングラデッシュ人の脳外科医に聞いた所では、人口1億人以上と日本とほぼ同規模の(関係ないけど国旗も似ている)バングラデッシュには、全国でCTが数台、MRIが2台しかないという。よって「頭の断層撮影」なんて受けられない脳の病気の患者さんがたくさんいる。それどころか、手術顕微鏡があっても使える脳外科医がいないので、開頭は40年前の日本のように肉眼で行っている訳である。いや、頭の病気で手術をした方がいいとわかっていても、設備の問題、経済的な問題で受けられずに諦めて悪化を待っているだけの患者さんがたくさんいるのである。数年前の話だから、CTなどはそれから少しは増えているかもしれないが、日本であれば大きな総合病院一つに所有している高度診断機器が国全体に揃っている程度とのこと。MRIなんか一台もない国だって世界中にはたくさんある。日本は、進歩した医療技術の恩恵を受けられる幸せな国なのだが、それが「当たり前」だと誰も思っている節がありますね。
今回の学会発表を聞いていると、医療の進歩と患者のために頑張っている医師達の努力を、政府や自治体は無視しているのか知らないのか、とにかく「削減」「抑制」という言葉を数字にしようと現場を無視したことをやっているように思うのです。世界一と言われる水準を保つ医療を実践していて、しかも高齢者の多い日本では、当然総額医療費が嵩む事は避けられないものだと思うのですが、一体これを「抑制」する方法があるのでしょうか?
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コメント
記事の後半を読んで、先月の新聞の切抜きを引っ張り出しました。
『脳腫瘍 三次元画像で安全摘出』と言うものです。
―ガンマナイフの技術を応用し、脳腫瘍の三次元画像を作成、手術用顕微鏡の視野に見えるようにすることで病巣摘出手術を安全に行う方法を、三愛病院と東京女子医大などのグループが開発した。腫瘍に隠れた神経や血管の位置が、手術中でも正確、簡単に分かり…
―掲載の画像は三次元色付きで、切除する部分、残してガンマナイフで治療する部分、血管、神経が色分けされてます。
すごいなーと思いました。
じわじわと目の運動神経の能力低下を実感する毎日。
大学病院のK教授は、脳幹に腫瘍がピッタリくっついていますが、今は観察で行きましょうと。
手術を、の時が来たら、手術結果の拠っては命を優先で右目はのこともあり…とのこと。
のうてんきに暮らすと腹くくったつもりですが、ああ、正常な右目に戻りたいなあと、やっぱり思ったり。。。
書かれてる政府の抑制の方針の元、のうてんきの毎日の結末はため息なのかなあと思いました。
投稿: リスペクト | 2007.10.10 17:16
リスペクトさん、ご安心ください。
心ある医師は、政府の方針がどうであれ、医療経済の荒波の中でも「純粋」に患者さんの役に立つ事を研究し実践する事が「好き」なんです。
私の知っている脳外科医もそういう人達ばかりですから、日本の医療技術が衰退する事はありません。ただ、そのやる気を殺ぐような、活力を低下させるようなことを国がやっていることを自らは認識すらしていない事を書かせて頂いたのです。
投稿: balaine | 2007.10.10 20:59