一年の計は、
元旦にあり、ですね。
あけましておめでとうございます。
皆様方にとっても、本年が健康に恵まれ(病の方は少しでも快癒に向かわれ)、幸せな一年でありますように。
さて、今年一年という短期的な目標ではなく、これからの私の人生について少し想いを巡らせてみる。
日本人の男性に平均寿命(0歳児に余命)から考えて、私には確率論ではあと25年以上の人生が残っている。しかし、肉体的にも頭脳的にも次第に衰えていくであろうことは、動物の仲間として避けられないものである。
医師としての活動も、趣味ではあるが生き甲斐である音楽の活動にしても、肉体と脳の衰えは明らかに影響を与える。
これまで、約23年、(自分なりに)一生懸命に働いてきた。
医師と言う職業の宿命として、プライベートを犠牲にすることも少なくはなかった。
元旦の朝に、実家の両親と一緒に居たことは、医師になって24回目のはずだが、一度もない。
休みをとって旅行に行ったり、遊びに出かけることはもちろんあるが、それは全くコールされない体制、つまり誰か自分の代わりがいる体制の時だけである。
この年末年始、医局ではチームを2つに分けて、病棟を守ることにした。
私は病棟主治医ではないが後半に休みを取る立場になった。明日から休みである。
といっても、28日に御用納めをしているから、29日から今日までだって、お休みはお休みである。
お休みと言うのは通常の外来や業務がないと言うことであって、病院には入院中の患者さんもいるし、救急患者さんも来る。この4日間、幸い脳外科の緊急入院患者は3人と少なく平和であった。
しかし、「休み」だからといって、何か急変や緊急手術があるかもしれないため、家に居てもあまりお酒に酔うことも出来ず、映画を観に行ったりも出来ない。
いや、正確には出来ないことはないかもしれないが、もし呼び出された時にすぐ対応出来るようにしておくことがノルマなのである。今日の夜からはこれがないので、今晩は酒飲むぞ!
で、これからの人生のことだ。
今回の年末年始のようなことを、これからもまだ何年、十何年と続けて行くしかないのであろうか。
私は、脳神経外科という仕事にプライドを持っているし、この職業の難しさとともに喜びを知っている。
人様の頭にメスを加え脳の中を手術するという、尋常ではないことを日常茶飯の仕事にしていることに、誇りを感じる。医学部に入る前から「ヒトの脳」に興味があり、医学部の学生の時には脳の勉強をすることは楽しかった。
医師になってからも脳外科を勉強し専門にしていることで、脳のことを良く知らない他科の医師に対する優越感(誤った考えかもしれないが)すら感じ、この職業を専門にしていることを後悔したことは少なかった。
しかし、今年、私はメスを置く事になると思う。
脳外科医としてバリバリ執刀するという立場から離れようと思う。
もちろん、私の手術で命を救われた方もいたと思うし、病気が治った方もいらっしゃる。
でもそれは私でなくても他にも優れた脳外科医はいる訳で、たまたま私だったと言うだけのことである。
脳外科の手術と言っても、本当にピンからキリで、15分で終わるものから15時間かかるものまである。
「神の手」にだって取りきれない、治せない病気がある。
これから、私が、今まで以上にプライベートを犠牲にして身を粉にして働いても、救える患者さんの数には限りがあり、どんどん手術の腕があがって誰にも出来ない手術が出来るようになると言う訳でもなさそうである。
若手にどんどん伸びて欲しいと思っている。
そして、私は、やはり離れがたい音楽の魔力に取り付かれ、アマチュアオケの活動にもっと力を注ぎ、音楽活動の中にもっと身を置けるようにしたいと考えている。単なる「趣味」ではないのである。もっと演奏活動やその他の音楽活動をしたい。
そのためには、大学病院医師、病院勤務医という立場を離れるしかないと思っている。
大学病院医師や一般病院勤務医のおかれた状況は、一般の方の想像を超えている。
もちろん、どんな仕事だってプライベートを犠牲にして働いている方がほとんどであると思う。
それにしても、自分で自分の時間として使える時間が極端に少ない。
残りの人生を考えたとき、このまま自分のために使える時間のほとんどない生活を続けて行くのは、ワガママではあるけれど耐え難いもののようにこの一年程考え続けてきた。そこで私は、大学を離れ、個人の責任において医師としての活動を続けて行く立場を選択しようと強く考え始め、そのことについて、上司に相談もし、知人に相談もし、考えに考えて、決断したのである。
春頃までは大学で仕事をさせて頂きその後のことは未定ながら、『庄内永住化計画』を密かに立案中であ
る。脳外科の学術雑誌や本を読むよりも、「古学奏法について」とか「指揮者というもの」と言った内容の本を読むことに喜びを感じ、手術書を見るよりもオケのスコアを見ることの方に幸せを感じる今の自分は、大学病院で教育や研究に当たる立場に相応しくないのである。
まったく、自分勝手な考え方かもしれないけれど、私はこれからの残り少ない「脳と身体がいうことを聞く時間」に想いを馳せた時に、一度しかない人生に悔いを残したくない、と思ったのである。
元旦に当たり、今年のこと、そしてこれからの人生のことを少し考えてみた。
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コメント
新年明けましておめでとうございます。
( ̄一* ̄)b すごい。そうなんですね。いいですね。一度の人生ですものね。応援したいです。(^^)
投稿: @むーむー | 2007.01.01 20:33
あけましておめでとうございます。
今年も時々お邪魔させていただきます。
...そうですか、決断なさったのですね。
大学病院に戻られることになった時、いつかこんな決断をなさる時が来る気がしておりました。
今年は50歳ですものね。
新しいスタートを切るのにピッタリ!?
Good Luck!!!です。
投稿: ムンテラ | 2007.01.01 20:47
あけましておめでとうございます。
庄内永住化計画。。。うわさ届いてました。
県外出身の先生が、縁あって山形の医師になられて山形に永住してくださることにも感謝・感謝です。やっぱり庄内ですかぁ?庄内はいい所ですも。メスを持たないbalaine先生、
先生の診察は説得力バツグンですもの。私、今までの謎が解けて考え方も、生き方も変わりましたし。。。
いつもV〔^о^〕な日々。あぁ、何か打ち込める何かを今年は探そうかなぁ。
投稿: ボリジ | 2007.01.02 00:30
明けましておめでとうございます
もう、寝る…でも、ちょっと、ひげ鯨さんとこへ…あっ!えっ?で目がちょっと覚めました。
・・・正直、ビックリ!
ちょっとだけ予感ありましたけども。
生き方は折々に変わる。。。普通のコトなんでしょう。
そこのポイントに、自分の意思があったり無かったり様々ですが、生き方は色々変わるんです。
部分摘出の時が来たら、山形さ、行ってみるっていうのもアリかなあ…って、想像したこともあるんですけどね。
いい春のスタートとなりますよう、お祈りしています。
そっかあ…私も今度は自分の意思でポイント切り替えをしたくなりました(^0^)v
投稿: リスペクト | 2007.01.02 00:34
明けましておめでとうございます。
同門になぜか医師や先生と名の付く方が多くありました。
正に「揺り篭から・・・まで」の如く。
脳外科(2人)・心臓外科・産婦人科・薬剤師・僧侶(笑)等など。
皆さんそれぞれ素晴らしい経歴をお持ちでしたが、開業された方が殆どでした。
好きな事が出来る充実感は、何ものにも替えがたいと感じています。
夢や目標に向かって進むbalaine先生にとって、素晴らしい年となりますように!
投稿: kokutan | 2007.01.02 12:14
blaine先生の新しい年に乾杯です。
2007年、良い年にいたしましょう!
お医者様はそんなにお忙しいのですね。。
私たちのオーケストラにもお医者様がいらっしゃます。オペを終わらせて練習にかけつけた、とおっしゃっているのを聞いたことがあります。
本当にみていて、がんばって続けてほしいなあと思うのです。
それにしても、アマチュアオーケストラは、どこもフルートはいっぱいです。日本国中どこを探しても募集なんかしていないんじゃないでしょうか。
私も、今住んでいるところを絶対に離れたくない理由として、それが大きく割合をしめています。
よそへいっても、もうオーケストラに入れないんじゃないかってそれが心配なんです。
私は明日、初練習の予定です。今年はソノリテから指の練習をきっちりがんばろうと思っています。
これって、脳の老化には役だちますか??!!
投稿: fuefue | 2007.01.02 20:17
え~、皆様、おめでとうございます!
6人の方にまとめてレスさせていただきます。
あんなこと書いた後、正直不安になっています。決意は固いのですが、それは今に比べるとより経済的に自己責任の強い立場になり(自分の体が資本)、フルートも本日吹き初めしましたが、なんだかすごく下手になったような気がするんです。私程度のアマチュア笛吹きは捨てるほどいます。私程度の脳神経外科医の数のほうが、よほど貴重だと思います(比較するほうがおかしい?笑)。
正直に申し上げると「本当に(いろいろなこと、たとえば人間関係など)上手くいくんだろうか?」という気持ちもあります。決して一人で頑張るわけではないことなので(いろんな助けをいただく)、そんなに力んだり焦燥感に駆られる必要のないことは十分わかっているんですが、今の、超多忙ながらも安定した生活を変える不安感はないわけではないのです。
でも、最終的には、ほれ、あれです。
Tomorrow is another day !
投稿: balaine | 2007.01.03 03:04
そうだ。忘れてた。皆様の励まし、ありがとうございます。
夢を持つことはいいことです。
それに向かって進めることは幸せなことです。
そして、馬鹿だな~、と言われるようなことをしてみるのも悪くはない、と考えています。あらゆる面で成功することを考えてはいます。
さて、fuefueさん。
まじめな話です。
揚げ足取りのようで申し訳ありませんが「脳の老化」は、自然現象です。
年齢不相応な脳の老化は、一番は慢性的な血流障害によりますので、「生活習慣病の予防および治療」が肝心です。
単純なことの繰り返しは、神経細胞のシナプス結合を強化すると言われています。ですから、簡単な数の計算(あの、にっくき?「大人の○○」とか)とか書き取りというものも、そういう面で、誤解を恐れずにわかりやすい表現を使うと、さびついていた能力(小中で鍛えたはずの基本的な計算力など)を呼び覚まし強化して再び実戦的なものにするので、「老化の予防」というか、「眠っていた力呼び起こす」という感じで役に立つことは間違いないと思います。
ソノリテやタッファネル・ゴーベールなどのとても難しいけれど、単純な練習というのも、ある程度脳の中の神経連絡網の強化には役に立つと思います。そのときに必要なのは、やはり集中力、だと思います。
短時間であっても、終わったらぐったりとするくらいの(肉体的にと言うより脳が疲れる感じ)、テキストをよく見て考えて意識を音と指の動きに集中させて、ステージで人に聞かれていることを想像して、練習するのです。
ただ、指を動かしたり音を出しているだけでは、小脳系の反射を主とした脳の働きになるので、これまで蓄積した技術力だけでやってしまおうとしてしまいます。いろいろなことを考え(音のこと)集中してやるということは、逆に言えばかえって「雑念」を持ちながらやっていることになりうまくいかないことが多いと思います。しかし、その音の意味、音から音への移動をすごく意識して練習することは、小脳系ではなく大脳の運動準備関連領域を意識的に刺激するので、下世話な意味での「脳の老化」に役に立つことは間違いありません。
真央ちゃん(あの子です)など一流の選手が、トリプルアクセルを失敗するのを見ていて思うのは、大脳系の邪魔、です。
いわゆる「雑念」というやつです。
何十回、何百回と練習していて、本当はスラッとできるはずなんです。小脳系の働きとしてはできるように訓練しているはずなんです。そこに、大脳系が余計な邪魔をして新しい信号を送り込んでくるので、反射的な体の動きを疎外するのだと思います。
その反対がいわゆる「無心」というやつです。よくいいますよね。「無心でやったらうまく行きました」って。
これは、心の動きをコントロールすることなので、とても難しい。無心でうまくできるようになるには、今そこで考えを入れなくても(大脳系の新しい働きを加えなくても)小脳系の反射的な働きだけで行動が完成できるわけですから、そうなるまでの非常に高度で地道な訓練が必要になるわけです。訓練の過程では、あえて反射的なものを邪魔するようにいろいろ考えて集中して練習する必要があります。
そして、何のためにやっているか、目的意識を明確にして、本番を意識してやることが大切です。そして、本番では大脳系の邪魔を可能な限り減らす、できれば「無」にして、訓練して鍛えた小脳系にお任せするという感じでしょうか。
よく言いますね。
「練習は本番のように。本番は練習のように。」
こんな風にできれば誰も苦労はないわけですが、それも普段の心の持ちよう、意識の仕方しだいです。
いや~、いい事聞いたな。
僕もこういう風に練習すればもっとうまくなるかも。です~(笑)
みなさん、頑張りましょう!
投稿: balaine | 2007.01.03 03:32
原文が見つけられなかったので、和訳で・・・(^^;)
『夢に向かって自信を持って進み、思い描いた人生を生きようと努力するなら、思わぬ成功を手にするだろう』
『自分の心に描く夢の実現に向かって努力する時、普段なら思いもよらぬ、成功が得られる。』
(ヘンリー・デイヴィッド・ソロー)
音楽を愛するパートナーがいて、大勢の友がいる。
夢に向かって進むのに、最高の仲間達。
自分が自分であるために、さあ、船出です。
投稿: ふなゆすり | 2007.01.04 18:58
blaineさん。感激いたしました。私のたった一言の質問に、こんなに答えてくださって。ありがとうございます。
最近、初見演奏に限界を感じておりまして。老化だと自分では思っています。ちょっと早いパッセージで音が飛んでいるとついてゆけません。臨時記号も苦手になりました。脳から指に指令がいくのが追いついてない、というのが明らかにわかります。それで、身につくのに回数を要するようになっているなあ、と思います。
集中してやるといいのですね。ぐったりするくらい。上手になって脳の老化にも対抗できるとなれば、真剣に取組む必要がありますね。
そして、脳のためにも正しい食生活。これが大切ですよね。料理は毎日時間をかけて作っています。まだまだ育ち盛りにたべさせなくてはなりませんし。がんばります。
大人の○○はにっくいんですか??(笑)
blaine先生は生きる力に満ちていらっしゃいますね。それにしても午前3時の書き込みはあまり健康的とはいえませんね。睡眠も大事ではないでしょうか。
お返事は気になさらないでください。
投稿: fuefue | 2007.01.04 19:05