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2006.07.15

ザトウクジラ

というわけで(昨日のブログのコメントに理由あり)、今日は「ザトウクジラ」。
直球勝負で、漢字では「座頭鯨」です。

クジラ目ヒゲクジラ亜目ナガスクジラ科に属します。
「ナガスクジラ」って別のクジラじゃないの?と思われるでしょう。
ナガス=長須というのは、下顎の下の蛇腹のような「長い」「畝須」のことなので、これをもっているクジラは皆ナガスクジラ科です。
おそらく、ザトウクジラは、クジラ目の中でも最も人間の注目を集め研究が進んでいるかもしれません。
「ヒュ〜ン、グゥ〜ン、ギィギィギィ、プヮ〜ン、、、」
と言う感じで「歌を歌う」事でも良く知られていて、ソプラノサックスかなにかでザトウクジラとセッションをした人もいたはずです。地球外の知的生命体へのメッセージとして、人間の声とともにザトウクジラのこの歌(声)を録音してヴォイジャー1号、2号に載せたのも有名な話です。

このクジラは、英語俗名をhumpback whaleといいます。
Humpbackとは「せむし」(脊椎後彎の障害用語なので一般に使う言葉ではありませんが)のことですが、日本名の座頭というのも「座頭市」などで有名なように、背中に何かしょっている人(傘とか琵琶とか)の俗称です。ザトウクジラは背中に小さな背びれと瘤があるため、これが背中に琵琶を担いだ「座頭」に似ているからと言う理由での命名だと思います。
よって、英語俗名と日本語俗名は、このクジラの場合それほど差がありません。
学名は、Megaptera novaeangliaeといい、まるで羽のように大きな胸びれを持っているためについた名前です。体長のおよそ3分の一におよぶ、長く大きな胸びれを上手く使いながら泳ぎます。ブリーチングと呼ばれる大きなジャンプをすることでも有名です。
私は、ボストン沖で4回、ハワイ沖で1回、whale watchingをしたことがあるのですが、ザトウクジラは必ず見ることが出来ました。それだけ、回遊している場所がおよそ決まっているのと、IWCによる商業および調査捕鯨禁止によって保護され頭数が十分いるためだと思います。幅がこれまた体長の3分の一にも及ぶ大きな尾鰭(尻尾)を持っていて、その裏側の文様が一頭一頭全て違うため、研究者はこの尾鰭の文様を写真に記録して個別の名前を付けて研究しています。(ケープコッドの研究所では、数百ドルのdonationをすれば自分の好きな文様のクジラに名前が付けられるということをやっていたと記憶しています。私は名付け親にはなりませんでしたが。)
私自身が観察したザトウクジラで一番印象的だったのは、ケープコッドから出たwhale watchingの船から見たのですが、生後間もない赤ちゃんクジラが船に興味津々でどんどん船に寄って来たため、(おそらく)母クジラがそれを制御するため、船と赤ちゃんクジラの間に割って入り、もう手が届くくらいまで近づいていた赤ちゃんクジラを船から遠ざけようとして、そのため赤ちゃんクジラが癇癪をおこしたのか、イヤイヤをするみたいに尾鰭を3、4回、バシャバシャと海面に叩き付ける動作をしたことでした。
赤ちゃんクジラ(と言っても体長5mくらいあった)の可愛らしさとお母さんクジラ(体長14,5m)の愛を感じた出来事でした。船上の米国人もそれを見て、みな「Beautiful!」と言っていましたね。

そうそう、「バブルネットフィーディング」の事を書かなきゃね。
最近はテレビでも時々見ることが出来るので有名になりました。
ザトウクジラに特有の「食事法」のようですが、数頭で組んでやるんです。噴気孔(頭の上の鼻の穴)から、少しずつ息を出して気泡を作ります。それを水深数十メートルの位置から、数頭でゆっくりと円を描くように泳ぎながら出していくと、気泡が円筒形に海面まで達するため、その領域にいた小魚(ニシンやシシャモ、+オキアミなどのプランクトン)が逃げられなくなって、その気泡で出来た網(バブルネット)の中に閉じ込められます。
そこへ、海底から大きな口を開けたまま急浮上すれば、バブルネット内に閉じ込められた小魚やオキアミたちを一網打尽に口の中に海水とともに捉えることが出来ます。これを数頭で繰り返して、一日に何トンという量の食事をする訳です。
この際、下顎の畝須が大切な役目をしていて、大量の海水を呑み込んだ口の中が蛇腹のように大きく膨らみ、続いて、口を軽く閉じて海水を少しずつ吐き出し、その際に上あごから縦に並んでいるヒゲ板(だからヒゲクジラと呼ばれる、けっして髭が生えている訳ではない)を漉器代わりにして食物だけを口の中に残し、それをゴクリと呑み込む訳です。
私が知る限りでは、バブルネットフィーディングをしているのはザトウクジラです。
歌を歌ったり、子供に泳ぎを教えたり、スパイホッピングをしたり、バブルネットフィーディングをしたりということでかなりの知能を持つのではないかと考えられて、クジラを研究する者にとって大変興味の湧く対象としていろいろ調査されているようです。
私も大好きな鯨です。

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コメント

鯨の歌、
「ヒュ〜ン、グゥ〜ン、ギィギィギィ、プヮ〜ン、、、」
おお~、とても雰囲気が出てますね。
歌だけに、上手い下手があるのかな? (><)
方言があると聞いたような気もしますが・・・。

大きく膨らんだ口、とても満足気というか得意気で。
ゆっくりと沈んでゆく様が印象的。
>>一日に何トンという量の食事
今の海で、今後増えてゆく鯨の餌を充分確保できるのだろうか?
鯨だけではなく他の大型魚、海獣類もいるわけだし、足りるのかな?

投稿: ふなゆすり | 2006.07.15 15:30

病院行ったり、飲みに行ったり、ヤフーは開かなかったり…whale watchingしてる途中で、目を逸らしマッコウクジラを見逃してしまった気分!で、今日は(幸運にも)2種類の鯨観察を楽しめました!
抹香…シキミ(田舎ではシキビと言ってました)ですか、神棚に上げる葉ですよね、急に近くに感じました。背美にしても抹香にしても、かつての日本人のネーミングはストーリーが詩的ですね。表意文字である漢字に拠る所が大きいのでしょうが。
立田揚げ…うちの小学校では『琥珀揚げ』と言いました。献立表に書いてある『琥珀』が読めず、「ああ、また嫌いな肉料理だ」と、早々に友達に食べて貰う確約を取ったら、あらまっ、私が唯一食べれる鯨肉だった…という悲しいエピソードが忘れられません(T_T)
マッコウクジラの噴気孔の数と位置の下りが面白かった!そういう器官って相対してるような概念がありましたから。マッコウ君達が生きていくための優先順位な理由なんですね。
それと、TV等で良く目にする鯨のりっぱな尾っぽ、あれはザトウイチ族なんですね。
あ~今日も楽しいお勉強でした。

投稿: リスペクト | 2006.07.15 22:58

ふなゆすりさん、ザトウクジラの歌は録音されて解析されているので、同じ鯨がハワイからアラスカ沖まで回遊していることが証明されています。方言もあるらしいですし、同じ鯨は同じような節回しで歌うらしい(何流、とかあったりして、、、ハハハ)。
日本側はIWCに対して、鯨だけではなく海洋資源の適正な保護という観点からも、捕鯨を再開すべきであると主張しているのですが多勢に無勢のようです。
また、マグロなども捕獲制限・禁止の動きがあるようです。そこには、純粋に生物学的な問題に加え、政治や経済が絡んで来るんです。やむを得ない面もあります。

リスペクトさん、私も最初に噴気孔のことや、潮吹きのことを知った時には、そうだったのか〜!と感動すらしました。
「勇魚(いさな)」に出て来る「遠見の爺(とおみのじい)」が、梶取岬からず〜〜っと沖合を眺めて鯨の噴気を見て「何鯨が何頭」と信号旗をあげ、それを港で見た鯨獲りたちが勇猛果敢に沖に漕ぎだしていったのです。
梶取岬から眺めた太平洋の大海原はすごかった。
今でもあの光景が目に浮かびます。

投稿: balaine | 2006.07.17 11:54

鯨の歌
何流・・・。ぷくっ。それは面白い。
鯨も母系でしたっけ?
だと、OO家の歌。とか歌い継がれていそうですね。

昨日の国営放送で恐竜の番組をしていたのですが、一番大きな草食の恐竜でも1日500kgの植物を食べていたと言っていました。思わず、鯨のほうが大食い?と思ってしまったのですが、けど、消化吸収が違うだろうし、代謝もどうなっているのか分からないし、単純に比較はできませんね。
けど500kgは少ないよな~。1回500kgを日に数回なら分かるけど・・・。

16時から民放で海の番組があるようです。興味がある話題なので見てみます。

投稿: ふなゆすり | 2006.07.17 15:51

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