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2006.07.13

セミクジラ

イルカ(鯨目の中で小型の歯鯨の総称)を含めて、鯨目はおよそ100種類あるのだが、その中で私が一番好きなのは「セミクジラ」である。
「なに?セミ?ミーンミンとかって鳴くの?」
などという人もいるかも知れませんね。

セミクジラは漢字では、「背美鯨」と書くのです。
クジラ目ヒゲクジラ亜目セミクジラ科(Balaenidae)の中でも、「北太平洋セミクジラ」のことは、学名でEubalaena japonicaと表記される。かつて、日本の商業捕鯨の最適品種のひとつであった。
「北大西洋セミクジラ」は学名でEubalaena glacialisと表記される。19世紀中盤にペンシルバニア州で石油が発見されるまで、ランプの油の原料となって珍重されたため、米国を中心に乱獲されて、北大西洋には現在1500頭程しか確認されておらず、絶滅は必死と言われて久しい。
学名ではない俗名の英語表記は、right whaleとなる。北大西洋のright whale、北太平洋のright whaleということになるが、日本語の俗名が「背美鯨」なのである。

これは、日本式の古来の捕鯨法である「突取捕鯨法」や「網掛突取捕鯨法」は、スピードの出る、美しい装飾を施した小型の手漕ぎ船(勢子舟という)で鯨を追い込んでいくのだが、セミクジラは背鰭がないため海面に現れるつるっとした漆黒の「美しい」「背中」に敬意を表して、「背美鯨」と日本人は呼んだのである。
一方、英語圏を中心とする欧米人にとってのセミクジラは、ずんぐりむっくりの図体で良質の脂をたっぷり持っていて泳ぐのが遅いので追っかけて捕まえやすくとらえた後は体の脂が多いため沈まないので船で曳航しやすく、「漁(猟)に最適」な正しいrightな鯨、right whaleと呼んだのである。

真っ黒で背鰭を持たない背中が海水で濡れた姿を「美しい」と思った日本人と、脂たっぷりで漁に最適だから「right」と考えた欧米人の情緒の違い、自然や動物に対する見方の差というのが現れていると思う。

最後に白状しなければならない。
何故わたしがあらゆる鯨目の中でセミクジラが一番好きなのか、その理由。
セミクジラの「尾の身の刺身」がとっても美味しいのである。
今まで人生で2回しか食べたことがないし、最後に食べたのは私の記憶では昭和58年、今から23年も前のことである。渋谷道玄坂の「くじら屋」だった。
その味を言葉にするのは難しいが、敢えて言うなら、大間の本マグロの大トロと三田(神戸)牛か前沢牛の最上級の牛刺しと肥後熊本の最高級の馬刺霜降りを足して3で割ったような味。脂が豊富で野性的だが生臭くなく舌の上でトロッと溶けてしまった後は、鼻孔に脂の香が甘く漂いその後爽やかに消えていくのである。
商業捕鯨が禁止されて20年以上が過ぎ、今や手に入ることはないと言えるが、実はない訳ではないらしい。IWC(国際捕鯨連盟)から脱退した捕鯨国が捕獲したものを輸入するという手段があるようである。IWCに加盟している日本は、調査捕鯨の継続、商業捕鯨の再開を、綿密な調査と日本の捕鯨および食文化の伝統の面から主張しているが、前記のように絶滅に瀕した種もあり(そういう道に追い込んだのは日本だけではなく、実は反捕鯨の中心になっている国の過去の誤った乱獲なのだが)なかなか難しい面がある。

セミ鯨の尾の身の刺身が食べたい私ではあるが、whale watchingを何回かしたり、本やビデオなどで鯨の生態を勉強するにつれ、鯨を守る立場の気持ちが強くなっているのは事実。
でも、旨いものはうまいのである。

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コメント

昔、高校時代、野球部の監督のニックネームが、マッコウクジラで、皆は「まっこうさん」と呼んでました(笑) 私は高2時代、その部のマネージャーなんてやってました。(^ー^)

投稿: @むーむー | 2006.07.13 22:21

あ~、面白かった!
「背美」とは知らなかった。
ピノキオが飲み込まれたのも鯨ですよね。
<鯨は捨てるところはありません>という、社会の見開きの図解ページは見飽きることは無く楽しかった。
尾の身の刺身は100%食する機会はないけど、醤油で下味を付けた琥珀揚げで十分満足!
牛豚鶏の脂身&皮が全くダメだった子供時代、安心して食べられる唯一のお肉が鯨でした。
なんで鯨のベーコンは端に食紅を付けてるんですかね。

投稿: リスペクト | 2006.07.13 23:22

@むーむーさん、その監督、なんで「マッコウ」さんって呼ばれていたのか興味津々!頭がでかかったとか?

リスペクトさん、ヒゲクジラ亜目はあんなでっかい体(体長15mとか)ですけど、食べるのはオキアミという大きめのプランクトンや小魚類なんですよ。
大きなものは呑み込めないと思います。

今日は、マッコウのこと、書きましょうかね。

投稿: balaine | 2006.07.14 10:22

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