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2006.05.15

「あなたと、夜と、音楽と」

表題は、私の好きなジャズピアニスト、ビル・エヴァンスの数あるディスクの中の一枚、『Green Dolphin Street』の一曲目に収録されている、ジャズの定番の題名。
どれくらい前だったろう、フルーティスト中川昌巳氏がタバコの宣伝でフルートを吹いていた(以来、私はピースが好きになったのだが、、、)。その前だったか、後だったか、確かマイルドセブンのTVCFにこの曲が使われた。
何だか、以前から知っていた"You and the Night and the Music"とは違った雰囲気のかっこよさに虜になった覚えがある。
ーー
今回の、東京での学会。3泊4日の日程で出張したが、その内2晩は音楽が一杯だった。
昨年8月に音ブログで紹介したことのある、中学校の同級生でジャズピアニストである、岩崎佳子。
http://www.little-pumpkin.net/movie.html
彼女のライブを聴きにいった。
グルーヴィーな夜だった。ピアノの岩崎はもちろんベースも良かった。
しかし、凄かったのはドラムだった。 原田イサム氏。
http://www016.upp.so-net.ne.jp/tac_of_japan/isamu/index.html
今年、ジャズ/音楽生活60周年を迎えると言う。ジャズドラムの大御所。
昭和6年生まれとは信じられない、その気迫と喜びに満ちたスイングするドラム。パワー溢れる演奏に圧倒されんばかりであった。時に、MCやりながら歌も歌ってくれた。それが「上手」じゃないのがまたよかった。
歌う時は、片手にマイクを持つため、両手でドラムを叩けず、マイルドになるのだが素晴らしいリズムを刻みながら、歌は違うリズムでほのぼのと歌うのである。素晴らしかった!
ーー
その次の日は、「脳外オケ」、Musica Neurochirurgianaの演奏だった。
夜の「会員懇親会」の本番演奏を前に、大久保の「東京交響楽団本部」練習場へ出かけた。学会場で練習するための部屋が借りれなかったらしいのだが、大変であった。
会場の芝公園にあるホテルから、電車で大久保まで移動し、そこで約2時間の練習(リハ)を終え、また大久保から戻って来た。行きは、行き方が良く分からないので、とりあえずJRと思って、ホテルで運営するシャトルバスで浜松町駅まで向かった。たまたま、指導者兼指揮者の早川正昭先生が同じバスに乗っていらしたので、先生についていくことにした。浜松町から山手線で新宿まで行き、そこで中央線(同じホームの総武線?)に乗り換えて一つ先の駅、大久保で降りたら練習場はすぐだった(帰りはもっと早い方法を教えられた。大久保から総武線で代々木でおり、大江戸線を使って赤羽橋駅で降りるとホテルまで徒歩数分。行きより10分くらい早かった)。

東京交響楽団のフルート奏者は、相澤政宏さん。宮城県の出身で、彼が初めて音大受験を目指してまともに師事したフルートの先生は、仙台フィルにいる私の友人である。一昨年のパールフルートのサマーキャンプで、私は相澤さんの教えを受けた(この辺は、本家サイトの「自慢部屋」に写真入りであります)。
相澤さんが練習の時に座るであろう位置の、フルート奏者の席についてフルートとピッコロを吹いた。そうそう、東響といえば、正指揮者は、山響の常任指揮者飯森範親さんである。東響の本拠地はミューザ川崎に移ってはいるが、楽団事務局はいまも大久保にある。彼らが使う場所と同じ場所で練習が出来たということで、一人悦に入っていた。

会員懇親会の演奏は、まずハイドンのトランペット協奏曲の一部。T大の○山先生のTr. ソロ。懇親会場の扉が開いて、推定500人くらいの会員ががやがやどやどやと入って来る中、前座的に演奏されたが素晴らしいソロだった。続いて、会長の挨拶、主賓の挨拶などがあり、楽団の我々はその間、ステージの上でじっと我慢。そして、我々楽団の紹介の後、祝典演奏本番。
ロッシーニの「セビリアの理髪師:序曲」である。はっきり言って、全体練習が不足。個々のパートも(人のことはあまり言えないけど)「練習して来た?」と聞きたくなるような感じ。私と同じ大学の仲間で別のパート担当の者など、「練習したか?」と聞くと、「今朝、こちらへ来る新幹線の中で譜面をよみました」という調子であった。
私はピッコロだったので、どうしても音は目立つ。目立たないように吹く楽器でもないが、なるべく目立たないようにひっそり吹いていたかった。なんとか大きなミスはなく終了。そして、懇親会で少し飲み食いしてその後そのメインのホテルのバーに繰り出した。
そこでは、ジャズのライブをやっていたのだが、なんと昨日原田イサムトリオのベースを担当していた高○さんがベースだったので驚いた。いくら偶然とは言え、広い東京で、2日続けてジャズを聴いたら、たまたま同じベーシストに当たるなんて。

ということで、学会の内容はさておいて、夜は音楽、という学会出張だった。
ーー
今日のニュースは、ワールドカップサッカー日本代表のことで持ち切りであろう。
そんな中、毎日新聞の一面真ん中にあった記事が目をひいた。
『脳神経外科:大学から派遣の専門施設、4割近くが医師不足』と言う記事。
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20060515k0000m040072000c.html
詳しくは記事の内容を見て頂きたいが、
「脳神経外科の手術が年間30例以上100例未満で大学などから医師の派遣を受けてきたと見られる285施設のうち、105施設(36.8%)が、派遣医師数を削減され日常診療に影響が出た、と回答」。
「臨床研修の必修化で都市、地方間の医師の偏在だけでなく、診療科間の不均衡なども加速している」
について、少々解説を加えてみる。
今更、なのである。私にとってみれば。
このブログで前から書いていた。
こと「臨床研修必須化」だけの問題ではないのである。
この新聞記事「だけ」を解釈すると、初期研修義務化の制度が出来てそうなったのであれば元に戻せばいいじゃないの、となりかねない。しかし、臨床研修の初期研修義務化は大切なものであり、そのためにいろいろな制度や病院の体制やバイトをせずに研修に専念して生活出来るように、初期研修を受ける「お医者様」の給料を確保するための財源を確保した(?)のだから、そんな簡単に破棄出来るものではない(昔、私がまだ初期研修とか後期研修の頃、身分の不安定な「医員」であった頃、月給の手取りが5万円のことがあった。私立の医学部では2万5千円というところもあった。生活が出来る訳がない。それを解消するため「お給料」の確保をしたのだ)。

「産婦人科など勤務が厳しい診療科は、04年度の臨床研修必修化後、希望する若手医師が減った。脳神経外科でも同様の事態が起きているためで、日本脳神経外科学会は「脳卒中などの救急医療が立ち行かなくなる」と危惧(きぐ)している。」
というような記事になっていたが、事は単純ではないと思う。
「勤務が厳しいから」減っていると言う簡単な話ではない。それでは、医師になろうと言う若手が「根性なし」だからという事にもなりかねない。そうではないと思う。確かに昔に比べれば、楽な方がいい、お金が欲しい、という風潮はある。それは、若者だけではない。医師だけではない。日本全体の危機的な風潮である。

苦労に見合う、努力に見合う、社会的評価や報酬はプライドを満たされる評価があるのなら、我慢して辛い勤務にも耐えられよう。患者さんの笑顔が見られるなら夜中の手術も苦ではない。
ところが、ごく一部の軽率な医師や不真面目な医療職のお陰で、医療界全体が「一般市民」から敵視されるような状況になり、それを賢くないマスコミが煽るような記事で新聞や雑誌の売り上げを伸ばそうと画策する。
夜中に急患で呼び出され、普通の人が映画を観にいったりコンサートに行ったり家族と買物に行く時間を削って救急診療を行い、緊急手術を行うことは、確かに楽ではないが、それが我々の仕事であるし、病気とか救急というものはそういうものであるし、そんなことは元々わかって医師になっているのである。ただ、我々も人間であるから、時間外に人の命を救うために働いたのなら、「御苦労様」とか「ありがとう」という一言はとても嬉しいし、時間外の手当がもらえれば生活は潤うし、「現場の医師は良くやっている」という社会的評価やマスコミ評などがあれば、少しは苦労も報われる気になるのである。しかし、実際は、多くはないけれど「あなた、医者なんでしょ、夜中だろうが休日だろうが患者を診るのが仕事でしょ」というような「患者様」もいるし(私は実際にそういう風に言われたことがあって、愕然とした)、病院の予算が一番最初に削られるのが人件費で医師の時間外手当が減らされ、新聞・雑誌を始めとして医療ミスや医師の落ち度をあげつらって喜んでいるような風にさえ見える点があり、こういったことが少しずつ医療界、医学部学生などの間に浸透していっているのが問題なのである。
現場の医師が「バカバカしくてやってられないよ」という態度を見せれば、敏感な学生は「こんな科には進みたくないな」と思うのであろう。
脳外科は大変であるが、人がひとたる所以の臓器を唯一直接扱える診療科であり興味の尽きないやりがいのある診療科なのである。学生の中にも大変だろうけど、脳の科学に、脳卒中に、脳腫瘍の研究に一生を捧げようという気概のある人達もたくさんいる。それを周りがよってたかって、モチベーションをそいでいる感じすら受ける。

なぜ、そうなのかは、保険診療の問題、妥当な格差の存在しない悪平等の不公平、現場の状況を知らず役所で決めていくような診療報酬の改悪、現実をみない数字合わせの医療行政、などというところに話はいくのである。今までなんどとなくこのブログで訴えて来たことである。

私がそういう風になりたいと望んでいるのではないが、米国の超有名な脳外科の教授であれば、年収は日本円にして10億円を超え、自家用ジャットやクルーザーや別荘を持っていて専用の秘書を何名も抱え、自分に所属する研究室を持ち、自分が統括管理して給与も支払う麻酔科医や精神科医や手術ナースを持っていて、自分の手術をしたい時に朝の6時からでも手術を行い、たくさん手術して金を稼ぎたくさん研究して世界の最先端を行きながら若手をたくさん育て、そして超多忙な生活を縫ってでも家族との時間を持ち、3週間とか1ヶ月という休暇を取ってバケーションに出かけたりするのである。
日本の大学教授は、国産の中型の自家用車を持つのがせいぜい。自宅を持たないよう(持てない)ような人もいるし、専属に秘書なんていない(皆、教授の仕事以外のこともこなしたりしている秘書を医局としてかかえる)。手術をたくさんやりたくても、麻酔科から「脳外の手術は長いので一日一件にして下さい」とか言われたり、夕方の5時を過ぎると手術場ナースは「時間外勤務をしないように」厚生労働省などから勧告を受けているため皆帰ってしまって、若手脳外科医が器械出しというナースの仕事をしながら頑張っている。そして、大学教授の年収なんて手取りにすると1000万円なんて遥か届かない低所得なのである。しかも、日曜だって病院に出て来て、休暇なんて年に1週間とっているかどうか、というのが実状。
責任が重く忙しくたくさん働いているはずなのに、米国の脳外科医と同じか場合によっては上のレベルで仕事をしているのに、収入という形の評価ではなんと「百分の一」以下ということになってしまうのである。
こんな可愛そうな人にはなりたくないな、と卒業を前にした医学部学生が思ったとしても不思議ではないと思う。

せっかく、楽しい音楽の話から、またこんな「つまらない」医療の実態の話になっちゃったので、この辺でやめておこう。

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コメント

う~ん、濃い記事!寝ぼけてた脳がおかげさまで瞬時にシャキッ!今なら、現国の長文問題、解けそう…あっ、ごめんなさい。内容を茶化したつもりではありませんから。

jazzの宵、良かったですね。自分でなんとなく<jazzどき>にいい頃合かなと、jazzへの憧れは大いにあるのですが、はて、何処から?入り口で突っ立てる感じ。そう言えば学生の時の友人が、チャックなんとか言う人のピアノ聴いてたのを思い出しました。きっかけはそんなトコからでいいんでしょうけど。

医師不足に関する記事読みながら、小泉さんがマスコミが煽る首相選に絡み、「そんなに良いもんじゃないよ」て言ったのを思い出しました。<大変な仕事だけど絶対必要で重要なこと>方面への敬意も表せないのは悲しいこと。もっとプラスのストロークを!

投稿: リスペクト | 2006.05.16 07:19

はじめまして。
以前から、ずっと拝見しておりまして、いろいろ勉強になったりしています(ちょと長くて読むのが大変です^^)
あ。でも、変えないで、書いてください。私の方の問題だとおもいますので!

うちは娘が病気になったので、脳外科医さまの忙しさを知ることとなったのですが、、、
本当に、ボランティア精神がないとやってられないお仕事ですね。
日々。感謝です!
ココだけの話、、、話しの通じないお年寄りのお相手は疲れます~?よね。
お年寄りが多いですものね。。。
ご苦労様です!

これからも、適当に、頑張ってください!!!

投稿: 野あざみ | 2006.05.16 09:49

こんにちは!

トラックバック、2つ入ってしまいました。
どうも自分の過去記事にTB入れようとするとうまくいきません。<(_ _)>スミマセン
一つ消して下さい。

今の世の中、医師に対する尊敬がたりないと思います。
確かにとんでもない医師がいることも事実ですが、
大部分が本当に懸命に仕事をしている様子を目の当たりにすると
頭が下がります。
自分ではどうにもならないから、医師に頼るわけですから、
結果を見て判断するところがおかしいのだと思います。

投稿: mayako | 2006.05.16 11:26

なんか、脳外科医さんと、ほかの科の医師がいっしょくたでいやですね。ぜったいに違うと思いまよ。マスコミの取り上げ方しかり。私のブログにきてくださる方もそう言ってます。まずそこで差別して欲しいな。うんと、差別して欲しい。だって、扱う部分も「脳」でしょう。身体の司令塔ですよ。そこを扱ってるのに。

投稿: @むーむー | 2006.05.16 11:47

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» 脳外科医 [最初はSAH]
今朝の朝日新聞こんな記事が載っていた。 若手医師、脳外科離れ 激務・訴訟リスクを恐れ? 産婦人科医、小児科医を志す若手医師が減っていることはよく言われているが、 脳外科医もなろうとする若手医師が少なくなっているということだ。 確かに脳外科医のあの激務ぶりはどうにかしなくてはいけないと思う。 時間が勝負となる命の問題、目の前に患者がいれば、勤務時間が終わったから 「では帰りま〜〜す!」と言えないのが... [続きを読む]

受信: 2006.05.16 11:09

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