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2006.05.10

学会のこと

今週木曜から(総会は金曜から)東京で日本脳神経外科コングレス総会(通称コングレス)が行われる。
すでに5年前の事になってしまって驚きの感があるが、我々もこの田舎地方都市で上記の大きな学会を開催した経験がある。いろんな意味で大変であったし、勉強になったし、楽しかった。

「コングレス」は、日本の脳神経外科の関連学会の中では「日本脳神経外科学会総会」についで大きな全国学会で、開催地、開催期、プログラム内容、さらに役員選挙のあるなしなどによっても参会者数の変動はあるが、およそ2000〜2500人が参加する会である。ということは、メインの学会会場の収容人数が最大で2000人近く必要となる(最低でも1500人以上)。こうなると、なかなか地方都市では開催が困難となる。また、わずか3日間の学会に2500人程が参集するとなると、学会場周辺に2000人は宿泊可能なホテルや宿が存在しなければならない。一つの街に、2000人(そのほとんどが一部屋シングルユースのホテル)が泊まれる宿のある都市というのは、実はそれほど多くはない。我々の時には、比較的近隣の2市を含めて、温泉街の旅館やビジネスホテルなども全部含めて約1500部屋を確保した覚えがある。それでも宿がとれず仙台に泊まってバスや電車で会場まで来なければならなかった人もいたらしい。
今週の学会は、東京プ○ンスホ○ルのパー○タ○ーが主会場である。
学会は専門家が研究業績を発表し勉強するために集まる会であるから、アメニティや余興などは本来どうでも良いことではあるけれど、ある意味で「イベント」「お祭り」的な要素もあるから、会長や主催事務局(たいていは、会長の所属する大学の医局)の趣味によって、企画運営される側面を持つ。「田舎」はある意味田舎であることが「呼び物」であり、そこの名産、食材、酒といったものも人を集める魅力の一つとはなりうる。我々が学会を開催した時にも、「折角地方(田舎)に来てもらうのだから」と言う考えで、交通や宿など至らない点もあったかも知れないが、趣向を凝らしいろいろなことを企画運営した。
「都会」は、逆に、物珍しさや変わった食材はないけれど、交通の便など都会であること自体が呼び物かも知れない。しかし、東京などの大都会では、会場使用料も宿泊するホテル代も食事代も、地方都市に比べるとかなり高めになってします。学会を運営するには、そもそもかなりの費用がかかる。都市部では更に割高だ。これを会員の参会費(学会場の受付で、名札を貰う代わりに払う参加料)だけで賄うのは、かなり質素にやっても無理がある。
たとえば、会場使用料。
会場そのものに加え、椅子や机の使用料、冷暖房使用料、看板、垂れ幕といったもの、スライドを映写する装置(最近ではほとんどノートパソコンをプロジェクターにつなぐ)、それらの管理操作といった、最低限の学術会議の準備だけでも結構お金はかかる。公的な会館では使用料が安いけれど、机や椅子の設営、準備から片付けまで自らやらなければならない仕事が非常に多くなる。一方、ホテルを使うと、会場使用料は高いが準備や片付けまで会場使用に含まれるようである。会場となるホテルは当然そのために宿泊する人も多くなるしホテルにとってはそんなに悪い話ではないようである。

医学部を卒業した上で、労働基準法など無視の過酷とも言える仕事をしながら非常に特殊な勉強と訓練を実践し一生勉強しなければ一人前になって行けない脳神経外科医が、その最先端を学び確認し更に飛躍する場として、コングレスのような大きな学会の存在意義がある。
"Ancora Imparo"
「私は今でも勉強している」という意味。仕事中のミケランジェロを尋ねた人が、「あなたは今何をしているのですか?」と尋ねたのに対して、こう答えたらしい。コングレスのロゴマークの中に入っている言葉である。
全国から多忙の中を縫って集合し勉強するために、会場は最高で10箇所程にもわかれることするある。
「日本の脳外科医って真面目だよね〜」と我田引水したくなる程、朝から晩まで全ての会場に脳外科医がごっちゃり集まって勉強しているのが実際のこと。
田舎で学会をやったからと言って会場にも行かずゴルフをする人や、都会でやったからといって学会そっちのけで観劇したりなどという人は、(昔は少しはいたかもしれないが)少なくとも私の周りの脳外科医には一人もいない。皆、真面目である。

自分で旅費を出し、自分で宿代を出し、自分で参会費を払い(大きな学会だとこれが18000円とか20000円もする)、勉強しに行くのである(もちろん、以前にも書いたように、勤務する病院によっては、年間20万円位の上限を設けて「出張費」と言う名目で、これらの学会参加費用が援助されるところもある)。
たとえば、20000円の参会費を払う人が2000人集まったところで、4000万円である。準備から片付けまでいれれば4日はかかる(実際は一年以上前から準備を始めるのだが)コングレスのような大きな学会で、一日あたり1000万円ですべてをできることは非常に少ない。かといって、更に参会料を徴収することは躊躇される。真面目に勉強しに来ている人に「もっと出せ!」とは心情的には言いにくい(今後はそうなって行くのかも知れないが)。
いろいろな企業や団体からの、開催運営に資する寄付やプログラム集に載せる宣伝広告や学会場において治療診断にかかわる機器の展示説明ブースを設けることで不足を賄うことになる。学会は、誰かがやってくれるのではなく、会長に選ばれた医局の関係者が自分たちのために自ら企画運営に携わらなければならず(他人を使えばそれだけお金もかかる上、緻密な対応が出来にくい)、学会をやって利益をえることは全くなく、会員のためにそれこそ「身を粉にして」働かなくてはならない。医者として、臨床の仕事をこなし、教官として教育や研究に携わり、大学人として様々な仕事をしながら、更に、学会準備などという仕事をやって行かなければならないのは、正直言ってかなりの負担である。誰かがやってくれるのならやってもらいたいと切に思う。
実際は我慢して自分たちと仲間(全国の脳外科医)のため奔走し、学会を成功させるために運営資金を(参会料が主体になるとしても)集め準備をしなければならない。

殊に最近、医療職、特に医師が一般市民のまるで「敵」でもあるかのような扱われ方をすることがある。
我々も勢い敏感にならざるを得ない。
私腹を肥やすためにお金を集めようというのではなく、学会をきちんと企画運営するためにやっている。理由は、上記に書いたように、たくさんの会場を「きちんと」準備運営するにはお金がかかるのだからである。学会というのは、登録している会員が集まり勉強する場ではあるが、それはすなわち、その専門の疾患に悩む一般市民のため、全世界の医学の発展のために行っていることである。不正でも働くならいざしらず、「普通に」勉強するための学会を準備するために、(ただで出来る訳がないのだから)必要な経費を準備することにすら、後ろ指を指されそうなおかしな世の中になっている。
しかし、「李下に冠を整さず」なのである。

昔は、県や市といった地方自治体にも学会運営にかかわる「助成金」を依頼していた。今でもしているところがあるかもしれない。しかし、今では「市民オンブズマン」が、自分たちの税金がどのように使われているか目を光らせていて、脳外科学会のようなある特殊な閉鎖的(?)な特定団体のために使われたりすると「我々の血税を変なことに使うな!」と糾弾しかねないのだそうである。
ミクロ的に見れば、確かに税金をある学会運営のために投入するなどというのは、問題視する人が現れてもおかしくないかも知れない。しかし、巨視的にみれば、医学会、医療、世界の福祉の進歩・発展のために専門家が集まる会合に、一般市民の税金が投入されてもおかしくないのではないだろうか。
さらに、地方都市で開催するような場合、全国から集まった医師が、交通費、宿泊費、食費、飲み代、そしてお土産といったことにお金を使うため、学会開催地周辺に「観光物産」的な経済効果をもたらすはずである。たとえば、忙しい医師は、時間を惜しむため、駅から会場までバスでちんたら行ったりする人は少なく、タクシーを使う人が多い。少し離れた飛行場までタクシーを使う人も通常より増えるはずだ。タクシー会社は忙しくなり潤うはずである。小さなホテルまで人がたくさん宿泊し、たくさんのお金を地元に落として行ってくれる。
そういった経済効果をももたらす学会を、我々医師が自らの時間を削って準備するのに(前に全国学会を準備した時など、直前の3ヶ月は帰宅時間がほぼ毎日午前様だった)、準備資金を集めることにだけ目を光らせる人がいるのである。
あ〜あ、である。本当に大変な準備をしているのに全く嫌になる。

さて、明日から「コングレス」。久しぶりの大都会を満喫する時間はあるのだろうか。
そうそう、余興的な催しである「会員懇親会」において、先日紹介した日本脳神経外科学会オーケストラMusica Neurochirurgianaによる祝典演奏というのも、ちゃんとプログラムに載っている。ピッコロ、練習しておかなきゃ。(この祝典演奏のため、先日の東京での集合練習に加え、学会会期中にもリハが予定されていて、それらにかかる交通費なども自腹を切ってやっているのである。)


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コメント

まったくですね~ 誰のために日々努力してるのでしょうかしらね。。
それに比べ、国会なんて、くだらないメール騒動のことなんかで4日費やして、かかる費用が1日2億5千万円。計10億!(゚口゚;)//ゲ!! 会議中寝てる人もいる。。
はぁ~~~

投稿: @むーむー | 2006.05.10 12:54

日々玄関先にお邪魔しておりましたが、お留守のご様子でしたので、別棟のフルート演奏の呼び鈴だけ押させて頂いておりました。おお、久々の記事だ!じっくり読ませて頂きました。そして「日本脳神経外科学会オーケストラ!」

<最近、医療職、特に医師が一般市民のまるで「敵」~>…どうしてこうなってしまったんでしょうか。何かが不足していて、どこかが貧しい気がします。「何か」の一つに敬意が、「どこか」の一つにイマジネーションがある気がします。(←まあ、こう言う風に講釈たれるのは簡単ですけどね)

脳神経外科学会と並べるのは大変・大変おこがましいのですが、10年間ペイントグループの運営に携わってました。たかだか300余名の組織でしたが大変でした。年一回の作品展を始め全て事務局の仕事はボランティア。
組織って作るのも大変ですが、きちんと運営していくことは、それがボランティアに依るものであれば加重のアンバランスは否めません。
そうして自分なりに実感したことは、組織って「生き物」だなと。組織の意義・必要性・レベル等とは全く異なる次元で、成長とか適応とかのためのエネルギー・知恵を常に必要とするものだなと。

投稿: リスペクト | 2006.05.10 19:56

昨日学会の様子が テレビで放映されてました。医療最前線のコーナーでそのサブタイトルが認知症が治る?っだったのでみんなで見ていたらiNPH特発性正常圧水頭症の画期的な検査と治療についての特集でした。脳外科の先生のインタビューもでていて
そんなの知らなかったと言う先生もいらして。
医療も日々研究進化、勉強なんだと。。。
私たちも日々勉強だねとスタッフみんなで
感心して 観ました。

投稿: 則香 | 2006.05.18 11:04

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