最後のオツトメ
今日は「春分の日」。国民の皆さんは、野球でも観ているのだろうか。
私は朝から病院日直。今日は「管理」ではなく、外科側の全館日直医である。この病院もあと10日。最後の日直なので、「最後のお務め」という感じである。
救急外来に来られる「休日診療」を求める患者さんを診る事が主となるのだが、以前にも書いたように、本来の日直・宿直医の仕事は病院全体の管理であって、救急患者さんを診察するのは「いくつかの役割の中の一つ」にすぎないのであるが、形骸化して「日直・宿直医」=「救急外来当番」のようになってしまっている。
職員もこの辺を分かっていない。看護師も院内にいる私を呼び出し、「患者さん来てます」と告げる。だから、私は、「救急担当医ではないのだから、どんな症状を訴えた何の患者さんが来ているのか伝えろ!」と告げる。
ここは、救命救急センターがある第3次救急病院なので、救命救急外来を受診した患者さんは、「救命救急医」が診察するのが建前である。しかし、休日なので救命救急医もお休みなのだ(常勤が2名しかいないせいでもある)。
すると、救命救急医の代わりを日直医、宿直医がするしか他に方法がないからやっているのである。その辺をきちんと分かっている人達が余りにも少ない。そして、「救命救急」に来る患者さんの多くは、歩いて自家用車で来るような人であり、結局第3次救急の役割は少ししか果たしていない。ほとんどの患者さんが、熱が出た、お腹が痛い、足を捻挫した、などなどの1次または2次救急であり、ようするに「時間外外来」を行っているに過ぎない。
今日最初に診た患者はこうだ。
ナース「患者さん来ているのでお願いします。」
私「どんな患者さんですか?」
ナ「昨夜から喉が痛い、痛くて眠れなかったということです。」
私「喉が痛いなら内科系じゃないの?風邪症状なんでしょ?」
ナ「いえ、風邪症状はありません。喉の痛みをみるのは耳鼻咽喉科なので、外科系の担当です。」
私「・・・」
そして、診察したその患者さんは、確かに風邪症状は乏しく熱もない。喉が外から見ても腫れているが、甲状腺の病気を治療中であるという。咽頭を診ても腫れてもいないし赤味も少ない。鎮痛剤を処方して帰そうと思ったが、「家族でどなたか風邪症状の方はいませんか?」と聞くと、
患者「夫が昨日から風邪症状で喉が痛くて関節痛と37度台の熱で、一緒に救急に来て診てもらっています。」とのこと。「なぬ!」である。しかも、今日の内科系の日直医は、本当にたまたまなのだが、この患者さんの平常の外来担当医であった。
私は、その内科系の先生にこの患者さんの診察をお願いした。
というより、受付の時点で、またはナースによる問診の時点で、患者の夫が風邪症状があり一緒に受診している事、内科系日直医がこの患者の主治医であること、一緒に受診した夫はその内科系医師に診察を受ける事を考えれば、この患者さんも最初から内科系診察で良かったはずである。
「喉が痛い」→「耳鼻科」→「外科系日直医」→「私(=脳外科医)」というマニュアル的発想と言うか行動が私には理解出来ない。何故もっとコミュニケーションをとって柔軟に考えられないのだろうか?
ナースはナースで、多分、マニュアルがあって危険回避のためにそれを遵守する事が求められているのだろう。個人の意見とかアイデアと融通の利いた判断とかはこの際排除して、まずは型通り、という事になっているのかも知れない。種々雑多な症状を訴える患者さんが時には怒濤のように押し寄せる「救急外来」というところは、物事を単純化して、「頭痛」→「脳外科」=外科系、「腹痛」→「消化器内科」=内科系、というさばき方をして、患者を「こなして」いかないとたまってたまって大変な事になるのかも知れない。
とりあえず、喉が痛い=耳鼻科だから外科系を呼んでおいて、その後は診察した医師の判断に任せればいいのだろう。だから上記のナースの対応が間違っているとまではいえない。
でもどこかおかしくないだろうか?
その他にも、交通外傷後遺症であちこち痛い事を訴え、薬をくれ、注射してくれ、などなどいろいろ言うが結局は話を聞いてほしいプシコの患者さんも来た。主訴が「頭痛」だったので外科系日直の私が呼ばれた。
慢性頭痛ではあるが、訴えからしても本当に頭痛で困っている訳ではない。私は脳外科のカルテの部分に押された日付などが入ったゴム印に大きくバッテンをして、精神神経科のカルテ部分に診察の記載をした。
何かおかしいけど、悩んでいる余裕はない。来た患者をさばいて行かなければ次の患者が待っている。手際よく処理して行かないと、患者がたまりみんなが困る。しゃ〜ないな〜!
そんな疑問ばかり感じながら日直医をしている。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
はじめまして。
日記の内容と少し違いますが・・。
お医者さんは本当に大変なお仕事をされているのだなあと、通院して初めて分かりました。
私は総合病院の耳鼻科で診察を受けましたが、予約患者と新患がぎっしり状態。
これでスムーズな診察が出来るはずないだろうに、お医者さんは予約時間を遅れてしまったことに、謝っておられました。「お待たせしました」と。。
数回通院したので、現状がちょっと見えてきて心の中で「いえいえ、大変でしょうね・・」と思っていました。
でも、患者さんは診察してもらえただけで、安心したりします。本当に、お医者さんの偉大さも感じます・・・。こういう現状がある、ということは、実は患者さんにはあまり理解されていないとは思いますが・・・。
新しい病院で、また頑張ってくださいね。
投稿: ぱお | 2006.03.21 22:36
今日も読んだどーっ!(昨日に引き続き、ひつこく浜口まさる風…今日も読めた感謝を込めて)
日本勝ってスゴイです。なんか、運気が集中した、いい風が一気に吹いたような展開。選手もTV見てる人もニコニコでいいですね。
イチローも子供みたいな表情で、見ててホントに面白い!どんな表情でさえも。前にも書いたけど、なんでイチローは自分の出し方を変えんかしら。こう言う子、子供の頃、いたよなーって思えてしまう。転校生のような雰囲気、一人っ子みたいな雰囲気の子。
入院時は別として、外来での対面時間、診察室で主治医と話す時間は、どれくらいだろう…うんと短いときは5分も座ってないような気がする。長くても15分、あるかな、ないかな。そして、その時間の首尾にも上下がある。自分が言うことをちゃんと整理せずに空っぽで臨んだ時と同じくらい、先生の表情や語調に疲れが見えた時も不出来な時間になってしまう。患者にもタイプがあって、私はタイプB(Aは適当に想定して下さい)。先生と一緒になって疾患と向き合いたい。それは私の年齢のせいもある。同年代もしくは自分より若い先生が多くなった。
疾患についてのプロに敬意を表しながら、相手のコンデションは読むな。だから先生は元気でいてもらいたい。ドクターが、ナースが元気でいられる環境を、当事者同じように患者も願っています。
投稿: ダブル | 2006.03.22 07:29
お元気ですかあ。
お忙しい毎日ですかあ。
あっ、別に用事はありませ~ん。
ちょっと、通りすがりに声かけてみ~ましたっ!
投稿: ダブル | 2006.03.24 09:50