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2005.12.06

勤務医の実態

本日のAsahi.comニュースから抜粋:
『医師免許がないのに医療行為をしていたとして、警視庁は6日、Y容疑者(33)を医師法違反の疑いで逮捕した。偽造した医師免許証のコピーを提出し、97年ごろから病院の勤務医や宿直医を転々としていた。
Y容疑者の銀行口座には97年以降、病院など約20の医療機関から現金が振り込まれており、昨年の1年間では都内の3病院などから約2000万円の収入を得ていた。』

このY容疑者は高校中退だそうである。どのようにして医学的知識を学び、どのようにして医者に成り済まし、どのようにして診療行為を行っていたかは不明であるが、つごう9年間ニセ医者を演じて稼いでいた訳である。
ここから書く事は想像が中心で裏付けは無いが、医師である私が想像するに、Y容疑者は外科的な事はしないはずである。危ないし、ウソがばれやすい。専門的知識や技術が無いのはすぐにばれる。ということは、内科系の宿直や救急の現場で働いていた可能性が高い。それも常勤医ではなく、非常勤で当直や宿直をメインにして病院を転々としたり、会社などの診療所の非常勤医として健康診断をしたり、日赤が管理する血液センターの献血ボランティアを診察する医師として働いたり、労働基準局などが管轄する企業などの職員健康管理の仕事に携わったのではないだろうか?
私が医師になって一年目、二年目の頃、血液センターや健康診断のいわゆる「バイト」というのがあった。大学の研修医や医員(国家の予算や枠があるため助手にもなれない立場)は、月給4、5万円ということがざらだった。それでは一人での生活もできない。血液センターや献血車に乗って診察すると一日働いて数万円という(今は時代とともに報酬も上がっているはず)「バイト料」をもらえた。会社の健康診断は数が多いと一日200人とか300人とか診察しなければならないが、20年前で大学を夏休みをとって1週間(実質4日間)田舎の健康診断に回ると(看護師さんや放射線技師や運転手と一緒に旅館を泊まり歩く)20万円くらいの「バイト料」がもらえた。
 逆に言うと、大学病院で脳外科を学んでいる立場としては、こういったバイトや病院の当直をやって稼がなければ食べて行く事すら困難であった。東京とかで伝統もあり有名なK大学病院などは、医員の月給は2万5千円、TJ医大は4万円、と聞いていた。「まだ、国立の方がまともだな〜」なんて思って5万円の月給(日給x労働日数)をもらって喜んでいた。
 こういったいわゆるバイトの仕事は、医師として修練を積んでいなくても資格があればそこそこにできる仕事だった。血圧を測って問診、聴診、必要に応じて打診などして「はい、大丈夫ですよ」と言っていればいい。医学的な知識が無くても、演技さえ出来れば確率的には病気の人にあたるなんてことは1%以下である。なぜなら、自分は健康だと思ってるから献血をしに来る訳だし、病気ではないから労働している人達が対象なのだ。
 私も、せこい事に、こんなバイトでの報酬を計算して、「もし、献血や健康診断のバイトばかりやっていても、週6日、月25日くらい働けば、月80万円くらい稼げるんじゃん!」なんて情けなくも考えた事があった事を白状しなくてはならない。実際は、医師としてのモチベーションとか使命感の希薄な、こういう仕事を若いうちからライフワークにしようなんて考える人はいない訳で、いないからこそ、大学の若い医師へアルバイトとして回って来るのである。
 Y容疑者は、偽の医師免許を使って、大学の医局に属しない、一匹狼医師として、健康診断や会社の診療所や病院の当直医としての契約を結んで9年間、無難に「仕事」を演じて来たのだろう。言っちゃ悪いが、一般内科とか特に風邪の患者を診るくらいだったら、医学部を出ていなくてもできる。いわゆる『家庭の医学』のレベルである。「頭痛にセ○ス」といって、お薬を処方すればいいのだ。だいたいの感染症は、患者さんが元々健康体なのにちょっと体調を崩して風邪をひいたとか熱が出たとかなので、薬なんか飲まなくても「自己免疫」の力で治る。寝てれば治るのだ。だから、お医者様が偉そうに「あ〜、頭痛薬と風邪薬と、それからばい菌を殺す、抗生物質も処方しときましたからね。3日たっても熱が下がらなかったらいらっしゃい」なんて『家庭の医学』を読んでもできるような診療内容なのである。
「頭が痛い?じゃ、風邪だね。はい、風邪薬を出しておきましたから様子を見て下さい」
優しく接すれば「ああ、いい先生だ〜」と素人は思う訳である。ところが、これがクモ膜下出血の見逃しであったりする事がままある。本物の医者でも、見逃したり難しい病気はいくらもある。逆に医者でなくてもできることはたくさんあるが、医師免許という国家資格の元に、診断したりアドバイスしたり処方したり処置することが許可されているのが、『お医者さん』なのである。本当なら(悪平等の不公平でなければ)、一般内科医が患者を診察して「頭痛」に対して投薬したら、患者は1500円くらい支払い、脳外科専門医が診察してCTもとって投薬したら20000円くらい支払う必要があるくらい、専門的知識や技能には差があるものであるが、実際は、誰がやっても何年目の医師が診ても、脳外科医が診ても内科医が診ても、「頭痛」という診断で「鎮痛剤」を処方したら、『何点』というのが決まっていて、これが日本国内どこに行っても、東大病院でも田舎の診療所(田舎を蔑視している訳ではありませんよ、私自身が田舎にいるのですから)でもすべて統一の同じ値段、というのが日本の制度である。
 内科的なコモンディジーズを扱うだけなら、悪いが高卒でもできそうだということになる。そして、いろいろな手口で病院や施設を転々として、年収2000万円も稼げるというのだ!20年前に私が「こんな仕事で月80万か〜」と考えたのだから、今なら月120万円くらい軽く稼げるんじゃないだろうか?
 一方、絶対にニセ医者では勤まらない、演技をしようにも演技も出来ない、脳神経外科医や心臓外科医などが一体年収どれくらいあるのか?2000万円なんて夢の又夢。大学病院の医師だと年収1000万円もいかないのだ。教授や助教授でも大学からの給与だけでは、そんなものである。ところがニセ医者を演じていたY容疑者は2000万円稼いだという。
 ここに見えるのは、前から書いている、日本の格差付けのない、悪平等の不公平である。厳しい専門的教育を受けて専門的知識を持ち特殊な技能を持って資格を持つ医師、たとえば脳神経外科専門医が、別に特殊な技能もなく厳しい教育も受けず、(決して劣るという意味で言っているのではないが)コモンディジーズを相手に、確率的には1%くらいの誤診をしたとしても、薬を間違って出したとしても患者の身体が自分で治すため、症状は良くなって喜ばれたりする普通の医師と、同じ様な待遇で同じ様な収入なのだ。脳外科医などは、むしろ急患や長時間の手術などでプライベートな時間を削って働いているので、医師としてのQOLは、一般内科医、一般開業医よりず〜っと低い、そして収入も低い。これは日本の医療制度が、旧態然とした保険診療制度、診療報酬点数制度でやって来て、どのような技量を持った特殊な医師なのか、ということは全く勘案されていないから起こることなのだ。だから、高卒のニセ医師でも年収2000万円も稼げてしまうのだ。
 力の無い医師、特殊な技能や知識の無い医師は年収が500万円位で、脳外科医や心臓外科医の年収が3000万円くらいというような「格差」がつけば、3K(キツい、汚い?、暗い?)の脳外科医だって目指す若者が増えるはずである。
 でも現実は何科を専攻しても大きな差はなく、開業を考えて稼ぐなら眼科や皮膚科が楽で儲けられそう(真面目な眼科や皮膚科の先生方、すみません)だと考えてしまう若い医学生が生まれて来るのである。人間の仕事に対するモチベーションは、収入だけではないから、まだまだ捨てたもんじゃないけれど、結局、そういった事は若者を社会を蝕む可能性がある。
「努力したって同じじゃん!っていうか、努力しただけ、損じゃん!」
なんて考えて専攻する診療科を選択されかねない。

ニセ医師事件を読んで、このY容疑者の事ではなく、日本の医療における悪平等の不公平のことをまた強く考えさせられた。

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コメント

ニュースソースを読むと、なんと縫合のまねごとまでやっていて評判の悪くない「先生」だったらしいですね。
でもブラックジャックになぞらえたりすると、故手塚治虫先生が怒りますよ!
BJは、医師免許を持っていないだけで医学部は卒業しているし、超一流の腕前を持っていて、日本の「保険診療」(=誰がやっても同じ病名で同じ手術なら同じ値段、医者に格差を付けない悪平等の不公平)を否定する立場で活躍している「名医」なのですから、ニセ医者では全然なのですよ。

投稿: balaine | 2005.12.07 09:22

私も新聞で見て驚きました。そんなに簡単に出来てしまって、ばれないのなら、うちのろくろく学校を出てない息子にも同じことして、たくさん稼いで来いって言います。日本はよいシステムのようで、、、あぁ~~wwww

投稿: @むーむー | 2005.12.07 18:00

@むーむーさん、医学部出なくても医療行為は(違法ではあるが)出来るんですよ。出来るレベルの医療行為がある、と言った方が正しいか。
でも、つかまったY容疑者って、ある意味天才的ですよ。「見学生」として医療の現場を見学し、医局の会議やカンファランスに出席し、医師について回って「みようみまね」で診療を覚えたのですから、元々頭のいい人ですね。下手な研修医より優秀だったりするかもしれません。
 で、その後ですよ。研修を終え、専門性を身に付け更に研鑽を積んで「その道のプロ」になっても「医師」という身分上は研修医も一般医も専門医も同じなんですよ、医療行為に対する技術料が。最近になって、まず診療報酬点数全体をドーンと下げておいて、「専門医が行なった場合は105%を認める」という、専門医の実施による増額(?)を認めた変なしかも不十分なやり方をしています。
 築地や銀座の銘店で修業を積んで「天下一品の寿司職人」となった人が握った寿司が、まだ駆け出しの寿司屋さんや回転寿司チェーン店で働く職人さんと同じか、差を付けても105%なんて信じられないでしょう?

投稿: balaine | 2005.12.08 18:25

あ、そうか。うちの息子はそんなに天才的ではないからできませんでした(爆)回転寿司と同じ値段の天下一品寿司が食べたい、、、

診療報酬がおかしいから、例のDr.Fに(安く)施術して欲しいと言う人がでてきたり、ほかの有名医師がめちゃくちゃ忙しくなったりしてしまうのですよね。

投稿: @むーむー | 2005.12.08 19:14

バイト代の問題
これは 常勤としての給与 と 非常勤としての給与の 格差が大きい という面があります。
公立病院でさえも、常勤医が当直しても 当直料は2万円もありませんが、 非常勤医に来てもらって 当直してもらうには 数万円から十万円とかいうこともあるでしょう。(公立の場合は、来てもらうために 本来の給与の他に 院長とかそのほかのポケットマネーなどから 謝礼としてかなりの金額がプラスされているので 高額になっているだけですけど。。。 )
時間外診療でなくても 格差は大きいと思います。
昔は もらってありがたかったので、矛盾はあると思いつつ、何も言わなかったのですが(実は恥ずかしい。。)、
大きな矛盾ですね。

ある病院につとめていたときには、非常勤で来る当直医が高給をもらいながら、その診療内容があまりにずさんであったので 皆でいかりまくっていた研修医でした。

投稿: suyasuya | 2005.12.09 22:13

わたくしも最初は同様の感想を持ったのですが,その後出回っている情報によると「ニセ医者」とする告発がいままで再三あってやっとの摘発だったとの噂もありますがマスコミはそんなこと書きませんね

投稿: いのげ | 2005.12.13 20:58

「管理者より」
「あ」さんからのコメント(IPアドレス118.20.126.228、投稿時間2011/7/22 16:52)はこのブログには不適切なものと考え、管理者の権限で「非公開」に致しました。
ただし、管理画面のコメント一覧にはそのIPアドレスとともに記録されております。問題発言が繰り返されるようであれば、ココログに依頼してIPアドレスから投稿者を特定してもらう措置をとる考えでおります。
今後、公序良俗に反する発言や個人のブログ、個人の発言を攻撃する様な書き方はご注意頂きますようにお願い致します。

投稿: balaine | 2011.07.22 17:02

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