緊急手術
久しぶりの緊急手術で武者震い、という程ではなかったが、少し緊張した。緊急手術はそこそこやっているが、最近の難しい脳動脈瘤の症例は5年先輩の上司が執刀し、慢性硬膜下血腫などは7年後輩の医師がやってきた。12月に入って私が執刀したのは実は今日が初めてだ。
今日の症例は、日中発症した50才台の脳出血。大量で来院時既に右の瞳孔が開いており、意識は昏睡状態で痛み刺激に除脳硬直を呈し始めていた。手術をしても寝たきりを作るだけかも知れない。しかし、若い(50才台なんてとっても若い!)し、右側の出血なので言語中枢のある論理的脳である左が大丈夫かも知れない。マンニトール(抗脳浮腫薬)を300ml急速滴下したところ、手足の反応が少し良くなった(痛覚で逃避するようになった)。
家族に説明したところ、「是非手術をして欲しい」という強い希望があったため、麻酔科の先生にお願いして予定手術を一個どかして緊急で手術した(麻酔を依頼したところ、既にやっている手術もあるので何時になるかわからない、と言われたので『今やらないと確実に死ぬ!』と伝えたら麻酔を引き受けてくれた。感謝!)。
開頭後、顕微鏡を用いて型通りに脳室穿破を伴うmassiveな出血をほぼ綺麗にとった。術後、挿管したままICUに戻ったが、自発呼吸も十分だし開いていた右の瞳孔もまだ左よりも大きいが4,5mmになっているし、術前消失していた右の角膜反射や睫毛反射がみられるようになり、右手は自発的に動かすようになったので紐で縛って抑制するくらいになった。下肢も痛みで素早く膝をたてる。
これは、いけるかも。
命を助けることが目的の手術ではあったが、合併症をおこさず急性期を乗り切ればリハビリして車椅子生活くらいには持って行けないだろうか?大いに期待したい。
今日は大学のある街で大事な研究会があったが、手術終了が6時前。ICUで指示を出したり診察したり家族に説明したりしていたら、7時を過ぎたので出席を諦めこれを書いている。
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コメント
先生は脳卒中治療ガイドラインを無視して手術適応をお決めになられているのですね.ガイドラインでは『意識レベルが昏睡の症例は手術の適応にならない(グレードD).』
とあります.
家族に説明したところ、「是非手術をして欲しい」という強い希望があった」というのも話の仕方で手術するように誘導したのではないかという疑いがあります.
「これは、いけるかも。」というのも科学的な根拠には欠けた態度で不謹慎だと思います.
こんなことをやっているから脳外科医は脳神経内科医にバカにされるのですよ.
ブログに書くなら今後はちゃんとガイドラインに基づいた手術適応で治療されることを強くおすすめします.
投稿: 脳卒中学会 | 2005.12.12 00:31
「脳卒中学会」様、コメントありがとうございます。
「学会」がその公的な名前で個人のブログにこのようなコメントをされるのかどうか、これが本当に脳卒中学会からのコメントなのか、今、送信されたパソコンのIPアドレスを含め確認中です。中身については、上記確認後詳しく返答致しますが簡単に述べます。
私は脳卒中専門医でもあり「ガイドライン」は無視してはおりません。
「昏睡」という言葉の定義ですが、British Medical Resarch Council、「半田の分類」などいくつもございます。「脳卒中治療ガイドライン」で言っている「昏睡」はこれらの中での、真の昏睡いわゆるdeep comaのことであると理解しております。上記患者さんはJCS100の昏睡、別の呼び方では「半昏睡」ともいわれる状態でした。「半田の分類」では、「昏迷」より悪いレベルは「昏眠」「昏睡」と呼ばれております。
「ガイドライン」の「推奨」の項目の後に続く「エヴィデンス」の項目に、『被殻出血の手術療法は、重症例の救命を目的とする時にのみ有用である』、『血腫大きく(>31ml)、圧迫症状がみられる患者では手術の効果を示唆する』という文言があり、患者の状態、年齢、ガイドラインから「手術適応」はあると判断致しました。
術後3日目の本日、意識はJCS 10と改善、右上肢は指示に従って挙上したり握手する事も出来ます。結果からみても、手術の適応、特にタイミングは正しかったと確信しております。
投稿: balaine | 2005.12.12 10:48