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2005.12.16

寒さと脳卒中(+本田美奈子さんの事)

 以前にもちょっと書いた様な気がするが、寒い時季や気候の激しい変動時などに脳卒中が頻発する事は確かである。月単位とか年単位でならしてみて行くと一年間にまんべんなく脳卒中患者は発生していて、多少冬に多い、という印象はあるが、統計学的な有意さが出るのかどうかはわからない(統計上既に明らかなデータがあったとしたら私の不勉強です、すみません)。
 北海道や東北に脳卒中が多く、九州四国や沖縄には相対的に少ない印象はあるけれど、脳卒中は寒い地方だけの病気ではない。そんな事になるのなら、過疎だろうが何だろうが、東北の山間部の人は村を捨て都市部に住むか関東以西に転居する事が「予防医学」上、推奨される事になる。

 昨日の夜から今日の午前中の約20時間の間に、脳梗塞が二人(うち一人は来院時JCS200の重症)とクモ膜下出血が二人緊急入院となった。今日の予定手術が立て込んでいるため、夕方からしか緊急手術がいれられず、多少やきもきしながら我々は待つしか無い。クモ膜下出血は、なんと3週間ぶりの来院だと思ったら続けてもう一人緊急搬入された。一人は60才台でグレード3、急性水頭症もあるので本日すぐ手術をする。もう一人は、82才!しかも、未破裂脳動脈瘤が半年以上前に外来で見つかっていた人である。82才という事で予防的な手術はしないでMRIなどで経過を追いましょう、という事になっていた方だった。場所は右の中大脳動脈分岐部の瘤である。
 手術をする立場からいえば、困難な場所ではなく、むしろ積極的に手術治療を考える。血管内治療でもいいかも知れない。しかし、82才。常識的には予防的な手術治療は行わない。
 でも、破れたのだ!出血したのだ!
 未破裂脳動脈瘤の年間破裂率は、出典によって幅があるが、(頭蓋外の瘤まで母数に含めるなど、杜撰な解析と考えられ無視してもよいデータではあるがNEJMに出たので)最低0.05%/年から、高いものでも3〜5%/年とされ、中間報告でまだ確かなデータにはなっていないが日本の調査中の参考値として、1%/年というのがある。つまり、未破裂の脳動脈瘤を持っている人100人の中で、一年間経過を追うと確率的に一人だけ破裂してクモ膜下出血になり残りの99人はそのまま健康だ、ということになる。
 しかし、現場にいる我々の実感としては、当然倒れて運ばれて来る人を診察していて、健康な人は年に一回くらいしか診ないから印象が違うのであろうが、「もっと破裂率は高いんじゃないの?」という印象である。
 
 そもそも、脳外科医がなぜ「脳ドック」で未破裂脳動脈瘤を検索して適応のある人には手術をすすめて予防をしようとしたかというと、クモ膜下出血で運ばれて来る人のうち、3割は死亡(手術にも至る事無く)したり、残りの患者の半数近くが後遺症を残す姿を見て来ているからである。病院に搬入されずに亡くなる方や、脳外科の無い病院で「脳卒中」とか「心筋梗塞」という誤った診断名で突然死として扱われている重症クモ膜下出血の方がまだまだいるはずである。折角、腕と設備のある脳外科の施設に搬入されても、重症クモ膜下出血では手術の適応はほとんどない。手術治療にもっていけずに目の前で亡くなっていかれる患者さん達を見て来た脳外科医は、
「なんとかしなくちゃ!」「破れる前に、倒れる前に助けよう!」
という医師としての気概と脳外科医としても誇りを胸に思った訳である。
 しかし、中には技術の確かではない、判断力や治療方針の正しくない、またはinformed consentをきちんと取れていない脳外科医がいた事も否めない事実である。ごく少数に過ぎないと信じたいが「0」ではなかった。そうして問題が起き、「未破裂脳動脈瘤に対して予防的に手術をするなんて、脳外科医の傲慢だ」のような捉え方をされた方もいた訳である。「少なくなった患者をなんとか脳ドックで増やして無理矢理手術をして飯の種にしている」というような言われ方をされている人もいるようである。
 血管内治療が進んで来ているが私は必ずしも、血管内治療の未来が明るいものとは思わない。ことに脳動脈瘤の治療に関しては、血管に出きた瘤の中にプラチナのコイルを詰め込んで中から詰め物をしているだけなので、瘤自体がその後に成長すれば詰め物をした意味が少なくなり「破裂」は防止できなくなる危険がある。瘤の部分では正常の血管に「穴」が開いている様なものなので、その穴に中から詰め物をする血管内手術と、外から穴全体を塞いで穴をなくしてしまうクリッピング術では根本的に別のものである。短期的な効果に差がなくても10年、20年という長期的効果の差については何もわかっていないのである。
 マスコミを中心に医療を批判する事だけに終始したり、厚生労働省を中心に特殊な訓練と厳しい教育を受けて来た脳外科医の技術を他の医師と差を付けずに扱っているままでは、今後の医療の先行きが非常に案じられる。
 『偽装』なる言葉が賑やかにテレビでも新聞でも雑誌でも踊っているが、ようするに『うそつき』である。かなり前の話しになるが、遺跡発掘に関して「偽装」していた大学教官がいた。韓国で、人の細胞からES細胞を作り出したと「偽装」論文を世界の一流紙に載せている大学教官がいた。韓国の医学界のお偉方が、論文データ捏造の発表会見の席で「国恥の日」と宣ったそうである。
 科学者が、大学教官が、なぜ「うそ」をつくのだろう。功名心、出世欲、金儲け、、、いろいろあろう。しかし、真の意味でのプライドがないのだろう。

 日本も韓国も従来は『儒教精神』で教育されて来たお国柄である。そんな国で、こんなにも「うそつき」が横行している。どんな犯罪も認められる訳ではないが、うそつき、人をだます、科学データの捏造、人の命に関わることの偽装、などは許されるものではない。私の心の中では「死罪」に等しい罪という気持ちがある。
 真冬の田舎の末端の病院で、一人の患者の命を救うために努力している医師がいるのに、なんでこんなに世の中はいい加減なんだ!と怒鳴りたくすらなる。
ーー
 本日、フジテレビ系列(あえて宣伝します)で、故本田美奈子さんの特集番組があります。確か、21〜23時のはずです。本当は、来春にも復活した彼女が再びステージに立つまでのドキュメンタリーとして番組を計画し作っていたのだそうです。私は、勘がよくて、今日は遅くなる気がしたので、朝出勤前に録画予約をして出てきました。先日来、本田美奈子さんのことを何度かここにも書きました(11/27「音楽の意味」など)。音ブログにも書きました。
 もう一度、彼女の壮絶な闘病姿を見ましょう。彼女の歌を聴きましょう。そして、今生きている事への感謝の心を持って、周囲、家族、親兄弟、神への感謝の気持ちを捧げましょう!
 本田美奈子さんにあらためて哀悼の意を捧げます。彼女のCDに収録された曲の中で、唯一彼女自身が詩を付けた曲、『タイスの瞑想曲』を聴いてみて下さい。私の演奏ですが。。。(^^;;;

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コメント

UCAS-JAPANの結果発表が待ち遠しいですね

投稿: いのげ | 2005.12.17 13:48

いのげさん、はい、本当に。
自信を持って説明できる数字が欲しいです。今は、「低いものでは0.05%、高いものでは5%と報告されている破裂率にばらつきあります。ただ破裂すると3割は命に関わるようです。」という感じの説明です。
ただ、いくらきちんとした数字が出ても、最終的には医師と患者の信頼関係だとは思います。

投稿: balaine | 2005.12.19 10:00

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