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2005.11.12

宿直明け

 昨日は宿直だった。そういえば先の日曜も宿直だったので6日間で2回泊まった事になる。私の年齢でも月に2、3回、若い先生だと3、4回は宿直や日直が回って来る。名簿を見ると常勤医は76名もいるのだが、院長、副院長、救命救急センターの医師、その他の一部の医師(病理医など)は当直体制から外れているので、結構頻回に回って来るのである。以前は年齢による優遇措置(たとえば50才以上の医師は当直から外すとか、45才以上は日直だけにするとか)を行っていたけれど、今ではそうも言っておられず若い先生に比べて外科系救急宿直を免除されている以外は同じ条件である。
 比較的新しい病院なので、前に書いたように外来棟にエスカレーターがあったり結構凝ったデザインである。しかし、医局は狭く、医師一人当たりに本棚一つしかなく、当直室のベッドは小さく硬くて寝心地が悪い。まあ、医局でのんびり寛いだり、ベッドでゆったり寝たりせず、働きなさい!ということなのだろう。
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 深夜にICUで呼ばれてその後テレビを観ていたら、BS2でN響音楽祭のシリーズの中で、マエストロ小沢征爾が指揮して、子供を対象の音楽会をやっていた。「運命」の解説もマーカス・ロバーツトリオとのJazz競演のガーシュインも面白かったが、千住明さん作・編曲の世界初演「日本交響詩」に注目した。
日本人なら誰もがどこかで必ず一度は聴いた事のある旋律の曲をメドレーよろしく並べてオケ用に編曲しただけ、と言ってしまえばそれまで。「うさぎお〜いし」の『故郷』から始まって最後は『さくら』で締め。メドレーの2曲目が『最上川舟歌』で3曲目が『花笠音頭』だった。その他に北海道の『ソーラン節』とか香川の『金比羅船』などがあったが、一つの県で2曲入っているのは山形だけだった。まんざらでもない気分。千住さん、7/22の本ブログで書いたように山形とは縁がある。そういうことからの選曲からなのか、単に千住さんの心に「日本の旋律」としてこの2曲が残っていたのか。いつか聞いてみたいなあ。
(実は、花笠音頭は戦後に作られた比較的新しいものなんですが、まるで江戸時代から存在していたかのようななじみ深い曲ですよね。私、将来山形に住む事になるなんて露程も思っていなかった九州時代から花笠音頭は知ってましたから)
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 久しぶりに医療の話し。
 昨日の新聞に、政府が医療制度改革の一案として検討していた「保険免責制導入」を見送ることになったと書いてあった。外来受診に際し一定額を保険対象外として負担する制度で、当然国民の医療費自己負担が増すとともに外来受診抑制を来すものである。「公的医療保険制度の基本に反する」「患者負担は3割にとどめるとした2002年改革の趣旨に反する」などの異論が噴出したため、今回は見送る事になったらしい。その結果、医療費抑制は、高齢者負担の増加、診療報酬引き下げなどを中心にを図っていく方針だと書いてあった。
 確かに「公的医療制度」の方針から外れる考え方ではある。しかし、これは憲法9条問題と同じよう(私は、護憲派でも違憲派でも何派でもありませんが)、時代の流れに応じて「基本」とされている考えを見直す必要がある問題だと思う。
 更に、医師会などが「患者の受診機会を抑制する」と反対しているらしい。もちろん、必要な医療サービスを受けることが抑制されるのは好ましくないが、過剰/不要な医療サービスは抑制してもいいのではないだろうか?「感冒」で医者にかかったら診察料と薬代で1万円請求されるようなら、ほとんどの人は薬屋さんで市販の風邪薬を内服して家でおとなしくしているのではないだろうか?39度の高熱であるとか、肺炎症状の場合は、医療機関にかかればもちろんいいのであるが、「風邪気味で鼻水が止まらない」「37度の熱で頭痛がある」位で必ずしも医療機関を、しかも救急外来などを受診する必要はない場合もあるのである。これを抑制する方向に持って行ってもいいのではないかと個人的には思う。ただでさえ高齢化社会で医療費が高騰している。医療水準が高くて提供するサービスも高度であるため(諸外国に比べての話しです)医療費が嵩む傾向にある。医療レベルを低下させずに医療費を抑制するためには、無駄または無駄な傾向を減らすしかない。
 しかし、これは一部の考えかも知れないが、既得権の喪失を恐れてなのか、医師会が大反対しているらしい。受診機会が減るということは、開業医にとっては大打撃であるからである。一方、同じ医師でありながら病院に勤務する勤務医の立場として私は、外来患者数が減る事、過剰な受診が抑制される事は大変いい事だと思う。
 かつて書いたように、「2ヶ月前から時々頭が重苦しいのだが、脳卒中になるのではないかと心配で診てもらいたい」というような患者さんが、本来は脳神経外科の外来を受診する必要性はない。念のために、スクリーニング的に検査するのであれば「健康診断」なのだから、本来は全額自己負担でなければならないのだが、そんなことを言えば患者さんは「あの医者は意地悪だ」「もう診てもらわなくていい」という感じになるので「はいはい〜、じゃあ、CT撮ってみましょうね〜。MRIも予約しますか〜。」という感じで「過剰」な保険診療が行われるのである。
 これが本当に「患者中心の医療」「患者の視点での医療」なのだろうか?と前々から疑問には思うが、こんな事を一般の患者さんに説明してみたところで、「CTを撮ってみて欲しい」と思って来ている患者さんの前ではただ理屈っぽく自分には不利に行動する嫌な医者、ということになってしまう。病院で働く医師は、患者受けが良く病院の評判をあげることが要求され、正論を述べても無駄、黙って働きなさい、という感じは皆感じながら辛抱して働いているような気がする。
 だから、外来受診料金の一定額保険対象外は方法論さえ誤らなければ導入してもいいのではないかと思う。この案がポシャった代わりに、高齢者負担の増加、診療報酬引き下げを行うとしたらこちらの方が問題だ。高齢者負担の増加はある程度はやむを得ないところもあろう。だって世界一の長寿国となったため高齢者比率も高いのであるから、「高齢者」という定義すら変えなくては行けないくらいなのだ。しかし、診療報酬の引き下げ、これは昨年既に全面マイナス改定を行ったばかり。それを更に推進するというのだ。もし、これまでにその医療水準に比較して高く取りすぎている医療技術や診断法があるのならマイナスになってもやむを得まい。しかし、進歩している世界一高水準の医療技術が、『国全体がデフレ傾向にあるのに医療だけ価格引き下げがないのはおかしい』という他の消費文化と同等のものとして論じられるのはいかがなものなんだろう?
 日本医師会という団体がある。私も加入しているが、公立病院勤務医である私に、一年間で10万円以上の「会費」を払っているメリットは、はっきりいって「何も感じられない」。日本医師会雑誌とか県の医師会報などが送られて来るが、病院勤務の脳神経外科医が読むべき内容は多くない。「何でも勉強になる」と言ってしまえばそれまでだが、脳外科関係の学術雑誌でさえ隅から隅まで目を通している訳でもないのに、あまり役に立たない医師会の記事まで見る時間はない。その医師会雑誌に添付されて小冊子が配布された。
「世界トップレベルの医療を提供するためにー日本の医療の現状と将来」と題され、なかなか面白い内容の図表が載っていた。「あれ?これは医師会会員に配っているんだよね?」と私は思った。政府、医療改革協議会や一般市民を対象に、「日本の医療は水準が高い。高い水準の医療には金がかかるんだ」と説いているような内容なのだが、こんな冊子、一般市民が手に取る機会なんてあるんだろうか?
 よく、医師は高給取りのように言われる。決して低いとは言わない。しかし、たくさん稼いでいらっしゃるのは開業医の先生方である。日本の制度ではそうなるのである。たくさん稼ぐ事が悪いとは言わない。個人事業主として頑張って働いてたくさんお金を稼いでどこが悪い!である。病院勤務医は歩合制で給料をもらう事はまずないので、いわゆるサラリーマンである。給与体系はある形式の契約である。だからたくさん手術しても少ししか手術しなくても、たくさん急患を診ても少ししか診なくても、その契約通りのサラリーを頂く。そして、(独立法人化したとはいえ)国立大学の研究職にある医師は、極端にそのサラリーが低い。大学だけのサラリーで年収1000万を超える人が、病院の中に一体何人いるのだろうか?勤務医になると1000万を越す人が少しは多くなる。ところが、開業医の先生方は納める税金が私の年収の何倍もあったりするのだ。軽く一億円以上稼いでいらっしゃる先生も大変たくさんいらっしゃる。
 同じ日本医師会に属しながらも、大学病院勤務医、一般病院勤務医、開業医では、立場も稼ぎもあまりに違いがある。そして、日本医師会の中心の意見になって行くのは、数も多く力を持ち政治的活動に時間を作る事が可能な開業の先生方がどうしても多くなる。勤務医の意見は、聞いて頂いているようだが「医師会」としての中心的な意見にはなりにくい。だから勤務医は医師会になかなか入りたがらない。入ってもメリットが少ないからである。結果、日本医師会は「開業医」中心に運営され、「開業医」のための政治的圧力団体のようにすら見える事がある。一般の人にとっては、我々勤務医も同じ医師会のメンバーだと思っているのだろうがほとんどの人は入会していないのが現状である。
 そして、保険診療のマイナス改定に話しが戻る。たとえば、脳動脈瘤のクリッピング手術。クリップも改良に改良を重ね、MRI対応の細身のものが主流になっている。開いた頭蓋骨を元に戻すのに昔はステンレスのワイヤや絹糸で縛っていたのを、今はチタン製のプレートでがっちり固定している。手術してから何年か経つと絹糸が切れたりして外した骨の部分に段差が出来たり、皮膚表面からあきらかにわかるよなポッコリした凹みができることが多かった「昔」に比べ、現代の手術ではそのような事はまず起こらない。髪の毛が伸びた後は、知人から「お前、本当に頭の手術受けたのか?」と言われる程目立たない。頭蓋骨を削るドリルだって、その機能は向上しているし、動脈瘤を露出したりクリップをかける際にも脳の機能や血流をモニタリングしながら、また術中血管撮影装置を用いてすぐに血管の形を調べたりできる。脳腫瘍の手術中に、手術室にMRIがあって腫瘍の取り残しの有無をチェックしたり、大事な機能部位との距離を探索したりする事がリアルタイムに出来る。このように進化、進歩している手術に対し、マイナス改定を行うという考えがまず解せないのである。「回りがみんなそうだから」という論理らしい。勤務医は開業医より遥かに少ない収入で頑張っているのは自分たちの技術、自分たちの努力が日本の医療を支えているから、という自負もあると私は考える。
 何も、開業医と敵対するつもりはない。開業の先生方にも苦労はたくさんあり、最初に書いたように努力に見合った収入を得る事はいい事だと思う。しかし、開業医と勤務医にこれだけ格差のあるのは、おそらく先進国では日本だけだと思う。アメリカなどでは、クリニック開業医より病院勤務医の方が収入が多いケースがたくさんある。頑張って医療水準を世界一にしている勤務医が、「な〜んだ、また下げんのかよ!俺たち(私たち)の努力は政府や経済界には評価されない訳ね。」ということにならないだろうか。
 そこで結局出て来るのは「精神論」なのか。「欲しがりません、勝つまでは」と同じでは困るのだ。
 でも、他の誰から助けられる訳でもなく、医師としてのプライド、自己犠牲の精神によって勤務医自身が日本の勤務医医療の崩壊をきっと支え救ってくれるだろう。医療改革協議会はそういう「高潔な精神」に期待しているのだろう。。。。(sigh)

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コメント

そうですよ!いつまでもこんなことでは先がもちません。何を考えてるんでしょうね、全く。お役人達は。ここに書かれたのはとっても分り易い説明です。ほとんどの一般人は知りません。というか勘違いしてます。それに自己犠牲、高潔な精神を持てるような若い医者が育っていかないではないですか、これでは。

投稿: @むーむー | 2005.11.12 13:10

医療費を抑制すべきか?は大問題です。
よくマスコミ受けする 心臓移植とか 遺伝子治療とか 高度な脳外科・心臓外科の手術とか 非常に医療費がかかります。風邪などの医療費なんて これに比べれば微々たるものでしょう。 治らない、治せない といわれてきた患者さんにとって 夢のある医療というのは 非常に非常に高額な医療なのですから、医療費を抑制すると言うことは 結局は そのような患者さんの医療を今後どうするのか ということになります。どうもマスコミでもそのような視点がないように思いますが。。。。 今の流れだと アメリカ並みに そうした高度な まともな?医療を受けられるのは金持ちだけ 自費で可能か それとも高額な私的な医療保険に加入できる 富裕層だけ ということになりかねません。でも それでも仕方がないことなのか、。。。悩ましい所です。

投稿: 内科勤務医 | 2005.11.13 13:24

@むーむーさん、どうしたらいいんでしょうね?我々末端の勤務医は、政治には関わりたくないし、日々の診療を誠意を持ってやるだけです。あとは、、、???

内科勤務医さん、仰る通りです。
私、このブログによく「日本の医療は安い」「脳外科は(大変なのに)安い」「高度な医療にはもっと値段を上げてもおかしくない」と書いてはいますが、理想を言えば「全て無料」「全額公費負担」なのです。病気になりたくてなった人なんていないでしょうから、公費で助けてあげるべきです。
しか〜し!その「公費」の財源は結局国民である我々が出しているのです。「富裕層」は通常多くの税金を納めていますし、税金を財源にして行くのなら受益者負担という考えも必要で、高額納税者と低額納税者に差をつけるという考えた方もあるでしょう。現行制度では「高額医療費の還付」でかなりの額が一端支払った後に戻って来るのですから、「保険診療」ならば富裕層でなくても「高額な医療」を受けられる事は受けられます。だから、単純に「デフレだから医療費も下げる」という発想ではなくて、私(多くの勤務医?)の求めているのは「下げるべきところは下げ、あげるべきところは上げる」という「悪平等を排除した公正な差別化」です。

更に、医療費の問題だけではなく、法律が関わります。現時点では、小児の脳死を認めていないため、心臓病や肝臓病の子供を持つ親は心移植や肝移植を求めて4,5000万円の寄付を募った上で海外に行っていますが、これには公的援助は全くないはずです。全額自己負担です。これを政府や医療改革協議会はどうみているのでしょうね。

投稿: balaine | 2005.11.14 11:29

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