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2005.11.27

音楽の意味

 大それた事を書くつもりはありません。
 『音楽』とは何ぞや?などと真剣に考えだすと、哲学になってしまいます。特に、器楽演奏や歌唱は、「瞬間芸」と言われ、基本的には絵画のように後に残ることのない、演奏された瞬間に消えるものです。踊りも同様ですね。
 しかし、消えた後に、それを聴いた人の心に残るものであり、残ったものがその人の気持ちを高めたり鎮めたり癒したり、大袈裟に言うと生きる気持ちを変えたりもします。『音楽療法』という言葉があり、学会があり、専門に研究する人がいて、実践されているのも事実です。私も脳の専門家の端くれでかつ音楽を愛する者の一人として非常に興味のある分野です。そこには「こころ=脳?」、「精神=脳?」という大きな未解決で未知な問題が横たわっています。
 さて、一昨日、テレビをつけたらたまたま越路吹雪さんの伝記的ドラマをやっていました。親友としてまたマネージャー的な働きで活躍した岩谷時子さんの事がかなり大きく取り上げられていました。岩谷さんの名前は、作詞家としては知ってはいましたが、歌謡曲をあまり聴かない私は詳しくは知りませんでした。越路吹雪さんの活躍にあれほど深くかかわり、エディット・ピアフの歌を『愛の讃歌』として訳詞したのも岩谷さんだという事を実は初めて知りました。ちょっと調べてみたら、ザ・ピーナッツ、加山雄三、坂本九、島倉千代子、郷ひろみ、などなど数えきれないぐらいのヒット曲を創り出していた人なのでした。酒田市民会館「希望ホール」の名の由来になった、酒田出身の歌手岸洋子さんのヒット曲『夜明けのうた』も岩谷さんの作詞です。なんて凄い人なのでしょう!(今頃、知った私が愚かなだけかな、、、)
 歌には、メロディーと歌詞があり、セットで「音楽」です。美しいメロディーに心和むだけではなく、やはり歌詞の持つ力は大きい。岩谷さんの書いた詞や訳詞で今までどれだけの人が勇気づけられたり元気づけられたり慰められたりしたのでしょう。まさに、偉大な音楽家、芸術家と言ってさしつかえない人だと思います。
 私が、岩谷時子という名前を鮮明に覚えているのは、先日亡くなられた本田美奈子さんの歌によってです。
38年という短い生涯に14枚ものアルバムを出した彼女ですが、あの『つばさ』という曲は丁度真ん中頃の8枚目のアルバム『JUNCTION』に登場以降、何枚かに収録されています。1994年発表の曲なので10年以上経った曲なのです。先日の『題名のない音楽会』の追悼特集番組でも「岩谷時子の世界」の収録が放映されていて、あの30秒近いノンブレスの絶唱『つばさ』から始まっていたのは印象的でした(関係ない話しですが、山形新幹線の名称は『つばさ』です)。
 その曲の作詞家が岩谷時子という名前だけは頭の中にあったのですが、それが上記のような名だたる歌手には繋がらずにいたのです。それを今回の越路吹雪さんのドラマで知る事が出来、「越路吹雪さんのようになるんだ!」と夢を語っていながら夭折した本田美奈子さんの事を思わずにはいられませんでした。彼女のCDは今注文が殺到して在庫が切れ入手困難なのだそうです。亡くなられてから、というのは残念です。2年前に出していたアルバム『Ave Maria』の全14曲中、岩谷さんの作詞、訳詞が半分の7曲あります。訳なしや原曲日本語やその他が6曲あって、残り1曲は唯一本田美奈子さん自身による作詞でした。それが『タイスの瞑想曲』。
 3週間前に亡くなられた本田美奈子さんを、越路吹雪さんのドラマで強く思い出し、あらためて哀悼の意を捧げ、本日の音ブログはその『タイスの瞑想曲』にしました。
 昨日の昼間、これもたまたまテレビを観たら『フジ子・ヘミングの軌跡』というドラマ(多分再放送)をやっていました。話しは知っていましたが、思わず引き込まれて食事もとらずに最後まで観てしまいました。その中で、苦労ばかりしていて陽の目を見ていなかった彼女が、病院の中か協会かどこかで、精神的ショックで失明した上に心を閉ざして無反応になっていた老人がたまたま自分の弾いたピアノを聴いて涙を流して感動した姿を見て、「富や名声のためではなく、たった一人でもいいから誰かの心に響く音楽を奏でよう」(言葉は私の記憶に基づきます)と思った瞬間が描かれていました。彼女の弾くピアノの音が、その「心を閉ざした」老人の心の中に入って行ってかけられたままの鍵を外し凍ったままの氷を溶かして、「感じる」「感動する」という心の動きを取り戻させたのです。
まさにこれが「音楽とは?」という命題への答えのような気がしました。
 私は、個人の趣味として、好きだから音楽をそれなりに真剣にやっています。でもプロとは違います。これで飯を喰っている訳ではないし責任がありません。そう、無責任な音楽、です。でも、聴く人の心に届くような音楽をやりたいと思っています。それですぐに『音楽療法』という、短絡的な考え方はしたくありません。誰か、という特定の人がいなくても、人の心を動かせる演奏をしたいと思っています。

 昨日の『伝国の杜』でのフルートリサイタル。素敵でした。プロですからテクニックは私なぞとは大違い。フォーレのファンタジーやタッファネルの「魔弾の射手」幻想曲などでは、「なんであんなに速く指が回るんだろう?(なんでって、そりゃ努力してるからだよね)」と思いながら聴いていました。「クラシック・りサイタル・シリーズ」といって、地元出身の若手音楽家を発掘し育てる事も目的の一つの演奏会でした。これまでに、ピアノ、バイオリンといずれも置賜地区出身の若い女性の音楽家の演奏が催され、昨日の宮川さんで3回目。考えると、日本は世界に誇るフルート王国(?)で、毎年凄い数の「器楽科フルート専攻」卒業生が出ています。そんな中で、たとえ実力があって人の心に届くような演奏が出来る人でも、「演奏だけでご飯が食べられる」音楽家はほんの一握り、というかほとんどいません。プロオケの団員になって定期的な仕事があって(低いけれど)安定したサラリーがあるか、音楽教室を開いてまたはフルート教室の教師になってある程度約束された収入を得るか、大学の教員(講師または非常勤講師)になるか、です。コンクールを目指しても、そんなにコンクールの数がある訳でもなく、年齢制限もあるし、書類選考から始まりなかなか厳しい狭い門のようです。コンクールで優勝でもすれば注目を浴び、CDデビューやリサイタルの話しが「向こう」から来る場合もあるようですが、ほとんどの場合、かなり有名な演奏家でも、リサイタルは自分でマネージメントからしなくてはなりません。時間とお金がかなりかかるようで「黒字」になんてならないようです。
 私の友人のプロオケフルーティストも10年程前には、隔年位のペースで3回程ソロリサイタルを開いていましたが、その後は家庭を持ち子供が出来、時間とゆとりとお金がなくなって、コンサートなんてできないようです。「お前は、(フルートを専攻したりせず)医者になって正解だよ!」と言われた事もあります。音楽というのは、純粋なレベルでは最初に書いたような、人の心を動かす芸術なのですが、「職業」とするとどうしても厄介な事になってしまわざるを得ません。昔の貴族社会のように王侯貴族や大商人などのパトロンがいて多額の寄付や援助でもしてくれない限りは、消費経済社会の中にある「ビジネス」の一つになってしまう訳です。そういう意味では、アマチュアの方が、より純粋に「音楽」を追求しやすい面がある事も否めないと思います。私の場合、音楽をすることで自分自身が一番癒されているのですけど。(^^

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コメント

TBありがとうございました。
金曜日の追悼番組には、岩谷さんのお声も取り上げられていました。ご覧になりましたか(おそらくお忙しいことと思いますが…)。
ブログの記事でもご紹介されている「つばさ」。なかなかテレビでは見られないのですが、24日(クリスマスイヴ)の午後六時から、「ミュージックフェア」(フジテレビ)の追悼番組のなかで放送されるそうです。
ワタクシの住む長野では地元局のネットがありませんので、残念ながら見ることができませんが…(泣)。

投稿: ひろさく | 2005.12.18 20:04

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