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2005.11.01

地元枠の意義

11月になりましたね〜。私も急な移動でバタバタして、ようやく落ち着いて来たところです(まだ未開封の段ボールがたくさんですが、、、)。
ーー
昨日予告済みの国立大学「地元枠」のお話しをします。
(朝日新聞、Asahi.comより一部引用)
『06年度入試では一気に12大学が導入し、計16大学になる。すべて教師や医師を養成する教育学部と医学部だ。背景には、急速に進む大都市近郊の教員や、過疎地を中心とする医師の不足がある。これまで受験機会の平等という原則から、実現しにくかったが、法人化で地域重視の方針も実現しやすくなり、導入が加速した。』

教育学部の話しは飛ばす。

『国立大で先に地元枠を設けたのは医学部だ。中でも学生の地元への定着が悪かった滋賀医大が法人化前に、目立たない形で98年度に先行した。05年度は信州大と佐賀大が導入、06年度は秋田大や三重大、鹿児島大など9大学が新たに導入し、計12大学で実施される。』 

 「過疎地」の定義についてはここでは不問とするが、別に過疎地でなくても地方では「医師は不足」している。しかし、なぜここまで「国立大学の医学部」が、言ってみればなりふり構わずするようになったのか、よく考える必要がある。県立医大や私立医大ならば、建学の理念とか意義、目的の中に「地域住民に貢献する医師を養成」ということがあってもよい。しかし、国立大学はその財源は国民の税金であり県民税や市民税ではない。国が建てて運営しているのだから、国民に広く平等にその利益を還元しなくてはならない。それなのにこの制度は、受験生の立場から言えば、「地元が有利」なのである。地元の高校生を優先して入学させるという制度である。そうしてまでも、地元に医師を確保したい、という「地方国立大学」の切実な願いが具体的な策として現れたものである。
 「一県一医大」構想の下、昭和40年代後半から50年代前半にかけて全国で医学部が増えた。「新設医大」と呼ばれていた。私もその「新設医大」卒業の口である。今のようなセンター試験とか共通一次試験とかが出来る前の、「一期校」「二期校」の世代である。同級生には、東大理IIIやいわゆる旧帝大系医学部受験に失敗してきた「凄く出来る奴」が大勢いた。当時、医師不足、特に地方、過疎地での不足が大きな問題で、簡単に言えばもっと医学部を作って医師を増やそう、という計画であった。私の母校が昭和48年に第一期生を迎え入れた時、県の関係者は大きな衝撃を受けた。100名の新入生のうち、地元の高校出身者はたった一人。99人は、他県、特に東京を中心とする都市部出身者で占められていた。
「田舎の大学で医学を学んで、卒業したらみんな東京に帰るんじゃないか?」
多くの人がそのように危惧していた。しかし、実際には半分以上の卒業生が地元に残った。その人達は、今や卒後27年目の中堅ベテラン医師。私が6期生で、卒後22年目。多くの卒業生が県内各地域病院勤務医や地元開業医として、また出身大学はもちろん全国の教授、助教授として大活躍をしている。私を含めて、何が彼らをそうさせたか。東京出身者6割、関東出身者8割を超えた同級生の4割近くが卒業大学またはその関連に残った我々や先輩方は何を考えてそうしたのか?
「あまり深く考えず、自然にそうなった」という人もいるだろう。
「6年暮らして、住めば都。愛着がわいた」、「先輩の姿を見て、自分もここに残る気持ちになった」
など様々な意見があるだろうが、一言で言うと私は「医師となるにあたっての志」ではなかったか、と思う。
しかし、最近は事情が変わって来た。
大学の医局制度が批判されている(確かに良くない面もあるが、凄くいい面もある)。2年前から「初期研修医制度」が必修義務化された。出身大学に残るよりも、自分の出身地近くの「有名な」研修病院で学ぼうという考えをする医学生が増えて来た。うまくせつめいできないが、地方の魅力も認めながら「都会」に憧れ「都会」での生活を優先する気風が医学生の中にある(都会への憧れは若者に限らず誰にでもあると思うが)。「地方」で、「田舎」で、医師をして人の役に立とう、という志が少なくなって来た、ような気がする。

 私の母校でも、地元枠ではないが、かなり前から「推薦枠」を増やした。その結果、地元進学校の入学は確かに増え、明らかに増えたのは「女性」であった。地元出身者が増えた分だけ地元に残る医師が増えたのかどうか、具体的な数字はわからない。お隣りの秋田では、8割弱を占める県外出身者が県内の医療機関に就職するのは3割程度なのに対し、学年の2割強の県内出身社の7割が地元に就職する、ということで、地元枠の拡大、設置に期待しているらしい。確かに地元の出身者を増やせば増やすだけ確率的には地元に定着する医師が増えるような気はする。
 数年前の事、地元出身の学生と話しをした事がある。
「地元の大学に残って勉強し地元の住民に学んだ知識技術を還元する」ことを説こうとすると、「小、中、高そして大学と地元で親元から通ったので、卒業したら他所の土地に行って一人暮らしをしたい」と答える医学生が一人や二人ではなかった事に衝撃を受けた。
親元から離れたい。その気持ちはわかる。成人して親と一緒に暮らすのは楽な反面、「大人」としての独立性が乏しい。一方、卒業して医師になり地元に残るとすれば親元から通勤するのが楽ではあろう。経済的な事もあるが、親と暮らせば食事や洗濯の心配も少ない。親と一緒に暮らし地元で医学の勉強を続ける事と、親元を離れ少々苦労はするものの自由を手にし故郷から巣立って都会や魅力ある他所の土地に暮らすことを比較すれば、多くの若者は後者を選択するのではないだろうか。地元定着率が増えるから地元出身の学生を優先して入学させる、というのは一面では正しいとしても、残る方を選択する者は、中には「自分の生まれ故郷のために働きたい」という志の高い者もいるかもしれないが、楽な生活、安易な生き方、を選ぶようなより志の低い医師を養成する事にならないだろうか。杞憂に終わればいいのだが。。。
ーー
『「県内では、お産ができない、麻酔医がいなくて手術ができない、といった話が珍しくない」と話すのは、秋田大の飯島俊彦医学部長。同大では、95人の定員のうち5人を地元枠とする。』(同じく朝日新聞の記事から) 

 志だとか地元への貢献だとか言っていられない、背に腹は代えられない事情が、地方の医学部にはすでに起こっている。「一県一医大」政策は実行され、もはや30年を過ぎて「新設」医大という言葉は消えた。毎年、8000人以上の医学部卒業生はどこに行っているのだろう?


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コメント

最近は 大都市の有名研修病院の吸引力というか 宣伝力というか たしかにすごいですね。医○書院とかC○Rとかの出版社や 民○医局などのイベント・雑誌も含めて かなりのメディアの影響も大きいように思います。
医者がいなくなる病院が増えてきていて、患者さんの受診行動もかなりの変化を来たしているように思います。
患者さんの地元への紹介先でも あれ、いつの間にかに紹介すべき先生がいなくなっている ということも多くて、大変な状況になってきていますね。
このまま今の方向で進んでしまうのでしょうか。

投稿: 内科勤務医 | 2005.11.01 21:32

内科勤務医さん、コメントありがとうございます。
確かにマスコミの力は大きいので、上記雑誌の情報に左右されて研修先を選択して人も多かったのではないでしょうか?地方にもしっかりやっている研修してい病院があっても取り上げられる確率が低い。そこで、病院の「教育研修部」でもあの手この手で初期研修医獲得に奔走していますね。
 私がもし来年医師になるのであれば、やはり都会の有名どころの研修指定病院を選ぶかもしれません。そして2年の初期研修後に「脳外科」を選択するかどうか、微妙ですね。
 情報が多いとその正しい解釈に問題が生じ、かえって惑わされて「楽そうな方」へ、「おいしそうな方」へと流されそうです。今だって、初期研修医の月給は病院によって10万円台前半から40万円近くまでとかなりのばらつきがありますが、そういうことも選択条件に入ってきますからね。私が医師になった頃は、給料いくらもらえるかなんて考えもしなかったですけどね。

投稿: balaine | 2005.11.02 10:02

一般論ですが女子の方が帰巣本能が強いと思います

投稿: いのげ | 2005.11.06 03:26

いのげさん、そうですね〜。動物の雌としてはやはり「帰巣本能」あるでしょうね。「雄」はむしろ巣から出て行く立場ですし。
人間の女としては、大きいのは「親」ですよね。「娘」は嫁入りまでは親元に、と考える人が多いらしく、卒業したら地元に戻る、親と暮らす、という事を普通に思っている女の子(=女子医大生)が結構多かった印象があります。
医学部の学生を卒後脳外科に勧誘しようとしていて、一度、ショックを受けたのは、結婚を意識して付き合っていたらしい同級生同士で、彼女が卒後は新潟の実家に戻るため、「脳外科」を希望していた「彼」がうちではなく新潟に一緒に行く事を決めたと告げに来たことです。
(女についていくんだ〜)口には出しませんでしたけど。。。

投稿: balaine | 2005.11.06 11:55

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