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2005.10.25

名前の印象

都内に住む妹からメールが来た(勝手にネタの材料にするな!と後から怒られそうだが、、、)。
そのメールに「病院名からすると、そう大きな病院じゃなさそうだけど、、、」と書いてあった。
名前から、前任地よりも少し規模の小さな病院という印象を受けたらしい。
しかし、事実はベッド数は全く同じで、県内に2つ、全国に170弱しかない「救命救急センター」を併設する外観は立派な病院なのである。建物の高さで大きさが決まる訳ではないが、前任地は7階建て、新任地は8階建て。
中身はどうか。それは患者さんが判断する事であろうが、電子カルテの画面に「空床警報」(空襲警報みたいで変な感じ)が時々出る程、繁盛している。病院全体520床で、空きベッドが10床を下回ると出るものらしい。
ーー
昼食をとる休憩室のようなところに、都内のさる有名な大病院(S病院とする)の立派な診療案内がおかれてあった。ここの副院長先生は脳外科医で、数年前に米国の学会で私がある手術法を教えるコースの講師の一人を務めたときに初めて言葉を交わす機会があったのでその冊子に興味を持った。
S病院は、都内はもとより、関東近縁で非常に高い評価を受けていて、全国的にも名前が通っている。前任地で、その方が埼玉に住んでいた当時に未破裂脳動脈瘤が見つかったため高名を頼ってS病院で手術を受けた患者さんに会った事がある。上記の先生は当時脳外科部長であったはず。
東京近郊には名の通った病院はたくさんあるし、「あそこの脳外科なら」などと高い評価を受けている施設も一杯ある。その中から、そのS病院を選択したにはその患者さんなりの理由があると思う。そして結果的にそれは正解であった訳である。
ところがその「診療案内」を見てみると、脳外科医の数は私の勤務する病院の3名に比し5名と多い。しかし、外来患者数も、入院患者数も、年間手術件数も、私の病院の脳外科より少ないのである。単純に人数当たりで考えると、当然1.7倍の患者数と手術数があっていいことになる。もちろん、立地によって患者の数だけではなく質が違う事は考えられる。たとえば、我が方には脳卒中が多いがS病院は外傷が多いとか、脳腫瘍が中心であるとかといった、「質の違い」があるかもしれない。しかし、私が単純に感じた事は
「東京やその近郊の大病院の脳外科は、マンパワーがあるんだな〜」
ということである。翻って、我々と同様の地方の、あえて言うなら「田舎」の脳外科はギリギリのマンパワーで頑張っていると言えるのではないだろうか。
ーー
日本医師会の会報の中かどこかに、どこぞの議員様が「医療費の高騰の一因は、医師の過剰にあるのでは?」と宣ったということが取り上げられ、「こういった誤った認識を改める必要がある」というような事が書かれていた。
もしかすると、都会の一部の病院の一部の診療科には医師が過剰であるかも知れない。しかし、都会、地方に限らず小児科医や産科医の減少が危惧されているし、我々日本の脳外科医は、世界的に見て人口比で言うと世界一多いのであるが、その仕事の内容からして(海外では内科医が診ている脳卒中や家庭医が見ている頭痛患者や救急医が診ている外傷を全て診ていること)決して過剰どころか充足すらしていない、というのが現場の事実なのである。更に、都会と田舎を比べると、上記の事例のように田舎の脳外科医の数は不足の傾向にあると言わざるを得ない。
しかし、人は名前の印象で判断する事が少なくない。多分、東京の有名なS病院の脳外科の診療技術や内容は、私の勤務する田舎の、「妹がそれ程大きくないと思った」病院より格段に高く優れている、という風に一般の人は判断されるであろう。別に優劣を競うつもりはない。数の大小だけでも比較が難しい事は、前記の通りである。しかし、あえて書くけれど、我々の診療技術や内容が決して劣っているとか遅れているとは全く思わない。物によっては、日本国内の平均水準よりずっと高い診療技術を提供できると自負している(第三者の評価ではないので、勝手にほざいているだけと思われても仕方ないが)。
うちの教授がかねてから言っているように、「病気にニューヨークの病気も東京の病気もない。患者にボストンの
患者も、千葉の患者も山形の患者もない。」のである。病気や患者は、社会的な環境や家庭的な環境などの差異は多々あれど、違いはないのである。だから、東京の病院であろうが、我々のような田舎の病院であろうが、同じ程度の医療サービスを提供する義務が我々にはあり、それを目指して日々努力しているつもりである。
診療報酬に、地域差を考慮に入れて格差をつけるという動きもあるやに聞いているが、全くナンセンスだと思う。だけど、人は「名」に惑わされる。

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コメント

診療報酬に地域差というのがどいうことなのかよくわからないのですが、別の事では差をつけてもいいと思います。それはbalaineさんもよくここに書かれているような事です。
というか差をつけるべきだと思います。それがないと、我々患者は、へんな情報に迷わされることがあるからです。

それにしても私は、「名」に惑わされないで、まず近くに行って良かった(^∇^)

投稿: @むーむー | 2005.10.25 22:24

確かに、私も田舎では何かにつけて
「都会=優れている」というイメージを持つことがしばしばありました。
でも、そんな田舎にもbalaine先生のような腕のよい先生がいらっしゃるということ、嬉しく思います。

でも、休憩室によその病院の案内を置いているなんて、器が大きいですね。

投稿: 葉子@田舎者 | 2005.10.25 22:44

@むーむーさん、私も良く知らないのですが、確か一度新聞にも出ました。公務員や会社勤めの給与は、最大で20%の地域較差があるそうです。そういったことも含めた「格差」なのか、診療技術や内容を対象にした「格差」なのかわかりません。
確かに「ガン診療」などでは地域格差があるようで、地域の拠点病院を作ってそこで集中的に治療を行う方向性が示唆されているようですが、脳卒中などはなかなかセンター化できない疾病です。交通網や連絡網を十分整備して始めなければ、センター化=僻地の切り捨て、になりかねません。私の病院の診療圏でも、普段服薬している薬を家族にとりに行ってもらうと往復1時間から2時間かかる人までいるのです。
「地域較差」をつけるなら田舎でアクセスの悪いところで診療を受ける患者を守るのはもちろんのことですが、そういう田舎で高い技術と志を持って診療にあたる医療従事者の士気があがるように、むしろ地方の診療報酬を高くしてもらいたいくらいです。

葉子さん、こちらでははじめまして?ですよね。いらっしゃいませ。
私の九州の親戚などは、秋田と山形のどっちが北にあるのかはっきりわからなかったくらいですから、聞いた事もない田舎の知らない病院に脳外科があってもそこにいる医者はどんなレベルなの?というのが普通の受け取り方でしょうね。悔しいですが。
我々医師は、「医療」とか「社会」という大きな事を忘れてはなりませんが、でも目の前にいる患者さんを診ることが最も優先されることですから、いつもこんな事を考えている訳ではありませんよ。すぐに忘れてしまう事です。

投稿: balaine | 2005.10.26 13:26

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