2週間の動向
新任地に来て明日で2週間になる。
その間、世の中は3連休があったり、脳外科界では総会があったりであった。
患者さんはそういう事には関係なく発生してしまう。
満床で50ベッドの脳外科であるが、今現在58名入院中。その内9名は、ICU3名、HCU6名。単純計算で単科としての稼働率116%である。
この2週間で手術4件と普通のペースではある。
昨日は破裂内頚動脈瘤によるくも膜下出血のオペだった。朝7時に発症してすぐに救急搬入され8時半には入院したのだが、予定手術が立て込んでいて麻酔科医が都合付かず(前任地より麻酔科医が一人少ない)、手術は結局夜の8時過ぎになって始まった。お陰で帰宅したのは夜中の2時である。
麻酔科医がもう一人いて、手術場の都合さえ付けば午後に手術して夜7時には帰宅できたはずである。
緊急手術の時間は、患者さんの状態が最も優先されるが、余裕があるならばこういった理由で待たされる(くも膜下出血よりも緊急性の高い手術があるのである。たとえば急性汎腹膜炎など)。
この2週間に緊急入院した脳外科の患者さんは、21名である。一日平均1.5人入院している事になる。そのほとんどが脳卒中、しかも70才、80才という高齢者の脳梗塞が中心である。次いで多いのは60〜80才の脳出血、そして外傷である。くも膜下出血は2週間で3名、うち2名は手術をし、1名は脳底動脈先端部破裂脳動脈瘤であったため、来週手術予定で待機している。
脳外科医3名でてんてこ舞いしているが、転任したばかりの私に取っては、システムに慣れていない、人がわからない、場所がわからない、そして一番困るのが電子カルテがわからない。
患者さんでもカルテ(紙の)でもMRIなどのフィルムでも看護師さんでもなく、パソコンとにらめっこしている時間が一番多いような気がする。
はっきり言って「うんざり」する。嫌になる。
たとえばある患者さんに降圧剤を追加しようかと考えた場合、紙のカルテを見ても現在内服している薬や最近の血圧がわからない。担当の看護師さんを捜そうとしても病棟のどこにいるか、いないのかわからない(リハビリや検査に患者さんを連れて行っていたり不在の事も多い)。そこで電子カルテを見る。経過表を開く。血圧を確認する。これまでのオーダーをみる。内服中の薬を確認する。
組み合わせの良さそうな降圧剤を考える。処方画面を開く。薬の名前を打ち込む。容量を打ち込む。用法を打ち込む。日数を打ち込む。あっと、オーダー日は「今日」だが、処方日は「明日」だ。カレンダーで日にちを指定する。オーダーをチェックする。患者画面を終了して「カルテ保存」をする。
おや?アラームが出た。なになに、同日に同じ処方があります?
もう一度オーダーを確認する。先ほど見たのは、入院から今日までのオーダーだった。明日以降(未来)のオーダーは確認していなかった。あ!別の医師が既に降圧剤の追加をしている。なんだ、同じ事考えていたのか。コミュニケーションが悪い?だって別の医師は外来中だし。。。
結局、先ほど入力したオーダーを削除して終了する。
たった一個の薬を処方するにもこれである。
確かに間違いは減るかも知れない。手書きよりも正確であろう。請求漏れもなくなる。しかし、何か忘れていないか?医療は、医者などの医療職が患者さんに行う、人間と人間の間の行為なんだけど。そこには全く人間味が感じられない。
そうやって50名以上の患者のデータをチェックしたり画面で画像を確認したり、薬を出したり、点滴を出したり、「事後入力」(予測指示に従って発熱時に使った解熱の座薬などを看護師の報告に従い後から使った分だけ入力するような事)をしたり、処方などのオーダーの間違いを訂正したり、入院計画書を画面で書いたり退院証明書を画面で書いたり、他科への紹介状を画面で書いたりしていると、「俺は一日中コンピュータに向かって何をしてるんだろう?」という気になってくる。
ーー
まあ、電子カルテ、コンピュータの扱いに慣れればそういうネガティブな気分も少しは改善するかもね。いけない、いけない、文句は言わず「見ざる、聞かざる、言わざる」で行くんだった。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
電子カルテといえば、以前こんなことがありました。
風邪を引いて近くに開院したばかりのクリニックに行くことにしました。
診察室に入って「!」 Dr.の机にパソコンが...
「さすがに最新式なのね」と思ったのも束の間、矢継ぎ早に問診され、その内容が目の前で入力されていきます。
Dr.は早口なだけでなくキー入力も速い。おまけにミスタッチも多いので、打ち直しが多い。
はらはらしながらせわしない診察となりました。
たかが風邪かもしれないけれど、Dr.は私の顔色(症状)を見たかしらと...ちょっと不安になりました。
悪筆なDr.も多いので、電子カルテは誰でも読めて良いのでしょうが、初見の患者は丁寧に診て頂きたいわと思ったのでした。
投稿: ムンテラ | 2005.10.13 22:10
電子カルテですか~。
「慣れれば便利だが、その過程が大変」という話はよく聞きますよね。
僕もクリニカルクラークシップで電子カルテの病院でIDをもらったんですけど、単純X線の見方がわからなくて困りました。ええいめんどくさい!とフィルムを持って病棟のシャーカステンまで走りましたけど。
投稿: ユウ@来年研修医 | 2005.10.14 22:02
この問題の根底には医療関係者とSE(システムエンジニア)の連絡不足があると言われています。
というか現場を見に来るSEなんて聞いたことも無い。彼ら自身はこの操作性の低さを感じないのでしょうか?現場を見ないからこんな製品を作って恥ずかしくも無いのだろうとしか思えません。
電子カルテの利点は幻想に過ぎない、というのが私の率直な感想です。動揺の意見は日本中から出てます。
投稿: いのげ | 2005.10.16 01:22
ムンテラさん、ユウさん、いのげさん、コメントありがとうございます。
電子カルテは所詮事務・会計のためのものであり、患者や医師のためにあるものではないと諦めが半分、「しかし、何とかならんのか」と怒りが半分です。こんな物に何億円もかけやがって。。。
世の中は、「ペーパーレス、フィルムレス」に向かっています。コンピュータ関係の仕事をしている私の友人にきくと、「電子カルテ」は企業にとっても今のところはあまりうまみのないお仕事のようです。開発に手間と時間がかかり、大病院であればある程カスタマイズが難しく、クレームばかり付いてでも飛ぶように売れる商品ではなく、早くて5年に一回しか更新されない。
大きな問題は、Man-Machine-Interfaceだと私は思います。「音声認識」、「手書き文字認識」が実用に堪えるような物になれば、従来のように「患者さんの顔を見ながら会話をして」「手書きでカルテを書くように筆記記録し」たものが、そのままコンピュータに取り込まれ記録され処理される、という形にならないと、ストレスだらけです。
電子カルテの利点をあえて上げるとすれば、データがサーバーにあるので、検索して取り出しいろいろな形で使える(例えば、くも膜下出血の患者がすぐにリストアップされ、その画像がすぐに見れる)ということでしょうか。。。。
え〜と、「音ブログ」再開してみました。。。v(^^
投稿: balaine | 2005.10.16 11:58