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2005.10.16

落ち着き、そしていつも通り多忙

転居したアパートはまだ空けていない段ボールだらけで、段ボールの間を通り抜け段ボールに囲まれ生活しているような感じである。テレビとHDD/DVDだけはセットした。まだ一度も調理はしていない(電子レンジでチンはしたけど)。
病院の方も各部門の場所はようやく把握した(つもり)。電子カルテの使い方もかなり覚えた。少し「落ち着き」を取り戻した感じ。そこで「音ブログ」を再開してみた。
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昨日は、うちの大学の医学部が「21世紀COEプログラム」に選ばれていて(2年前から)そのシンポジウムが開催された。COE=Center of Excellenceとは、教育や研究においてユニークで優れた施設を世界的に通用するセンター(拠点)として支援するための国家的プロジェクトである。早い話しがお金、何億という助成金がもらえる。しかし、国民の血税を使って研究を進める以上、それを世間に公表し世の中に還元する義務がある。
昨日のシンポジウムはその一環であった。医学部長から頼まれて、私は一人で同時通訳を行った。
 医学部長と来賓の著明な医学博士、そして海外からの招待演者2名が英語で喋るので、それを参会者に英→日同時通訳をするよう命令された。医師はたいてい英語のhearingくらいはできる。自分の専門分野ならスライド見ながら英語を聞けばほとんど理解できる。昨日のシンポジウムは医学部を挙げて行ったため、検査技師、看護師などのパラメディカルも多く、医学部学生も参加した。彼らのために英→日の通訳を行ったのだ。
 脳神経外科学会の同時通訳団としては、通常、日→英の通訳がほとんどである。学会に参加している海外からの脳外科医に、日本人の日本語による発表を通訳してdiscussionを援助する訳である。しかし、英→日同時通訳はほとんど行わない。私は日本人だから、生まれてこのかた日本語の中で生活して来た。するとretentionと言って、発表者が喋っている言葉を短時間の間、脳の中に保持しておく事が日本語の場合は簡単である。通訳というのは、特に日本語の場合、肯定文なのか否定文なのか、最後まで聞かないとわからない事が多い。発表者は通訳を待って喋ってくれないのでどんどん先に進んでしまう。一つの文を聞き終わってから通訳し始めると、その時には次の話しをしている。だけど、単語をいちいち置き換えるだけでは通訳(translateではなくinterpretという)にはならない。だからある程度の言葉の塊を頭の中に保持しながら、どう通訳して行くかを考えて言葉を発しないといけない。最後の最後になって、否定文である事がわかった場合、既に通訳を始めていると、英語の場合は文の最初の方に、動詞やbe動詞が出てくるので、既に肯定文で話し始めている場合、そのことを全否定しなければならない。いずれにしろ、ある程度の話しを脳の中に溜めておきながら(retention)通訳をして行く訳である。
これが英→日では難しいのだ。英語は母国語でないから、ある程度の塊をretentionすることが大変になる。今、発表者が口から出したばかりの言葉について行くのが精一杯になるのだ。複雑な数字や、聞き慣れない専門用語が出て来たらもうアウト!たとえば、two hundred & fifty milion peopleという言葉を聞き取って、その人数がどうした、ということを予測しながら聞いて、「毎年世界中で発症している」などという文になった時に、すぐに「2億5千万人の人が」というのが難しかったりするのである。日本人だから数の表現法が違う。「two hundred & fifty」と聞くと、その瞬間には「250」と頭の中で翻訳してしまう。次に喋っている事を聞きながら通訳を始めると、うっかり「250人が、、、」と言い始めて、(あ、違う違う!milionだった!)と思い、「250万人が」という風に間違ってしまう。そして一つの文を通訳した後に、(あ、milionは百万だ!)と気づき、「2億5千万人の患者が」とようやく言い直す。しかし、その時には次の事を喋っているから、そんなアタフタしながらも次に喋っている言葉をちゃんと聞いておいて、また脳の中にretentionしておかなければならない。アタフタが2個程続くと、2つの文章ぐらいはもう付いて行けなくなって、通訳はできなくなる。その時は、知らん顔してすっ飛ばすか、スライド見ながら(さっき、ここをポインターで指してたな)と考えてそこの事を簡潔に説明して、「今」発表者が喋っている事に必死で追いつく努力をする訳である。
そんな訳で、英→日の方が難しいのである。しかも、昨日の21世紀COEシンポジウムでは、挨拶のお二方のは問題なかったが、海外招待者が、一人は内科医で講演の内容は「C型肝炎ウィルスの分子生物学」というようなお話し、もう一人は病理学者で「パーキンソン病とレヴィ小体病の分子生物学」というようなお話し。
簡単にいえば、遺伝子とかレセプターとか免疫とかそういうお話しであった。脳外科の事ならまだ何とかなるとは思うが、全くの専門外(パーキンソン病は過去のsubspecialtyではあるが)のしかも英→日通訳。出来はどうだったんだろう。やっている本人は必死だし、助けがなく全く一人で通訳ブースに4時間入ってクタクタであった。疲れて誰とも口をききたくない心境だったので懇親会パーティにも参加せず、お気に入りの蕎麦屋で板蕎麦を手繰って早々に家(マンションの方)に帰り、のんびりした。
こんな時にもフルートを吹くと、精神の疲れ(脳が燃え尽きて真っ白になってしまったような感触)が癒される。音楽をやっていて本当に良かったと思う瞬間である。

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コメント

英→日の通訳のお話は面白かった。
脳外の先生は器用なせいか、患者と喋りながら紹介状などをすらすら書いてしまうのを以前見て、感心したことがありましたが、balaine先生もこうした文章に高度な頭の回転を感じます。
それなのに、通訳でこんなご苦労をされたんですね。お疲れ様でした。それにしても4時間は普通の通訳としては異例の長さですよね。

投稿: 侘び助 | 2005.10.16 20:43

侘び助さん、お久しぶりです。
書き方が悪かったですね。「4時間」通訳ブースの中に缶詰でしたが、実際に通訳を行ったのは2つのスピーチと2つの講演で2時間弱です。あとは、医学部の研究者(日本人)が日本語で発表したので、その間は私はただ聞いているか、抄録を見ながら外人演者の発表に出てきそうな用語の「傾向と対策」を『泥縄』でやっていたんです。
でも一人で2時間弱も長いです。。。。(;;)

投稿: balaine | 2005.10.17 00:05

こんばんは、おかえりなさい♪
いつもの先生の姿がおめみえになってほっとしました^^;
いいですね~音楽って、さっそく私も
残業中に癒してもらってます♪

投稿: 則香 | 2005.10.18 19:08

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