診断書を書き変えろ?!
日本には「医師法」という、医師の身分と業務を規定した法律がある。故手塚治虫氏の名作『ブラックジャック』はこの医師法に背いて「無資格」で高度な技術の医療行為を「違法」ながらも行った架空の漫画の世界のことであった。
さて、先日、外来に「自分の家族の診断書の内容について不満があるので書き直して欲しい」という方が来られた。私は最初訳がわからずに、外来ナースに案内されたこの人の話しを聞いていたが、その人が言うには私が診断書に書いた内容「元々痴呆が強い」ということが不満であったらしい。転倒して受傷した事に対する「災害保険」を受け取れないのではないか、と心配になって相談に来たという事であった。
まず病院の受付事務、文書係、ナースの対応に腹が立った。下記のように医師の書く診断書は「公文書」である。虚偽の記載をすると「公文書偽造」という罪に問われるものである。それを家族が「保険が降りないかも知れないので書き直して欲しい」と記載した医師に依頼に来るなどというのは言語道断の事と考える。それを防げなかった病院の文書係や事務には注意を与えた。
『●虚偽の文書作成 (間違いとは別、遺族等の頼みで行う→必ず第3者に不利益を与える)
→責任:職責により重さが異なる (公務員は重い)
公文書偽造は刑法第157条の適用→罰則あり
私文書偽造は罰則なし (詐欺や公務所に提出するものは別:刑法第160条)
死亡診断書 (死体検案書) は公務所に提出する私文書。』
正式には、医師の診断書を保険会社に提出した後に、もしその記載内容が原因で保険が下おりないような事があった場合は、その内容が正しいのかどうか、誤った記載がないのかを本人か代理人が保険会社に相談し、保険会社の方から記載した医師に対して「公的に問い合わせ(文書で行う)」というのが筋である。これは公的病院ではほとんどの場合、事務(文書係など)が対応する。前にも書いたが「診断書料」というのは自由診療枠であり、その値段は簡単に言うと勝手に決めていい。そして記載した医師がその料金を受け取るのが本来の姿である。ところが、公立病院などでは公に「ここの診断書料はいくら」と公示しており、更に診断書料はすべて病院の収益となり医師の懐には一銭も入らない仕組みになっている。それにもかかわらずこの対応である。
更に、患者の家族というのは通常代理人と見なしうるが、法的に代理人とするためにはそれなりの手続きや文書が必要であるのに、この「依頼」に来た家族という人は家族である証拠も提示しなければましてや「患者の代理人」である証明もなかった。もし私が「人が良くて」この「依頼」に対して、「ああ、わかりました。じゃ、ここ書き直しましょうね」なんていう対応をしていたら、公文書偽造になるかもしれないのである。おそらく、患者の家族であった事は事実だと思う。しかし、たとえばこれが他者がかかわる事故などであった場合、「その筋」の方とか厄介な人が出て来て「書き直して欲しい」とか「これこれこういう風に書き換えろ」などという「依頼」にそのまま応じていては大変な事になりうる。
その人は、私が腹をたてた事に対して大変憤慨し不満に思い病院の対応窓口に相談したらしい。そのクレームが今日私のところに回って来た。確かに私の対応の「仕方」にも問題はあったろうが、元々外来(患者さんを診療する事が目的)の医師に対して、診断書の事で相談することによってその診療時間を奪ってしまう行為を許してしまった事務、受付や外来ナースに対しても私は毅然と注意を与えた。きっといろんな部署から私の対応を良く思われていないだろう。 しかし、あなたたち、公的な仕事に対する認識が甘いよ!
(本日の音ブロは「As Time Goes By」です。)
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コメント
そうだ、そうだ!!信用がなくなってしまいます。そう簡単に書き直しができてしまうほど、いいかげんならば。公文書がどういうものかということが、根本的にわかってないですね。
別の話ですが、私の夫が8年前に右足首複雑骨折した時、保険の診断書をお願いした時に、医師の方から「期間どれくらいにしますか?」と聞かれて、私は「はぁ?」とわけがわかりませんでした。だって、それは家族が決める事では、、、と。それは長ければ長い方が保険金はたくさん出ますけどね~(笑)
投稿: @むーむー | 2005.09.01 22:46
そ、そんなことが……。
医療関係者に対して、皆して文句言うわりに、ちゃんとした知識は持ってない人が多いっていうのが俺の印象です。
風当たり、強いですよね……。
投稿: Willway | 2005.09.02 07:31