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2005.08.31

他山の医師(石)

『医師、手術中に患者殴り停職3カ月 「痛い」と言われ』
(またAsahi.comより引用http://www.asahi.com/health/news/OSK200508300069.html)

テレビや新聞のニュースが本当に真実をきちんと伝えているのかは、我々は冷静に判断する必要がある。この記事は比較的に客観的な書き方をされていると思うが、時には記者やデスクの主観が散りばめられたニュースもあるから要注意である。
記事からすると、患者や患者の家族が訴えたのではなく、手術室のナースからの訴えで発覚した事のようであるし普段から問題があった医師のような書かれ方をしている。これも事実の確認はできないのでニュースの内容を信じるしかないのだが、どうも内部から告発されるような感じの医師であったのだろう。
 私も、患者さんには極力優しく言葉をかけ接するように心がけてはいるものの、まだまだ人間が未熟で些細な事でカッとしたりムッとしたりしてそれが言葉や態度に出る事がある。さすがに「殴り」はしないものの、局所麻酔の手術中に患者を強い力で押さえつけたり軽く叩いたりした事はある(そもそも、脳外科医というのは、患者の意識を判定するためとはいえ、患者の手足をつねったり爪を強く圧迫したり顔を軽くピシャピシャと叩いたりはするのであるが)。
手術中の医師が頭を殴れる、という状況を想像すると脳外科医である恐れが出てくる。消毒して手袋をした手で、未消毒の部分を触れば「不潔行為」なので手袋を外しもう一度「手洗い」をやり直す必要がある。局所麻酔の手術というと整形外科が一番多いかも知れないが、手袋をした手で頭を叩くことはないだろう。慢性硬膜下血腫の手術ならば頭部を消毒しdrapingといって清潔な布(最近は使い捨ての紙製敷布)で覆ってあるから、その部分なら「手洗い」をして手袋をつけた手で触っても不潔にならない。
鎮痛が不十分のためか手術中に動き出した患者さんを、手術中の医師は頭を、回りのナースは身体や手足をおさえてベッドから転落しないように患者を守るのである。局所麻酔だけでは頭皮を切開したりすると鎮痛が不十分で患者が騒ぐ事がある。特に高齢で慢性硬膜下血腫があると意識障害や認知症があって、こちらの言う事に全く従わずコントロール出来ない患者さんが少なからずいる。想像するに、このケースもそうであった可能性がある。鎮痛剤や鎮静剤は静脈ルートから、患者さんの状態(呼びかけへの反応とか動きとか血圧とか)を見ながら投与し、頭皮に局所麻酔薬をうって、執刀開始時には患者がトロンとして動かないようにしておかなくてはならない。ただ、「90代」ということは99才かも知れない訳ではあるから、そのような超高齢者に鎮静剤や鎮痛剤をうつと呼吸が抑制されたり時には止まってしまう事もあるので控えめに投与するのが常である。このケースでは、そうやっておとなしく寝ていたと思った患者さんが皮膚を切開したとたん、「イテェ」と騒ぎだし起き上がろうとしたが、医師は鎮静剤を打ったばかりだったので呼吸抑制を懸念してすぐには薬を追加せず、4cm程の小切開が終われば痛みも和らぐのでそれまでの間、暴れないように押さえつけようとして、それでも動いたので殴ったしまったという展開が推測できる。ま、ニュース記事からのあくまでも「推測」です。
 私は、なにも同業者としてこのニュースソースの医師をかばおうとしているのではない。どのような状況であれ、医師が患者に暴力を振るったりする事はあってはならない。たま〜に、患者が危険人物で暴力的であるため数を頼みに押さえつけたりその過程で少々暴力的に「確保」し、鎮静剤をうっておとなしくなるまでしばりつけたりするというような、一見非人道的なこともあるがこれは患者を守るためである。そうであっても暴力は肯定できない。しかも内部告発を受けるような医師なので普段の行いが良くなかったのだろう(この辺も耳が痛い)。
よって、「もって他山の石」とすべき医師である。普通にやっていれば何も問題はないのだが、内部から告発されたりする事のないように気をつけよう。
(今日の音ブロは「Moon River」です。)

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コメント

僕の住んでいる県の病院なので
結構ショッキングなニュースでした。

実際のところは本当に殴ったのかどうかわからないですよね。
頭をおさえつけようとしたら殴打に近い衝撃に
転化してしまったのかもしれないし・・・

斯く言う僕もかばうワケではありませんが、
一般の方々には停職3ヶ月というのは
短いという印象を与えるのではないかと思います。

投稿: ユウ@来年研修医 | 2005.08.31 19:09

ユウさん、お久!ですね。夏休み終わりですか?琵琶湖、綺麗ですね。
脳外科学会の同時通訳団の研修会で大津プリンスに行った事があります。
さて、このニュース、嫌ですね〜。この医師は悪い。でも医師が悪い事すると新聞はすぐにニュースにしますね。企業やもっと大きな組織でもっと悪い事している人も一杯いるのにね。
3ヶ月。短いかな?基本的にはこの医師は患者を守りたかったんだと思いますよ。大事なのは普段の行動だと思います。つくづくナースは敵にしてはいけませんね〜。

投稿: balaine | 2005.08.31 19:30

私も今朝、毎日新聞で読んで、ブログに書こうかと思ってました。でも何を書こうかって、見当はずれになってしまうんですよね。その業界を知らない人(私のような)は、ただ面白い話題として、とりあげるだけになってしまいますから、やめてよかった。こちらにきて読んで、よかったです。

投稿: @むーむー | 2005.09.01 00:38

俺は何も考えずに記事にしちゃいました。
内部告発されるような医師にはなりたくないですが、とはいえ「隠す病院」「かばい合う体質」ってのも嫌いです。
実際どんくらい殴ったんでしょうね?
気になりますね。

投稿: Willway | 2005.09.01 16:44

いやー先生、やっとここまで読み進みましたよ。
ちょっと休憩。
音楽から医学、社会問題から歴史。
まあ豊富な内容ですね。 驚きです。
しばらく退屈しない毎日が送れそうです。

昔、肺塞栓のおばあさんが入院。血管外科の先生に相談したところ、
大腿部の静脈に血栓があるので,結紮しなければいけないということで、局麻でのオペになりました。
オペの最中の話です。

外科の先生
おばあさーん 痛かったらいってねー!
我慢したらいけんよー

おばあさん
痛い!痛い!痛い!


外科の先生方 声をそろえて
はーい 我慢してー!

しばしして

外科の先生
おばあさーん 痛かったら言ってねー
我慢せずにねー。

おばあさん
痛い!痛い!痛い!

外科の先生方
はいー! ちょっと我慢してー!

しばしして、、、、、

 と延々この光景が繰り返されました。
おかしいけど、 私が患者だったら医者を殴っちゃいますね。

さて、続きを読ませてもらいます。

投稿: ヨッシー | 2005.11.30 12:00

こんな古い記事にどなたかレスをつけて下さったのかと思いました。
ヨッシー様、御苦労様です!真面目に読んで来て下さったのですね。
この後、衝撃の事実が明らかに、、、かな?
読んでからのお楽しみということで。
今後もよろしくお願い致します。

投稿: balaine | 2005.11.30 17:42

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