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2005.08.11

診療単価

 病院の経営改善委員会に出席した。病院の赤字を減らし無駄を削減して健全な経営を行う事は、そこに勤める我々職員だけでなくそこで診療を受ける患者さんやその家族にとっても大事な事である。しかし、綺麗ごとを言ってみても要するに「儲けるように努力せよ!」ということになる。
 脳外科は、H15年度からH16年度にかけて、入院部門も外来部門も「診療単価」は上昇している。つまり「稼ぎが減っていない」ということになる。医療費削減で、注射も内服薬も検査も安くなり、手術料もより高度な手術を行うようになっても手術名が同じなら診療報酬は同じであり、最近の傾向としては値上がりを抑えられているというよりは減少させられているのである。デフレ傾向はこんなところにもみられる。
 そのような状況で「診療単価」、すなわち一人の患者さん当りから得る診療収入を増やすのは容易ではない。検査を増やし投薬を増やし手術を増やし短期間で回転する患者さんを増やすと「診療単価」はあがる。しかし、時代は「出来高払い制度」から「包括医療制度」に移りつつあるのである。こうなるといよいよ「金にならない患者さん」を長々と入院させておけばおく程、病院の損益に繋がる。公立病院だって「上」の方から覚え目出度くなく、「○○病院は赤字だ」「経営が悪い」「予算を減らす」などという脅しではなく本当のことが起こってくる。現実に、我々医師が時間外(夜間や休日)に働いた事に対する手当は予算に上限が作られ、酷いときは50%もカットされている。100時間の時間外労働をしたとして、「50時間しか時間外労働をしていない」という風に事務の方で書き換えられてしまうのである(これはなんだろう、公文書偽造とか労働基準法違反とかにならないのだろうか?)
 我々脳神経外科医の本来の仕事は、外傷、脳卒中などの緊急患者さんの診察、加療、必要に応じて手術、脳腫瘍患者さんの診療、手術、そして周術期管理である。慢性期の患者さんは、本来内科医が診るべき状態である。なぜなら、高血圧の薬、高脂血症の薬、頭痛薬を投与して年に一回くらいCTを撮ったりしているだけであるから、外来で必ずしも「脳神経外科専門医」がいつも見ている必要はない。積極的に、開業医など地元にかかりつけ医をつくりそこに患者さんを紹介して普段の診療をして頂くのが望ましい。慢性期の患者さんが減った分だけ、急性期の患者さんの診療に日夜奮闘すればいいはずである。しかし、実態は、外来では「降圧剤」だけ服薬している超慢性期(発症から7年とか)の脳出血患者や、頭痛持ちで鎮痛剤がやめられない患者が多い。入院患者も半分以上は脳卒中の慢性期で、リハビリをしているのが入院の主な理由である人や、寝たきり状態で転院する病院、施設のベッドが空くのを待っているだけの方も相当いるのである。こういう方は、「診療単価」は低い。すでに慢性期で安定しているのだから、そんなにしょっちゅう血液検査やCT/MRIなども必要ない。入院期間が長くなればなるほど、入院費も安くなる仕組みになっている。だから家族を呼んで、積極的に転院を勧める。自宅に帰れる見込みの高い人はそれでいいのであるが、帰る見込みの低い人がたくさんいる。主な理由は、脳卒中によるマヒが強くてまだまだ3ヶ月から半年くらいの入院リハビリが必要である事、食事がとれず経管栄養で胃管を挿入していたり内科的に胃ろうを増設して流動食を投与している事、などである。
 急性期病院として認められるためには、病床稼働率といってどれだけ有効にベッドを「埋めているか」、平均在院日数といってどれだけ短期で「退院させているか」にある基準が合ってそれをクリアする事を求められる。そして「診療単価」を上げるためには、簡単に言えば「診療単価」の低い患者さんをさっさと退院させる事である。言葉が悪いが、「急性期病院」としての役割分担に徹する事である。
 ところがこれがなかなか実現できない。主な原因は、「後方病院、施設」の不足である。移る病院や施設がないのだ。あっても遠かったりして家族が敬遠する。リハビリを行える施設が限られている。療養型病床でも「3ヶ月待ち」は当たり前。特老になると「123人待ち」などと言われていつになったら空くのやら見当もつかない。これでは、慢性期、超慢性期の入院患者さんを減らしたくても減らせない。本来の脳神経外科医の急性期疾患への昼夜を問わぬ診療以外に、大事な仕事ではあるけれども「役割が違うんじゃないの?」という仕事をせざるを得ないのが現実。
 いつぞやの「脳ドック廃止論」者に、「欧米の脳外科医を見習って日本の脳外科医も本来の脳外科医の仕事をすればいいのだ!」と決めつけられても、日本の保健診療の歪みと現実に慢性期医療従事者とそのベッドの不足が原因なのだから、我々の力ではどうにもならない。政治、保健診療のあり方、税制、そういった事から改革しなくては実現できない事なのだ。そして、慢性期の患者さんを脳外科医が診ているからこそ救われている命も少なくない事を最後に言っておきたい。
 「経営感覚」は医者にも必要である。しかし「経営を改善する」事を念頭に働くのは本末転倒なのだ。そういう事は経営コンサルタントなどの専門家がやるべき仕事ではないのか?会議に出ていて虚しい思いを腹の底に沈めなければならない自分が悲しかった。

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コメント

はぁ~なるほど。。音ブログのほうのコメントに書いた慢性硬膜下血腫の方はもう10年目くらいで落ち着いているので、それで近く個人病院に移ったんだ、、、もとの大学病院のDrとはいつでも連絡取れると言ってました。病院には、症状が安定して、投薬だけの患者さんは近くの病院を紹介しますという張り紙がしてあります。あの患者も、この患者もいっしょでは、本当に必要な治療が施せませんよね。

投稿: @むーむー | 2005.08.11 23:07

@むーむーさん、コメントありがとうございます。
病院の役割分担、機能分担という言葉が言われ始めて久しいのですが、保険制度が変わらないので話しが進まないのです。
だって、大学病院にかかったって県立病院にかかったって個人開業医にかかったって、同じ病名で同じ薬なら同じ料金なんですよ、日本のシステムは。
患者さんは患者さんで「同じなら大きい病院の方が安心だ」「設備が整っている方がいい」という、治療内容ではなく気分の問題で選択するのです。これが料金の差が出たら変わるでしょう。
たとえば、高血圧の治療のみを受けている慢性期の脳出血の患者さんが、大学病院の外来に通院すると一回約5000円かかって、県立病院だと3000円かかって個人開業医だと1500円だったら、皆さんはどこに通いますか?

投稿: balaine | 2005.08.12 11:00

私の住んでいる地域は、昔からの人口密集地なので、いろんな科の個人医院が多い。先生が高齢で引退すると、他の医師がやってきてそこで、名前を変えて○○医院となり、どこも繁盛しているように思います。
ですから、大学病院へは、直接行く人は少なくて、個人医院から紹介されて大学病院へ行く人が多いと思います。
大学病院は、症状が落ち着いたら、慢性ですから近所の医院へどうぞとは勧めないのですか?
患者の側から見ると、慢性であれば通いやすい個人医院の方がいいかと思うのですが。

投稿: 侘び助 | 2005.08.12 12:02

やはりそうですよね。おなじ料金ならば、なるべくよさそうなところでと考えますから。この「おなじ料金」がいけない。これをいうと長くなりますが、話が進まないのは自民党と日本医師会の癒着でしょうね。郵政民営化がさっさと進まないのも、陰のへんな人物がいるし、、、あーぁ  それより、医療改革の方がとっても大変で大切な事なのに、消費者(患者)の方がおオバカで勘違いしてる人もいっぱいです。

投稿: @むーむー | 2005.08.12 12:11

侘び助さん、「人口密集地域」と「田舎」では議論がかみ合いません。近くに適当な個人開業医もいないのです。市などで運営する無料巡回バスなどを使ってくる人も結構います。開業医まで車で行くくらいなら「こっち」に来たいという人もいます。庄内地方(2市、10町、1村)で人口30万人(位のはず)ですから、急性期型病院はそんなに必要なく、高齢者が多いので寝たきり率が高くなりますから、それにあった施設がもっと必要です。
ちなみに、庄内地方では車は「一家に一台」ではなく「一人に一台」です。一軒の家に4台も(そのうち3台は軽のことが多い)車がある家だってあります。

@むーむーさん、どうしたらいいんでしょうね〜。そのうち、全国の医師が「緊急患者以外は診ない」と2、3日くらいストをやったらどうなるでしょうね?

投稿: balaine | 2005.08.12 13:03

、「人口密集地域」と「田舎」では議論がかみ合いません
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たしかに仰るとおりで失礼しました。
ただ、医療費のことは単純に簡単に割り切って議論はできませんよね。今の制度にも、良い面があるはずです。なにしろヒラリークリントンが一生懸命日本の制度を研究して、アメリカに取り入れたいと思っていたことがあったんだし。
昨年からの研修医制度の改革も、よりよい医
療への1歩になるでしょうし、一面だけを見ての議論は浅薄になる気がします。でも、現場の医師の声がもっと反映されるといいなと思いますが。
システムに社会が追いついていかないのが、いろんな場で起きている気がします。

投稿: 侘び助 | 2005.08.12 17:54

侘び助さん、レスありがとうございます。
そうなんです。現行のシステムにも良い点はもちろんあるんです。きわめて社会主義的な制度ですから。ただそのヒラリー・クリントンが日本のシステムを研究した結果、なんと言ったかご存知ですか?
「日本のお医者さんはまるで『聖職者』のような自己犠牲の精神で働いている事に感銘を受けた」と言ったのです。米国の医師が金の亡者とは思いませんが、ビジネスとしてなりたっています。アメリカの医学部の卒業生の中で、優秀で向上心、功名心の高い者程、「移植外科」と「脳外科」を希望するそうです。その理由は、「ステータスが高く収入が良い」からですよ。米国トヨタの車の日本向け宣伝で「脳外科医スティーブ(だったかな?)、レクサスに乗る」とかいうCFがありました。日本人にはピンと来ないCFですよね。日本では「収入がいいから脳外科を目指す」なんて学生は一人もいません。だって働きの割に収入は低いですから。

投稿: balaine | 2005.08.12 18:15

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