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2005.08.12

JCSとGCS

 明日はまた全館日直なので今日は簡潔に。
 意識障害、つまり意識がクリアでない状態の、その「程度」をあらわす方法に、タイトルの2つがある。JCS=Japan Coma Scale、GCS=Glasgow Coma Scaleである。似ているけれど結構違う。
 JCSは「日本脳卒中の外科研究会(現在は学会)」が作成した、最初は「脳外科医による脳外科医のための」意識障害の程度分類であったが、いまや救急隊員や看護師も普通に使っている。別名を「3−3−9度方式」ともいう。これは、患者さんの意識をまず大きく3段階に分ける。I=何もせずにとにかく目を開けている状態;II=何か刺激を加えると目を開けるけれど放っておくと閉眼してしまう状態;III=どんな刺激を加えても目を開けない状態、の3段階にわける。そして、それぞれの段階の中を更に軽症、中等症、重症の3つの段階に分けている。たとえば、II-1というのは、「名前を呼ぶと容易に目を開ける」というような状態。II-2は、「軽く叩くなどの刺激を与えれば目を開けるが声をかけるだけではダメな状態」。II-3は、「強い刺激を与えればようやく目を開けるという状態」。このように、それぞれ、I, II, IIIの中を1, 2, 3と細分化して、3段階を更に3段階に分けた結果、全部で9段階になるので、「3−3−9度」と脳外科医のどなたかがセンスよく名付けたらしい。
点数の付け方としては、I-1とかII-1とかいうよりも、1(=I-1), 2, 3, 10(=II-1), 20, 30, 100, 200, 300という呼び方が多く使われる。
 一方、GCSは英国のGlasgow大学で作られた基準で、英語圏を中心に世界的に使われている(逆にいいうとJCSはとてもわかりやすいが世界的には通用しにくい)。GCSは、1)目をあけているか、2)手足をうごかすか、3)言葉を話すか、の3つの事柄を「自然にできる、または自由にできる」から「全く出来ない」までそれぞれの事柄別に順に4段階、6段階、5段階にわけたものである。よって最高点は4+6+5=15点で、最低点は1+1+1=3点という風にあらわす。JCSよりは統計処理に使いやすいが、たとえばある患者さんのGCSが8点といっても、それが各項目でどのようになっているのか、たとえば3+3+2なのか、2+5+1なのかは、数字を言われただけではわからない。でもテレビドラマ「ER」などで、救急隊員が患者を緊急移送して来た時にERの医師に「患者は40才男性。車にはねられ受傷。血圧は120/80でGCS9点。」などと言っているのを見た事があるかも知れない。頭部外傷などでは、GCSが8点未満の患者さんは重症で予後は不良の事が多いので緊急来院時の点数である程度の重症度、緊急度がわかるのである。
 さて、点数を付けるのいいけれど、そのためには「判断」という作業がいる。これが人によってはきちんとできない訳である。いや、脳外科医の中にもきちんとできない人がいるかもしれない。それくらい意識障害の判定というのは微妙なところがある。たとえば救急隊から急患室に電話が入る。「70才の男性。右マヒがありJCS100です。すぐに搬送します!」と言われれば、かなり重症な脳出血か脳梗塞が来るのだな、とこちらは身構える。ところが来院してみると、患者さんは目を開けている。でもこちらの命令には全く応じない。時に目をつむったりする。これは何かと言うと、左大脳半球が障害されたため、右手足の運動マヒとともに「失語症」が出現している状態である。だから何を言われても反応できないし返事もしない。そういう人が目をつむっていると、「閉眼していて刺激では目を開けず」=JCS 100(=III-1)、というあやまった判断をしてしまうのである。実際は、失語症のために何の言語反応も出来ないだけで、よく観察すると動かせる左手足では合目的的運動をし、目を開けた時には何か訴えかけるような表情をする。そういった場合、意識状態はJCS Iの段階である。しかし、これは救急隊員ばかりではなく、看護師も他科の医師もよく間違える。それは脳外科医のように毎日意識障害のある患者さんを診てトレーニングを積んでいないからである。
 「臨床研修必修化」が始まって2年目であるが、このプログラムの中で「意識障害の判定が出来る」という部分に私は不安と不満を持っている。なぜなら、研修医は脳外科を研修する必要はない。義務ではないから研修しない。しかし、他科の医師に、意識障害の見方を正しく豊富な症例とともに教育できる医師はいないと思うのである。今日はこの辺でやめておく。

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コメント

僕はJCSをとりあえず完璧にしとけと指導医に
言われたことがあったので、とりあえず丸暗記しています。
丸暗記でいけるんかわからへんけど・・・

GCSでも合計点数ではなくて、
E3V4M5って感じで使っているのを目にしたのですが
こういう使い方はどうでしょう?

投稿: ユウ@来年研修医 | 2005.08.12 22:15

ユウさん、コメントありがとうございます。
そうですね、E3V4M5などという風にカルテには記載しますし、外傷チームで患者を診る時にもそういう風に使う事が多いと思います。ただ、慌ただしい救急の現場では「GCS7点」とかいっておいて、その上でverbalが2点とか個別に答えたりもすると思います。
だいたい、たとえばVの判断で、最高点の5点と最低点の1点はいいのですが、その中間の4点(混乱した会話)、3点(発語はあるが会話が成立しない)、2点(意味不明の発語)にキチンと線が引ける訳ではないので、誰が、どういう実力の医療者が診て判断したのかによって簡単に2,3点の差が出ると思うのです。その辺が使いにくいと個人的に思っています。

投稿: balaine | 2005.08.13 13:25

はじめまして、ゆうさんのところから飛んできました。

JCS GCSともに、暗記しろ、と僕も言われました。 救急のプレゼンでは、これこれこういう患者さんの状態であるから、何点、と所見をつけないと叱られましたね(;。;
慌ててしまって、落ち着いた観察ができなかったんだと思います。

ぜんぜん関係ないですが、金管専門なのですが、最近フルートもはじめてしまいました。なぜかリングキーが無理です。 全然かわらないから気にしなくても良いよ、といってくれる人もいるのですが。 ヤマハの300番台を使ってます。

パユは僕も天才だと思います。別の畑の人だからちゃんと聴けているかわからないけど。

投稿: foobirds | 2005.08.14 13:05

foobirdsさん、はじめまして!ようこそ!
「暗記」というよりも実際の現場では、ほとんど「反射」のように出来るようにならないと困ります。でもそんな事できるのは一部の脳外科医と救急医くらいじゃないかな〜?
え〜と、、、フルートは金属で出来てるけど「木管」なわけで。。。
リングキーは、手指の構えがお行儀よくないと吹きにくいので「矯正」の意味はあります。あと高度な技術としては1/4音ずらすとか替え指に関係してきますが、普通の演奏の場合カバードと何ら変わりません。だからリングの孔を塞ぐペグというゴムのような物も売っています。僕はフルート3本持っていますが、カバードのオフセットが1本とリングのオフセットが2本です。
Pahudは凄いですよ。憧れます。20代でベルフィルの首席になって、一端音楽大学の教授になるため退団したけれど、その間、ベルフィルはパユに代わる人材を見いだせず「首席」を空席にして待っていたのです。そして、教授職を辞してベルフィルの首席に戻ったという、Mozartと同じ誕生日のまだ35才。

投稿: balaine | 2005.08.14 22:03

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