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2005.07.23

長寿世界一に思う

正確には「世界一」なのは日本人の女性で、男性は2位である。
平均寿命とは、0才時点での平均「余命」のことで、生まれたばかりの日本人女児は平均的に85.59年生きる、ということである。寿命に影響を与えるのは、日本人の3大死因である、癌、心疾患、脳卒中その他であるのだが、自殺や事故死も当然大きく影響している。
このように日本人の寿命が世界一であるその訳については新聞記事では触れていなかったが、生活環境が衛生的で戦争や大きな事件事故が少なく、なによりも世界一のレベルと言っていい医療に支えられていることは間違いない。新生児や子供のうちに病気で死亡する人が、世界中のどの国よりも少ない。私が新聞記事で注目したのは3大死因を除外した場合の「平均寿命」である。
『男性で8.74年、女性で7.94年、それぞれ延び、平均寿命は男性が87.38歳、女性が93.53歳になる計算で、3大死因対策が急がれる。 』
「?」である。安易な新聞屋さんの感想か。なぜ急がれるのか?急いだ結果で、せいぜい8年伸びるだけなのだ。問題なのは、「ただ生きている」ことではなく、楽しく幸せに生きていることであろう。8年伸びた余生が、苦難に満ちた寂しいものだったらどうなのだろう?惚けて周りのことが認識できない状態で長生きしても人生を楽しんでいることにはならないだろう。ほぼ寝たきりで全介助に近い状態で長生きしていて幸せなのだろうか?3大死因は、すこしずつ克服されていくであろうが、人間は一体何歳まで生きるものなのだろうか?
 我々「日本人の」医師が、ヒラリー・クリントンの言葉を借りれば「まるで聖職者のような献身的精神で」働いて、たった8年しか伸びないのか?という思いもある。

 平均寿命と余命について、時々勘違いされているようであるが、たとえば今75才の方はすでに75年間事故にも事件にも遭わず自殺もせずに生きてきたのだから、平均寿命86才ー75才=11年の余命ではない。現在75才の女性に期待できる余命は、15年以上あると予測される。だから90才まで生きる可能性が高い。私が去年手術をしたくも膜下出血の患者さんがいる。78才の女性である。体力が落ちたからか、茶飲み友達とおしゃべりする以外は自宅でおとなしくしているという。私は外来で、可能な限り出かけたり何でも出来ることはするように、言っている。「もうおばあちゃんだから、、、」とその方は言う。確かに若くはないが、日本人の平均寿命86才ー78才=8年の余命ではないのだ。78才まで生きてきて今健康なのだから、まだまだ10年以上もしかすると20年近い余命が期待できる。その間、家に引きこもっていてはいけないのである。惚けてはダメなのである。残された人生を十分に楽しんで幸せに暮らして欲しい。旅行だっておしゃれだって何だってして欲しいのである。
「○○さん、家に引きこもる人生のために手術して助けたんじゃないからね!またコンサートに来て下さいよ!」と声をかけた。実は彼女の長男とその妻は、私と同じアマオケの団員でチェロとバイオリンを弾いている。旦那の方は楽団指揮者の一人でもある。今年2月のコンサートの時に、私はこの患者さんからお花を頂いた。捨てるのはもったいないのでドライフラワーにして今も部屋に飾ってある。また何回でもコンサートに来ていただきたい。寿命、余命とはただ生物として生きていることであるが、「一人の人間」として生きているということを、皆さんに、そしてこの「急がれる」と知ったような顔て書いたと思われる新聞記者、その記事の掲載を許可したデスク、その他の人たちに考えて欲しい、と思った。

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コメント

baleine先生こんばんわ。
今日のブログ、とても素敵です。
感動したので、書き込みました。
92歳の指揮者:ジャン フルネ氏が、12月20日サントリー、21日東京文化にて引退公演を行います。
是非先生に立ち会って欲しい・・・と思ってしまいました。

投稿: ヤッコ | 2005.07.24 02:38

おはようございます。
先生の言いたい事よ~くわかります。
私も介護の現場でいつも感じています。
大阪は今天神祭り、今日は宵宮で明日が
クライマックスです。この時期になるとムシムシと想像しがたい暑さなんですが85歳~90歳の長老と呼ばれる方たちが 着物をきて祭りを仕切られます。50歳ぐらい年のはなれた
若者たちにまぎれて同じような生き生きした
輝いた顔になってます。^^
生きるってどういうことか・・・子供達に
しっかり みせて 頂いております。
みんながその事をよく考えれたらきっと
平和な世の中に なりますよね。

投稿: 則香 | 2005.07.24 07:27

 平均寿命のこと、なるほどと思いました。
 命拾いした母は、倒れる以前のように「長生きしたくないねぇ。」とは言わなくなりました。
 医師をはじめ、いろいろな人に助けられた命だから大切にしなくちゃと思うようになったのでしょう。
 ちょうど昨日はケアマネの訪問日で、「今何が一番したいですか」と聞かれたところでした。そしてそれからまもなく、大きな地震がありました。
 この先、何で命を奪われるかもしれない。引きこもりにならず、余生を楽しく過ごしてもらいたいと切実に思いました。
 先生の仰るように、ただ生きているだけではダメ、自分らしく生きて欲しいです。

投稿: ムンテラ | 2005.07.24 09:57

おわっ!ヤッコさんだ。こちらにいらっしゃるとは。。。(^^)
マエストロ・フルネも引退ですか。都響のHPを見ると、第九ではなくて定期で最後にされるんですね。火、水と平日の夜ですよね〜。行きたいけどきついな。多分、いつもに増して観客は多いでしょう、ていうかチケットとれるのか?ていうぐらいでしょうね。
チェコフィルを振ったのが印象に残っていますが(テレビで見ただけですが)、フルートを吹いていたということは最近まで知りませんでした。ああいう年の取り方は、憧れというか別世界ですね。

投稿: balaine | 2005.07.24 12:39

則香さん、ムンテラさん、
 何歳になっても心の中に若い気持ちを持っているというか、若い気持ちが蘇るようなことが必要なんだと思います。私も将来は肉体は90才でも精神は25才くらいな感じでいきたいです。作曲の勉強しなくちゃいけないしボケて入られないですから(65才から作曲を学ぶ予定、あくまで予定)。v(^^

投稿: balaine | 2005.07.24 12:42

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