予定通りに行くという事
手術は、予定通り8時間ぴったりで終わりました。
なかなか大変でしたが、矢状洞内に入り込んだ腫瘍も含めて摘出しました。ただ、全部摘出すると腫瘍で詰まっている矢状洞の腫瘍のない部分、つまり正常に血液の流れているところまで切り込まなければならず、それは大出血を起こすので避けました。
頭の中で数回シミュレーションしておいた手術ですが、実際には身体の痛さとか手のだるさとか目の疲れとかそういったものが加わってくるので、時間が経つにつれ集中力が低下してつい操作が手荒になったりします。しかもそういう時間帯に一番肝心な部分が現れて来たりするのが常です。
今日も、手術が始まって5時間ぐらいたったところで、右の足の運動中枢を強く圧迫して癒着している部分に達しました。いくら丁寧に腫瘍を剥がそうとしてもすでに脳がトロトロになっていてすぐに壊れそうになります。そこをいろいろな手術器具を用いながら時間をかけて剥離しました。やはり脳の表面には傷が残りましたが予想した程度の軽いものですんだと思います。矢状洞内は腫瘍で充満されていたため、大脳鎌まで切り込んで切除し、右側の半球にまで張り出した腫瘍も矢状洞の中を通して超音波メスで摘出しました。自画自賛ですがほぼ完璧な手術で、頭に思い描いていた通り、予定通りの手術が出来たと思っています。患者さんは、麻酔からの覚醒も良く、ICUのベッドサイドに並んだ家族3名の名前をすらすら答える事ができました。右手にごく軽度、右足に中等度の運動麻痺がありますが、術前からは麻痺があったのでこれも予想通りであり、術後にリハビリをすれば独歩で自宅退院できると想定しています。患者さんが素直で日頃の行いが良かったのか、私の修業がまずますだったのか、神様の御加護が大きくあったのか、そのすべてだと思いますが、「予定通り行くという事」は嬉しい事です。手術後の疲れも軽減されるようです。先ほど、医局で飲み物を飲みながら(もちろんお昼の一時少し前に、外来終了後わずか3分で流し込むように食べたカレーライス以後食事はまだですが)テレビを見ていて、またロンドンで爆発テロがあったらしいニュースを見ながら一息ついていたところです。
患者さんは明日早々に一般病棟に戻って食事もとれると思います。最近、帰りが遅い日が多くてフルートの練習がほとんど出来ません。(;;)
| 固定リンク
« 髄膜腫と下垂体腫瘍 | トップページ | 世界初演 »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
手術お疲れさまでした。
「ほぼ完璧な手術で、頭に思い描いていた通り、予定通りの手術が出来たと思っています」
患者の家族の立場からすると、術後に主治医からこんな説明があったら、さぞかしほっとするだろうなと思います。
明日への希望が湧き上がってくる気がする。
ひげ鯨先生の患者さんやそのご家族がこのブログをご覧になることも当然想定内ですよね。
投稿: ムンテラ | 2005.07.22 08:24
ムンテラさん、今朝の患者さんの状態は予想された右手足の麻痺も「こんなにいいの?」とこちらが驚く程軽く、すぐ歩けそうで術後リハビリは不要かも知れないと思うくらいです。これは「予定通り」ではなく、術前の推測よりもずっとよいです。結果的には手術が非常にうまかった!ということ。(^^;;
私が知る限りではこのブログの事を知っている患者さんの家族は一人だけで、昨日のオペの患者さんの家族はパソコンすらやりそうにない感じです。もちろんどこかで誰かに見られている、ということは意識して書いていますが、「その患者さん」が見る事を想定はしていないですよ。
投稿: balaine | 2005.07.22 09:06
リハビリが不要なほど状態が良いなんて!先生思いっきり胸張ってくださいねぇ(^^)v
先生が以前仰っていた通り、母は一人で外出できるほど快復しました。
ですから今は疑問に思うこともすっかり減りましたが、このブログを通じて素人なりの理解は深まったと思っています。
先生の患者さんもご覧になりたい方がいらっしゃるかもしれませんよ。
投稿: ムンテラ | 2005.07.22 13:10
ムンテラさん、ありがとうございます。でも胸は張りませんよ。これが当たり前だと思っていますから。医師は万能ではないし神ではありませんが、正しい診断で正しい治療方針を立て正しい手術を「キチンと」行えば、良性腫瘍ならば状態が良くなるのが普通だと思っています。自分のような凡庸な外科医にしては上出来だったな〜、と感激しただけです。
知っている人がこのブログを読んでいると知ったら(N先生お読みかもしれませんが)、恥ずかしいのでやめるかもしれません。。。
投稿: balaine | 2005.07.22 14:38
手術うまくいってよかったです。私の先生もそんな気持ちでされてたのでしょうね。あの先生どこへ、行かれたのかしら、、、なんて考えてました。あの先生というのは、実際に私に執刀してくださった方のことです。退院してからも、外来には出てられませんでしたが、たまに出会うと、気にして診てくださってましたので。
投稿: @むーむー | 2005.07.23 00:16