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2005.06.15

脳出血

とは、脳卒中の一つ。脳梗塞、くも膜下出血と並ぶもの。
 以前も書いたように、「高血圧性脳出血」は昭和30、40年代から減少している。生活習慣病(当時は成人病と呼ばれた)である高血圧の管理、治療、公衆衛生の発達、市民への啓蒙が功を奏したものと思われる。
 昔は、生鮮食品を日常食せる人は限られていた。塩漬けのもの、塩蔵品が多く、特に高温多湿の環境で労働する農業従事者は「しょっぱい」ものを多量にとることを風習としていた。
 「生きながら塩漬けになっている」
と私の恩師の一人である公衆衛生学の教授が言っていたように、東北地方、特に秋田、山形の人は塩分摂取量が多かった(都会の人でも、欧州に比べると塩分摂取量は日本人は非常に高いのだが)。日本人の平均塩分摂取量13gr台を大きく超えて15〜18gr/日の摂取が普通であった。
 高血圧は「家系」と思われていた。確かに遺伝的要素もあるけれど、ほとんどは「生活習慣」。おじいちゃんがしょっぱいものが好きだから、お父さんもしょっぱいものを食べ、子供も孫もしょっぱいものを多量に摂取し、自然に「高血圧」になる身体が作られて行く訳である。更に、昔の日本、殊に郡部ではタンパク質や脂質の摂取量が少なかった。血管の壁を形成する重要な要素である「コレステロール」。これが「低かった」のである。
 血圧が高くて血管が弱いから、血圧が上昇して血管が切れる。そこら中で「脳出血」で倒れる人がいた。30年くらい前までの脳外科医は、脳卒中らしい人が運ばれて片麻痺があると血管撮影をし(CTが無い時代)、何か圧迫するものがある所見があると、全例開頭して手術していた。なかには「脳梗塞」で腫れている脳を「出血」による圧迫と判断し、今考えれば無駄というか無意味な手術をしていた時代がある。
 CTの出現で「脳出血」と「脳梗塞」は簡単に見分けられるようになった。更に、時を同じくして高血圧の治療が市井の医師にも十分に周知され、塩分制限が市民に啓蒙され、高血圧が減少し、日本人のタンパク質摂取量が増加しコレステロールが「低い」人は少なくなった。そのため、プチプチ血管が切れる人は少なくなり、「脳出血(=脳内血腫)」が減少して来た訳である。それに伴い、脳外科医が脳出血を手術することも少なくなった。またその少し前から、「定位的脳手術装置」が開発、普及し、頭を大きく開かずに小さな穴一個から太めの針を刺して、CTガイドで脳内血腫に到達し、局所麻酔で血腫を吸い取る手術も普及した。私のように昭和50年代から60年代に脳外科医になった者は、それより昔の脳外科医に比べて、脳出血の手術経験数が非常に少ない。それに伴い、手術顕微鏡を扱う件数も少なくなった。
 もうすぐ夏を迎えるこの季節に、なぜか毎日のように脳出血の患者さんが入院してくる。ほとんど「高血圧性」である。血圧をきちんと管理していればならずに済んだかもしれないのに。よく、脳卒中の季節性ということが言われる。確かに寒い冬に多い。冬が厳しい北の国に多い。しかし、沖縄でも脳卒中が発症し、夏でも脳出血は起こる。高血圧の管理、飲酒の制限、体重管理、適度な運動などの当たり前のことが大事である。毎日脳出血で入院して来る患者さんを見ていると、その半分以上の人は発症せずに防げたのではないかと思うのである。
 脳外科医が「暇だ〜!」という時代が来るのならそれは喜ばしい。今のところ、おかげさまで、忙しく、繁盛していますけどねv(^^)

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コメント

嫁に来た時、57歳の姑は脳卒中後8年を経ていた。少し右側が不自由であったが、なんでも自分でこなしていた。たしかに塩っぽいものが好物だった。
かかりつけの医者は、姑の元気さは僕の研究対象ですと仰っていた。それから4年後、お風呂に入っていて、いつもより時間がかかるな?と覗きに行くと、洗い場に座ったきり俯いて意識がない。
主人と共に座敷に運び、かかりつけの医者へ電話した。電話してると姑は目を覚まし、「誰に電話してるんです?やめてください。先生だって迷惑ですよ。」と大きな声で言った。そして姑は起きだして布団の上に正座した。
電話の向こうの医師にその声が聞こえた。「あはは、そんなに元気なら大丈夫」と電話は終わった。それから私はひとしきりそばにいたが、「侘び助さん、もう子供のところへ行ってください。わたしは寝ますから」と言うので、離れようとすると、姑はすーっと眼をつむって布団に倒れこんだ。
あわてて主人を呼び、医師へ電話した。先生はすぐ来てくださり、部屋へ入るなり、「あーこれは・・」と仰った。
見事な姑の臨終で、私は忘れることができない。
そして、この医師にずっと家族で罹りつけていたが、昨春先生は高齢で廃業なさった。
その時、「私が医院をやってこられたのは、患者の皆さんのおかげ」といって、150人の患者を近所のお店に招待してお別れ会ならぬ感謝会を開いた。そして、先生は引っ越して行かれました。

投稿: 侘び助 | 2005.06.15 20:40

 毎日忙しく過ごしているうちにもう夏休みの話題ですね(^^)
 さて、今日の話題にあるように、脳卒中に季節性があることやその予防法については一般人にもかなり浸透してきましたね。
 母が倒れて人から一番多く聞かれたことは、倒れた原因と助かった理由でした。標準体重で血圧も低く、これといった原因が思い当たらないのに老化で発症した母を見ても、なかなか病気の予防は難しいと感じます。20%くらいの確率でくも膜下にも家族性があると何かで読んだことがあります...
 でも高血圧は下げる方法があってうらやましいなと思います。 
 先生はじめ、ここを訪れる皆さん、夏が待ち遠しいご様子ですが、最高血圧が70台より上がらない私にとっては、これからの数ヶ月は気合で乗り切らなければならないけっこう辛い季節です(笑)。

投稿: ムンテラ | 2005.06.15 20:58

私の高血圧もくも膜下出血も絶対に生活習慣病ではなく父方からの遺伝です。
これだけ清く正しい生活(塩分控えめ、肥満無し、適度な運動、酒たばこ一切やらない)を送っているのに、
高血圧、高脂血症であるなんて、全くもう、どうしろというんですか?(>_<)
先生に文句言っても始まりませんが…

投稿: mayako | 2005.06.15 21:02

侘び助さん、すごいお話しを2つもありがとうございました。

ムンテラさん、くも膜下出血は「高血圧」が危険因子ではない病気です。血圧が低くても動脈瘤の形成とは関係が薄いようです。血圧、低いのも大変ですよね。

mayakoさん、そうなんですか〜。それは内科的に高血圧および高脂血症の原因をきちんと探らなければいけませんね。遺伝的要素があるのでしょうね。日本人には、塩分濃度に反応して血圧のあがる遺伝子を持っている人がいるそうです。欧州の人の塩分摂取量に比較して日本人は約倍量の塩分を摂っているのだそうです。湿度が違いますからね。

投稿: balaine | 2005.06.16 14:53

こんにちわ★
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ではこれからも頑張って下さい☆

投稿: 人気BLOGRANK | 2005.06.16 18:40

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ちょっと暗い話になりますが、先週の水曜日に父が職場で倒れました。 [続きを読む]

受信: 2005.08.22 14:10

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