お疲れさま
今更ではあるが、病院というところは土日にも出勤する看護師、技師、その他のパラメディカル、そして医師によって業務が支えられている。土日に完全休日なのは、リハビリテーションと外来部門である。手術部は緊急手術に対して「待機番」といって連絡があったら自宅から駆けつける看護師たちがいるし、薬局も緊急の処方や注射、救急外来の処方などがあるので完全休日はない。食事だって毎日3食提供される訳だから、交代で休みがとれるとはいえ給食部門も土日はない。
この中で、土日に働いても、その振替の休日がないのは、実は医師だけである。
土日に出番であっても、入院患者のいない科や少ない科、重症患者のいない科やもともと殆ど発生しない科、救急外来に呼ばれることなど年に数回あるかないかという科は、遠くにはなれなければ何をしていてもいい。連絡さえつくところにいればいい。脳神経外科などのように、重症が多く、急変があり、救急患者が多い科は、当番の土日には病院から30分以上のところに離れる気にならない。官舎は病院の隣に建っているので、呼ばれたら夜中でも10分以内に駆けつけることは出来る。そして土日に働いても、当然のように月曜の朝からまた1週間普通に仕事である。更に、当直、宿直などをした翌日も休みではない。下手をするとほとんど眠れなかったのに朝から外来とか検査という医師もいる。最近、当院では日直も宿直も外科系医師と内科系医師1名ずつでおこなっているので、まったく一睡も出来ない宿直というのは殆どないはずではあるが、それでも分断されながら3、4時間の睡眠では翌日に影響が出てもおかしくない。
科によって(マンパワーに余裕がある、または大学などから応援派遣を頼める)は、宿直の翌日は半日で帰宅したり年休を取ったりしている科もある。しかし、うちの脳外科でそれは物理的に出来ない。二人で日直、宿直、当番をやっている。そのうちの一人が翌日休むと、副院長+一名で外来、病棟をこなし、救急は一人で対応することになる。だから同僚の医師には宿直明けでも外来も病棟回診もいつも通りにしてもらっている。明けの日の夜の当番をあてないように工夫するくらいが関の山である。私は昨年の年休はリフレッシュ休暇としてチェコフィル三昧のために4日とったのみである。
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昨日の夜は遊んでしまった。というか、友人に借りた「白い巨塔」(最近の奴)全21回のドラマのDVDを見てしまった。山崎豊子の原作も昔読んだし、田宮二郎の映画も村上弘明のドラマも観た。唐沢寿明の演技もなかなかだったと思う。鬼気迫ったあげく自殺までしてしまった、故田宮二郎氏と比較するのは無理があると思う。
医療ドラマには「は?なんで?」という、医療従事者には解せない、または笑止!というような穴がよくある。このドラマにだって変なところはいくつかあったが、大方はきっちり作られていた。まあ、外科医がタンホイザー序曲を口ずさみながら、執刀のイメージトレーニングをするなんてことは普通しないと思いますが。少なくとも、脳外科では顕微鏡下の繊細の手術なので、端から見ると手は動いているのかいないのかというぐらいの小さな動きなのですよ。
一度観て内容はよく知っていたが、引き込まれ、特に最後の、財前五郎が自分の病状を悟り親友でライバルである里見を頼ってCT検査を受け、余命長くて3ヶ月と診断され、「里見、僕に不安はないよ。ただ、、、無念だ。」というシーンでは思わず涙がこぼれてしまった。そんな訳で、罪なドラマのために(別にDVDなんだから途中でやめりゃいいんだが)朝の4時前にベッドに入った。朝、6時と7時に病棟から患者のことで連絡が入り、電話で応対したが眠くて(自業自得だ)ベッドの中で応答した。目が覚めたら9時半だった!
それからきちんと朝食はとり、10時前から回診を始めたので、1時過ぎまでかかってしまった。昨日の夕方、脳幹出血の患者が入院した。意識はほぼ昏睡で(自発呼吸はあるが)挿管して人工呼吸器でサポートしている。降圧剤と止血剤と安静で保存的に治療するしかない。家族には厳しいムンテラをした(重症だが手術できる場所ではない、この1、2日が山、遠くにいる子供は呼ぶように、それを越しても1週間以内に浮腫による悪化がある、更にその後も重篤な合併症などを起こす危険性が高い、それを乗り越えても寝たきりが関の山かもしれない)。その患者さんを発症翌日のCT検査に連れて行った。挿管中であるので医師がついて行かなければならない。幸い、出血は増量なく水頭症も起こしていない。まだ脳幹や小脳にも腫れはない。血圧も落ち着いている。意識はほぼ昏睡のままである。
先日緊急手術をした急性硬膜下血腫の患者の手術創の抜糸を行った。外減圧(頭蓋骨を大きく切り取り外している)部は、硬くはないが盛り上がっている。骨はしばらく外したままにしておく必要がある(-80℃のフリーザーで保存中)が、人工呼吸器は外すことができ、自分の力だけで呼吸をしている。明日以降、挿管チューブも抜けるかも知れない。
日曜とはいえ、これらのICU入院患者に加え、HCUの脳出血の方、さらに3つの病棟を全部回って必要な指示を出してくるとどんなにテキパキやっても3時間はかかる仕事である。
「おつかれさまです」
病棟を回ると看護師に言われた。確かに仕事は忙しいんだけど、疲れて見えるのはDVDを観ちゃったんだよ。ごめんね。。。
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コメント
息抜きに「白い巨塔」というのもまた面白い話ですね。しかも睡眠時間削ってまで・・・!
僕も最後のシーンは涙なくしては見られませんでした。唐沢は普段チャラけたイメージがありますけど、やはりあの演技はプロの俳優ですよね。
それにしても病院の近くにいなければならないというのは悲しいものがありますね。マンパワーが事足りれば夜は信頼できるスタッフにまかせられるんでしょうけど・・・
投稿: ユウ@来年研修医 | 2005.06.12 21:24
夫の友人で大学病院長をしている某氏は、やはりメチャクチャ忙しい日を送っているが、息抜きは映画。
夫たち仲間とHPを作っているが、毎週のように話題作を見て映画レポートを書き綴っている。
60代に入ったので、シニア料金1000円で、3時間楽しめる、みんな映画に行こう!と。
ひげ鯨先生もDVDより、映画館のほうが気分転換になりませんか?
投稿: 侘び助 | 2005.06.12 21:40
ユウさん、大都市圏の病院の場合、ある程度はマンパワーが足りているかもしれませんが、地方の中核病院は殆どの場合、医師の数はギリギリか不足しています。脳外科は総合病院しかも比較的大きな病院にしかないことが多いのですが、脳卒中の多い東北地方でも一つの病院に2,3人というのがほとんどです。
センターのようなところでも6人からせいぜい8人でしょう。
侘び助さん、映画は好きですが、呼び出される可能性を考えるとなかなか落ち着いて映画も観ていられないのです。映画館に行くのは年に3回くらいかな?
投稿: balaine | 2005.06.13 09:01
ひげ鯨先生、TBさせていただきました。
投稿: @むーむー | 2005.06.22 13:16