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2005.06.29

集中治療室

 昨日の患者さんは、深夜、挿管のままで未覚醒で手術室を退室し予定通りICUで人工呼吸器に接続した。しかし、ほどなく覚醒して来たので自発呼吸にし、深夜であるので念のため挿管のままにしておいた。手を握れという簡単な命令に応じ、ご家族がベッドの傍に来ると目を開けてうなづいていた。
 今朝までそのまま休んでいただき、朝8時半に抜管した。術後のCTも「後出血(こうしゅっけつ)」や脳腫脹も無く問題ない。造影CTで見る限りは腫瘍は90%以上とれているようであるがMRIでなければ正確な診断は出来ない。予測通り、左の顔面神経麻痺と喉頭の麻痺(反回神経麻痺)がでているようだ。閉眼は出来るが右に比べると弱いので角膜を保護するための点眼薬を処方した。飲水、食事はもう少し経過を見てから始めた方が良さそうである。今日ICUを退室して元の一般病棟に戻っても良さそうであるが、病棟の方の都合などでもう一日ICUで管理することにした。

 ICUは「集中治療室」と日本語で表現される。なんとなくわかるようなわならないような言葉である。英語をそのまま直訳的に理解すると、「念入りに特に注意を払ってケアをする部門」ということになる。呼吸循環系の不安定な人(重症肺炎や心不全など)、心臓の手術後、くも膜下出血急性期、重症頭部外傷、多発外傷、全身火傷、てんかん重積状態、などなど、治療に手のかかる、急変しやすい、生命にかかわる状態の人が中心になる。ICU入室基準から考えると、昨日の手術後の方は本来はICU対象にはならないかも知れない。しかし、一般病棟、たとえば満床50名の病棟に夜間の看護師は3人とか4人である。術後で目をかけていなければならない患者が一人いるだけで、他の業務がおろそかになりうる。そのためにも、ICUで治療を行う意義がある。
 実際は、満床8床のICUに7名入室中であるが、脳外科は上記患者以外に2名。このブログでも書いた、「急性硬膜下血腫」術後、減圧開頭していて意識障害と呼吸不全があり気管切開をしてまだ人工呼吸器で圧補助をしている80才代の男性と、「外傷性くも膜下出血」で呼吸不全を併発し挿管の上、人工呼吸器でサポートしている人50歳代の男性である。後者はだいぶ良くなって来て、そろそろ呼吸器も離脱できそうである。名前を呼べば目を開け、返事をしそうな勢いである(管が入っているので声が出せない)。
 隣のHCU(ICUよりは重症度が落ちるものの、虚血性心疾患の急性期やペースメーカー挿入予定の不整脈、心臓カテーテル検査を要する急性期の心疾患の人や緊急手術の対象にならないような脳出血、脳梗塞の患者を入室させ、全身状態が安定したら一般病棟へあがるまでの期間、Highlyケアをする部門)には、脳幹出血で人工呼吸器から離脱は出来たものの抜管できないでいる患者さんがいる。月曜に手術した慢性硬膜下血腫のおじいちゃんもいる。脳幹出血の患者さんに抜管を試みた。喉頭浮腫もあって、呼吸が努力様、閉塞様だ。鼻腔エアウェイを入れてフェイスマスクで酸素を10l/m投与したが、酸素飽和度がだんだん下がって来た。薬物を投与して呼吸を楽にしてあげようとしたが、酸素飽和度は94%位から下がって88%まで落ちた。血圧が上がり脈も上昇し汗をかいている。呼吸が苦しいのである(脳幹出血のため四肢麻痺で意識障害もあり表現ができない)。やむを得ず再挿管した。ずっと管を入れておくと痰が固まって窒息したり不潔になるので、気管切開は必要そうである。
 病棟では、髄膜炎から水頭症になって脳室ドレナージをしていた血小板無力症の患者さんが問題である。ドレナージの管の中にすこしずつ出血が混じっていたのだが、土曜日あたりから流れが悪くなり日曜に詰まってしまったので管を抜いた。管を入れたところにはうっすらと脳内出血が出来ていた。術中は全く出血していないスムーズな手術だったのである。血小板輸血をしてもその効果は3,4日しかない。そのため、ドレナージを入れたルートから血液が滲み出たのであろう。管をぬいて3日たったが、徐々に意識状態が悪化し名前を呼んでも生返事をするだけになった。CTでは明らかに水頭症の再燃がある。脳室腹腔シャント術が必要だ。しかし、髄膜炎が完治していない。血小板無力症の問題もある。一時的に再度ドレナージで逃げて、炎症の治癒を確認してからシャント手術をするのがいいのか、血小板輸血をしてシャント手術をやってしまった方がいいのか、悩むところである。
 昨日の手術の疲れ(特にhigh speed drillで骨を削ったので右手がだるい)を癒す間もなく、これだけ悩ましい患者さんがいる。脳神経外科としては普通のことではあるが、昨日のような外科医にとっても「大手術」は「年に1個か2個でいいな〜」と思ってしまうのは日常がこうだからである。

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コメント

大手術、お疲れさまでした。
心配な患者さんが何人もいらして気の休まる間がありませんね。

ICUの様子を拝読しているうちに、ピッピッという心拍と酸素飽和度を測る器械の音がよみがえって来ました。
人工呼吸器に1ヶ月以上繋がれていた母は術後しばらくして肺炎になり、それが原因でVPシャント手術が遅れました。
気管切開も覚悟してくださいと言われながら、主治医の丁寧な観察と判断のもと「今しかない」という絶妙のタイミングで手術をしていただけた時は心から感謝しました。

ICUは一般病棟よりはるかに管理が行き届いているのに、長くいればいるほどさまざまな菌に感染しやすくなると知ったのは、現実に母が肺炎になった後でした。原因が厄介な菌ではないとわかった時は本当にほっとしました。

先生はお疲れでしょうが、どの患者さんも回復されることを祈らずにはいられません。


投稿: ムンテラ | 2005.06.29 16:27

みつけましたよ~!余目ではお久しぶりでした。私ぁリタイアして音楽三昧の日々ですが、先生もそろそろいかがですか(笑)?

投稿: 元脳外科医 | 2005.06.29 16:34

ムンテラさん、ICUでは高率に長期にわたり抗生物質を使用することが多いので、耐性菌というのが出来やすい環境にあります。患者さんから患者さんへの感染に気を使っていても、ある患者さんの中で菌交代現象がおきやすくなってしまうのです。

元脳外科医さん、めっかっちゃった!か、、、
音楽三昧、いいですね〜。私は90才まで生きて、余生は作曲に生きる予定です(笑)。脳外科医はもう少し続けてみますよ。

投稿: balaine | 2005.06.29 19:12

ほんと、お疲れ様でした。私もつい
この前だからほんといろいろと
思い出しました^^;
私の主治医も正直こんな大手術は今年はこの1件で終わりに
したい・・・と後日こぼしてました(笑)
私のリカバリー室のときの日記
TBさせて頂きました。。。

投稿: 則香 | 2005.06.30 06:23

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