« 脳出血 | トップページ | 夏至の近日 »

2005.06.16

動きの軽さ

 他科入院中の患者さんが、原因不明の水頭症で意識障害になった。
 治療はもちろん必要だが、原因を探らなければならない。ある疾患の治療後に出血のため両下肢が麻痺し排尿障害なども出現。その後、尿路感染症から腎盂腎炎になって高熱が出て、抗生物質などでそちらは落ち着いたものの、仙骨部に褥創が出来た。それらの治療中の5月末に一度全身けいれんを起こしていた。CTが施行され、明らかな異常所見なし、という放射線科医の診断でそのまま経過観察されていた。食事は自分でほぼ全量摂っていたが、高熱が反復し状態は決して良好ではなかったらしい。
 今朝も一人でなんとか全量食事をとった、と看護記録には記載されていた。午前中に反応が鈍くなり、そのうち呼んでも目を開けないためお昼過ぎにCTを撮ったところ水頭症がみつかった。主治医はなぜか神経内科に相談。神経内科医が私に相談して来た。この時点で午後一時を過ぎていた。
 すぐに病棟にいき、患者を診察し、家族を呼び、緊急MRIを撮った。終わった時点で2時前。家族に水頭症の説明とそれに対する脳室ドレナージという手術の必要性を話した。この患者さんは血小板の機能低下があり、数は正常であっても出血時間が18,9分と高度に延長していた。そのため血液内科医に相談し血小板輸血の指示をもらい、すぐに血小板を注文した。これは血液センターから届けられるので2時間程待たなければならない。午後4時、血小板が届いたと連絡あり。すぐに投与を指示し同時に手術場に連絡した。すでに手術場と手術直後にCTを撮ることと、帰りは脳外科の病棟の個室に戻ることを各部署に連絡してあった。これぐらいテキパキと指示をして動くのが脳外科医の普通の姿である。
 さあ、手術場へ行こうと、患者の病棟に上がって行った。ここは脳外科の病棟ではない。脳外科疾患のような、急変であるとか全身状態の管理であるとかはあまり必要の無い疾患の患者さんが多い病棟である。看護師さんたちは夕方の申し送りを控え、カルテの記載に忙しく婦長(師長)はコンピュータと向き合って何か仕事している。
「さ、手術室、行きましょう!」と私。
「血小板の投与始めましたね?」と問うと
「まだです。これからです」とある看護師。
「早くやってください」と私。
「点滴ルートから落としていいんですか?」と看護師。
「いいから早く!」と私。
「さ、行きますよ!」といっても誰も振り向かずカルテを書いている。師長もパソコンにらめっこ状態のまま。カルテは?資料袋は?といっても、まだ準備されておらず。私が言ってからあたふた用意し始める始末。
「婦長さん!2時間前に手術することが決まって4時過ぎに行く予定だったのに、なんで何も用意してないんですか?」と婦長を責めるとようやく何人かが動き出してカルテ、資料袋を用意しベッドに運んで患者さんを手術場移送する用意を始めた。
 脳神経外科の病棟ではありえない。信じられないのんびりさ。動きが重い。
 でも彼女たちには、自分たちがおかしいという意識は感じられない。うるさい脳外科医が突然やって来て、早くしろとか遅いとか怒っている、という認識のように感じられた。自分たちのペースを乱されるのは誰だって嫌だと思う。しかし、慣れとはおそろしい。脳の疾患で意識障害が起きて緊急手術をしようという患者さんがいる場合、脳外科医の指示に従ってパッパッと動くのが当然だと思うのが脳外科医。いつもそうであるから。
 他科のそんなに生命に直接かかわる疾患の多くない病棟だと、こんな感じでのんびりしている。彼女たちには「のんびり」しているという意識もないだろう。人間は楽をするとすぐに堕落する。すぐに慣れが生じる。怠惰な生き物である。
ーー
 術前に予測し患者の家族に説明しておいた通り、脳室ドレナージの際に採取した脳脊髄液を検査に回すと「髄膜炎」の所見であった。高熱が続いていたのは、おそらく腎盂腎炎から髄膜炎に移行し、頭蓋内の炎症が脳脊髄液の循環吸収を障害して水頭症が起こったものと思われる。少し出血が止まりにくい印象はあったが手術は20分で終了し術後CTでも出血は無く、持続脳室ドレナージによる治療が「脳外科病棟」で始まった。

|

« 脳出血 | トップページ | 夏至の近日 »

コメント

そうなんですね。患者から見てもそうです。私は、腎臓もよくないので泌尿器科とか内科にも行きますが、受付からして対応が脳外科と他科とは全然違います。もし予約外来の日に頭痛や熱があってそれを受け付けで言っただけで、こちらがびっくりするくらいに、パッと立ち上がって中に入れてくれます。他の科ではそんな事ないです。なんだろう、この違いはって思いました。

投稿: @むーむー | 2005.06.17 00:39

@むーむーさん、病院全体の雰囲気や科長の影響力にもよるとおもいますし、伝統というのもあると思います。脳外科は、急変や急患の多い科なので、その対応になれている看護師や受付の人が多いのだと思いますし、そう言う感じの(テキパキさん)が配置されるような印象を持っています。
大方の脳外科医は、だらだらとかのんびりが嫌いですからね〜。
Festina Lente、ですよ。

投稿: balaine | 2005.06.17 09:21

 本当にむーむーさんの仰るとおりのことを実感しました。
 ICUも脳外科病棟も、スタッフの判断、フットワーク、対応、どれをとってもとても早かったです。もちろん時間を争うからでしょうが、他の病棟とは時間の流れ方が違いましたね。
 Dr.やナースに用があって姿を追いかけた時、走らないと追いつけませんでしたもの(笑)

投稿: ムンテラ | 2005.06.17 11:25

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/74618/4580923

この記事へのトラックバック一覧です: 動きの軽さ:

« 脳出血 | トップページ | 夏至の近日 »