True Story(感動)
今日の外来に、2月にくも膜下出血で倒れて救急搬入されて即日緊急手術を行い、3月にはいって正常圧水頭症を呈したのでシャント手術をおこなって、1ヶ月ちょっとリハビリをして自宅退院された患者さんがいらした。
70歳代のその女性は、田舎で一人暮らし。子供は無く夫に先立たれ犬一匹と暮らしていた。妹さんが車で30分程離れた町に住んではいるが、そんなにしょっちゅう会っている訳ではなかった。3月末にも退院できそうな状態であったが、家に帰っても一人暮らしなので妹さんや他の親類が心配して「なるべく長く病院において欲しい」と言われていた。患者本人は犬の事が心配で(近所に預けられていた)早く帰りたがっていたが、週末ごとに試験的な外泊を3回程繰り返して、4月の末に退院されたのだった。
綺麗にお化粧してニコニコしながら外来に入ってこられ、「先生、命を助けてもらってありがとう。しあわせだ〜」というのである。感謝の言葉を口にされて医者冥利につきる。よく聞くと話しに先がある。
「私は、倒れた前の日から記憶が飛んでいたんですが、自宅に帰って近所の人から評判になったんです。」
「意識も無くなって倒れていたのに、後遺症もまったくなくこんなに元気になって戻ってきて運のいい人だと言われました。」
「運がいいだけではなくて先生の腕がよかったからだ、って言ったんですよ。」
更に続きがあった。
一緒に暮らしていた犬は、16才。人間で言えば80才のおじいちゃん。しかもちいちゃい時から耳が悪かった上、年をとって両目ともほとんど見えなくなっていたらしい。いつも一緒にいてこたつで一緒に寝たりしていたとのこと。その日、患者さんは早朝頭痛とめまいがして玄関先まで来て立てなくなり、倒れてしまった。一人暮らしの老人。季節は冬。下手をするとそのまま凍死すらしてしまいかねない。
犬の「タロー」が近所の家に一人で(一匹で)訪ねてきた。その家の人は患者さんの事も犬の「タロー」もよく知っている。「餌でももらいにきたのかな?」と思ったが、早朝に「タロー」が一人で来るなどという事は今まで無かった事。いつもその患者さんにぴったりくっついていた。「もしや○○さんに何かあったのでは?」と家を訪ねると玄関先で、倒れており嘔吐していて呼びかけても返事をしない。そこでその近所の方が救急車を呼び、妹さんに連絡をした、というのである。
近所では犬のタローが○○さんを助けた、と大評判になっているらしい。
まるでいつぞやの「一杯のかけそば」のように「作り話」のようにいい話しではないか。しかもtrue storyなのだ。
「今、タローと一緒に暮らせてほんとに幸せだ。先生、ほんとにありがとう!」
(私)「タローとともに長生きしてくださいよ。」
飲み薬も必要ない方なので、半年後にフォローアップのCTを予約した。ニコニコして帰られた。
私もとても幸せな気持ちにさせていただいた。上記の不快なサイトのことなど、もうどうでもいいような気分にすらなった。(しかし真面目に働いている医師を侮辱するような発言は決して看過できない)
昨日も、夜中の23時55分に急患で救急外来に呼ばれ、朝も5時46分に入院患者の急変で呼ばれて働いていた。当然、朝食抜きで朝8時半から脳外科医二人で回診し、午後1時過ぎまで外来だった。空腹も疲れもイライラも、しかし、こういう素敵な患者さんの話し一つでぜ〜んぶ消え去って元気になる。
そう、私の事をコメントで超人的と言われた方がいたが、エネルギーはこういう患者さんから頂いているのである。これは間違いない!
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
事実は小説より奇なりですね。そういうお話を伺うと、アレルギーなのに犬を飼いたくなってしまいます。
実は母のケースでも「恐るべし、ご近所パワー」の思いを強くしました。母が倒れた時、家には母一人。しかも私はたまたま不幸があって遠隔地に居り、すぐに帰れない。ちょうど台風通過で飛行機欠航、新幹線はもとより在来線も動かず、え~どうしよう!!と思っていたら、ご近所がすべて手分けしていました。救急車に同乗する人、留守番を買ってでて母の後始末をする人、救急車に伴走する人。それはすばらしい連携プレーで、どんなに感謝したことか...
以前にも書きましたが、退院後初めての外来で主治医が笑顔になったのは、きっと今日のひげ鯨先生と同じお気持ちだったかもしれません。
ところで個人的な質問で恐縮ですが、その患者さんは半年後のCTを予約と書かれていますが、投薬がなければ将来的にはそういうスパンで診察を受けるようになるものなのでしょうか?
投稿: ムンテラ | 2005.05.23 17:16
ムンテラさん、術後特に内服薬も無いという人はたまにいます。または、近くの開業医に紹介して普段はそちらで診てもらう事もあります。我々脳外科医は、「高血圧」や「頭痛」の患者さんを診るのはメインの仕事ではないので、一般開業医に紹介してそこで診てもらうのが通例です。そういった場合でも、最低年に一回は外来に来るように、出来れば紹介状を書いてもらって一年間の経過、現在服用中の薬などの「診療情報」を提供してもらうようにします。
我々はCTなどをフォローアップしてその結果をまた開業医に情報提供します。自分が手術した患者さんですから、手術が終わったらハイさようならではなく、ず〜っと経過をみていく必要があります。
シャント手術をした場合には、シャントの効き具合というか脳室の大きさをみる必要もありますから半年に一回から年に一回は必ずCTなどを撮ります。これが3ヶ月に一回ではだめか?と問われるとそれでもいいと思います。どの程度念入りに経過を追っていくかという、医師の判断の問題です。通常はそんなに変化しないので半年に一回で十分だと思っています。その間に調子が悪ければ外来に来てもらえばいいのですから。
我々は忙しいので、なるべく外来の患者さんは減らしたいと思っています。外来は月一回から二月に一回にしたり、長期投与可能な抗てんかん薬などなら3、4ヶ月に一回の外来受診とする事もあります。薬の必要の無い人なら年に一回の受診で十分です。
投稿: balaine | 2005.05.23 19:34
例の件の一部始終をみていましたが、
向こうの言い分も理解できないことはないです。
賛同はしかねますが。
日本の医療現場を実体験しているbalaine先生の
意見は脳外科医の一意見として尊重されるべきであり
空虚空疎な理論で反論されようものならたまったもんじゃないですね・・・。
どんな理由であれ脳ドッグは受けたいし、脳動脈瘤のオペは
やってほしいと思うのが人の感情ってもんでしょう。
投稿: ユウ@医学生 | 2005.05.23 20:23
早速お返事ありがとうございます。
目下のところ、外来受診日は月に1回ですが、服用中の薬が脳に直接関係ないせいか、受診するたびに「そのうちこれらの薬も切ることになるでしょう」と言われています。以前より改善したとはいえ、頭痛があるので、ちょっと不安になってお尋ねしました。
ありがとうございました。
投稿: ムンテラ | 2005.05.23 21:14
実際現場を少しでも見たことのある人は、
絶対に“脳ドックが失業対策”なんて思いません。
あまりに忙しいので、
「手術なんてよくできる」
と脳外科の先生達は
地球人ではないのではと思ってしまいます。
絶対にもっと増やすべきだと思ってます。
私なんてもう、急性期の医療を担う大学病院の
患者ではないのですが、
続けて診ていただいて本当に安心です。
でも、My dr.の手を待っている沢山の患者さんのために自ら遠慮すべきなのでしょうか?
投稿: mayako | 2005.05.23 21:49
いいお話ですね。私が自分のブログのプロフに書いてるのは、「良い脳外科医さんたちに恵まれて、一度も落ち込む事無く、、、、お医者さんたちに感謝をこめて。」なんですね。これは本当に今も変わりない気持ちです。私のまわりにも、同じ気持ちの方がたくさんいます。わずかな不快人間はぶっとばしちゃいましょう。
投稿: @むーむー | 2005.05.23 23:49
私も 脳外科医の先生方には本当に毎日感謝しております。マイブログにも書いてる通り結構後遺症が残り、最初は悩みもしたけど、一番気にしてくれているには先生だと入院中気づかされました。だから、主治医といつも約束を確認しています。
どんな奇跡だって絶対私は起こしてみせると。超人的な回復をして先生が大変な手術をして良かったと思えるようにと。。。
それが毎日わが身を削ってまでのどういう使命感がそこまでさせるのかと感じさせる先生方に対しての患者としての感謝の思いと礼儀だと私は思うからです。だから毎日楽しくリハビリに励んでます♪
投稿: 則香 | 2005.05.24 10:12
少しレスがおくれましたが、上記のみなさん、コメントありがとうございます。
暇を見つけては皆さんのブログやサイトにも飛んでいっております。
みんな前向きに頑張ってるな〜と勇気をもらっています。
ほんと、阪神淡路大震災や福知山線事故のように、不幸にして災害に巻き込まれ亡くなられた方の事を思うと、普段の生活や仕事に不満を漏らしている自分が小さく思えます。みんな、頑張りましょう!
投稿: balaine | 2005.05.25 16:10