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2005.05.07

医者が選ぶ病院???

クエスチョンマークを3つ付けておいたが、100個くらい付けてもいいくらい。
今日、たまたま東京駅の本屋で何気なく見かけて目を通してみたら、(平静を装ったが)本当は吐き気がするくらいだった。
 一応、会社の名誉もあろうから、出版社と本の名前は伏せておくが、この出版社の関係者がこの記事を読むことがあったら、私の意見を真摯に聞いてほしいものである。

 私は脳神経外科医だから、当然その領域しか見ていないが、この本においては「脳血管の病気」というようなくくり方になっていた。この出版社の出版物を購読している(ほぼ)開業医を対象にアンケートを行って、「信頼するに足る病院」または「自分が患者を紹介するとしたら、この病気ならこの医師」というものをまとめたようである。
 発想、着眼点は素晴らしいと思う。しかし、おそらくアンケートが杜撰なのだと思う。アンケート調査というのは、それを行う対象をきちんとしなければならない。アンケートの方法も厳密でなければならない。これがきちんとできていなかったのだろう。なぜ、私がそう決め付けるのかと言うと、たとえば東京、たとえば神奈川県、たとえば宮城県という都道府県別に見ていった場合でも、脳神経外科医を21年もやっていれば「脳外科医として信頼できる脳卒中の専門医」、「自分が脳卒中になったら診てもらいたい病院」というのがおよそ分かるわけであるが、これが半分くらいしか入っていない。半分入っているということは、素晴らしい結果なのかもしれないが、「なぜこの病院が選ばれてんの?」「なぜこの人が入ってるの?」というような結果も少なくなかった。
 私が勤務する病院も、私の名前もあがってはいなかった。それはそれでもよい。昨年行ったアンケートなら、一昨年までの実績かもしれない。私が今の病院にきたのは一昨年の暮れなのでアンケート調査の対象期間にはほとんど私は今の病院にいない。
 いや、私のことはどうでもよい。庄内地方には、信頼するに足る脳神経外科施設が少なくとも他に2つあるが、そのどちらの病院も入っていない。どちらの科長も長年地元の脳卒中医療に貢献している。手術の腕も確かであることは私も知っている。どちらか一つが選ばれてもおかしくない。このどちらも選ばれていないにもかかわらず、山形県内陸部のとある病院Aが入っているのだ。ここは私の所属する医局の関連病院なので実情は良く知っている。ある事情があって脳卒中の手術は私の現在所属する病院の5分の一にも満たない。手術件数も内容も足元にも及ばない。一昨年、その病院の医長をしていた医師は今私の部下である。ここに送られたくも膜下出血はほとんどが別のある病院Bに転送されてそこで手術を受ける。山形県内で一番脳動脈瘤手術を行っているこの病院Bは、アンケート結果の中に名前すら入っていなければ、そこの科長の名前もあがっていない。
「なんなんだ!これは!」
こんないいかげんな調査結果を公表し金をとって売り物の本にしている。それを信じる患者さんや一般の医師もたくさんいるのではないだろうか?もちろん、「この病院なら」「この医師なら」というのも入ってはいる。しかし、「なんでここがはいっていないの?」「なんでここが脳卒中で入ってるの?」というものが山形県だけではなく全国的にたくさん目に付いた。
 こんな誤った結果を導き出した理由はなんだろう。
 おそらくアンケートをとった対象(この本を出した出版社が出している出版物を定期購読している開業医)に偏りがあるのだろう。庄内地方の開業医が非常に少ないかいなかった。ある公立病院に長年勤めて開業した医師がたまたま多く居た。ある先生とつながりのある医師がたまたま多かった。アンケートのみで結果をまとめるには、決定的に調査対象者数が少なすぎた。他にもまだあるだろうが、不備な理由がたくさんあるのだと思う。山形県内の脳卒中に関する信頼できる病院で、たしか上位8位くらいまでがあがっていたが、下位は同じ得票で3,4病院が並んでいるのだがその得票数が「3票」なのである。
「?」私は目を疑った。30票ならばまだ分かる。3票???一位に選ばれている病院から掲載されている病院すべての得票を合わせても(数えてこなかったのでうろ覚えの記憶で申し訳ありませんが)40票くらいである。一つの県の中のある病気に対する信頼しうる病院をアンケート調査するのに、対象が40票?この県内には常時手術が出来る脳神経外科のある施設は12,3あるはずである。選択の対象となる病院数、地域の人口、疾病率、罹患率、一つ一つの病院の治療件数、手術件数などを下データとして揃えてはいないのであろう。単純に、「地方の、地域の開業医が選ぶ病院」としたのだろう。先にも述べたように発想はいい。しかし対象が、その出版社の出版物の購読者という時点で大きなバイアスがかかっているしアンケート調査対象の絶対数が少ない。
しかも、たとえば「くも膜下出血」のような代表的な「脳の血管の病気」の患者さんは、一般開業医にかかってから脳外科施設に紹介されることは、あるにはあるが、非常に少ない。本人または家族が救急車を呼んで直接病院に来る。退院後も手術した患者さんだから、(地元の開業医に紹介して普段の診療をお願いする人もいるけれど)執刀医が自分の外来でずっと診ている患者さんも多い。すなわち、「地元の開業医」にお世話にならない、ほとんどかかわらない患者さんが多いのである。だから逆にいうと、地元の開業医にとっては直接救急車で病院に運ばれる患者さんに関する情報は0に等しく、そういう病気においては「信頼できる病院」などという認識はまったく無く、自分の足で歩いて開業医にきた軽症の脳梗塞患者さんを病院に紹介した場合お世話になった、信頼できた、というような意識、認識の偏りが生じるはずである。
 よってこのアンケート結果は不備であり、これを公表することは現実とは違うことを世に流布している、もしかすると「嘘の情報を公然と流している」=「罪」、という自覚をこの出版物の関係者は持つべきであろう。
 私個人および私の病院が選ばれていないから頭に来ているのではないことは再度強調しておきたい。しかし、「なぜこの病院が選ばれていないの?」と言うのと同時に「なんでこの病院が選ばれてんの?」というのが目に付く。対象を、県内の「全」開業医にして得られた結果なら納得もできるしおのずと正しい結果が導き出されたはずである。このような杜撰なアンケートに時間と人を使いそれを公表するということは、いわば公然と人をだましているとすらいえる。多分、出版した人たちはそういう認識はないはずである。「このアンケート調査はおもしろい、正しい」と思ったから出版までしたのだろうから。せめて出版する前に検証してほしかったな。

 最近、「良い病院」「この病院」「名医」などのうたい文句の本や雑誌が良く出される。これはこれでいいことだと思う。但し調査方法、調査結果の検証はきちんとやってもらわなければ困る。ある「名医」の雑誌には、脳外科学会では「脳卒中」で有名な先生が「脳腫瘍の名医」として名前が載っていたりする。われわれはあきれて見ているのだが、この私のブログ記事のように「馬鹿言うな!怒ってるぞ!」と声をあげないと、読む読者はもちろん出版した人たちも「正しい情報」と信じているかもしれないのである。
あ〜あ。。。

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コメント

久しぶりにコメントさせていただきます。
医師であるbalaineさんがこういう本に声を大にして抗議されていること、大いに拍手です。こういう本を手に取られることもあるのですね。
いざ病気になると、はて、どこの病院に行けばいいのやら、とアタフタします。でも今は情報があり過ぎて、逆にその情報の取捨選択によって運命が変わる、生死すら分かれると思ってます。だから患者も賢くなってどの情報が信憑性があるのか見抜かなくてはなりません。
balaineさんがおっしゃっているようにアンケート対象やその母数、評価の基準によってデータの質が変わりますよね。
私は基本的にこういった「よい病院」や「名医リスト」などの情報は信用しませんし、購入もしません。紹介者と紹介先の持たれ合いが感じられますし、そもそもどれだけ公平な視点とあらゆる圧力にも無関係で書かれているか考えた時に手にしてもいい本はほとんどないからです。
前の病気で定期的に通院している主治医に、「どこか脳外科で推薦できるところをご存じないか」と聞いてみたところ、「専門外であるし僕が言うのは噂レベルでしかないから」と明言を避けられました。適当な返答で誤魔化さなかったその先生にますます全幅の信頼を置いています。
とはいえ、医師・病院探しは時間がかかります。相性もあると思うのですが。

投稿: shangri-la | 2005.05.07 03:14

ひげ鯨先生のご指摘、わが意を得たりという思いで拝見しました。以前からこの手の書籍を疑わしく思っていました。絶対偏りがあるに違いないと。
それでも患者側に立つ身からするとつい目を通してしまいます。自分や家族の有事に備えて近隣にどんな専門医がいらっしゃるのか普段からアンテナを張っていたいと思いますが、手術数や成功数、症例まで詳しく情報公開している病院は多くなく、実際には医師との出会いも縁に近いのが実情ではないでしょうか。母の場合など、手術前の説明の時に執刀医に直接尋ねたくらいです。
本当に信頼できる情報が欲しいです。

投稿: ムンテラ | 2005.05.07 10:09

shangri-laさん、ムンテラさん、こめんとありがとうございました。
TBの2件もありがとうございました。勉強になりました。

「名医」等の本というのは、結局その出版物がどれだけ売れるか、どれだけ注目を浴びるかが問題なのであって、本当に患者が欲しい情報というのはなかなか正確には集められないものです。
米国の制度のように、患者が任意ではいっている保険によって医療費も賄われ、日本のような「保険診療制度」でなければ、「保険会社」そのものが医師の腕や治療成績を検証します。その会社が儲かるかどうかに関わってくるのですから必死でやるでしょう。だから保険会社が調べて発表するデータがあるらしいですがこれが一番信頼できるものなのだと思います(実はそれはそれで問題があるのですが。例えば成績を上げるために、難しい患者は診ないとかね、、、)

投稿: balaine | 2005.05.08 20:23

プログ拝見しました。昨夜親戚が脳幹部の梗塞で倒れ搬送されましたが、手術ができないと言われたそうです。山形の鶴岡近くで良い病院を教えて頂けないでしょうか?よろしくお願いいたします。

投稿: 安田 | 2008.02.10 13:16

安田様、はじめまして。
お困りのご様子。個人的な話になりますので、直接メールで返事をさせて頂きます。
ただし、「良い病院」の定義によりますが。
それから「脳梗塞」という病気は基本的に手術で治す病気ではございません。その辺りも説明致します。

投稿: balaine | 2008.02.10 14:21

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