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2005.04.07

連日の大手術

 今日は、椎骨動脈解離性破裂脳動脈瘤の手術だった。
 2月上旬に倒れた40代の方である。初発時は、呼吸不全と血圧低下も来たし、手術どころか生命が危ない状態であった。最初は昇圧剤を使って血圧をあげたくらい重症であった。数日で生命徴候が安定し、今度は降圧剤を持続静注して血圧をコントロールし部屋を暗くして鎮静剤を使い安静臥床を2週間保った。その後、徐々に安静を解除し一般病棟で食事をするまでに回復したので3週目に血管撮影をした。それまでCT、MRIで解離性の動脈瘤である可能性は確認されていた。血管撮影の結果はやはり左後下小脳動脈分岐部にpseudoaneurysm(偽性動脈瘤)を持つ椎骨動脈の解離であった。
 開頭手術と血管内手術を検討していたところある晩、再破裂して再び重症となった。水頭症も来したため脳室ドレナージを行った。この危機的状況も何とか乗り切って、再び意識を回復しまた安静を徐々に解除し、ベッド上の生活ながら食事もとれるようになった。まだ若いし二人の小学生の母親でもある。何とか助けてあげたいし、ただ助けるだけではなくまた母親として妻として社会生活を送ってほしい。そのためには動脈瘤の再破裂を完全に防ぐことが必須である。血管内手術は、開頭手術をしないですむだけ非侵襲的であり術後の回復もはやい。しかし術中破裂による死亡もありうるし何よりも完全閉塞できずに心臓側(動脈瘤の上流側)のcoiling(チタンなどでできた小さな金属コイルを詰めること)に終わってしまう可能性がある。手術は脳幹や脳神経の近傍での操作なので新たな障害を出したり手術による危険性も低くはない、難易度の高い手術である。ご主人と2つの方法および何もせず「安静」を保ち続け1ヶ月くらいしたら徐々にベッドから降りる「非手術治療」の事もお話し、検討の結果、今日の手術となった。
 一昨日大きな脳腫瘍の手術をしたばかり。1、2ヶ月前に「今年一番の手術?」なんて書いた覚えもあった。手術中に「あれ?Surgery of the year?って思った手術って何だったけ?」という感じ。もう忘れている。あの手術(2/15の記事参照)の日は、「今年一番?」なんて思ったのにもう何の手術だったか忘れている。それだけ大きな手術が続いているのだ。
 今日の手術では硬膜を開いて顕微鏡を導入すると、予測通り左椎骨動脈は脊髄の傍を走行している部分は正常で、脳幹の横を縦に走る部分から大きく膨らみ青みがかって見えた。ここが解離の部分である。更に、舌咽神経と迷走神経のすぐ向こう側に赤くプックリとふくらんだpseudoaneurysmが見えた。2回目に破裂してからも既に1ヶ月以上経っているので急性期と違って破れにくくはなっているもののやはり瘤の傍を触る時は緊張する。いったん破れたら手術野は真っ赤な血の海になる。こういう緊張状態はおよそ「戦闘モード」である。
 私はもちろん戦争に行った経験はないが、よく看護師さんや一般の方も「先生、手術中トイレとかどうするんですか?」「のどは渇かないんですか」とか聞かれるが、「戦争中に戦場で敵の弾の下をかいくぐるような時に、『おしっこしたい』とか『水が飲みたい』なんて思ってる暇はないはず。手術中の外科医も同じ戦闘モードなんだよ。」と説明している。8時間でも10時間でもトイレには行かなくて平気である。おなかも空かない。そのかわり、手術がおわって麻酔が覚めそうになるとホッとして急に尿意を催したりやたら飲み物が欲しくなるのだ。
 その、怖い恐い動脈瘤の周りを剥離しても遠位側(心臓側の反対で動脈瘤の下流)の血管はまったく見えない。膨らんだ解離性動脈瘤と骨のでっぱりに妨げられて全然見えない。見えなければクリップはかけられない。どうするか?!心臓側にクリップはかけたので、動脈瘤の上流は塞き止めた事になる。不完全ではあるが再破裂の危険性は少なくなったはず。無理をして障害を出したり悔いを残すより潔くここで終わりにするか。。。血管撮影のフィルムと3d-CTAを眺めて「いや、上流と下流をクリップして完全な再破裂防止ができるはず。もう少し頑張ってみよう!この患者さんを元気な姿で家族に返そう!」と決意した。
 どうしたかというと、恐い動脈瘤そのものを左手に持った先端が1mmの径の吸引管で押してつぶすように脳幹側に圧迫して骨の出っ張りとの間に隙間を作ってそこから奥に進んだ。
「見えた!!!」
奥に下流の正常な形をした椎骨動脈が見えた。隙間はわずか5,6mm。動脈瘤よりも奥に15〜20mm。深い。狭い。なんとか椎骨動脈の周囲を剥離して、外転神経も確認しそれより奥(ほとんど頭の真ん中近く)に安全にクリップをかける場所を確保した。脳動脈瘤のクリップは100種類程いろいろな形や長さや大きさのものがある。その中から「ここ」に最適とおもう形状のクリップを選んで。ぎりぎり5,6mmの隙間で、迷走神経や舌咽神経をひっかけないように、動脈瘤を破らないよう、一度にいろんなことを考え確認しながらチタン製のクリップを脳の奥深く進めてapplyした。うまくいった!少し興奮してその後ホッとした。
これで破裂した解離性動脈瘤の上流と下流にクリップをかけ完全再破裂防止が完成した。術後の患者さん麻酔の覚めはまずます。呼べば返事をする。明日にはお話しもできるだろう。急にぐったり疲れてきた。これから帰って、遅い遅い夕食をとって風呂に入り後は寝るだけだ。明日、患者さんが目を覚まし両手足を動かしお話しができる状態になっている事を祈るのみである。

そんなこんなで最近フルートの練習をする暇が少なすぎる。パユの演奏の影響で、R. Straussのviolin sonata E-flatを吹きたいと思って楽譜も揃えた。この記事は、今日届いていた五嶋みどりのLive at Carnegie Hallを聴きながら書いたので少し気持ちが高ぶってしまったようだ。

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