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2005.04.01

新年度初日と脳外科専門医のこと

平成17年度がスタートした。
私の下の先生は、下といっても12年目。科によってはベテラン医師と呼ばれてもおかしくない。脳神経外科では中堅クラスか少し下くらい。専門医の資格も取っているし学位(医学博士号)も持っている。つまり基礎的医学研究も終えて論文もそこそこに書き(論理的なものの考え方を一通り勉強したと言える)、脳神経外科医として最低限の研修は終えて必要最低限の幅広い知識を持っている、という「証明」を持っている医師である。
私も「専門医」で「医学博士」であり、副院長も「専門医」で「医学博士」である。その中の誰がもっとも「脳神経外科医」として知識、技術、判断力などの面から優れているのか、、、は問うまい。
ただ、「医学博士号」というのは、「足の裏の米粒」とか「ネクタイのようなもの」と言われてきたものである。つまり「取らなくても何も困らなけど、取らないと少し気持ち悪い」ようなものであったり「つけていなくても別にその人の人格に変わりはないけれど、つけていた方が見栄えがよくなる」ようなものとさえ言われているのだ。
米国では、脳神経外科医は、日本の医学博士に当たる学位を取得するための勉強などはほとんどしない。もっぱら臨床医としての知識、判断力、腕を磨くことに時間を費やす。学位を取る人は、M.D. Ph.D courseといって最初から「医師の資格と研究者の資格」を目指すような別のコースさえあるのが米国式である。日本では、医学部を卒業し国家試験に合格すると、「とりあえず」医師である。法律上はその時点で、眼科医をやっても産婦人科医をやっても脳外科医をやっても問題ないし、脳動脈瘤の手術をしても違法ではない(1年目でする人というかできる人はいないけれど)。米国では、医師の資格は持ってもレジデント(初期研修医)というもので一人の判断で診療したり治療したり手術したりすることが法律的に許されない。米国でも日本でも脳神経外科の研修は最低6年である。7年目以降の経験ある医師が、専門医試験を受験することができ、これに合格すると「専門医」となれる。
日本の各科の専門医制度の中で、脳神経外科の専門医制度は最も歴史が古く、また厳しい試験であることが知られている。受験した者の6割強しか合格できない。3割強は落ちる試験である。実技はないが、ペーパーの試験に合格すると、知識や手術技術を問う面接試験が全員に行われる。大変厳しい試験である。
それでも、この厳しい専門医認定試験に合格した日本の脳神経外科専門医が、実地に臨床ですぐに活躍できる技術を身につけているか、と問われると疑問符がつく。個人の能力差もある。学んだ環境の差もある。それまで経験した執刀手術の差もある。指導してくれた上級医の差もある。だから専門医になったら翌日から誰の指導も受けないで、破裂脳動脈瘤の手術がすいすいとできる訳ではないのである。
かくいう私も、学位を取って専門医を取って米国留学して研究したので、脳腫瘍の手術や脳動脈瘤の手術を教授の指導のもとで執刀させてもらえるようになったのは、ほんの5、6年前のことである。もちろんそれまでにも執刀経験はたくさんある。小さな手術ならたくさんやってきた。しかし、どんな病院に勤務してどんな環境で働いてもどんな症例にでも対処できる、という程の「力」をつけるためにはまだまだ勉強が足りないと思っている。
だから「12年選手」の下級医が来たからといって「枕を高くして」寝ることもまだできないし、休日に遊び歩いて病院のことは彼におまかせ!という訳にもまだまだできないのである。

P.S.)おまけの話し:「医学博士」とは医師のことではない。大学などの研究施設で、医学の分野の研究をして論文をまとめ発表して学位を授与された者が「医学博士」である。だから医学部を出ていなくても、国家試験に通った医師でなくても、大学の医学部などで研究すれば「医学博士」になれる。つまり農学部を出ても「医学博士」になれるし、薬学部を出ても「医学博士」にはなれる。
だから時々テレビのCFなどで「○○医学博士推薦の、、、」なんてうたい文句があったとしてもそれは「医師が推薦」しているものではないのだ。ご注意を!

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コメント

初めまして、先生のブログ、興味深く読ませていただいております。脳外科の医師が日々どのようなお気持ちで、どのようにお仕事されているのか、よく分かります。
私は髄膜腫の手術を受けています。脳腫瘍が見つかってから現在に至るまで、その時々の気持ちをホームページに載せています。よろしければ医師と患者の相互理解のため、相互リンクお願いできないでしょうか?
ずうずうしいとは思いますが、よろしくお願いします。

投稿: ふにゃふにゃ患者 | 2005.04.03 22:43

「ふにゃ、、、」さま、コメントありがとうございます。相互リンク、こちらからはどうやってはればいいのかな〜。医療関係のブログでも「医師の立場」と「患者の立場」を分けたいと思っていますのでそういう風にリンクしてもよろしいでしょうか?
 さあ、明日は右蝶形骨縁髄膜種。予定手術時間6〜7時間(腫瘍の固さによって変動します)です。

投稿: balaine | 2005.04.04 18:14

Hi! Your site is goodest! Congratulation! I'll be back ;)

投稿: Garry Valibesoff | 2007.07.11 18:12

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