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2005.03.04

今日は3月4日です。。。(脳塞栓症のこと)

とわざわざタイトルにすることではないのですが。
まず、一つ。今日は離れて暮らす娘の誕生日です。
Happy Birthday !

そして、一年前の今日、何があったか?
覚えている人は多くないと思います。
あの長嶋茂雄氏が脳卒中に倒れた日です。
病名は脳卒中の一つである、脳梗塞。その中でも病因で分類すると、「心源性脳塞栓症」ということになります。
健康診断では心電図も問題なかった、と聞いて言いますから、疲れやストレスなどによって一過性の心房細動という不整脈が起こり、これが原因で心臓の中に血栓が出来て、これが脳に行く血管に流れていって、脳の中で太い血管を詰まらせてしまった(塞栓)ことによって、左大脳の一部の機能が障害され言語障害(失語症)と右半身の不全麻痺が出たと聞いております。
実は、私の所属する大学医学部に長嶋さんの主治医団筆頭であるU教授の息子さんが医学部生として学んでおり、U先生とは会って話しをしたこともあったので、記者会見を見ながらその内容も(遠いどこかの出来事ではなく)身近な問題として親しく感じていました。
「心源性脳塞栓症」で思い出されるのは、もう一人。故小渕総理大臣です。現職の首相として脳梗塞に倒れ不幸にも帰らぬ人となられてしまいました。長嶋さんとの違いは、故小渕首相の脳梗塞は、おそらく(CT, MRI, Angioなどのデータをつぶさに見たわけではないので、公式発表の症状と経過を自分の知識に照らし合わせた推測です)、より心臓に近い太い血管に血栓が詰まり(塞栓症)、脳の広汎な部位に虚血が生じ(最初から意識障害があったと聞いています)、これを何とか助けようと「血管内治療」をおこなった結果、「出血性梗塞」を来してより重症になり死亡されたものと思います。

「血管内治療」とは、脳の血管の病変部位にまで細い「カテーテル」という 1m以上の長さのストローのような柔らかい管を股の付け根の動脈から挿入していって病変の傍や中で治療をおこなうものです。塞栓症の場合は、塞栓の中または周囲で「血栓溶解剤」を流して塞栓を溶かし詰まった血管を再開通させて脳梗塞を治そうとするものです。
故小渕首相はなぜ亡くなったのでしょうか?血管内治療で血栓溶解剤を流し、詰まった血管が再開通するとそれまで血が行っていなかった死にかけの脳細胞や既に死んでしまった脳細胞に急に血液が流れてくるため、血が溢れてしまい出血を起こします。これを「出血性梗塞」というのですが、これが大量に起こってしまったと推測されます。血管内治療を行わなければ大きな脳梗塞による強い後遺症を残すか、やはり生命にかかわる程のことになったでしょう。語弊があることを承知で書きますが、「人間の人間たる所以である臓器」の脳が働きを失った「総理大臣」では死んだも同然なわけで、血栓溶解に賭けたのだと思います。

長嶋茂雄氏には静脈からの点滴による脳保護剤が投与され、故小渕首相のような積極的な血栓溶解剤や血管内治療は行われなかったようです。これはおそらく虚血になった範囲が比較的小さかったこと、つまり麻痺や言語障害はあっても意識障害はなかったこと、心源性の血栓が詰まった脳塞栓症であることが明らかであったので血栓溶解剤の使用で出血性梗塞を起こすことを避けたこと、などによるものと思います。
病状が落ち着いてからすぐにリハビリを始め、言葉をしゃべるようになった、右手足を動かすようになった、などとは伝え聞いていますが正確な病状はわかりません。先日、宮崎の巨人軍キャンプで「スマトラ沖大地震・津波」のチャリティオークションが行われ、長嶋さんが不自由な手でサインをした写真と帽子かなにかが高い金額で落札された、とニュースでやっていました。
弱々しい筆致の乱れた字ではありましたが、漢字で「長嶋茂雄」と書かれていました。ずいぶん回復されたのだと思います。でも今日で発症から一年。一年経ってそんなものです。

脳卒中による死亡者数は、全死亡原因の第2位です(1位は癌)。でも癌は全身のいろんな臓器に出来る腫瘍を集めた数です。脳卒中は「脳」という臓器だけです。しかも我々脳神経外科医をはじめとする脳卒中医の活躍で脳卒中全発症に占める死亡率は減少しているのです。死なないだけではなく、完全な機能の回復が得られれば良いのですが、残念なことに後遺症を残して苦しんだり寝たきりや植物になる人も増えています。いろんな状態による「寝たきり老人」の35〜40%は「脳卒中」が原因といわれています。
長嶋さんは、寝たきりにはならないでしょう。でも、オリンピック日本代表野球監督としての現場復帰は難しいと思います。できないとは言えません。でもかなり無理を強いられると思います。あのみんなのヒーローで、ミスター巨人軍といわれた男が、右足に装具をつけて杖をつきながらゆっくり歩いてきて少しゆがんだ顔でろれつの回らない言葉で、「う〜〜〜ん、そ〜ですね〜、いわゆる〜、その〜、ストローク、stroke(卒中)、ですか〜」と喋ったとしても様にならないし、どうなんだろう。
「あ〜、あんな姿になっても長嶋さん、頑張ってるんだ!応援しよう!」
「長嶋さんといえど人の子。病にも倒れる。でも頑張っているんだ。自分も頑張ろう!」
となればいいけれど
「う=ん、あんな惨めな姿のミスターは見たくなかったな〜」
「走れない、ノックできない、うまくしゃべれない、じゃあ、監督なんて無理じゃん!」
という反響があるかも知れない。今、本人および近しい周りの人たちはどんな思いで毎日のリハビリを続けているのだろう。もちろんあの紳士然とした華麗な、ちょっと抜けた剽軽な姿で現れて欲しいとは思うが、一年経ってあのサイン程度では難しいかな〜、というのが本音である。

すでに始まっている高齢化社会。脳卒中は、脳の血管の病気。すなわち老化と密接な病気である。特に血管が詰まる脳梗塞はますます増える。心房細動などの不整脈は高齢者では多くなり、それが原因の脳塞栓症も増えてきている。我々がどんなに頑張っても「発病」してからではなかなか治せないのが脳卒中である。
高血圧、糖尿病、高脂血症・高コレステロール血症、不整脈、タバコの吸いすぎ、酒の飲み過ぎ、運動不足、肥満、、といった危険因子、生活習慣病を予防、治療して健康管理を行い脳卒中にならないように、なっても軽くすむように心がけていただきたい。
3月4日を迎えて考えたことであった。

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